転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第609話 転生勇者、街の噂を聞く (2)

「それは月明かりの美しい夜だった。人々が寝静まる閑静な住宅街、巡回の衛兵たちも()うの昔に通り過ぎたそんな時間帯。

“ギィ~~~~~~~”

軋み音を立てて開かれた鉄柵門。

“ゴソゴソゴソ”

忍び込む様に進入してきた何者か。

 

「ん?そこに誰かいるのですか?」

屋敷の見回りを行っていた執事が手元の明かりを庭先に向け、周囲を照らす。

 

“スタスタスタ、グサッ”

「ウグッ、だ、旦那様・・・誰か・・・」

 

“ドサッ”

その場に崩れ落ちる執事に一瞥をくれる事もなく無言のまま行動を開始する黒い影。一夜の惨劇、とある商家屋敷を襲った凶行は屋敷に住む全ての者の命を食らい、金品を奪い尽くしていった。

喜びも悲しみも、これまでの平穏な日々を一瞬にして塗り替える不条理で理不尽な現実。

人々は卑劣な犯罪行為に顔を(しか)めるも、やがてそれは過去のものとなりいつもの平穏な日常が戻る、そう思っていた。

 

「「「ギャーーーーーー!!」」」

最初の犠牲者は行政よりこの屋敷を下げ渡された不動産業者であった。周囲に根回しをして購入した屋敷、立地的にも悪くはなく多少の修繕を加えれば直ぐにでも買い手が付くと見込んでいた、そんな物件。

 

“ブワッ”

屋敷の庭に流れる生暖かい風、耳元に囁かれる女の声、見えない手により掴まれたかのように動きの取れなくなる足。

 

次々と転売されて行く屋敷、中には豪胆にも屋敷で一晩を明かそうとした者もいた、だがその悉くが恐怖に身を震わせ屋敷門を逃げ出していく。

冒険者、衛兵、聖職者、その屋敷を取り壊し更地にしようとした者たちも昼夜を問わず襲い来る怪異に顔色を青ざめさせ、取る物も取り敢えず逃げ出す始末。

 

いつしかその屋敷は“商人街の悪夢”と呼ばれ、王都の三大禁足地として恐れられる様になったと言われています」

 

「「「「「「めっちゃ怖いんですけど!と言うかコリアンダさんの話し方が上手過ぎるんですけど!!」」」」」」

学園の休みである闇の日、ラビアナ・バルーセン公爵令嬢の趣味(アリス嬢とイケメン王子殿下たちの観察)の下見に付き合う形で王都観光に向かった俺たちは、街に出るついでという事でモルガン商会王都支店に状況報告に訪れていた。

 

「あぁ、その話は聞いた事があるよ。“商人街の悪夢”、商人街と呼ばれる高級住宅街で起こった商家一家惨殺事件。その後次々に起こり始めた怪奇現象に冒険者や教会の聖職者が解決に乗り込んだが誰もかれもが逃げ出したって言う曰く付きの屋敷の話だろう?

場所はいいからってんで怨念なんか気にしないと言って購入する者が数年に一度現れるんだけど、結局すぐに手放すって話だったかな。

何でも去年どこかの地方貴族か商人だかが購入してこれまで荒れ放題だった庭を綺麗にしたって話だったぞ?

 

でも変なんだよな、そうなればそうした噂って普通は下火になるもんなんだけど、それどころか“あの屋敷には近づくな”って話が俺の耳にまで届いてるんだよな」

 

そう言い腕組みをしながら首を傾げるロイドさん。ケビンお兄ちゃん曰く“王都の観光情報が知りたかったらロイドの兄貴に相談する事”というくらいの情報通の人、今日も王都観光に来るアリス嬢とアルデンティア第四王子殿下たちをさり気なく観察するにはどうしたらいいのかの相談に乗ってもらっていました。

ロイドさん曰くアルデンティア第四王子殿下の観光プランはちょっと古臭いコテコテのデートコースらしく、「えっ、ここで王宮前広場の噴水に行くの?マジで?」とのこと。

 

「いや、これで喜ぶ女の子って地方から出て来て初めての王都観光に浮かれる純粋無垢な子くらいだよ?一回目だったらいいけど繰り返し使ったら感性疑われるから気を付けてね?

特に最後のお化け屋敷巡りなんて下心見え見えだから。初めてのデートで行くような場所じゃないからね?」

 

・・・アルデンティア第四王子殿下、めっちゃ駄目だしされていますよ。何故か隣でラビアナ様が「えっ、この観光順路にちょっとワクワクしていた(わたくし)ってもしかしてダサ女でしたの?無茶苦茶扱い易い便利な女だったとか?」と流れ弾を食らってショックを受けておられます。

まぁ公爵家の御令嬢であれば箱入りのお嬢様でしょうからその辺は致し方がないかと、ドンマイです。

 

「えっと、それじゃ今日はこの観光順路に従って歩く王子殿下一行を覗き見る為のよさげなお店を紹介すればいいって感じかな?

まぁこの順路ならここの小物屋とこの宝飾品屋、あとこの焼き菓子屋は欠かせないかな?

でもな~、王族の者が市井の食べ物を口にするとは思えないんだよな~。

その辺は予め仕込みの人間が入るのかな?裏方って大変だな、おい」

 

流石はケビンお兄ちゃんが尊敬するロイドさん、頭の回転も凄く良いみたいです。「サボる事にかけては超一流、常に仕事をさぼるにはどう立ち振る舞えばいいのかを考えてるような御方」とはケビンお兄ちゃんの言葉、俺もロイドの兄貴と呼ばせて頂きます。

 

「それでは参りましょうか、お嬢様方。本日は不肖モルガン商会王都支店所属ロイドが案内を務めさせていただきます」

そう言いラビアナ様たちに慇懃に礼をするロイドの兄貴。ラビアナ様の素性は敢えて伏せています。

 

「知らない方が幸せな事もある、誰か学園のお友達を連れて来てもその素性は絶対に言わないでね!!」とは以前モルガン商会王都支店を訪れた際にロイドの兄貴から固くお願いされた事。

うん、公爵家の御令嬢だなんて知ったらロイドの兄貴固まっちゃいますもんね、その考えは間違っていないと思います。

 

本日のメンバーは俺たちマルセル村若者軍団の五人とラビアナ様とお付きメイドのコリアンダさん。こちらのコリアンダさん、ラビアナ様の<隠形術>の師匠なんだそうです。

<隠形術>を駆使するメイド・・・公爵家って闇が深いんだな~。(遠い目)

聞けば他にも<暗殺術>を駆使する執事や使用人が何人も。これ以上は耳を塞ぎましょう、好奇心に駆られた猫は地雷原でタップダンスを踊りますし。

だから嬉しそうに公爵家の話をなさらないでください!!

ラビアナ様同世代のお友達っていなかったんですね、公爵家ですもんね、そうそうお友達は作れませんものね。

取り繕いながらもウキウキ感が隠せないラビアナ様の御姿に、優しい眼差しを向ける一同なのでありました。

 

――――――

 

「あら、可愛いですわね。コリアンダ、どう見ます?」

「そうですね、素材は庶民向けの安価なものながら、その分造形に力を入れた品かと。パーティーに着けるには問題でしょうが、普段使いのちょっとした小物としてはよろしいかと」

 

王都の一角、様々なお店の並ぶ商店街。人通りも多く、多くの若者たちでにぎわっている、そんな場所。

 

「ん?良さげなペンダントじゃないか。店員さん、これを一つ」

「はいよ、銀貨二枚だよ。毎度あり」

 

立ち寄ったのはアルデンティア第四王子殿下御一行が顔を出すであろう小物や宝飾品を扱う雑貨商。市井の商店街での買い物に、お付きのメイドと楽し気に言葉を交わすラビアナ様。

そんな彼女達の横合いから顔を出し、さり気なく支払いを済ませるジミー。

 

「えっ、あっ、何ですのジミー。私は何も」

「あぁ、ラビアナ様はいつも頑張ってるからな、これはちょっとした礼だ。それに似合ってるじゃないか、そのペンダントもいい持ち主に出会えて喜んでいると思うぞ?」(キランッ)

 

そう言葉を残し、メガネのブリッジをクイッと上げてからその場を離れていくジミー。あとに残されたラビアナ様は戸惑いの表情と共に顔を赤く染められ・・・。

 

「「ジゴロだな(だね)」」

「「ジゴロですね。私達もさっきブローチを買って貰いましたし」」

 

呆れの表情を向ける俺とエミリー、同意を示すフィリーとディア。

 

「ねぇエミリー。ジミーの目立たなくなる装備ってちゃんと役に立ってるのかな?ジミーの行動が全てを台無しにしている気がするんだけど」

「う~ん、でもジミー君の行動って多分素のままだと思うよ?マルセル村は同年代の女の子が私とフィリーとディアしかいなかったから気が付かなかったけど、ジミー君ってああいうところがあるもん。

マルセル村って基本木札だし、お金に対する執着ってないしね。ケビンお兄ちゃんも面白そうだからって理由だけでとんでもない高級装備を渡してくるでしょう?ジミー君も似合いそうだからとか役に立ちそうだからって理由だけで簡単に人に物をあげたりするんじゃないのかな?

ジミー君の執着って強い相手と戦いたいってだけだしね」

 

あぁ、なるほど、凄い納得。マルセル村という狭い環境にいたせいで分かりにくかっただけで、これってジミーの素の行動だったのね。

って事は広い環境、暗黒大陸にいた頃は・・・。うん、考えない事にしよう。これって絶対フラグになるから。

ジミー、マジで大丈夫かな?暗黒大陸から大量の嫁候補がやってくるんじゃ。ケビンお兄ちゃんの話では暗黒大陸からの魔王軍襲来は国内情勢がそれどころじゃないから当面起こらないだろうって事だったけど、ジミーの嫁候補の襲来?魔王軍より厄介じゃね?

俺は考えないようにしようとしても次々と浮かぶ厄介事の予感に、頭を抱えざるを得ないのでした。

 

―――――――

 

そこは本当に閑静な高級住宅街といった場所。立ち並ぶ家々の敷地は広く、へたな貴族屋敷よりも御屋敷といった雰囲気を醸し出している。

 

「ロイドの兄貴、本当にこんなある意味普通の場所に“商人街の悪夢”と呼ばれるようなお化け屋敷があるんですか?」

それは素直な疑問、周囲を鬱蒼とした木々に囲まれている様ないかにも呪いの館ですといったような雰囲気など微塵も見られないこの住宅地に、そんな屋敷が存在する事などあり得るのだろうか。

 

「う~ん、ジェイク君が疑問に思うのももっともかな?ここ商人街は王都の中でも成功者の集う街と呼ばれていてね、そこそこ名の知られるような商人や王宮勤めの役職持ちなど、貴族ではないけどそれなりに発言力のある者たちが居を構えるような場所なんだよ。

王都民憧れの街、この街に住んでるというだけで一目置かれるといったような場所なんだ」

 

要するに前世で言う田園調布みたいなところ?俺は行った事がないからよく知らないんだけど、ドラマとかで高級住宅街の代名詞的に扱われてたんだよな。

幅の広いよく整備された道、きれいな外観の御屋敷立ち並ぶ住宅街を進むこと暫し。

 

「場所的にはここなんだけどね」

そこは住宅街の一角、手入れのされた屋敷塀、真新しい御屋敷、整えられた庭先、お化け屋敷とはとても思えないその外観に、首を捻る一同。

ロイドの兄貴は偶々近所の屋敷から出てきた使用人らしき人を捕まえて何やら交渉を行っています。嫌がる使用人の手を透かさず掴み、サッと渡される“お気持ち”。仕方がないと言った顔でロイドの兄貴に話を始める使用人。

これが商人の情報収集術、ロイドの兄貴、勉強になります!!

 

「皆さん、お待たせしました。やはりこの場所が“商人街の悪夢”と呼ばれた御屋敷で間違いないそうです。

今からちょうど一年前、新しい家主が決まり庭の手入れが始まったんだそうです。ただ不思議な事に誰もその様子を見たことがないらしく、気が付いたら庭先の雑草が処分され、屋敷がまるで新築のように変わっていたとか。

現在はその新しい家主が住まわれているのではないかと言われているそうです。

その辺があいまいな理由は誰もこの屋敷の家主を見たことがないからだそうです。近所付き合いも一切なく、ごくたまに使用人の姿が見られるとか。今年の春先になってからは四十絡みの男性が出入りしている姿が目撃されているそうです」

 

ロイドの兄貴の言葉にどこかがっかりといった雰囲気になる一同。前世でも心霊スポットがどうのといった話があったけど、この手の噂話はな~。

この世界、ただの心霊現象じゃなくレイスやリッチといったアンデッド魔物というものがいるから一概に嘘とは言えないんだろうけど、肩透かしを食らった気分になるのは仕方がない。

 

「ただちょっと気になる事も言っていたんですよね。“悪夢はまだ終わっていない”って。それってどういう事なんですかと聞いたんですけど、それ以上はどうしても教えてくれなくて。

それでこの後どうします、訪ねてみます?」

 

ロイドの兄貴がそう言い顔を向けた先、そこには何故か先程とは違った雰囲気を醸し出しているかのように見える一軒の御屋敷。

丁度その時、問題の屋敷の鉄柵門を開いて中に入って行こうとする人物が。

 

「あの、すみません。少々よろしいでしょうか?」

慌てて声を掛けるロイドの兄貴、俺たちはそんな兄貴の様子を固唾を飲んで見守ります。

 

「はい、何ですかってロイドの兄貴じゃないですか、こんな所でなにをしてるんですか?ってジミーたちじゃん。お前らこんな所でなにやってんの?」

「「「「「はぁ!?ケビンお兄ちゃん!?」」」」」

 

あまりに予想外の人物の登場に思わず声を上げる俺たち。

俺たちとケビンお兄ちゃんは互いに顔を見合わせながら、“何がどうなってるの?”といった表情を向け合うのでした。




本日一話目です。
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