転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第616話 大剣聖、旧友を訪ねる

農村の朝は早い。そろそろ夏の収穫物が取れ始めるこの季節、村人たちは総出で畑に向かい未だ夜が明けきらないうちから草むしりや摘果作業に精を出す。

そこには老人も子供も関係なく、村人が一致団結し協力し合う辺境の寒村ならではの光景が見られるのだった。

 

「しょくん、本日のわれわれのにんむはトーマスおじさんの畑の草とりである。まちがえてやさいをひっこぬかないよう、十分気を付けるように。

ロバート隊員はランディー隊員とポール隊員のしどうを行うように。ルビアナ隊員とチェリー隊員はエリーゼ隊員のしどうを頼む。

それではさぎょうをかいしする」

「「「「「「はい、ミッシェル隊長」」」」」」

 

敬礼の後それぞれの持ち場に向かうちびっ子たち。未だ幼子の彼ら彼女らも、ここ辺境マルセル村にとっては重要な労働力なのだ。

 

「ふむ、それではエッガード、我らも向かうとしよう。隊長たるもの、隊員にたいだな姿は見せられんからな」

そう言いちょこちょこと畑の畝に向かうミッシェル。その後ろを巨大卵のエッガードが付き従う。最近はエッガードに跨るだけでなく共に作業する事の増えたミッシェル、母メアリーによる「ちゃんと自分の足で歩きなさい」との言葉にちゃんと従う辺り、素直な良い子と言えるだろう。

もっともミッシェルは母メアリーが怖いからという理由で従っているのではあるが。

 

「いや~、みんなありがとうな。腰を屈めての草むしりは結構しんどくてな、本当に助かるよ。

これ、マリアが焼いた焼き菓子だ、作業が終わったらみんなで食べてくれ」

「「「「「「「トーマスおじさん、ありがとうございます」」」」」」」

 

元気よく返事をする子供たちの様子に、自然顔をほころばせるトーマス。嘗て辺境の寒村と呼ばれ食べる物にも困っていたマルセル村は、もはや過去の思い出。

こうして幼子たちが元気よく畑仕事を手伝ってくれる、そんな子供たちにご褒美と言って焼き菓子を振舞う事が出来る。

マルセル村は変わったのだと心の底から実感できる一幕に、胸の奥が熱くなる。

 

「トーマスお父さん、なに私たちの事を見てニヤニヤしてるの?恥ずかしいからやめてよね。

用が済んだら早く帰ってよ」

そう言いシッシと手を振る愛娘の態度に、途端悲しみに包まれるトーマス。

 

“チェリーってまだ三歳半だよな、普通は“お父さん大好き”とか言って甘えてくるもんなんじゃないのか?ヘンリーの奴なんか相好を崩して自慢してくるんだが!?”

子供の成長は早い。既に親離れ(父親限定)を果たした娘の姿に父親の悲哀を感じつつ、トボトボとその場を後にするトーマスなのであった。

 

「ぜんいんしゅうごう。これにて今朝のさぎょうをしゅうりょうする。みんな、移動要塞エッガイヤーの後に続くように。

霊亀、行くぞ!!エッガード、合体だ!!」

“トウッ”との掛け声と共にエッガードに飛び乗るミッシェル、ミッシェルを乗せたエッガードはフヨフヨと浮き上がるや畑脇で草を食みのんびりとしていた大亀の上へと着地する。

その光景に、羨ましそうに瞳を輝かせる男の子たち。そしてそんな彼らを微笑ましく見つめるルビアナと、ミッシェルに向け悔しげな眼を向けるチェリー。エリーゼは一人“今朝のご飯は何かな?”と考える。

 

「うむ、準備はよいか?移動要塞エッガイヤー、発進!!」

ミッシェルの合図にのそのそと歩き出す霊亀、向かうのは子供たちの各家。マルセル村の朝の風物詩“ちびっ子たちの行進”の姿は、村の大人たちを笑顔にし、“今日も頑張ろう”という気持ちにさせるのであった。

 

―――――――――

 

「ごめん、私は銀級冒険者のパーライトという。噂に名高い鬼神ヘンリー殿に一手ご指南願いたく参ったのだが」

「あぁ、そういう話は門番詰め所に行って聞いてくれ。基本的に個人的な指導は受けていないのでな。

だがお前さんはツイてるな、今日の闘技場担当はお前さんが望んでいる“鬼神ヘンリー”殿だ。上手くすれば一太刀くらいなら手合わせ出来るやもしれんぞ?

まぁ後はお前さんの実力次第だ、頑張れ」

 

季節は巡る、冬の厳しさが終わり春が来て、夏が来て。魔物が活発に活動する季節ではあるものの、それは人々とて同じ事。隣領グロリア辺境伯領の地方都市エルセルからの街道整備も終わり、人の行き来がしやすくなったホーンラビット伯爵領マルセル村には、今年もまた多くの観光客(聖地巡礼)と観光客(武闘派)が訪れるようになっていた。

 

だがマルセル村の変化はなにも観光客が訪れるといったものばかりではなかった。

 

「ギースさん、お疲れ様です。交代します」

「おう、カシム、悪いな。今日は早番だったから飯がまだだったんだよ、もうお腹がペコペコで。

カシムも大分仕事に慣れたと思うけど、基本的に門番詰め所に行くように案内するだけだから、気楽にやってくれればいいぞ。

まぁそれでも中には馬鹿がいるからその時は直ぐに知らせてくれ、こっちで対処するから。

下手に村に入られたらグラスウルフ隊の餌食にされちゃうからな、本当に気を付けてくれよ?」

 

そう言いカシムの肩をポンと叩き詰め所に戻るギース。

カシムは授けの儀の後村を出たマルセル村出身者であった。マルセル村を嫌い、将来の展望など一切見えない辺境の地を捨てた人物であった。

冒険者になり、成り上がりを夢見て日々冒険者活動に邁進する若者であった。

だがそんな者たちに世間の風は厳しい。華々しい活躍など一部の実力者だけの話、冒険者とは所謂何でも屋、日々の糧を求め地面を這いずりまわるような毎日。

次第に心は削れ、生活は荒み、己の実力や才能を否が応にも直視させられる。

歳を取り徐々に自由の利かなくなる身体、カシムは冒険者を諦め、同じマルセル村出身者にして輝ける星、“守護者シンディー・マルセル”の下で屋敷門番として生活の糧を得るようになっていた。

 

そんな彼に齎された知らせ、故郷マルセル村がホーンラビット伯爵領として発展を遂げている。

最早都会に未練はない、故郷の村が発展したというのなら自分の家族くらいは受け入れてくれるかもしれない。淡い期待のもと戻った故郷は、嘗ての寒村とはまるで違った発展した村の姿であった。

 

こうしてマルセル村に帰って来た者はなにもカシムばかりではない。マルコの長男でありカシムの兄リード、カシムと同時期に村を出たジェシー。他にベッキー、タイロン、ロイと音信不通であった者たちが次々と村に帰って来た事に一番喜んだのは、村長時代彼らが出て行く姿を見送ることしか出来なかったドレイク・ホーンラビット伯爵であった。

マルセル村に見切りをつけ、どんな生活を送ろうとも決して戻ろうとは思わなかった者たちが、生活の希望を胸に集まって来る。この事は村長時代からの悲願である“若者たちが帰りたいと思えるマルセル村を造り上げる”という目標が達成できた証左でもあったからであった。

 

だが嬉しい事ばかりではないのがこの世の常、世間の荒波に揉まれ生きる事に必死であった者たちが純朴でいられるほど世の中は甘くない。

他人を蹴落とし、人を羨み、妬み、奪い、そうして何とか生きて来た。そんな荒んだ生活にあった者に、発展した故郷がどの様に見えた事か。

 

「そう言えばお前の兄貴のリードはどうしてる?確かケビンの実験農場での研修から帰って来てるって話だったが」

「あぁ、兄貴ですか。なんか別人って言うか聖人って言うか、昔の粗暴な兄貴を知ってるだけに、ちょっと気持ち悪いような状態になってました。

兄貴のところの嫁さんや子供たちも、みんな家に帰って来てから親父とお袋に涙ながらに謝罪して、「これからは心を入れ替えてマルセル村の住人として村の為に貢献していきます」とか宣言してました。

親父とお袋がドン引きしながら「「可哀想に、ケビンされちゃったんだな(ね)」」って言ってたんですけど、アレって一体何の事ですかね?」

 

そう言い困惑するカシムの言葉に、「ハハハハ、カシムもそのうち分かるよ。ケビンのケビンを体験したらカシムも立派なマルセル村の住人だ」と返すギース。

カシムはよく分からないと首を傾げながらも、手を振りながら門番詰め所に向かうギースを見送り門番業務に就くのであった。

 

“ガタガタガタガタ”

車輪の音を鳴らしよく整備された街道を一台の馬車がやって来る。カシムは馬車に停車を促し御者の者に声を掛ける。

 

「ここはホーンラビット伯爵領マルセル村である。御用向きを伺いたい」

「我々は王都より要人を乗せて来た者、道を開け通過を許可されたし」

 

「ここマルセル村は許可のないものの通行を禁じている。入村は隣の門番詰め所に申請を行い、許可が下りた場合のみとさせていただいている」

カシムの言葉に御者の者が途端不機嫌そうな雰囲気を漂わせる。

その様子に“これは厄介事だな”と当たりを付け、ギースを呼ぶべく警笛を取り出すカシム。

 

「よいよい、門番殿の言葉は至極もっとも。私らは突然訪れたよそ者である、であるのならばその指示に従うは当然であろう?

門番殿、手間をお掛けしてすまんかったな」

 

そう言いながら扉を開け馬車を降りた人物、それは老齢とは思えない肉体を持つ偉丈夫。

 

「しかしウォーレン様、この者の態度は大剣聖たるウォーレン様に対しあまりにも無礼な「だから主はその態度を改めよと何度言わすのだ。私は王でもなければ貴族でもない、一介の剣客であろうが。片や門番殿はこの地を治めるホーンラビット伯爵様の臣下として職務を果たす言わばホーンラビット伯爵様の代理、従うべきは私であることは誰の目にも明白であろうが。

門番殿、すまなかったの、連れの者が大変無礼をした」・・・」

 

そう言い頭を下げる老齢の偉丈夫、だがカシムはそれどころではなかった。

“えっ、大剣聖?ウォーレン様って大剣聖クルーガル・ウォーレン様ご本人!?ちょっ、ちょっとまって。こんなの俺じゃどうにも出来ないって言うの!!”

 

カシムは目の前の人物、大剣聖クルーガル・ウォーレン様(推定)に「少々この場でお待ちください」と声を掛けると、急ぎ門番詰め所へと走るのであった。

 

――――――――

 

「この阿呆剣聖、一体何しに来たんじゃ、お主はお貴族様方の御用伺いで忙しいはずじゃろうが~!!」

「アッハッハッハッ、久々に貴様の偏屈が聞きたくてな、思ったより元気そうじゃないか、安心したぞ。

と言うか元気すぎやしないか?貴様、私より年上だったよな?」

 

そう言い目の前の老人の背中をバンバン叩く大剣聖、その様子を呆然とした表情で見つめるカシムとギース。

“大剣聖来訪”、その知らせをカシムから受けたギースは、急ぎメモを取ると門番詰め所に控えていたグラスウルフ隊のメンバー(本日の当番は十三狼)に頼みホーンラビット伯爵邸に事の次第を知らせた。ホーンラビット伯爵はその報を受け大剣聖と関係があるであろうボビー師匠に連絡、連絡を受けたボビー師匠が取るものも取り敢えず確認に向かったのであった。

 

「で、本当のところはどうなんじゃ、お主がその程度の理由でわざわざこの辺境の地に来るはずがあるまい。と言うかどうやって儂がこの地に居る事を知ったのじゃ」

そう言い訝しみの視線を送るボビー師匠。対して呆れた表情で言葉を返す大剣聖。

 

「あのな、“辺境の蛮族”、“剣鬼ボビー”、今やオーランド王国で貴様の事を知らん者はいないだろうが。

久方ぶりに帰国してお主の話を聞いた時は我が耳を疑ったぞ。って貴様だけずるいではないか、一人こんな楽しそうなことをしおってからに。

私を誘え私を」

そう言い頬を膨らます大剣聖に「阿呆か、オーランド王国の重鎮であるお主を誘えるわけないであろうが~~~!!」と声を荒げるボビー師匠。

 

ギースは“うわ~、ケビン以外にボビー師匠を興奮させる人物って初めて見た。大剣聖半端ね~”と呆れ交じりに遠い目をする。

 

「そうじゃないそうじゃない、ここに来たのは貴様と世間話をしに来たわけではない。王都中央学園のジミーの事だ。

あの者がお主の弟子と聞いてな、いてもたってもいられずやって来たという訳よ。

あ奴は何なのだ、模擬戦とはいえこの私を完封しおって、あれほど見事に負けたのは十代の頃以来よ。貴様とは引き分けだったしの」

「あぁ、ジミーとやり合ったのか、それは災難だったの。あ奴は既にわしを越えておるからの、お主が負けても無理はあるまい。

ジミーは今が伸び盛り、これからどんどん強くなるであろうて。本来なら学園など行かず剣の道に邁進したいであろうに、世間の(しがらみ)はつらいの~」

 

ボビー師匠は遥か王都の地で燻らざるを得ない弟子に同情の眼差しを送る、そんなボビー師匠に「あぁ、なるほど」と納得を示す大剣聖。

 

「いくら王国の決まりとは言え剣の師としてはつらい所だな、あれほどの弟子は生涯を通しても出会えるものではないからな」

「まぁそれはそうじゃがこればかりはの。じゃが剣の相手はジミーばかりではないでの、儂も未だ修行の身、愚痴を言うなら剣を振るっておった方がマシじゃわい」

 

「そうかそうか、なら安心だな。実は貴様と剣の手合わせをしようと思ってな、あまり弱っているのならどうしようかと思っておったところだったのだ」

そう言い獰猛な笑みを浮かべる大剣聖に嫌そうな表情を返すボビー師匠。

 

「お主はしつこいからな~。絶対に負けを認めないしねばるし。

・・・そうじゃ、お主“鬼神ヘンリー”と剣を交えたくはないかの?

ギース、確か今日の闘技場当番はヘンリーの奴だったであろう?こ奴を挑戦者に加えてやってはくれんかの?」

ボビー師匠の言葉にギラリと瞳を輝かせる大剣聖。“鬼神ヘンリー”、その名前は大剣聖クルーガル・ウォーレンの下にも届いていたもの。

 

「まぁお主もこんな辺境くんだりまで来たのじゃ、急ぎの用もあるまい。宿泊先は儂が工面しておくからゆっくりするとええ」

「ん?貴様のところには泊めてくれんのか?私はすっかり当てにしておったのだが」

 

「いや、すまん。うちは同居人がおるで、その、宿泊となるとな」

「ボビー、急いで村門に向かったみたいだったけど、大丈夫だったの?」

 

それは大きな狼型の魔獣の上から掛けられた声、サッとその背から飛び降りた美女は、心配そうな瞳でボビー師匠に駆け寄るとその側にそっと寄り添う。

 

「ボビー、貴様娘がおったのか?中々どうして、器量のよい娘ではないか」

「いや、シルビーはそう言うのではなくてな」

 

「ボビー、こちら御知り合いの方?はじめまして、ボビーの妻、シルビアと申します。今後とも主人の事をよろしくお願いしますね」

そう言いニコリと微笑むシルビア。

 

「・・・ボビー、貴様一体何をやったー!!」

その後大混乱に陥った大剣聖がボビー師匠に剣で挑み、のされて村の宿泊所に運ばれた事は致し方のない事なのであった。




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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