“パンッパンッパンッ”
「はい、注目。それぞれのパーティー編成は終わったか?誰も組んでくれる者がいないといった事はないか?
なにも恥ずかしがる事はないぞ、そうした事は往々にして起こりうることだからな」
ダンジョン学担当教諭の声が講堂に響く。先程まで騒ぎ声を上げていた生徒たちの視線が、一斉に講堂正面へと向けられる。
「学園ダンジョン攻略は訓練とは言え命懸けだ、少しの油断や慢心が自身の命に直結していると思え。
パーティー編成も同じ事、自身が納得いかないパーティーを無理やり組んでいてもいずれは破綻する、それは最悪パーティーメンバー全員の命にかかわって来るからな。
それと同様に一度組んだパーティーだからと言って同じメンバーに固執する事はないぞ、これは特に初めのうちに言える事なんだが、互いの連携がどうしても上手く行かない組み合わせというものは存在するんだ。
事実冒険者のパーティーも半年、一年、三年といった感じで解散するところが多い。
半年は単純に互いの組み合わせが悪かった、一年はそれぞれの本質が分かってきて軋轢が生じた、三年は互いの成長に差が表れてそれぞれが別の道を選ぶようになったといった感じか。
そういう事だから、皆も変にパーティーに固執せずダンジョン攻略に挑んで欲しい。
今日はこの後実際にダンジョンに潜ってみる事とする。話だけ聞いていてもそこがどんな場所であるのかといった事は分かり難いからな」
ダンジョン学の担当教諭の掛け声で次々と講堂から移動する一年生たち。彼らは皆それぞれに組んだパーティーメンバーたちと会話しながら、互いの交流を深めていく。
「・・・で、俺たちは一体どうしたらいいんだ?二人でパーティーを組まされたのはいいんだが」
俺は隣で未だパーティー名に頭を悩ませるエミリーに声を掛ける。エミリーさん、“マルセル村の愉快な仲間たち”のパーティー名が使えなくなったからってそこまで悩まなくても。
ジミーたちは何か上手い事パーティーを組んだみたい、一人ゴージャスなお嬢様の姿があったんだけど、ジミーの奴あのヤバ目のお嬢様をスカウトしたのか?
あのお嬢様、よく闇属性魔力を纏って姿を消してるんだよな。多分斥候とか諜報関係の人間が使う技術だと思うんだけど、そんなの高位貴族令嬢が使う技じゃないよね?絶対ヤバい奴じゃん、そんな相手に自ら声を掛けるのなんてジミーくらいしかいないじゃん。
確か暗黒大陸では“武勇者”と呼ばれていたとか。強い相手を求めて暗黒大陸中を彷徨う狂人集団、それが武勇者。
そんなジミーなら相手にヤバ目の背景があろうとも関係ない、使えそうなら使うって事なのかな?
「ジェイク君、ここはシンプルに“ホーンラビットの角”にしようか?マルセル村って言ったらビッグワーム干し肉と角なしホーンラビットだし、なんと言ってもホーンラビットは私たちの原点みたいな魔物だしね」
そう言い胸の前で拳を握るエミリー。その二本の角はどこに向いているのでしょうか、私、気になります。
「そうだな、いいんじゃないのか?分かりやすくて。それよりも俺達も行こうか、皆学園ダンジョンに移動しているみたいだし」
エミリーに笑顔を向け移動を促す俺。森の悪魔ホーンラビット、その角が周囲に向かないように祈りながら。
そう言えば教会の奉仕活動が終わってしばらく経つけど、ピエール君からは何も言って来ないんだよな、その後どうなっているんだろう?
見た感じアリスさんには頻繁に接触しているみたいなんだけど。
俺は進行方向にいるアルデンティア第四王子殿下御一行に目を移す。
そこには爽やかな笑顔を隣のアリス嬢に向ける王子殿下とはにかむアリス嬢、キリリとした表情で前を見据えるラグラ様にやや疲れた顔のカーベル様、そして作り笑顔のピエール君。
何だあの陽キャ軍団、お近付きになりたくないわ〜、周囲にも一線を引かれたような空間が出来てるし。ご令嬢方の見えない戦いが超怖い。
「ねぇ、エミリー。俺達いずれあのキラキラ集団ともパーティーを組まないといけないんだよね。俺、全くやっていける自信がないんだけど?」
「ハハハ、大丈夫だよ。よく考えてみて、メガネ装備を外したジミー君、フィリー、ディアの三人が加わった私たちのパーティーとあの五人、どっちが存在感あると思う?」
俺はエミリーに言われて改めて考える。元公爵令嬢のフィリーとその護衛騎士をしていたディア、聖女のエミリーは言わずもがな、傾国の天然ジゴロジミーが加わった俺達のパーティー。
・・・うん、めっちゃ目立つわ、存在感ありまくりだわ。特に顔面偏差値がやばい事になってるわ~。ここにロナウドが加わった日には、これって何の催し物?ってくらい華やかじゃん。
俺が一番地味って言うね。これでも俺、顔だけなら赤髪のジェイクなんだけどな~、やっぱり内面から滲み出る小市民感が全てを台無しにしてるんだろうね、こればかりは仕方が無い。
「うん、ありがとうエミリー、考えるだけ無駄って事がよく分かった。多分色んな勧誘を受けると思うけど、将来の予行練習と思って上手く躱す練習に励む事にするよ。
だからエミリー、なるだけ普通の回復魔法を使おうね。拳の方が効率的なのは分かるけども」
「うん、ジェイク君がそう言うならそうするね。折角頑張って短縮詠唱の<ヒール>も使えるようになったんだし、魔法は日々の鍛錬だもんね」
そう言い嬉し気に笑顔を向けるエミリー。ミッションクリア、エミリーがこれ以上周囲にトラウマを振り撒く事は回避できた模様。
俺は“皆の腹筋は守ったぞ”と内心ガッツポーズを取りつつ、エミリーと共にダンジョンへと向かうのでした。
――――――――――
学園ダンジョンがあるのは学園大図書館と武術訓練場の中間ほどの場所、周辺は広く空いた土地が取られており、何らかのトラブルが起きた際は直ぐにでも封鎖措置を取る事が出来るように腰ほどの高さの塀で囲われている。
一見こんな高さの塀じゃ何の役にも経たないと思われるが、この塀はある種の魔道具、結界設備になっていて緊急時にはダンジョン周辺を結界で封鎖するとの事。こうした事はこれまでの授業で教わっている。
授業はちゃんと寝ないで聞いてるんだからな!!
「いいか、今日はダンジョン探索の初日だ。先ずはダンジョンがどういった場所であるのかといった見学となる。
皆の着ている王都学園の制服はその辺の冒険者が着ける軽鎧よりも耐久性や防刃性に優れている。第一階層から第二階層にかけては現在の服装でも何ら問題はないだろう。
但し第三階層から先はそれなりの装備を身に着け武器を用意しておかないと危険だ、ショートソードも下げていない状態で挑むなど無謀を通り越してただの馬鹿だからな?調子に乗って向かおうなどとしない様に。
第一階層に出る魔物はスライムとゴブリン、第二階層がゴブリンとホーンラビット、第三階層がゴブリン、ホーンラビット、グラスウルフとなる。
因みに第四階層からはオークが出るからな。
いまゴブリン如きと鼻で笑った奴、言っておくがゴブリン相手でも油断すれば死ぬぞ?第一階層のゴブリンは棍棒を、第二階層のゴブリンは錆びた剣を、第三階層のゴブリンは剣と槍、弓なんかを使って来る個体もいるからな?
周囲の警戒を怠れば、横合いからの攻撃でそのまま帰らぬ人といった事も実際に起きているからな?」
担当教諭の言葉に途端ざわつきを見せる生徒たち。たかがゴブリン、高がホーンラビット。実際に魔物を目にした事のない生徒たちは何処か浮ついた気持ちを抱えたまま、ダンジョンの門の前に列を作る。
「全員少なくとも短杖は用意しておけよ、脅しじゃなく本気でケガをするからな?魔物との距離を取り、正確に狙いを定めて魔法を放つ。
不意打ちには十分気を付けるんだぞ、慌てず対処すればどうとでもなるからな、その為の学園の制服なんだからな」
うるさいくらいに注意を促す担当教諭、でもそんなものは右から左と次々とダンジョンに向かって行く生徒たち。
「なぁエミリー、これどれくらいのパーティーがケガなく帰って来ると思う?」
「う~ん、半分も帰ってくればマシじゃないかな?これって所謂新人冒険者の洗礼でしょう?調子に乗って大ケガをするのがお約束って奴でしょう?」
う~わ、エミリーさん辛辣。でも実際そうなんだろうな~、という事は俺たちの立ち周りは・・・。
「エミリー、俺たちは調子に乗ってケガをした生徒の治療支援に回ろう。おそらくは第二階層辺りで結構な人数がやられると思うからな。
手持ちの武器や盾もないのに挑むなんて頭が疑われるレベルだけど、魔法の才能に溢れてるとついつい調子に乗るんだよな~。
大福相手に初級魔法を撃ちまくって魔力切れを起こした子供の頃の俺みたいに」
「へ~、ジェイク君もそんな事をしていた頃があったんだ。そう言えば昔大福に負けてケビンお兄ちゃんに家まで運ばれたことがあったって聞いたけど、もしかしたらその時の事?」
俺の顔を覗き込むようにして聞いてくるエミリー。クッ、俺の黒歴史をえぐるえぐる。
「はいはいそうですよ、どうせ俺は勇者病ですよ!今じゃ名実ともに勇者病、勇者病<現実>ですよ~だ。
それよりも早く行くよ、皆ダンジョンに入っていってるんだから」
「あ~ん、待ってよジェイクく~ん。そんなに照れなくてもいいじゃな~い」
俺は先程貰った学生ギルドカードをダンジョン入り口前の石柱にかざすと、エミリーを促しながらダンジョン内部に入って行くのでした。
―――――――――
「前方二股通路、右方向よりゴブリン二体、ホーンラビット三体」
斥候のラビアナ嬢の注意が飛ぶ。
「“大いなる神よ、我が手に集いて眼前の敵を滅ぼせ、ウインドボール”」
「“大いなる神よ、我が手に集いて眼前の敵を射抜け、ストーンアロー”」
アルジミールとライオネスの魔法が二体のゴブリンを捉える。
“ブンッ、ブンッ、ブンッ”
“キュイン、キャヒン、グヒッ”
俺とロナウドとフィリーの投石がホーンラビットを捉え、それぞれを光の粒子に変えていく。
「ラビアナ嬢、周辺に敵影は」
「ないわね、隠れているといった様子も見られないわ。ってなんで投石一発でホーンラビットを倒しちゃってるのよ、あのホーンラビットたち既に突進行動に入ってたわよね、物凄く早かったんですけど!?」
「あぁ、ホーンラビットは一度走り出すと真っ直ぐ突き進む習性があるからな。初期動作を見逃さなければ行動予測は容易なんだよ。
故郷の村じゃホーンラビットは散々狩ったからな、慣れだよ慣れ」
そう言いながらも魔力視で地面を観察し、ドロップアイテムの魔石を探す。ゴブリンの魔石は非常に小さく、それこそ小指の先ほどの大きさしかない。しかもパッと見ただの石にしか見えず、周辺の小石と見分けがつかない。だがそこは魔石、魔力視で見れば魔力の籠った小石を見つける事が出来る。(ケビン兄ちゃん情報)
ホーンラビットの魔石も同様で、大きさは小指の先ほど。ただ若干艶やかな白っぽい小石の為、ゴブリンの魔石よりも見つけ易くはあるが。
「そうなの、村暮らしって凄いのねってロナウドは違うでしょうが、侯爵家子息じゃない!!
危ない危ない、すっかり騙されるところだったわ」
・・・ふむ、これがケビンお兄ちゃんの言っていたツッコミ師という奴か。確かに会話にキレが出るしテンポもいい。ケビンお兄ちゃんが“ツッコミは大事”と言っていた言葉の意味が少しは分かった気がする。
「それよりもいいのか?アルデンティア第四王子殿下のパーティーは大分先に進んでいる様だが」
「はっ、そうでしたわ、私《わたくし》としたことが。それでは皆さん参りますわよ?アリスと麗しき殿方との夢の舞台を観覧する為に」
そう言いササッと斥候任務に戻るラビアナ嬢。
「・・・なぁジミー、あれってラビアナ嬢だよな?バルーセン公爵家御令嬢の」
「あぁ、間違いなくラビアナ・バルーセン公爵令嬢だな」
ラビアナ嬢に対し何か信じられないものを見る様な目を向け、口を開くアルジミール。隣のライオネスは夢破れたといったような表情をしている。
「・・・お前たち、もしかして貴族令嬢に幻想を抱いていたとかか?
俺の知ってる伯爵家の御令嬢は、お付きのメイドと共に首の輪コッコという魔物と素手で戦ってたぞ?」
「ブホッ、それって以前俺がケビン殿に届けた首の輪コッコか?確か“ぶつかり稽古”とか言う飼育方法を確立したと聞いていたが、エミリーはそんな事をしていたのか?」
「いや、エミリーじゃない、パトリシアお嬢様だ。三英雄の一人と言えばアルジミールたちにも分かるか、吟遊詩人に謳われるように大変お美しい御方だぞ?」
俺の言葉に唖然とした表情になる三人。
でもラビアナ嬢程度の奇行はマルセル村じゃ普通だしな。フィリーも「十六夜さんの御同類ですか」の一言で納得していたくらいだし、特に変わっているとは思えないんだが。
「皆さん何をグズグズしていますの?ダンジョンという特殊な環境で共に手を取り合い戦う見目麗しい男女、そんな素晴らしい光景を見逃してしまうではないですか。
ジミー、あなたがリーダーなのですから皆を誘導しなくてどうしますの?」
「ん?俺がリーダーなのか?爵位的にはラビアナ嬢がリーダーなんじゃないのか?」
「はぁ?何を言ってますの?大剣聖様に模擬戦で勝つような人物を差し置いてリーダーを名乗れるほど厚顔無恥な者はいませんわよ?」
ラビアナ嬢の言葉に周囲を見るも、皆一様に頷きで応える。・・・どうやら俺はリーダーに任命されたらしい。
「なぁジミー、本当に行くのか?俺は余計な厄介事に巻き込まれに行ってるとしか思えないんだが」
そういい顔をしかめるアルジミール。余計な厄介事、それはつまり戦闘の予感。
「なに、構わんさ。俺の剣の師匠も言っていた、“難しい事は取り敢えず倒してから考えろ”とな。
ほら行くぞ、王子殿下御一行が待っている」(ニチャ~)
急ぎラビアナ嬢の後を追うジミー。そんなジミーにロナウドたち三人がドン引きといった表情になっていたのだが、その事をジミーが知ることはないのであった。
本日一話目です。