転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第600話 転生勇者、王都教会を訪れる

「ピエール様、ルビアン枢機卿猊下からのお言葉です。“何らかの結果を示せ”、以上です」

王都教会にほど近い住宅街、多くの教会関係者が暮らすその区画の中でも比較的大きな屋敷に、彼の与えられた部屋はあった。

 

「分かっている。先に伝えた様に<聖女>アリス・ブレイクには第四王子殿下の側近の一人であるカーベル・ハンセンが接触を持ち、内に引き込む事に成功している。<聖女>アリスであれば第四王子殿下を介し教会陣営に組み込む事も可能、その為の工作も既に始めている」

配下の者の言葉に、やや語気を強めるピエール。その目は鋭く、普段見せる事のない苛立ちを感じさせる表情で、配下の者を睨みつける。

 

「はい、<聖女>アリスの件に関しましては、ルビアン枢機卿猊下も大変お喜びになられ、お褒めの言葉を預かっております。

ですが<聖女>エミリー・ホーンラビットの件につきましては・・・」

<聖女>エミリー・ホーンラビット、その名前にビクリと身を震わせるピエール。

父親であるルビアン枢機卿からの期待、<聖女>エミリーと<勇者>ジェイクが常に共に在る事は既に報告として挙げている。であるのならば。

 

「父上は<勇者>ジェイクの取り込みもお考えという事か?だがそれは・・・」

「あくまで教会所属の<聖女>と親しい間柄である<勇者>が自ら協力を申し出る。私たちは女神様に仕える者、女神様の御意思を捻じ曲げるような事は致しません。

ただ自ら協力を申し出た<勇者>をないがしろにする事など、それこそ女神様の御意志に逆らう事であるかと」

 

膨らむ権力欲、父上は教会内部ばかりでなくオーランド王国の、延いては国際社会においての発言力をも求められているというのか。

 

「ピエール様、あなた様の役割は非常に重要であり重い、その事努々お忘れなきよう」

「あぁ、いってくる」

 

ピエールは配下の者にそう告げると、学園に向かうため部屋を出る。無意識に左手が胃の辺りを摩っているとも知らずに。

 

「お前がピエールか。下の者からは優秀な子であると聞いている、精々励めよ」

ピエールに母はいない。正確には母というものを知らない。

ピエールが物心つく頃には既に教会で女神様の教えを受けていたし、ピエールの世話は父親配下の神官やシスターが行っていた。ピエールにとっての肉親とは父親であるルビアン枢機卿だけであり、父親の素晴らしさは世話役の者たちから事あるごとに聞かされていた。

ピエールが初めて父親であるルビアン枢機卿に出会ったのは六歳の頃、その時に見た父親の大きな背中と優しく頭を撫でてくれた大きな手は未だ忘れることはない。

そんな偉大なるルビアン枢機卿から与えられた役目、それは第四王子アルデンティアの友人として側近の一人になる事。ピエールにとってそれは大切な父親との繋がりであり、自身の存在証明でもあった。

 

「“何らかの結果を示せ”、か・・・」

王都学園に向かう馬車の中、窓の向こうの街並みを眺めボツリと呟く。

父ルビアン枢機卿の権力は強大である。王都教会において枢機卿という地位にある事はそれだけの発言力と権限を示している。

自身が貴族籍を持たずとも第四王子の側近をしている事がその証拠であり、こうして王都学園に通っていることが証明となっている。

幸いピエールは上級職と呼ばれる<聖職者>の職を授かっているため誰憚る事なく王都学園に通う事が出来るのではあるが、仮にそうでなかったとしても何らかの方法で学園入りを果たしていたことは確実であっただろう。

枢機卿の子息とはそういう事であるのだから。

 

そんな自身に求められるもの、それは学園生徒という立場を利用しての工作活動。アルデンティア殿下との関係強化もさることながら、<聖女>や<勇者>を教会勢力に取り込む事こそが望まれる役割であり求められる成果。

 

「だがあれは・・・」

ピエールはその時の光景を思い出し、ブルリと身を震わせる。

倒れ伏す大剣聖様に跨り笑顔のまま振り下ろされる拳、ビクンビクンと跳ねる大剣聖様を仲間に押さえつけさせ、頭のてっぺんからつま先まで隈なく叩き潰していく<聖女>。

その頬に返り血が付こうとも、吐き出された鮮血が全身を染めようとも。

 

「うん、これで大丈夫。ジェイク君、準備はバッチリだよ♪」

“鮮血の撲殺姫”、あの赤く染まった微笑みは、未だ脳裏に焼き付いて離れない。“次はお前だ”、言外に語られる意思、勇者ジェイクに手を出す者に容赦はしないという宣言。

 

“パンッ”

両の手で頬を叩く、意識を集中し、自身に呼び掛ける。

「僕はピエール、ルビアン枢機卿猊下の息子。大丈夫、僕なら出来る、偉大なるルビアン枢機卿猊下の息子なんだから」

身の震えは止まり、いつもの笑顔が口元に浮かぶ。

馬車は進む、石畳の大通りを王都学園に向かって。「僕は大丈夫」というピエールの呟きを置き去りにして。

 

―――――――――――――

 

「やぁジェイク君、エミリー嬢、少しいいかな?」

その声は午前中の授業が終わり、食堂に向かおうと席を立った時に掛けられた。

 

「えっと、確かアルデンティア第四王子殿下と共におられるピエール様でしたでしょうか、一体どのようなご用件でしょうか?」

目の前にいるのは人懐っこい様な笑顔を浮かべたイケメン、ピエール君。家名って何だったっけ?新入生全員の名前なんて覚えてないっての!!

俺がそんな事を思いながら傍にいるジミーとフィリーに目を向ける。途端サッと顔を逸らすフィリーに口元に笑みを浮かべるジミー。

うん、この二人は分かってないですね。

 

「あぁ、二人が知ってるのかどうかは分からないんだけど、僕の父は王都教会で枢機卿を務めていてね。その関係で教会で行われる奉仕活動にもよく参加しているんだよ。

この前の武術訓練場での授業は凄かったよね、エミリー嬢とフィリー嬢、ロナウド様による連携と指示だし、そっちのジミー君に至っては単独で大剣聖様を倒しちゃうし。

でももっとも注目すべきは倒れた大剣聖様を治療したエミリー嬢の回復魔法だと思うんだ。あの初めから何事もなかったかのように、むしろより元気になられた大剣聖様の御姿は未だ忘れる事が出来ないよ。

 

そこでエミリー嬢には是非奉仕活動の一環で行われる教会での治療奉仕にご参加いただけないかと思って、お声掛けさせてもらったんだよ。

 

既にもう一人の<聖女>アリス嬢には了承を貰っていてね、アルデンティア第四王子殿下も奉仕活動に参加を表明なさって下さっているんだ。

どうだろう、良ければみんなで来て貰えないかな?」

 

そう言い首を傾げ困ってますといった表情をするピエール君。ピエール、ピエール、ピエール・ポートランド!?

よし、名前が出てきた、凄いスッキリした。これ、前世の動画チャンネルで見たアハ体験って奴だね、脳が活性化するって奴、凄い気分がいい。

あっ、フィリーのメガネがキランッて光った、どうやらフィリーも思い出したみたい。ジミーは・・・端から気にしてないね、流石武勇者、清々しいまでの脳筋思考。

 

「ねぇジェイク君、どうしようか?エミリーは協力してもいいかなって思うんだけど」

そう言いこちらを上目遣いで見上げるエミリー。これは決定事項の通達ですね、了解です。

 

「そうだね、回復魔法は実際に患者さんを診た方がより上達するって言うし、困ってる人たちに手を差し伸べるっていう事自体には賛成かな?

あくまで学園生であるという事やこちらの生活を優先させてもらうといった条件の上での話にはなるけどね」

そう言い視線をピエール君に向ける俺。互いの利益のすり合わせって大事だよね、こちらとしては治療の訓練になる、教会側は治療の手を増やせる。

まぁ聖女様がいらしたとかなんとか宣伝に使われる面があるかもだけど、あくまで奉仕活動。線引きは明確にさせてもらわないとね。

 

「そう、ありがとう。本当に助かるよ。

それじゃ詳しい話はまた後でするとして、次の闇の日のお休みに王都教会に集合って事でいいかな?予定があるようなら調整するけど」

 

「う~ん、私は特に問題ないかな?ジェイク君たちは?」

「「「「俺(私)たちは問題ないぞ(わ)」」」」

 

俺たちの返事に満足そうな笑みを浮かべるピエール君。ピエール君は「それじゃまた後で」と言って嬉しそうにその場を去っていくのでした。

 

「なぁロナウド、王都教会ってところもお貴族様みたいにドロドロとした権力争いをしてたりするのか?」

「あぁ、結構大変らしいぞ?テレンザ侯爵領はオーランド王国の西の外れ、これといった産業もない辺境だったからな。領都の教会の司祭なんかはそういった中央の権力闘争に敗れた者なんかが飛ばされてきてたりしたんだよ。

そうはいってもこっちとしては自領の領都だからそれなりに遇していたんだが、連中は腐って捻くれてたからな~。よく父上が呆れてたよ」

 

そう言い肩を竦めるロナウドの話に、乾いた笑いを浮かべる俺たち。

 

「ねぇジェイク君、それじゃさっきのピエール君の話って」

「まぁ<聖女>であるエミリーとおまけ<勇者>の俺を引き込もうって話なんだろうな。<勇者>の名前は結構な力を持ってるらしいからね、権力大好きな教会関係者なら是非手駒にって考えてもおかしくないんじゃないかな?」

ピエール君も大変だよね~、平静を装ってたみたいだけど、緊張が伝わる伝わる。よっぽどエミリーが怖かったのかな?

 

「まぁ奉仕活動自体はやって無駄って事はないんじゃないかな?マルセル村じゃけがの治療は出来ても病気の治療は出来ないからね、みんな元気だし」

「「「「「あぁ、なるほど」」」」」

 

マルセル村の住民は皆目茶苦茶元気だからな~、仮に何かあってもミランダ夫人の生活薬で事足りちゃうんだよな~、自己免疫力やら回復力が半端ないから。

ケビンお兄ちゃん曰く、「これも覇気を身に付けた影響」とか。覇気を身に付けると内臓機能が活性化されて病気になりにくくなったうえに回復力も増すとのこと。女性はいつまでも若々しく、男性は壮健に。

以前は自身を老い先短い老いぼれとか言ってたボビー師匠も、今じゃすっかり元気にってボビー師匠は初めから覇気の使い手だったじゃん。それじゃなんで老け込んでたんだ?

・・・宿敵の登場ですな。ケビンお兄ちゃんや大福に緑と黄色、白玉に白雲さん。歯ごたえのある好敵手が揃ったから元気になったって事?ヘンリー師匠も同類?

やっぱり戦闘民族だったよ、そのうち髪の毛逆立てて金色の覇気を全身に纏うんだよ。マルセル村超恐い。

 

「フィリーもシルビア師匠に回復魔法は習っていたんだろう?復習になっていいんじゃないのか?

ロナウドは水属性魔法だけど、水属性って治療にも使えたりしないのか?」

「そうだな、あまり考えたことがなかったが・・・ネイチャーマン先生に相談してみるか?あの先生は他の魔法講師とは魔法に対する捉え方が違うみたいだからな、何かいい助言をくれるかもしれない」

 

「そうだな、俺も賛成だ。それじゃ今日の授業が終わったら教務棟を訪ねてみるか」

ジミーの言葉に頷く俺たち。放課後の予定も決まった俺たちは、昼休みも大分過ぎていた事に気付き急ぎ食堂へと向かうのでした。

 

「「「ギャ~~~~!!」」」

放課後、臨時教務棟の入り口で悲鳴を上げる事になるとは露知らずに。

シルビーナ先生、教務棟玄関にトラップを仕掛けるのは止めてください!!

 




本日二話目です。
三が日終了。
あるからお仕事、頑張りましょう。
いってらっしゃい。
by@aozora
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