“カンカンカンカン”
模擬剣による激しい打ち込み、それをいなし、躱し、受け流し。相手の体勢を崩してその首筋に剣を突き付ける。
「ハァ、ハァ、ハァ、ありがとうございました」
肩で息をしながら礼をして下がって行く上級生に、どうしてこうなったという気持ちを押し殺しながら礼を返す俺。
直ぐ隣ではジミーがバルド先輩を相手に剣の指導を行っている。
バルド先輩はこれまで学園最強の名をほしいままにして来た剣の申し子、だがそれは暗黒大陸で常に実戦の場におかれたジミーにとっては児戯に等しく、所詮は学園という守られた環境の中における強者だったという事なのであろう。
「クハッ、くそ、やっぱりつえーな。だがそれがいい、俺が学園という小さなお山の大将だったという事がよく分かる。
フゥ、よし、もう一本だ!!」
ジミーに吹き飛ばされるも、直ぐに起き上がり剣を振るうバルド先輩。バルド先輩タフだな~。
なにかバルド先輩の姿を見ていると、マルセル村でボビー師匠やヘンリー師匠にしごかれていた時の事を思い出す。あの頃は毎日ズタボロになるくらいに叩きのめされまくっていたっけ。
お二人とも今頃どうしているんだろう、まぁマルセル村なら対戦相手には事欠かないだろうけど。
「うわ~、バルド、あなたも懲りないわね~。ジミー君はあの大剣聖様を模擬戦で倒した剣客よ?あなたが敵う訳ないじゃない」
「うるせぇ、だからこそ挑む価値があるんだろうが。
目の前に手の届かない程の強者がいる、ならば挑まなくて何が剣士だよ。いままで燻っていた俺の<剣豪>の血が騒ぎまくってるんだ、邪魔するんじゃねぇ」
模擬戦を行っていた武術訓練場で掛けられた声、それは女子寮の寮長であり魔法研究部の部長でもあるリリアーナ先輩のもの。
「そうはいかないわよ、私だって用もなくこんなところに来たんじゃないんだから。取り敢えずその振り回している模擬剣を下ろしなさい。
ジミー君、ジェイク君、それとバルド。学園長が御呼びよ、直ぐに学園長執務室に向かってもらえるかしら?
私も呼ばれているのよね、一緒に行くわよ」
学園長からの呼び出し、俺とジミーは模擬剣を下ろすと互いの顔を見合わせ、“俺たち何かやったっけ?”と首を捻るのだった。
「いや、すまなかったね、突然呼び出したりして」
リリアーナ先輩に連れられ向かった学園長執務室、そこで待っていたのは学園長の他に武術担当教諭と基礎魔法学のガイアス・タスマイヤー先生、他には何故かロナウドとエミリー、それとアリス嬢の姿。
学園長は俺たちの姿を確認するや「全員揃いましたね」と言って話を始めるのだった。
「皆さんに集まって貰ったのは他でもありません。再来週行われる学園交流会の事についての話になります。
これは三学年のリリアーナ君、バルド君は既に知っていると思いますが、王都の三大学園、武術学園・魔法学園・王都学園の交流を兼ねた試合となります。
各学園から代表者を送り模擬戦や魔法の発表を行うというものですが、要するに王都学園の有用性を知らしめるための儀式のようなものですね。
ですがこれは武術学園・魔法学園の者にとって無意味というものでもなく、交流会での成績いかんでは王都学園への編入も行われるため、彼らは真剣に挑んで来る事となります。実際過去に幾人もの生徒が交流会を通じ王都学園に編入した実績があります。
交流会に対する真剣さは王都学園の者の比ではないでしょう」
学園長の話は王都にある所謂二大学園と呼ばれる学園との交流試合を行うというもの。だがそんな話に何故一年生の俺たちが呼ばれたのかが分からない。
「本来であればこうした話は三学年であるリリアーナ君やバルド君、ほか優秀な上級生たちに行うことになるのですが、今回は少々事情が異なってしまいましてね。
当初は王族であるアルデンティア第四王子殿下、その側近のカーベル君やラグラ君、ほか上級生の成績優秀者が事に当たる話になっていたんですが、武術学園・魔法学園側が是非にでも参加させて欲しい生徒がいると要望を上げて来まして。
三英雄の一人でダイソン公国軍の侵攻を食い止めた功労者、ロナウド・テレンザ君。
大剣聖クルーガル・ウォーレン様を模擬戦で下した“鬼神ヘンリー”の後継者、ジミー・ドラゴンロード君。
今代の勇者、ジェイク・クロー君。
それに聖女であるエミリー君とアリス君にもぜひ参加して欲しいとの話なんですよ。
特にジェイク君には武術学園、魔法学園の双方からの参加打診がありましてね、是非頼まれてはくれないでしょうか」
そう言い頭を下げる学園長。まぁ<勇者>ですからね、皆が期待する気持ちは分からなくもないんですけど、俺って“これじゃない勇者”って呼ばれてるんですが?
王都学園としてはいいんだろうか?
「参加生徒は武術学園との試合に五名、魔法学園との発表会に五名、引率はこちらの先生方が行う事となっています。
また他の参加者の選出も併せて行ってもらう事となっています。
それと<聖女>エミリーと<聖女>アリスには、それぞれ武術学園か魔法学園を選んでもらい随行者として参加してもらいたい。
何か質問はあるかな?」
学園長の話に互いに目を見合わせる俺たち。ジミーは当然の参加と、既に口元が笑ってるんですけど!?
ロナウドは三英雄様ですし?テレンザ侯爵家の為にも頑張って貰うって方向で。
エミリーとアリスさんは、エミリーさんが魔法学園でアリスさんが武術学園なんですか。・・・逆じゃね?
アリスさんはフィリーの特訓を受けているものの魔法はまだまだであると、であるのなら武術学園の随行者として治療に専念した方が良いと。確かに聖女様の魔法を見せていただきたいとか言い出す馬鹿がいないとも限らないからね、いい判断だと思います。
「分かりました、では再来週の学園交流会に参加させていただきたいと思います。それで会場なのですが、交流会という事ですから双方の学園にお邪魔する事になるんでしょうか?」
「あぁ、それなんですが例年であればそうであったんですが、今年に関しては少々事情が変わってしまってね。
先程も言いましたが君たちの存在は高位貴族家をはじめとした多くの方々から注目されています。その為交流会の観覧希望が殺到しましてね、急遽王都闘技場で交流会を行う事となったんですよ。
闘技場側は大慌て、月末に控えた王都武術大会の準備の真っ最中でしたからね。当然舞台変更を行う訳にもいかず、特別に武術大会の会場をそのままお借りする事となったんです。
大会実行委員の者からは“舞台の強度確認に丁度いい”という皮肉の言葉を貰いましたけどね」
そう言い肩を竦める学園長。何かやけに疲れた顔をしていると思ったらそういう。各貴族家からの突き上げが凄かったんだろうな~、お疲れ様です。
「話は以上である。各自再来週の学園交流会に向け研鑽に励むように。詳細は決まり次第知らせるものとする。
ご苦労であった、解散」
タスマイヤー先生の言葉で解散する事となった俺たち、学園長執務室から下がって直ぐ、口を開いたのはジミーであった。
「バルド先輩、先程の学園長の話の中に王都武術大会という言葉があったんですが、それは一体どう言ったものなんでしょうか?
俺は田舎者なんでそうしたものに疎くて」
「ん?あぁ、ジミーは知らなかったのか。王都武術大会とは年に一度行われるお祭りみたいなものだな。王国各地から腕自慢が集まり互いの技量を確かめ合う、本戦出場者には各貴族家から仕官の打診があるなど、立身出世を望む者にとっても魅力的な大会と言われているな。
それこそジミーが模擬戦で下した大剣聖クルーガル・ウォーレン様が最初に名を売ったのがこの王都武術大会と言われている。若干十五歳での優勝は長い王都武術大会の歴史の中でも初の快挙であり、未だ破られることのない金字塔と言われているからな。
もしかしてジミーは興味があるのか?だったら急いだほうがいいぞ、確か予選会受付が今週までだったはずだ。その後行われる予選会を通過しないと本戦には出場出来ないからな」
そう言い「俺も侯爵家の看板が無かったら参加したかったんだがな」とぼやくバルド先輩。
何でも貴族たるもの市井の者の邪魔をするべきではないという考えがあるらしい。尤もそれは高位貴族家の者だけの話であって、子爵家や男爵家の嫡子以外の者は積極的に参加し、自身をアピールしているのだとか。
要するに貴族が負けたら格好悪いがそうも言ってられない者はこの機会を利用するといった話なのだろう。
「ジェイク」
俺の名を呼びこちらに目を向けるジミー。
ハイハイ分かりました、王都武術大会に出たいんですね。それで俺にも付き合えと、了解です。
以心伝心、言わずとも分かるその心。だから口元を獰猛に歪めるのは止めなさい、なんか漏れちゃいけないものが漏れてるから、ロナウドがドン引きしてるから。
学園長からの呼び出し、それは結果的に刺激してはいけないモノを刺激し、この王都に野獣を解き放つ結果となったのでした。
これ、大丈夫なんだろうか。ここは暗黒大陸じゃないからね、ジミー、自重しようね?
―――――――――
「ワッハッハッハッ、ボビー、貴様ずるいだろうが、こんな楽しい環境で余生を過ごしおって、私と代われ、私と」
そう言い大きな木剣を振るい高笑いを浮かべる大剣聖に、呆れの表情を向けるボビー師匠。
「阿呆な事を抜かすな、何度も言うがお主は大剣聖であろうが、自身の立場を弁えい。お付の者が困惑するであろうが、下の者を労わらんで何が大剣聖か」
「あぁ、そんなものはどうでもよい。今はこの怪物、大福本体三つ首ヒドラを討ち倒す事に全力を傾けるのみ。
水ヒドラも楽しめたがこの本体ヒドラは格別であるの。このひりつくような緊張感が堪らんわ。
しかもさらに上のドラゴンヒドラ、あれは一体なんじゃ、まさしく勇者物語の一節そのものであろうが。そんな厄災に打ち勝つ者がお主を含め数名存在すること自体異常だからな?
貴様は私が従者を蔑ろにしていると言っているが、あ奴が放心状態になってしまったのはここマルセル村の異常性が原因だからな?
まぁ私にとってはこの上なく楽しい場所ではあるがな」
そう言い再び木剣を振るう大剣聖に、“そう言えばこ奴は勇者病<極み>であったわい。昔はよく振り回されたモノじゃったが、全く変わっておらんな”と改めて勇者病<極み>の恐ろしさを実感するボビー師匠。そして不意に向けた視線の先にいるお付の者に、憐れみの眼差しを向ける。
「クルーガル様、しかしよろしいのでしょうか?ベイル伯爵家経由で今度の王都武術大会に来賓として招待されていたはずですが」
お付の者から掛けられた言葉、それは大剣聖の役目に関する心配。
「ん?そんなもの放置しておけばよい。大体私が武術大会に行ってなんとなる、ただの客寄せではないか。
これが大会優勝者と手合わせでもさせてくれるというのであれば考えない事もないが、ただ見ているだけではな。
・・・そうじゃ、余興として大福本体三つ首ヒドラと私の模擬戦を」
「「止めんか、ばかもの!!(馬鹿な事を言わないでください!!)」」
““駄目だこいつ、どうにかしないと””
くしくもボビー師匠と従者の考えが一致したのは致し方のない事なのであった。
―――――――――
「はぁ!?大剣聖の爺さん、マルセル村に住み着くとか言ってるの?何考えてんのさ、またベルツシュタイン卿に愚痴を言われるじゃん」
俺が“大剣聖来訪”の話を聞いたのは数日前。ホーンラビット伯爵閣下にどうしたらいいのか相談され、「飽きたら帰るだろうからそれまでボビー師匠に丸投げしたら?」と伝えておいたのだが、まさか住み着くって言い始めるとは。
「それで
「はい、現在は大福本体二つ首ヒドラを討伐、三つ首に挑んでいるところですね。やはり大剣聖の名は伊達ではなく、実力は相当なものであったようです。
大福は新しい遊び相手が出来たと喜んでいるようではありましたが」
「大福ヒドラを相手に嬉々として剣を振るう、流石は大剣聖、やはりどこかおかしいわ。
でもまぁ何か悪さをするって訳でもないし、最近やって来た帰郷組みたいに聖茶と農業実習による再教育が必要って訳でもないから放置でもいいんだけど、大剣聖ともなるとそれだけじゃすまないんじゃないの?」
俺の言葉に「それが」と話し始める月影。
どうやら大剣聖様、王都での仕事を放り出して遊びに来ちゃったご様子。ボビー師匠から“この馬鹿を王都に戻しちゃって”との依頼が。
うわ~、面倒くさ、グロリア辺境伯家王都屋敷にでも御逗留いただいちゃおうかな。俺は胃薬と酔い止め薬の在庫を確認し、厄介事を引き受けてもらえるように算段するのでした。
本日一話目です。