転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第614話 悪役令嬢、ヒロイン聖女のお忍びデートを振り返る

「コリアンダ、詳しい事は分かりまして?」

「はい、詳細はこちらに」

 

私は渡された紙束の厚さに一瞬ぎょっとするも、覚悟を決め目を通す事にします。

事の始まりはアリスとアルデンティア第四王子殿下たちが王都観光に行くと聞かされたこと。日時やその際の観光ルートといったものはアリス本人から詳細に聞かされたため、事前に最適なビュースポットを探るべく街に下見に行った事でした。

 

私が頼ったのは学園ダンジョン攻略パーティー“隠者の集い”のメンバー。何と言ってもリーダーのジミーは大剣聖様を模擬戦で下す程の剣の腕を持っているし、ロナウドやフィリーも素晴らしい魔法の才を見せている。

護衛としても相談相手としてもこれ程頼れる仲間は他にいませんわ。

 

下見当日は貴族家同士の関係上ロナウドは不参加となりましたが、代わりに<勇者>ジェイクと<聖女>エミリーがメンバーに加わる事となりましたの。

でもこれって貴族社会的に結構優位な立場に立っているのではなくて?

王都学園は多くの上級職の者と高位貴族家の令嬢令息を引き合わせる場、互いの関係を深める事で女神様の御意思に逆らう事なく貴族家が彼らの力を内に引き込む事の出来る青田買い会場。

無論その中でも上位の優良職と呼ばれるものは存在し、<勇者>や<聖女>の職業持ちと友誼を結べるだけでも、貴族家の者としては大金星と言ってもいい快挙。

 

(ひるがえ)って(わたくし)はどうかと言えば、<聖女>アリスとの関係は良好。

何と言ってもアルデンティア第四王子殿下をはじめとした見目麗しい殿方とアリスとの素晴らしいスチルを生で見る為には、アリスに嫌われるなど論外。またアリスが困っていれば助言を与え、最高のイベント展開を期待するのはファンとして当然の嗜み。

<勇者>ジェイクと<聖女>エミリーに関して言えば、パーティーリーダーのジミーを介し交流を持つ事が出来た。

 

他の貴族家令嬢令息は“撲殺聖女”エミリーを恐れ、<勇者>ジェイクと接触する事ができずやきもきしているとか。

王都学園の新年度が始まって二カ月、この時点で未だに交流が取れないとなると、家の方から嫌味の一つでも貰い始めるのではなくて?

これでまだアルデンティア第四王子殿下との関係を深められていたのであればいいのですけれども、アルデンティア王子殿下はアリス攻略に夢中で他の令嬢方など目に入れていない様子。

う~ん、この場合彼ら彼女らのヘイトはどこに向くのでしょう?

 

何かそこはかとない嫌な予感がいたしますが、取り敢えず置いておく事といたしましょう。難しい事は先送り、貴族令嬢としての嗜みでしてよ?

 

下見として向かったのは王城前広場の噴水や多くの人々の行き交う商店街、ジミーたちホーンラビット伯爵家出身者と交流のあるモルガン商会の者の案内で、目的であるビュースポットを探し出す事が出来たのは僥倖でしたわ。

確かロイドと言いましたか、これを機に懇意にさせていただきたいものですわ。

 

問題は最後に向かった商人街と呼ばれる住宅街。王都でそれなりの地位や名声、財産を築いた者たちが住み暮す高級住宅街の中にある呪われた心霊スポット。

モルガン商会のロイドは「初の王都観光で女の子を連れて行くような場所じゃない」と呆れていましたが、自身の勇ましさを見せ自己アピールしようという思春期男子の気持ちは分からなくもありませんわ。

男子慣れしている令嬢方ならドン引きでしょうが、初心なアリスや私などは意外にドキドキしてしまうかも・・・。

なぜそこでジミーの地味顔が出て来ますの!妄想の中でメガネをクイッと上げるんじゃありません、キランと光るのは仕様ですの!?

 

ハァ、ハァ、まぁいいですわ。そうした訳で皆して向かった先、“商人街の悪夢”と呼ばれる商家屋敷。そこはイメージとは裏腹のよく手入れの行き届いた小奇麗な屋敷でしたわ。

本当にこの場所が問題の心霊スポットなのかと訝しむ中、見れば屋敷の門扉を開けようとする人物が。何らかの事情を知っているかと声を掛ければ、その者がジミーの兄、ケビンさんでありましたの。

 

そこから先は信じられない事の連続、この屋敷は昨年ケビンさんが購入した“商人街の悪夢”と呼ばれる場所であること、怨霊は実際にいるということ、そしてケビンさんはその怨霊を使用人として雇っているということ。

 

私とコリアンダはあまりの展開に理解不能に陥りましたけど、後からジミーに話を聞いたところ、「ケビンお兄ちゃんのケビンお兄ちゃんはいつもの事、気にしちゃいけない」とのこと。サッパリ意味が分かりませんわ。でも“気にしてはいけない”という点だけは理解出来ましたの。

その後私はコリアンダに命じ、ジミーの兄ケビン・ワイルドウッド男爵の事について調査する事にいたしましたわ。

 

“バサッ”

テーブルに置かれた調査書、その紙の重みで大きな音が出る。

 

“ハァ~”

漏れるため息、あまりの訳の分からなさに言葉が出ない。

 

「ラビアナお嬢様、お気持ちは分かりますが事実でございます。先のダイソン公国との戦争を終結させた三英雄の奇跡、ヨークシャー森林国での疫病騒ぎ、グロリア辺境伯家とランドール侯爵家との紛争、それらすべてにかかわりその解決に大きな力を示した人物、自身は表には出ず裏方に徹した真の功労者。

王家に対し毅然とした態度で交渉を行い、大森林の素材買取りをホーンラビット伯爵家が有利な立場で行えるようにした、ホーンラビット伯爵家を取り込もうとした王都貴族の一軒一軒に赴き、その考えを実力で(くつがえ)させた。

近しいところでは貴族社会で噂になった“惨劇の夜会”を作り出した中心人物と言えば分かるでしょうか。

 

王家の剣と呼ばれる王都諜報組織“影”が最も警戒し、王家が恐れる人物、それがケビン・ワイルドウッド男爵その人でありました」

 

・・・正直意味が解りませんわ。

“辺境の蛮族”の噂は知っていましたわ。たった三十騎の騎馬でダイソン公国に乗り込み終戦交渉を成功させた“聖者の行進”、その後三名の交渉代表と五名の護衛騎士のみで王城に赴き見事終戦交渉を成し遂げた。一連の話は“三英雄の奇跡”として広く語られ王都では知らぬ者はいないでしょう。

でも実際の内容が王都の脚色された舞台よりも酷いだなんて。

天空を舞う巨大な神龍を創り出し、石火矢・爆薬・精霊砲、その全ての直撃をものともしない騎士団とたった三十騎で数万というダイソン公国の軍勢を沈黙させたホーンラビット伯爵家騎士団。

たった八騎で第一・第二・第三騎士団並びに各貴族家の私兵団を壊滅させた三英雄たち。

これは何処の吟遊詩人が作り出した創作物語なのかと言いたくなるような内容の数々。

そしてそれら全てを主導し解決に導いたとされるケビン・ワイルドウッド男爵。

 

「コリアンダ、王家は彼を、ケビン・ワイルドウッド男爵を取り込もうとはなさらなかったのですの?これ程の人物、既に“影”によりその詳細は伝わっていたはず。であるのなら何をおいても手に入れようとするのではなくて?」

それは至極当然の疑問、あの王家が何もせず指を銜えているとは到底思えませんわ。

 

「やらなかった、正確には出来なかったという事でしょうか。報告書にあるグロリア辺境伯家とランドール侯爵家との紛争、その背後に王家が絡んでいた事は既に当事者間で共有されてしまっています。更に言えばグロリア辺境伯家は自治領宣言をしておりホーンラビット伯爵家はその寄り子です。

ホーンラビット伯爵家騎士ケビン・ワイルドウッド男爵の引き抜き工作は、へたをすれば国を二分する内戦の引き金になりかねない、更に言えばケビン・ワイルドウッド男爵が単身で王城を落とすのに半日も掛からないとの分析も上がっています。

その様な人物に下手に接触する事は、王家にとっての損失に他ならない。

現在王家とケビン・ワイルドウッド男爵との窓口は、王都諜報組織“影”の総帥ベルツシュタイン卿に一任されているとの事です」

 

コリアンダの報告に乾いた笑いが漏れますわ。王家が恐れ、決して手を出す事の出来ない男爵。王都諜報組織“影”が最大の警戒を向ける人物。

 

「ではアルデンティア第四王子殿下たちがあの屋敷に乗り込んできて問題を起こそうとした時にヘルザー宰相閣下が屋敷内から現れたのも」

「おそらくは予め準備されていたものかと。そう考えればアルデンティア第四王子殿下たちが周囲の護衛に引き止められる事なく屋敷内に入って来れた事に説明がつきます。

本来であれば屋敷前から噂の“商人街の悪夢”を眺め、多少はしゃいでから帰るはずだったのでしょう。以前のあの屋敷は庭先は荒れ放題であり、とてもではないですが鉄柵門の中に入ろうとは思えないような状況であったと聞いています。

 

でもそうではなかった、きれいな屋敷によく手入れのされた庭、あの場所にまで来てしまった以上アルデンティア第四王子殿下としても引くに引けなかったといった事だったのでしょう。

その辺の若者の心理はベルツシュタイン卿であれば手に取るように分かったはず、そして必ず問題を起こすであろうことも。

であればこそのヘルザー宰相閣下の登場であり、アルデンティア第四王子殿下の行動を諫めると共にケビン・ワイルドウッド男爵に対し最大限の敬意を払っているとの証明。

この事は国王陛下も承知であったものと思われます。

 

ただあの屋敷に行く事を止めたいのであれば、その予定自体をなくせばよいだけだったのですから。

ですがそうなればまたいずれコッソリと出掛けて問題を起こすのではないかと考えたのではないでしょうか、現国王であるゾルバ国王陛下も若い時分は随分と無茶をなさったと聞いておりますので」

 

コリアンダの言葉に大きなため息を吐く。画面上で繰り広げられたアルデンティア第四王子殿下とアリスのお忍びデートの裏にも周辺の者たちの苦労が隠れていたと思うと、乙女ゲームのキラキラしたスチルが途端違ったものに見えてきてしまう。

そうした意味ではアルデンティア王子殿下の意見に流される事なくあの場から下がる事を主張し続けたアリスの姿は、とても輝かしいものに思えてきますわ。

アリスはヒロインらしい本当にいい子に育って。明日学園に行ったらサロンでデザートをご馳走して差し上げましょう。頑張った子にはご褒美をあげなければいけませんからね。

ついでにデートの話も聞かなければ、今後の攻略対象との関係の参考にもなりますし。

 

「よく分かったわ、ご苦労様。我が家としては一定の距離を置き、友人の兄といった程度の認識に留めておくことが無難といったところかしら」

「そうですね、以前オルセナ閣下が拷問を受けていますので、あまり深い接触を求める事は御当主様の心労に繋がるかと。

当時の様子を知る者に話を聞きましたが、ホーンラビット伯爵と共に訪れたワイルドウッド男爵は、彼らの身から発せられる覇気に怯えるオルセナ閣下に笑顔のまま拷問を加えていたとか。オルセナ閣下が「どうか話を聞かせてください!!」と泣いて縋るまで続けられたと言いますから、敵対する者に対する苛烈さは推して知るべきかと。

現在のオルセナ閣下の性格もあの時点からがらりと変わったと言ってもいいのではないでしょうか。

ワイルドウッド男爵にお話を聞けば当時何をしたのか教えて下さるかもしれませんよ?」

 

そう言い悪い笑みを浮かべるコリアンダの言葉に、全力で首を横に振る私。私の周りの使用人ってなぜか私でおふざけをしようとするのですけれど、私、これでも主家の人間ですのよ?もう少し気を使ってくれてもいいのですよ?

私は目の前で柔和な笑みを見せるコリアンダに、「おふざけは止めなさい、おふざけは・・・おふざけですわよね?」と確認の言葉を掛けるのでした。

 

「えっ、アルデンティア第四王子殿下がしばらくお休みなさいますの?」

翌日学園内に広がる噂話に、“一体何が起きましたの!?”と困惑するとは夢にも思いませんでしたけれども。

本当に一体何が起きたのでしょう。(棒読み)




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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