転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第613話 それぞれの後始末、それぞれの思惑

そこは重厚な扉の部屋であった。扉の両脇には近衛の兵士が控え、その場を訪れる者たちに鋭い視線を送っている。

 

“コンコンコン”

「第四王子アルデンティア、国王陛下のお呼びにより参りました」

 

“カチャリッ”

部屋前からの呼び掛けに、内側から開かれた扉。

室内に漂う緊張感、アルデンティアはその場の雰囲気にごくりと生唾を飲む。

 

「うむ、待っていたぞアルデンティア。そのような所に立っていては話も出来ん、先ずは入って座りなさい」

その場の最上位者たるゾルバ国王より着座を勧められ、急ぎ席に着くアルデンティア。自身の正面にはゾルバ国王とメルビア第一王妃が並んで座り、直ぐ隣には兄であるレブル王太子が座っている。

ただそれだけであれば家族との顔合わせに過ぎないのであろうが、この場に漂う緊張感がそうしたものではないと否が応にも分からせる。

 

「アルデンティア、王都学園に入学してから早いもので二カ月、学園での生活にも慣れた頃であろう。側近の者以外にも友人は出来たのか?」

ゾルバ国王の言葉は何気ない親子の会話といった感じのもの。だがそれだからこそ、この場の雰囲気とのギャップが甚だしい。

 

「はい、学園では多くの生徒との交流に努めております。中でも親しくしているのは、<聖女>の職を授かったアリス・ブレイク嬢でしょうか?

彼女は男爵家の三女でありこれまで交流のなかった爵位の者であるため、価値観やものの捉え方が私の周囲にいる者たちとはかなりのズレがあり、それがある意味新鮮でもあります。

これが平民出身の者であればまた違ったものの見方や考え方があるのでしょうが、そうした事は学園在学中に少しずつ学んで行ければと考えております」

 

アルデンティアの答えに「であるか」と応え、深いため息を吐くゾルバ国王。

 

「アルデンティア、あなたは何故私たちがあなたをこの場に呼んだのか、その理由が分かっていますか?」

口を開いたのはメルビア第一王妃、アルデンティアは王妃の目を見詰め言葉を返す。

 

「はい、おそらくですがヘルザー宰相から何か話があったからかと」

「そうですね、アルデンティアは今日、学園の学友たちと共に王都観光に向かった。その事自体に問題はありません。

問題は最後に向かった地、商人街にある一軒の商家屋敷。あなたはそこで一体何を見て何をしたのか、それのどこに問題があったのか。その事を理解していますか?」

 

メルビア第一王妃の言葉に口をつぐむアルデンティア。アルデンティアは自身が一体なぜこのような叱責を受けるような場に呼ばれなければならないのか、未だ理解しきってはいなかったからであった。

 

「あ~、うん。その顔はよく分かっていないって奴だな。

まぁそうだよな、俺も似たようなものだったし、お前に対し偉そうなことを言えるような立場でもないんだが・・・。

これは一つ一つ説明していった方がいいかもしれないな」

隣に座るレブル王太子はがっくりと肩を落とすと、「よく聞いておけよ」と前振りをしてから説明を始めるのだった。

 

「まずは一般的な理由だ。

お前たちが勝手に入ってしまった屋敷、あの場所は私有地だ。その家の主人の許可なく侵入すれば罪になるし、盗賊の類と思われても仕方がない行為だ。

まぁお前たちの場合、門扉から庭先に入った時点で家の者に呼び掛けを行っていた事、建物内に侵入した訳ではないという点から問題ある行為ではあるものの厳重注意程度で済まされる事ではあっただろう。

あの場所について話を聞く為に屋敷の者に説明を求めたという事も、相手が了承したのであれば何ら咎めを受ける事ではない。

 

では何が問題であったのか。それはあの屋敷の者に無理難題を強要した点だ。それも王家の威光を笠にな。

これは貴族が平民に対し自身の要望を強要する事と何ら変わらない。相手を下に見る行為、王家の者であれば何をしても許される。

アルデンティア、お前の行った行為はそういうものなんだ」

 

レブル王太子はどうしようもない弟を見るような瞳を向け、息を吐く。自身の過去の失敗を思い出し「あの時は母上に説教されて大変だったな~」と独り言ちる。

 

「しかし兄上、あの場所、“商人街の悪夢”と呼ばれた穢れ地は私達が訪ねても何ら問題のない一般的な屋敷でありました。仮にあの場所が噂通りの穢れ地であったのならそれを祓った者、浄化した者がいるはず。

であればその者の力により国内に存在する穢れ地を浄化させればどれ程の国益に「それは誰の考えなのですか?アルデンティア、あなた自身が常に考えていたものではないのでしょう?」・・・」

口を挟んだメルビア第一王妃の言葉に、途端口をつぐむアルデンティア。

あの場では力強く主張したものの、この考えはピエールの言葉に乗ったもの、自身が深く考えての発言ではなかった。

 

「アルデンティア、そなたは自身の発言の重み、王家の者としての立場の重さを今一度考える必要がある。

そなたが一体何に対して喧嘩を売ろうとしていたのか、未だ気付いてはおるまい?」

ゾルバ国王は大きくため息を吐きたい気持ちをグッと堪え、アルデンティアに向き直る。そこにいるのは嘗ての自分、王家の権力を自身の力と勘違いしていたこの国を滅ぼし掛けていた愚か者。

ゾルバ国王は自然に伸びる右手で腹を摩りながら、後で胃薬を飲もうと心に誓うのであった。

 

――――――――

 

「ピエール様、ルビアン枢機卿猊下は大変落胆しておられます。“あの者は一体何をしているのか”と。ピエール様に於かれましては今一度ご自身の役割、ルビアン枢機卿猊下が託された思いというものをお考えになられてはいかがでしょうか」

 

王都教会大聖堂が佇む教会地区、大聖堂周辺には多くの王都教会関係者たちが屋敷を構え、ある種の聖域のように纏まって住み暮らしている。

そんな教会地区の一角、威厳溢れる屋敷の中に、ピエールの与えられている部屋はあった。

 

「分かっている!!アルデンティア第四王子殿下との間に太い繋がりを作る事、王都学園に通う<聖女>を我が陣営に引き込む事であろうが!」

苛立たし気に声を荒げるピエール。普段の彼を知る者が見れば目を疑うような光景も、この場の者にとっては最早日常の一コマなのであった。

 

「そうですか、であるのならばなぜこのような事に?

王家は今回の件を受けピエール様の御学友としての資質に疑念を持たれた様です。「教会はアルデンティア第四王子を傀儡にするつもりか?」といった言葉が教皇猊下伝いでルビアン枢機卿猊下に齎されたとか。

ルビアン枢機卿猊下は大変な不快感を持たれておいでです」

配下の者の言葉がピエールの心に突き刺さる。自身の一体何が間違っていたというのか、自身の行いは全て父親である偉大なルビアン枢機卿猊下のためだというのに。

 

「まだお分かりになりませんか?言われた事も碌に出来ず、余計な問題を起こし全てを台無しにしようとした、あなた様は一体何をしておいでなのです。

もう一度言います、あなた様のお役目とは一体なんですか?アルデンティア第四王子殿下を唆して“商人街の悪夢”と呼ばれた穢れ地を浄化した者を手に入れる事ですか?

その様な事をいつルビアン枢機卿猊下が仰られたのでしょう?私は聞いた事がないのですが?」

 

配下の者の冷たい視線が突き刺さる。功を焦り余計な問題を起こした無能者を見るような蔑みの目が、ピエールの自尊心を深く傷つける。

 

「ルビアン枢機卿猊下からのお言葉です。“事態が落ち着くまで大人しくしているように。何を言われようと普段の態度を崩してはならない”との事です。

今回の件に関して王家が過敏に反応している様に見えるのは、教会に対する王家からの牽制という意味も強いのでしょう。こうした事はこれまでも往々にしてございました。側近の者と王子たちとの間が近くなり過ぎる事は王家にとって好ましい事ではない。王子主導であればまだしも側近の意見に振り回されるようでは問題である。

王家の考えはいたって自然なものでしょう。

ピエール様もその立ち居振る舞いに気を付けられますよう」

 

配下の者はそう言葉を残し部屋を下がっていく。

 

「クソッ!!」

“ドンッ”

部屋に残されたピエールは机に強く拳を打ちつけると、ぶつけようのない怒りと苛立ちに身を震わせるのだった。

 

―――――――――

 

「お疲れ様でございます、ヘルザー宰相閣下」

ゾルバ国王並びにメルビア第一王妃に事の詳細を報告しアルデンティア第四王子の処遇を任せたヘルザー宰相は、自身の執務室でティーカップを片手にくつろぐベルツシュタイン卿の姿を認め、大きなため息を吐く。

 

「フン、貴公は気楽であるな、ベルツシュタイン卿。私は直ぐにでも家に帰りたくて仕方がないのだがな」

「いえいえ、此度の一件に関しては何と言っていいのか。まぁこちらのお茶でも飲みながらお話をいたしましょう」

 

そう言い着座を勧めるベルツシュタイン卿に、“ここは私の執務室なのだが?”と胡乱(うろん)な目を向けるヘルザー宰相。

 

“コトッ”

ベルツシュタイン卿が連れてきたであろう執事がローテーブルにティーカップを差し出す。立ち昇る香りは甘く澄んだもの。

 

「これは蜂蜜の匂い、キラービーとも違う、より上品なもの。まさかジャイアントフォレストビーのものか?」

「ほう、流石は名宰相と名高いヘルザー宰相閣下、その造詣は蜂蜜にも及びますか。確かにこれはジャイアントフォレストビーのものです。

但し特別な環境で特別に作られた蜂蜜であるとか。どこがどう特別であるのかは敢えて聞いていませんが、市場には決して出回らない品である事は確かです。

いや~、私もこの歳になるまで知らない方がいいと敢えて相手の話を遮るようになるとは思いもしませんでしたよ。人の心の油断を誘い秘密を暴く事を生業(なりわい)としている王都諜報組織“影”の総帥としては失格でしょうかな。

そろそろ私も引退ですかね~。そうなったらマルセル村にでも引っ越しますか、私は色々知り過ぎていますからね。

貴族令嬢の幽閉地にして蛮族の里、老後を過ごすには丁度良いかと」

 

そう言い肩を竦めるベルツシュタイン卿に、乾いた笑いを返すヘルザー宰相。“あの危険地帯にさらに力を与えてどうする!!”、ふざけたことを抜かす目の前の男に怒鳴り付けたい気持ちが湧くもなぜか心は穏やかになっていく。

 

「どうです、凄いでしょう?聖茶と違って強制的に冷静にさせられるのではない、心が豊かと言うか、とても穏やかになるんですよ。

聖茶のように後から心のズレに悩む様な事もないとの事です。本当にとんでもないものを寄越しますよ、あの者は」

ベルツシュタイン卿の言葉に“あぁ、あの理不尽か”と凄く納得した気分になるヘルザー宰相。

 

「しかし今回は危なかったですね。まさか第四王子殿下があの屋敷にちょっかいを出すとは。ワイルドウッド男爵から相談を受けた時は、正直頭を抱えましたよ。

第四王子たちは“惨劇の夜会”の噂は御存じなかったのですかね?まぁ噂自体は“マルドーラ伯爵夫人が辺境の蛮族にちょっかいを掛けて夜会ごと潰された”といった内容であったためその切っ掛けとなったワイルドウッド男爵家王都屋敷についてはあまり語られてはいないようでしたが」

 

そう言い肩を竦めるベルツシュタイン卿。下手をすればその舞台が王城になるかもしれなかった事に戦慄するも、直ぐに穏やかな気持ちになるヘルザー宰相。

 

「これはワイルドウッド男爵も話していたし私自身その目で確かめたことですので申しますが、あの屋敷の呪いと言いますかあの地の怨霊は未だ浄化されておりません。むしろある意味悪化していると言ってもいい。

私の「マルドーラ伯爵家の騎士たちは一体何を見たのか」との質問に「それでは実際に見てみますか?」と答えたワイルドウッド男爵。見せられた光景は悪夢そのものでしたよ。

あの屋敷の使用人、生者じゃないんですよね~。「便利だから雇いました、ロマンですよ、ロマン」って意味が分からない。

 

ヘルザー宰相、知っていますか?死霊は闇属性魔力を支払う事で雇えるそうですよ?後は普通に賃金を支払えばとても優秀な使用人となるそうです。

この話を呪術の専門家に確認したんですけどね、“そんな訳あるか!!”って言って頭抱えていましたよ。

俗にいう死霊使いでもそんな真似は出来ないとの話でした」

 

そう言いティーカップを口元に運ぶベルツシュタイン卿。衝撃的な話を聞いたにも拘らずとても穏やかな心持の自身に“まぁ、なるようになるか”と開き直るヘルザー宰相。

 

「「胃薬の世話になるよりまし!!」」

問題は既にゾルバ国王に丸投げしたと事態の経過を見守る事にした、ベルツシュタイン卿とヘルザー宰相(悪い大人二名)なのでありました。




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