転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第601話 転生勇者、生活魔法講師に相談する

「「「ネイチャーマン先生、罠解除の方法を教えてください!!」」」

王都学園の新年度が始まりそろそろ一月になるかなといった頃、教務室の扉をノックして入って来たのは往年のドリフコントのように顔を煤けさせアフロヘアになった三人の若者。

あまりに突然の出オチに、腹筋に最大のダメージを受けその場に崩れ落ちる私、ビーン・ネイチャーマン。

クッ、まさか彼らがこれ程高度な技を。

若者の成長は早い、在りし日の記憶には“男子、三日会わざれば刮目して見よ”という言葉があったが、王都というこれまでにない環境で辺境マルセル村の殻を破り次のステージへ。

 

「ジミー君、ジェイク君、ロナウド様、私に教える事など最早なにもありません。御三方は遂に笑いの最前線に立たれた。

ここから先は己との戦い、慢心せずただ真っ直ぐに、時代の先駆者となられた皆様をこの教務室から応援させて頂きます」

 

“ガサガサガサ”

私は手提げカバン型マジックバッグを漁ると、三人の後ろから入室してきたエミリー嬢、フィリー嬢に視線を向け笑顔を作ります。

 

「エミリー嬢、フィリー嬢、あなた方にはこれを」

そう言い渡された品に戸惑いの表情を見せる二人。

 

「ネイチャーマン先生、これは・・・」

「はい、この品は三年前の王都学園卒業生<聖女>マリアーヌ嬢が考案されたとされるハリセンというものです。

<聖女>マリアーヌ嬢は在学当時幼馴染であり<賢者>であるユージーンという男子生徒に相当振り回されていたとか。そんな<賢者>ユージーンの暴走を止める際に使われたのがこのハリセン。厚紙を基に作られた蛇腹が素晴らしい打撃音を奏で、引っ叩かれた者を正気に戻す効果があるとか。

 

この品はそのお話を聖女マリアーヌ嬢から直接お聞きになられたワイルドウッド男爵家の使用人の方々が、主人であるワイルドウッド男爵様を諫められる為に作られたものだとか。

あの御方は何かと破天荒な所がありますから、主に奥様方に引っ叩かれていると頭を掻かれておられましたよ。

 

“ボケは常にツッコミを求めている”でしたか?こちらの御三方の様な素晴らしいボケにはやはり相応のツッコミを「「「違うから、これはシルビーナ先生のトラップが原因だから!!」」」・・・そうなんですか?

これは申し訳ない、私はてっきり。

そうですか、御三方がボケの新境地を切り開かれたわけではなかったのですね」

 

そう言いガックリと肩を落とし項垂れる私に、「「「「「やっぱりケビンお兄ちゃんの知り合いは同類だったよ」」」」」と声を揃えられる皆さん。

私ビーン・ネイチャーマン、何かおかしなことでも言ったのでしょうか?

 

「それにしても相変わらずシルビーナ先生の嫌がらせ系魔法は素晴らしい。その姿、放置しておいても一晩経てば元に戻りますが私の腹筋が持ちませんのでこちらをお飲みください」

そう言い私が取り出したのは三本のポーション瓶。ジミー君、ジェイク君、ロナウド様の三人はそれを受け取ると、蓋を開け躊躇なく飲み干します。

すると先程までのふざけたアフロヘアはどこへやら、煤けた顔もきれいさっぱり、普段の御三方の姿に戻るのでした。

 

「驚かれている様ですね。先程までの御三方の姿は闇属性魔法の応用、所謂“呪い”と呼ばれる技法に手を加えた物でしょう。簡単に言えば幻影の一種、闇属性魔力を使い肉体の一部をそのような状態に見せている、認識させているというものなのですが、実際に触っても幻影と同様に感じてしまうので変身しているのと同じ事なのですが。

 

それで先ほど飲んでもらったものはワイルドウッド男爵様より教わった霊薬<天使の微笑み>の製法を基に私が作りました簡易解術薬となります。

作り方は簡単、魔力水にフォレストビー蜂蜜を混ぜただけ。ただそれだけだと解術効果はあまりないので魔力水を作る際に光属性系魔力を意識して作るのですが。

ワイルドウッド男爵様は光属性魔力マシマシウォーターなどと仰ってとんでもない魔力水をお作りになられていましたけどね」

そう言いウインクをする私に、「「「「「あ~、アレか~」」」」」と何か納得顔になる皆さん。

 

「ってそうじゃなかった、罠解除の話は本気なんだけどそれはひとまず置いておいて、ネイチャーマン先生にお伺いしたい事がありまして。

俺たち今度の闇の日に王都教会に奉仕活動に行く事になったんです。

そこで教会の方々が行う住民の治療支援に参加するんですけど、俺とエミリーとフィリーは光属性の魔法適性があるんで<ヒール>や<キュア>といった初級回復魔法が使えるからいいんですが、水属性特化のロナウドや魔法適性のないジミーは治療支援に協力できなくて。

ネイチャーマン先生であったら何か良い策を思い付くのではないかと思いまして、お伺いさせていただいたんです」

 

ジェイク君の言葉に合わせて頭を下げる一同。

ふむ、これはアレですね、教会勢力が<聖女>エミリーと<勇者>ジェイクを引き込もうと動き出したといったところでしょうか。

先ずは貴族夫人や御令嬢方なんかが参加されてるボランティア活動に巻き込んで親睦を深めようって感じですか?大変良い手だと思います。

 

「そうですね、そういう事でしたら教会の方々はお二人には治療に関わる雑用を頼まれるとは思いますが、折角の機会です。“生活魔法の範囲でも出来る治療と応用”という事についてお話しいたしましょう。

その前にお茶の準備でもしましょうか、お座りになってお待ちください」

私はそう言うと席を立ち、()()()のお茶の準備を始めるのでした。

 

―――――――――

 

“コトッ、コトッ、コトッ、コトッ、コトッ、コトッ、コトッ”

長テーブルに座る俺たちの前に並べられていくティーカップ、立ち昇る匂いは爽やかな新緑の香り。

 

「これはワイルドウッド男爵様より頂いたマルセル茶というものになります。何やら東方扶桑国の製法で作られた蒸し茶というものなんだとか。ハーブティーのようにお湯を注ぐだけでいただけるので、私の様なずぼらな人間には大変助かります。

本来私のような庶民には偽癒し草の煮出し茶や毒消し草の煮出し茶、麦茶などがお似合いなんでしょうが、この煮出し作業が少々手間でして。

その点ハーブティーや蒸し茶はお湯を注ぐだけですから、教務室でいただくには丁度良いのですよ。

どうぞお召し上がりになりながらお話をお聞きください」

 

ネイチャーマン先生はそう言い俺たちにお茶を勧めると、自身もティーカップに口を付けます。

俺はそんなネイチャーマン先生にちょっと気になる事を聞いてみるのでした。

 

「あの、ネイチャーマン先生。美味しいお茶を淹れてくれた事は嬉しいんですが、ティーカップが一つ余ってると思うんですが」

それはちょっとした違和感。この教務室を訪れたのは五人、ネイチャーマン先生を含めても六人。でも注がれたお茶は七人分、余ったひとつは誰も座っていない席で温かな湯気を上げている。

 

「え~っと、ジェイク君はお分かりになりませんか?他の皆さんは、ジミー君は分かっていたみたいですね、やはり大剣聖様に模擬戦で勝たれたジミー君、流石です。

しかしこの学園でも上位の優秀さを持つ皆さんを欺くとは、流石は王都学園の魔法教諭といったところでしょうか。立ち話もなんですのでお座りになられてはいかがですか、シルビーナ先生?」

ネイチャーマン先生の言葉に空間が歪む。扉脇にはいつからそこに居たのか、黒いローブ姿のボサボサの髪を一つに束ねた手入れをすればきれいになるだろう残念美人が。

 

「何で分かっちゃうのよ!!これってダンジョン産アイテムの<隠者のローブ>なのよ?所持するだけでも国に登録が必要な結構ヤバ目の代物なのよ?冒険者の斥候職ばかりか暗殺者ですら垂涎の逸品なのよ!?」

何か捲し立てるように聞いてはいけない内容の話をなさるシルビーナ先生。そう言えばケビンお兄ちゃんが似たような物を()()()()な~。路傍の石計画、あれからどうなっちゃったんだろうか。

でもそうか、あの時のローブって所持するだけでも国に登録が必要な品だったのか・・・よし、知らなかった事にしよう。

 

「そうですね、簡単に言えば違和感があるからでしょうか。

おそらくですがそのローブには<気配遮断>と<魔力遮断>、<消音>といったスキルが付与されているものかと。ダンジョン産の品物ですから、装着者が他者に触れても気が付かれないといったとんでもない効果も付与されているかもしれませんが、それは置いておきましょう。

私が違和感と言ったのは魔力にしろ気配にしろ音にしろ、シルビーナ先生のいる場所だけ完全に消えてしまっているという事です。

 

これは視覚に障害のある者、盲人と呼ばれる者の話になりますが、彼らはたとえ夜だろうが光の無い地下室だろうが、明るい野外と何ら変わる事なく生活出来るのだそうです。

それはそうですよね、彼らはそもそも目が見えない、視覚によって光を感じる事が出来ないのですから昼間だろうが夜だろうが関係ない。

ではそんな彼らがどうやって周囲の状況を判断するのか、それは音です。

 

音というものは非常に興味深い性質があります。それは発生した地点からまるで波のように周囲に広がり、周囲の物に当たり反響するという性質。

例えば私が手を打ち鳴らしたとして、その音はこの部屋の中で反響する事はあっても廊下の先にはさほど大きく聞こえる事はない。それは部屋の壁や扉がその音を遮り打ち返してしまうからです。壁や扉に当たった音は跳ね返り部屋全体に広がっていく、野外で手を鳴らすのと室内で手を鳴らすのとでは聞こえ方が違うというのはそういう事です。

ですがそのローブは音を跳ね返さない、まるで何もないかのように消してしまう。私が<消音>の効果を疑ったのはその為ですね、シルビーナ先生のいる場所だけぽっかりと穴でもあいているかのように反響がないんです。

 

これは魔力も同じですね、ジェイク君たちは目に魔力を込める事が出来ますか?これは魔力視と言って周りの魔力を見る事の出来る技術なのですが」

 

そう言い俺たちに目を向けるネイチャーマン先生の言葉に従い、俺は目に魔力を込めてみる。

 

「「「「「あっ!」」」」」

「はい、皆さんにも見えたようですね。魔力というものはその強弱こそあれ基本的にこの世界のどこにでも漂っているものです。

それはこの部屋や外の庭でも同じ事、生きているものは多くの魔力を持ち、物や水ですらごく少量の魔力を持つ。それは周囲の空気も同様、魔力視を行えば訓練次第では風の流れも読めるようになる。

 

それではシルビーナ先生のいる場所がどうかと言えば、何もありませんよね?ぽっかりと空間が空いている、それもきれいに人型に。

これが<魔力遮断>の効果、魔力を遮断して周囲と切り離す、周囲から完全に隠してしまうとこの様に何もない空間に見えてしまう。

 

でもそんな場所からは一切の気配を感じない、音であったり熱であったり空気の流れであったり。これは<気配遮断>の効果でしょうが、不自然極まりない。

 

これが魔獣の類であればそうした違和感に気付かれる事もないのでしょうが、相手が人であった場合その違和感は決定的なものとなる。

以上の理由からシルビーナ先生の存在は初めからバレバレだった訳です。これでご納得いただけましたでしょうか?」

 

そう言いニコリと微笑むネイチャーマン先生に対し、「グヌヌヌ」と唸りながら悔し気に睨み付けるシルビーナ先生。

「グヌヌヌ」って唸る人って本当にいるんだ、俺ずっと小説や漫画の中の一表現だと思ってた。

 

 

「そうそう、ジェイク君たちの相談は光属性魔法以外の治療術に関してでしたね。結論から言えばどの属性であろうとも人体に影響を与え治療を施す事は可能です。

ただし、回復魔法のようにすべての症状に合わせた運用とは行きませんが。

 

これは各属性魔力の性質によるものといえるのですが、人体に与える影響として火属性では<力>、風属性は<素早さ>、水属性は<自己治癒力・持久力>、土属性は<防御力・頑強さ>といったものに効果を及ぼすと考えられます。

この事は各属性の魔力を使った<魔纏い>の性質から明らかです。

光属性と闇属性はそれぞれ精神に影響を与えますね、光属性は<覚醒>、闇属性は<鎮静・安息>でしょうか。

 

相談のあったロナウド様とジミー君ですが、ロナウド様は水属性魔導士、ジミー君は魔法適性がないと聞いていますから、双方共通の水属性による治療術に関してお話ししましょう。

まず水属性の特性である「ちょっと待ちなさ~~~~い、ネイチャーマン、あなたなに行き成り高度かつ魔力の根幹にかかわるような話をしているのよ!そんな話魔法学でも扱っていないわよ!

魔力の人体における影響やら魔力の性質って、リフテリア魔法王国の賢者の塔で議論されるような内容じゃない。それをなんで然も事実であるかのようにサラッと語っちゃってるのよー!!」・・・。

 

えっと、これって魔法学でやらないんですか?魔力の性質を知ることは基礎中の基礎だと思うんですが。バルカン帝国の魔導理論でも表現は違いますが扱っている内容ですよ?学園大図書館にある帝立技術院先端技術研究所発行の「新魔導理論」にも基礎理論として確り記載されていましたけど」

 

ネイチャーマン先生の話にツッコミを入れるシルビーナ先生と、そんなシルビーナ先生のツッコミに“嘘だろ、これって基礎中の基礎だぞ!?”といった表情になるネイチャーマン先生。

うん、これがシルビア師匠の言っていた“学園のレベルの低さにがっかりするな”って奴なんですね、ネイチャーマン先生、頑張れ。

 

その後多少の話し合いの結果ロナウドとジミーはネイチャーマン先生が教会で実地でみてくれる事となりました。その辺の許可は俺たちがピエール君に頼む事となりましたが。

 

「ところでシルビーナ先生、教務棟の入り口にトラップを仕掛けるのは止めてくれませんか?しかも何なんですか、あの髪の毛が吹っ飛んで顔が黒くなるって罠は」

「え~、いいじゃない、どうせこの臨時教務棟には私とネイチャーマンしか来ないんだし。あなた達も学園生徒なら罠ぐらい解除できるようになりなさいよ、こんな罠に掛かっているようじゃ、学園ダンジョンの攻略なんて出来ないわよ?

あそこの九階層十階層なんか罠だらけなんだから。

それと髪の毛が吹っ飛ぶ罠は前にネイチャーマンにやられたのよ!!仕返しに毎回コッソリ仕掛けてるのにコイツったらいつも回避するんだもん、悔しいったらないわよ」

 

「アレはシルビーナ先生が私の教務室にコッソリ忍び込んでトラップを仕掛けようとしたのが悪いんじゃないですか。私はシルビーナ先生みたいに教務棟のあちらこちらに罠設置などしませんよ?あくまで自室の防犯目的ですから」

「だからその内容が質が悪いって言ってるのよ、あ~思い出しただけでも腹が立つ~~!!」

 

そう言い更なる言い争いを始める先生たち。

って言うかこのおふざけトラップを始めたのはネイチャーマン先生なんかい!!

“““““ケビンお兄ちゃんの友人は同類”””””

俺たちは目の前の駄目な大人たちに目をやりながら、“この学園、大丈夫なんだろうか”と頭を抱えざるを得ないのでした。




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