転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第608話 転生勇者、街の噂を聞く

“ハッ、カンカンカンカン”

「ほらほらどうした、腰が入ってないぞー!もっと踏み込んでこい、剣は心だ、気合いを入れろー!!」

「はい!!」

 

“カンカンカンカン”

 

武術訓練場に模擬剣を使った打ち合いの音が響く。模擬剣と言ってもそれは刃引きの剣というだけで鉄の塊である事には変わりない。重量もあり当たれば痛いどころの騒ぎではない。

だがここは魔物蔓延る剣と魔法の世界、領民を率い戦う立場である高位貴族の者が剣が怖いなどとは言ってられない。武器を手に命を奪いにくる魔獣を打ち倒してこその貴族、彼らにとって剣とはただの武器にあらず、魂の在り様なのだ。

 

「アルジミールの奴頑張るな。ライオネスも他の三年生の先輩に指導してもらってるし、アイツら根性あるよな」

隣で休憩するジミーが手拭いで汗を拭きながら話し掛ける。俺はそんなジミーの隣に置かれた金属の塊に目を向けながら言葉を返す。

 

「そうだな、あの二人って確かジミーのところのダンジョン攻略パーティーのパーティーメンバーだっけ?

ネイチャーマン先生の生活魔法講座で知り合ったっていう。ジミーが誘ったっていうからどんな人物かと思ったけど、結構いい雰囲気持ってるじゃん。

なんだろう、普段は実力を隠している感じ?基礎は出来てるみたいだし、一年生の中じゃ実力的に上の方なんじゃないかな」

そう言い視線を訓練場で戦う二人に向ける。今も先輩方の打ち込みを上手く受け流して反撃に転じている姿が見える。

 

「それよりもジミー、なんだよその大剣は。ヘンリー師匠のグレートソードよりデカいじゃん」

そう、それはジミーの脇に置かれた鉄塊、武器屋のオブジェにしか見えない馬鹿みたいにデカイ脅威を振り回すジミーの姿は、もはや冗談としか思えない。

 

「あぁ、これか?バルド先輩の話では何代か前の剣術部の卒業生が寄贈した物らしい。阿呆な貴族がドラゴンを討伐する目的で鍛冶屋に作らせたんだが、あまりの大きさにまともに扱える者がいなかった曰く付きの代物だとか。

<身体強化>や<剛腕>のスキル持ちなら振る事自体は出来るんだが、そうした連中は大概大型の打撃武器を使うだろう?攻撃武器として使うのなら大型の斧の方が効率的だって言うんで結局お蔵入り、ドラゴン討伐自体は大失敗に終わりその家は没落、流れに流れて王都学園の剣術部に行き着いたって訳さ。

まぁ俺には丁度いいんだけどな。

 

ただ振ってみて思ったんだが、これでドラゴンに挑んだとて絶対折れるぞ?霊亀の脚も切れないんじゃないか?

まぁ<魔力纏い>で強化してやれば問題ないが、それだったら使い慣れた木刀の方が全然いいしな。鍛錬時の素振り用が精々なんじゃないのか?」

 

そう言いその鉄塊を渡してくるジミー。俺は渋々それを受け取り、何回か素振りをしてみる。

 

「・・・なぁジミー、この剣、重心位置がおかしくないか?必要以上に重く感じる様に出来てるんだが」

「そうだろう?これってあからさまに鈍器として設計されてるんだよ。おそらく使用する人間が<身体強化>持ちだろうとの想定で作られてるんだろうけど、切る気がないよな、これ。

それにやっつけ仕事とまでは言わないけど、相当鍛冶師に無理を言ったのか、素材がな~。ドラゴンに挑むってんならアダマンタイト、せめてミスリルくらいは混ぜて欲しいんだが、ただの魔鉄製だしな。

頑張ってもアイアンタートルが精々なんじゃないのか?ワイバーンは怪しいだろう。討伐できても殴り倒す感じになるんじゃないのか?」

 

そう言い肩を竦めるジミー。お貴族様は見栄っ張り、この武器もそうした悲しい貴族社会事情の中で生まれた遺物なんだろう。せめてジミーの素振り用(筋トレ器具)として活躍して欲しい。

 

 

「なぁ、あそこで<勇者>ジェイクが振るってるのってウチの倉庫に眠ってるドラゴンキラーだよな?」

「はぁ?何言ってるんだよ、あれは俺たちが三人がかりで漸く持ち上げられるような・・・本当だよ。

えっ、<勇者>ジェイクって残念勇者じゃなかったのかよ。実は<身体強化>持ちだったとか?

やっぱり<勇者>って人間じゃないわ」

 

「そうは言っても隣のジミーはドラゴンキラーで演武まで行ってたけどな。聞いた話じゃ<勇者>ジェイクと<聖女>エミリー、それとジミーは同じ村の出身らしいぞ?」

「はぁ!?<聖女>エミリーっていったら“鮮血の撲殺姫”、“撲殺聖女”って呼ばれてる危険人物じゃねえか。ジミーに至っては大剣聖様を模擬戦で下したって言うし、何だよその村」

 

「“貴族令嬢の幽閉地”、“辺境の蛮族”が住み暮らす大森林に最も近い村。ホーンラビット伯爵領マルセル村、“聖者の行進”や“三英雄”で名が売れたあのホーンラビット伯爵領だよ。

因みにジミーの剣の師匠は“鬼神ヘンリー”と“剣鬼ボビー”らしい」

「ブッ、生粋の化け物じゃねえか!!何でそんな奴が王都学園に・・・上級職なのか?一体どんな」

 

「<剣天>、教会の記録にもないこれまで見つかっていなかった新しい職業らしい。<剣聖>である大剣聖様に模擬戦で勝ったってことになると、その職業は<剣聖>よりも上って事になるだろうな」

「ハハハハ、未来の英雄様か、はたまた騒動の中心か。いずれにしろ俺たちは凄い連中と同じ世代を過ごす事になるって訳だ。将来自慢でもするか?」

 

武術訓練場のあちこちで噂し合う生徒たち。彼らの視線の先には未だバランスの悪い大剣の扱い方を議論し合う英雄候補たちの姿。

ジェイク、ジミー、エミリーの三人は、本人たちの意図しない形で王都学園のアンタッチャブルとして認識されていくのであった。

 

―――――――――

 

「ジミー、少し宜しくて?」

それは午前中の授業が終わり学食へと移動しようとした時に掛けられた声、振り向くとそこにはゴージャスな雰囲気を纏ったザ・お嬢様の姿。

 

「あぁ、構わんが俺たちはこれから昼食だ、食事をしながらでも構わんか?」

「えぇ、時間を取ってしまうのは(わたくし)ですし、それは構いませんわ。ではすぐに参りましょうか」

 

そう言い先へと進む公爵家の御令嬢。

 

「なぁジミー、ラビアナ様っていつもあんな感じなのか?一見自分勝手にみえて相手に気を使うような」

「そうだな、貴族らしい貴族に見えなくもないが、中身がな。俺たちは似非お嬢様と呼んでいる。本人に言うと「何を言ってますの?(わたくし)ほど貴族令嬢らしい者はおりませんことよ?その言葉、訂正なさい」とか言って突っ込んでくれるけどな」

 

「ブフッ、ジミーお前何やってるんだよ。下手しなくても不敬罪で処刑されちまうぞ!?いくら学園が身分に関係なく言葉を交わせるからって、そんなの建前だって事ぐらい知ってるだろう?」

あまりの話に思わずツッコミを入れる俺。本当、ジミー何やってるの。

 

「すまんジェイク、俺も結構な口の利き方をしているわ。

なんかラビアナ嬢の残念振りが壺にはまってな、普段が確りしている分その落差が。お前もそのうち分かるぞ“似非お嬢様”の意味が」

ロナウド~~!!お前は止めて、せめてお前だけは制止側に入って!?

俺は大剣聖様との模擬戦以来自由人に拍車の掛かったジミーとゆかいな仲間たち(メンバーはジミー、ロナウド、フィリーの三人)の無軌道振りに、頭を抱えざるを得ないのでした。

 

「来たわねジミー、席は用意しておきましてよ?あら、皆さんもB定食ですの、気が合いますわね」

そう言いB定食のトレーをテーブルに置く公爵令嬢。ここは高位貴族子女の社交の場でもある王都学園、よく小説やアニメであった様な「そのような庶民の食事などいただけませんわ」などという馬鹿な事を言う生徒はいない。

だってこの場の庶民って全員スカウト対象だもん。食事を提供してるのだって王家だし。そんな阿呆な事を言った日には「お前の家は王家に叛意でもあるのか?」とか言って説教部屋(生活指導室)行きだしね。

 

そう言えばジミーたち、ダンジョン学で初めて学園ダンジョンに向かった日、早速説教部屋送りになってたな~。いくら平気だからって武器や防具も持たずに第四階層に行けば普通に怒られるって。

因みに第四階層に向かった生徒は他にアルデンティア第四王子殿下のパーティー、確かパーティー名は“王家の紋章”だったかな?

彼らは特別に学園長執務室でお話を聞いたらしいけどね。何故か学園長の方がやつれちゃったらしいけど。(シルビーナ先生情報)

 

「あっ、そう言えばジミーたちって学園ダンジョン攻略パーティーのパーティー名ってどうした?俺とエミリーは分かり易く“ホーンラビットの角”って名前にしたんだけど」

「“ホーンラビットの角”、もしかしてその角って二本あったりとか?」

ロナウドの問い掛けに「エヘヘへ、ジェイク君とエミリーで二本角だね♪」と答えるエミリー。

でもエミリーさん、ロナウドが言ってるのはそうじゃなくってその両椀・・・いや、よそう。これ以上はいけない。

 

「あぁ、“ラビアナお嬢様と下僕た「却下ですわ」・・・、“残念お嬢様と「誰が残念お嬢様ですの、誰が!訂正を要求いたしますわ!!」・・・、“隠者の集い”に決まったんだ」

何故かテーブルの向かいには「“アリス見守り隊”の方が絶対いいですのに。私だって“アリスとイケメンの恋を追い掛け隊”から妥協いたしましたのよ?」などと不穏な事を呟く公爵家令嬢が。

うん、確かに残念お嬢様だわ、似非お嬢様って言われても仕方がないわ。

しかもきっちりボケを拾う、ツッコミの才能あり?公爵家の御令嬢が?

 

黙ってジミーに目を向ける。そこには“な、スゲーだろう?ボケとツッコミ、両方いけるって逸材だろう?”と人材発掘に成功したスカウトの様な顔をするジミーの姿が。

確かにこれは称賛に値するかもしれない。俺は素直に負けを認め、頷きで返す。

 

「ってそうではありませんわ。ジミーに声掛けしたのは他でもありませんの、アリスとアルデンティア王子殿下たちの事ですわ」

 

学園での新年度が始まって二カ月ほど、生徒たちも学園での生活に慣れ様々な部活や放課後の自己研鑽、学園ダンジョン攻略パーティーメンバー同士の交流など、様々な授業外活動をするようになってきている。

そんな中問題のアルデンティア第四王子殿下たちのパーティーに動きがあったらしい。

どうやらアルデンティア第四王子殿下たちはお忍びで王都観光に行く事になったらしい。先月の王都教会の奉仕活動だけでもあれだけの騒ぎになったのにそんな事をして大丈夫なのかとも思ったが、その辺は無論影の護衛が付くという事にはなっているのだとか。

VIP警護のSPの皆さん、お仕事とはいえお疲れ様です。

 

「既に基本的な観光順路は決まっていて、王都の有名な観光地や商店街などを回る事になっていますの。でも(わたくし)もこれまで王都観光などした事はありませんでしょう?どの場所が観察に適しているのかくわしくありませんの。

そこで一度下見をしようと思い、協力をお願いしに来たという訳ですわ」

 

そう言いキリッとした表情をするラビアナ様。ラビアナ様、ガチじゃん。アイドルの追っ掛けかストーカーか、判断に悩むところじゃん。

 

“バサッ”

そういうやラビアナ様が取り出したもの、それは王都の簡易地図。既に観光ポイントや順路は赤ペンで印がされている。こんな情報をどこから、警護関係者しか知り得ない情報なんじゃ。

 

「あぁ、そう言えばこないだアリスが話していましたね。何でも今度アルデンティア第四王子殿下たちと王都観光に行くとか。ただアルデンティア第四王子殿下の警護の関係上すぐには出掛けられないとか」

アリス嬢~~~!!犯人はお前かい!!

同室で友人でもあるフィリーが「地図に起こすとこういった感じになるんですね」と何か感心した様子で地図を眺めています。

これでいいのか王都防衛、まぁ王子殿下がご学友とお忍びで出掛ける時点で推して知るべしなんでしょうが。

 

「あの、ラビアナ様、一つお聞きしたいのですが」

口を開いたのはエミリー、エミリーは地図の一点を指差し言葉を掛ける。

 

「この“商人街の悪夢”って一体なんですか?」

そこは地図に記された最後の観光地、商人街と呼ばれる住宅街の一角を指し示すものなのであった。




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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