転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第607話 転生勇者、学園ダンジョンに挑む (3)

彼らには才能があった。

 

「なんか学園ダンジョンとか言って散々脅して来たけど、これくらい僕らにとっては楽勝じゃないか?」

「そうだよな、余裕過ぎて歯ごたえがないって言うか、このまま下の階層に“タッタッタッタッ、ドカッ”ギャーーー!!」

 

彼女達は選ばれた血筋の者であった。

 

「全くなんだってこの(わたくし)がこの様な薄暗い洞窟に来なければなりませんの?ダンジョン探索などそれこそ下賤な冒険者にでも行わせればいいのではなくて?」

「そうですわね。大体低級魔物しか出ない学園ダンジョンでは何の訓練にも““グギャグギャグギャーーー!!””、ヒーー、ゴ、ゴブリンですわ。

“お、大いなる神よ、この手に集いて、眼前の“グギャーー!!ドガンッ”キャーーーーーー!!」

 

彼らは何も知らない、彼女達は何も考えない。これまで持て囃され、守られて来た者たちは、自身が戦わなければ生き残れない状況があるという事を、安全は常に保障されてなどいないという事を。

 

「「「「「助けて~~~~」」」」」

武器はある、力もある、防具すら身に着けている。だが彼ら彼女らには決定的に足りないものがある。

それは覚悟、戦う事の覚悟、危険に身を晒す事の覚悟。戦いとはすなわち命の奪い合い。殺すか、殺されるか、互いの存在を賭けたぎりぎりの攻防だという事の自覚。自身はその最前線に立たされているという事の認識。

 

“ブンッブンッブンッブンッブンッ”

“グギャッ、キュインッ、ゴホッ、キャフンッ、グギョッ”

“バタバタバタバタバタ”

 

吹き飛ばされ倒れる魔物たち、光の粒子となって消えていくその光景を、怯えの表情で見詰め続ける学園生徒達。

 

「大丈夫ですか?いま回復魔法を掛けますね。

“大いなる神よ、その慈悲を我が手に、ヒール”」

紡がれる詠唱、暖かな安らぎの光がその身を包み、身体中の痛みを拭い去る。

 

「立てますか?一度ダンジョンの出口に戻って身体を休ませてください、これ以上の探索は危険です」(ニッコリ)

救いの手、<聖女>エミリー・ホーンラビットから掛けられた声に我に返り、礼の言葉も忘れ急ぎダンジョンの外に戻って行く彼ら。

 

「うわ~、よほど怖かったんだろうな~。そりゃそうだよな、いくら学園ダンジョンとは言え殺気全開で迫ってくるゴブリンやホーンラビットを相手にしたら、普通はビビるよな。

これ、ケガ人どころか死人が出てもおかしくないと思うんだけど、その辺は隠れて見守ってる先生方がどうにかするつもりだったのかな?」

 

俺は顔面蒼白になりながらも必死に逃げ帰る生徒たちの後ろ姿を見ながら、そう呟く。

 

「うん、第一階層でゴブリンやスライムを相手にしていたような慎重な子たちは大丈夫だと思うけど、第二階層まで来ちゃった子は。

だって第二階層のゴブリンって棍棒だけじゃなくて錆びたナイフや剣を持ってるんだよ?それって普通に怖いと思うんだけど?

何で自分達なら大丈夫だと思っちゃったんだろうね、ボビー師匠に言ったら頭抱えちゃうよ?」

 

俺の呟きに応えるかのようにエミリーが言葉を返す。

いや、第一階層の棍棒ゴブリンだって普通に脅威だと思うんだけど?冷静にバットを持った小学生が襲ってきたら怖いじゃん。しかも暗がりの物陰から集団でやって来るんだよ?戦闘未経験の一般人だったら大ケガじゃ済まないよ?

それを予め分かっていたとはいえ、素人がノコノコと。これって最初にガツンとダンジョンの怖さを教えて馬鹿が大馬鹿をやらない様にするための措置だったりするのかな?

あっ、隠れてた学園関係者らしき気配が別の場所に移動した。って事はこの辺にはもう生徒はいないって感じかな?気配もないし。

 

「エミリー、それじゃ俺たちも移動しようか。第二階層全体を見回って問題が無いようなら第一階層に戻るって感じで」

「了解だよ、ジェイク君。でも第三階層はいいの?さっき何人か向かって行ったみたいだったけど」

 

「あぁ、向こうはジミーたちに任せればいいんじゃないかな?アイツらならたとえこのダンジョンの最奥に閉じ込められても自力で帰って来れるだろうし、心配するだけ無駄じゃね?」

「そうだね。そう言えばこないだ寮の女の子がジミー君の事を“陰の勇者”とか、“持たない者の英雄”とか言ってたよ」

 

「ブホッ、“陰の勇者”。まぁジミーは“武勇者”だけどね。でも“持たない者の英雄”はないわ~、アイツ持ちまくりで隠してるくらいだもん、主に自身の身の安全のために」

うん、ジミーの地味装備、仕事しまくり。あの眼鏡と組み紐が無くなったら王都学園どころか王都全体が大騒ぎになっちゃうんだろうな~。

学園を卒業したら冒険者として旅立つ予定だけど、ジミーのメガネは外さない方がいいのかな?白金級冒険者になったら・・・そうしたら今度は王族なんかから求婚されたりして。

流石は“陰の勇者”、半端ね~。

 

その後俺たちは何組かの生徒を救出し、ダンジョン学の担当教諭から感謝の言葉をいただく事になったのでした。あとでコッソリ「でもこれって予定通りですよね?救助の先生方が配置されてましたし」と言ったらそれは内緒でとお願いされてしまった。

王都学園の教諭って大変なんですね。

 

あっ、ロナウド見っけ。なんか凄い疲れた顔をしてるんだけど、何かあったんだろうか。・・・あったんだろうな~。

だってあそこ、アルデンティア第四王子殿下がいるし。

俺はそんな友人の苦労を思い、そっと手を合わせるのでした。

 

―――――――――

 

「やぁ、ラビアナ嬢にロナウド君、加勢ありがとう。お陰で無事にブラックウルフを討伐できたよ。

しかしダンジョン探索初日で変異種に当たるとは、これは運がいいのか悪いのか、ある意味実力に見合った魔物が現れたという事なのかな?」

 

そう言い肩を竦めるアルデンティア第四王子殿下、その言葉の端々に漂う“これくらいの相手、お前たちの手を借りずとも勝てたんだからな、勘違いするなよ?”といった上から目線。

何か昔の自分の姿を見せ付けられているようで凄い恥ずかしい。俺は“これはいつだかジェイクの奴が言っていた黒歴史って奴か”と思いつつ、アルデンティア第四王子殿下に対し臣下の礼を返す。

 

「これはアルデンティア第四王子殿下に於かれましては私共が余計な手出しをした事、深くお詫びいたします。

ですが王子殿下の御身はオーランド王国の宝、臣下として、国民として、その身を案じてしまった事、どうかご理解ください。

その上で自らの身を危険に晒し更なる高みを目指さんと研鑽を積まれるアルデンティア第四王子殿下の(こころざし)に深い敬意を。

皆様の御姿は私たち一学年生徒たちの模範となりましょう」

 

カーテシーを決め、見事な口上を述べるラビアナ嬢、流石は公爵家の血筋といったところか、先程まで“美男美女の恋愛模様を観察するのですわ”と(のたま)っていた変態令嬢とはとても思えない。

 

「ふむ、ラビアナ嬢は確り分かっていた様だね。ではその心根に免じて今回の件は不問とする。ラビアナ嬢、ロナウド君、以降この件に関して謝意を向ける必要はない、むしろ僕は感謝すらしているのだからね」

そう言いウインクをされるアルデンティア第四王子殿下。これは暗に“この件は他所でしゃべるな”って事なんだろう。

プライドが高いと言うかなんと言うか、本当に貴族とは面倒臭い。

 

「アルデンティア第四王子殿下の寛大なる御心に感謝を。

それでこの後ですが第四王子殿下方はどの様になさるおつもりでしょうか?

先程のような学園ダンジョンによる不意な歓迎もございますし、私共は一度外に出られた方が良いかと考えておりますが」

 

これは直接的な発言を避けつつ護衛を申し出たって事か。まぁ今の状況からして妥当な判断か。

だがその言葉を先程の不満たらたらな感情を抱えた王子殿下が受け入れるとは・・・。

 

「ふむ、ラビアナ嬢の提案は分からなくもない。変異種の出現は確かに異常事態ではあるからね、ダンジョン学の座学でもそうした場合は速やかにダンジョン探索を中断し野外に出ることを推奨していたしね。

だがそれは一般ダンジョンに於ける話、この管理された学園ダンジョンにおいては必ずしも正解とは言えないかな?

さっきも言ったが今回の変異種は私たちダンジョン攻略パーティー“王家の紋章”にとっては適正な魔物であった。つまりこの第三階層は私達が訓練するのに丁度良い階層という事になる。

 

それは私たちに加勢した君たちにも言える事、互いに研鑽を積みより高みを目指そうじゃないか」

 

あぁ、帰る気はないと。こっちは勝手にやるから放っておけと。

・・・俺もこんな奴だったな~。後ろでフィリーが吹き出しそうになってるんだが、肩を震わせて笑いを堪えている様子が手に取るように伝わって来るんだが!!

 

「そうでございますか、その弛まぬ研鑽の姿勢、学ばさせていただきます。

アリス、この様な機会をお与えになってくださったアルデンティア第四王子殿下に感謝し、多くの事を学び取るのですよ?

では私共は失礼いたします、どうぞご武運を」

 

そう言い俺たちにその場を下がるよう目配せするラビアナ嬢。俺たちはその指示に従いこの場を離れていく。

 

「それでどうするんだ?今日はこのままダンジョンを出るのか?」

ジミーの問い掛けに呆れの表情を向けるラビアナ嬢。今の問い掛けは普通だと思うんだが?何で呆れるんだ?

 

「はぁ~、分かっておりませんわね。あの気位の高いアルデンティア王子殿下がこの程度でめげるはずはないではありませんの。どうせこのまま第四階層に突入しますわ。

そしてオークに襲われ危険に晒される。そんなときアリスが献身的に皆を守るのですわ。

皆さんはつり橋効果という言葉をご存じでして?危険なつり橋を男女が共に渡る、その時高鳴った鼓動は危険に対するものかそれとも隣の異性に対するものか。

少なくとも相手を意識するきっかけにはなりますの。そんな素晴らしい場面をこの(わたくし)が見逃すなんて、あり得ませんことよ?」

 

「・・・うん、本物だな。ラビアナ嬢には逆らわない方がいいぞ、ライオネス」

「そうですね、反対意見を述べようものなら何をされるか分かりませんよ、ライオネスさん」

「いや、ここは男気を見せてくれると思うぞ、頑張れライオネス」

「そうだな、俺たちの最後の希望だもんな、期待しているよ、ライオネス」

 

「なんでみんなして俺を嵌めようとしてるんですかー!!マジで止めてください!!」

「「「「イヤイヤイヤ、君なら出来る(出来ます)」」」」

 

「酷い、このパーティー最悪だ!!」

「「「「アッハッハッハッ」」」」

互いに顔を見合わせ笑い合う俺たち。うん、王都学園というものに対して期待はしていなかったが、こうした生徒同士の交流というものは悪くない。

確か父上と母上は学園に通っている時に出会ったとか、この学園にはこうした出会いの場としての一面もあるのだろう。

 

「皆さん何を遊んでいますの?早く行きますわよ。それと気配はなるべく落として気が付かれない様にするのですよ?」

「「「「「ハッ、ラビアナお嬢様」」」」」

 

「なっ、一体なんですの?まぁいいでしょう、今はアリスの観察が最優先ですわ」

 

先行するラビアナ嬢、それに続く俺たち。俺は何か楽しくなる気持ちを感じながら薄暗い洞窟を駆けていくのだった。

 

 

“““ブモ~~~~~~!!”””

「<ライトボール>」

「<ウインドボール>」

「<アースボール>」

「<ファイヤーボール>」

 

撃ち出される魔法弾、飛来する魔法の玉を剣で撃ち落とすオークたち。

 

「う~ん、決め手に欠けますわね。中級魔法で一気に仕留めたいところなのでしょうけれども、足元に飛び込んで来るホーンラビットが厄介ですわ」

中級魔法の魔法詠唱は決して長くはない。だがオークたちがその隙を逃してくれるとは思えない。

よしんば皆で協力してアルデンティア第四王子殿下に詠唱の時間を取らせようとも、嫌らしく足下を責め立てるホーンラビットが邪魔をする。

 

「これで壁役の盾持ちがいれば違うのだろうが、如何せん今日は丸腰だからな。要は魔法職の集団、カーベルが魔力障壁を使えるみたいだが、本格的に訓練を積んでいる様には見えないな。

それでも前面でオークの攻撃を防いでいるのは流石だ。

しかしこうなるとホーンラビットが本当に厄介だな、アイツらの速度に対応しきれていないといった感じか」

ジミーの分析に皆が頷きで応える。

 

“フゴーーー、ドガンッ”

「「あっ、カーベルが吹き飛んだ。アリスさんが急いで治療に走ったよ」」

さり気なくコソコソ遊撃をしてホーンラビットを押さえていたアリスと前面の盾役カーベルの戦線離脱、これは不味くないか?

 

“““タッタッタッタッ、キュッキュイーー!!”””

““フゴーーー、ドガンッ””

三体のホーンラビットの突進、そこに気を割かれた隙に二体のオークが体当たり。巧みな連携に堪らず吹き飛ぶアルデンティア第四王子殿下たち。

 

「「「うわーーーーっ」」」

「うん、ここまでか。ロナウド、救助に入るぞ」

ジミーがそう言い立ち上がろうとした時だった。

 

「あぁ、それはシルビーナ先生が行いますので大丈夫ですよ?と言うか皆さん、ダンジョン学の担当教諭が装備もなく第三階層から先に進むなと言っていた言葉を聞いていなかったのですか?」

その声は直ぐ隣、俺たちの真横から聞こえて来たもの。

 

「「「「「「ネイチャーマン先生!?なぜここに」」」」」」

そこにいた人物、それは生活魔法講師のビーン・ネイチャーマン先生。

 

「“何で?”ではありません。毎年無謀にも担当教諭の忠告を聞かない生徒が出るので、ダンジョン探索初日には私たち教師陣が監視を行っているんですよ。

もっともそうした無謀な行為が危険である事を分かっていただく為の措置でもあるのですが。

ただ皆さんの場合、そのまま学園ダンジョンを攻略してしまいそうなので、今日のところはちゃんと戻って下さいね。

それと後でダンジョン学担当教諭からお話がありますのでそのつもりで」

 

淡々と語られるそれは呼び出しの宣告。目の前ではシルビーナ先生による蹂躙とお説教が。治療はポーションで行うらしく、口にポーション瓶を突っ込まれているアルデンティア第四王子殿下パーティー。

俺たちはその光景に乾いた笑いを浮かべながら、ダンジョン探索初日を終えるのだった。

 




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