王都バルセンには多くの施設が存在する。その中でも王城、王都大聖堂に続いて名前が挙げられる施設と言えば、多くの者がここ王都闘技場と答えるだろう。
今その王都闘技場には夢や希望、野心や欲望を抱えた多くの者たちが集い、これから始まる祭りに心躍らせていた。
「クックックッ、遂にこの俺様が王都で一旗揚げる日が来たか。
これまで大会の常連と呼ばれていた者の多くが、貴族家から誘われて仕官した今こそが好機。
王都武術大会に俺様の名を刻み付けてやる!!」
不敵に笑い、王都武術大会参加受付に向かう男。男は己の野心を隠すことなく、次なる栄光を求め歩を進めようとした。
“ズオッ”
不意に感じる悪寒に、バッと背後を振り返る。見れば多くの者たちが自身と同様に背後に目を向けている。
“カツンッ、カツンッ、カツンッ”
石畳の道を何かがやって来る。自身の右手は、本能的に腰のロングソードの柄を握る。
“カツンッ、カツンッ、カツンッ”
それは二人の騎士、黒い甲冑に身を包んだ者、銀の甲冑を身に纏った者。
その者たちから溢れる強者の気配に、その場の者たちは身を震わせ、ゴクリと唾を飲む。
「ちょっといいか?王都武術大会の参加申し込みを行いたいんだが」
大会参加者受付にて声を掛けたのは黒い甲冑の者。
「は、はい。大会参加者受付はこちらです。お名前と何か所属を証明するものがあればお願いします。こちらは任意ですので持っていない、もしくは提出したくないというのであれば構いません。
大会参加者の中にはご身分を隠されて腕試しに参加なされる方もおられますので」
そう言いウインクを加える受付嬢。どう見ても騎士、しかも全身甲冑で素性は分からない。こうした場合高位貴族の者がお忍びで腕試しに参加するという事が常であった。
「ハハハ、それは助かる。俺たちは大会を楽しみたい、ただそれだけだからな」
「それではお名前と参加費用お一人様銀貨三枚をお願いします」
受付嬢の言葉に銀貨六枚を渡し、参加申込書に名前を記入していく両者。
「はい、ありがとうございます。“黒蜜”様と“シルバリアン”様ですね、こちらが参加者カードになりますのでなくさないようにお持ちください。
予選前の予備選考会は随時行っておりますので、そのまま闘技場内にお進みください」
「分かった、礼を言う」
受付嬢の言葉に闘技場入口へと向かう“黒蜜”と“シルバリアン”。これは今大会の嵐の中心と言われる二人の騎士が、初めて世に姿を現した瞬間なのであった。
――――――――
「シルバリアン、ついに来たね。なんか俺こそが一番だって顔をした連中ばっかりなんだけど」
「あぁ、武術大会はこうでないとな。前に参加した大会もそうだが、始まる前から負けたような顔をしている様な奴は論外。大会に参加する以上自分こそが優勝するというくらいの気概を持っていないとな。
無論俺は黒蜜相手でも全力で倒しに行くからな?」
シルバリアンの言葉に「ウゲッ、ちょっとくらいは手加減してくれない?」と弱気な事を言う黒蜜。
「アッハッハッハッ、なんだなんだ、そんな立派な全身甲冑を着込んだ奴がどんなものかと思えば、とんだ腰抜けじゃねえか。
大体腰の物も下げねえで一体何しに来やがったんだ?」
そう言い大声で笑うのは身の丈二メートルはあろうかという巨漢。
「ん?あぁ、俺の得物は少々大きくてな、邪魔になるんで魔道具に収納してるんだ。予選が始まれば取り出すから安心してくれ。
それに今日は予備選考会だろう?あんたのその自慢の得物も使う機会はないんじゃないのか?」
そう言い肩を竦める黒蜜に何か当てが外れたのかつまらなそうな顔をする巨漢。
「ハンッ、詰まらねえ奴だ。どこのお貴族の訳アリかは知らねえが、ここでは実力が全てだ。精々泣きを見ない様に気を付けるんだな」
「これは御心配感謝する。感謝ついでに聞きたいのだが、この場に貴殿が注目するような強者はおられるか?貴殿ほどの剛の者が気にされるとあれば、その実力に疑いようはない。我らも意識しておいて損はないからな」
巨漢の言葉に質問で返すシルバリアン。巨漢はスッと右手を上げると、ある人物を指し示す。
「“疾風のクルーガル”、このところ王都で急激に名を上げ始めた冒険者だ。その動きハヤテのごとく、噂じゃ風属性の魔纏いを自在に扱うらしい。
その隣にいるのが“豪腕のテリーヌ”、あの女は冒険者パーティー“豪傑旅団”の前衛だな。最近は疾風を仲間にしようと事あるごとに声を掛けているって話だ。
目ぼしいのはあの二人ぐらいだな、他は有象無象といった感じよ。
俺様にとっては本選に上がってからが本番だからな」
そう言い肩を揺らし去っていく巨漢。
「・・・親切さんって奴なのか?」
「不器用なんじゃないか?」
黒蜜とシルバリアンは互いに顔を見合わせると、今のは一体何だったんだと肩を竦めるのだった。
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「皆様、お待たせいたしました。これより予備選考会を開始いたします。
選考基準は時間内に試験官より一本取る事、人数の関係上一度に五名で挑んでいただきますことをご了承ください。
尚、試験官より一本取られた場合は即失格となりますのでご注意ください」
予備選考会に通された参加者たちに渡されたのは木剣、対する試験官も同様に木剣を構え、一対五の状態で試験が開始される。
「次の方どうぞ」
有無を言わさぬといった様子で次々に試験官に挑まされる参加者たち。自身の得物がといったいい訳は通じない、一対五の不利な状況で戦う試験官を前にそんな甘えなど許されない。
“ズダダダダダ~ン”
それは疾風、瞬時に駆け抜け次々と参加者の握る木剣を打ち落とす試験官。それと共に「失格!!」という声が会場の各所で鳴り響く。
どうやら試験官は交代制らしく、五組相手にしたら次の試験官といった感じで代わっていく為、後になれば有利になると後方に引っ込んだ挑戦者は当てが外れる結果となってしまった。
“スタンッ”
「一本、903045番、予備選考会通過」
“ドゴンッ”
「一本、903168番、予備選考会通過」
だがそんな中、実力を示し通過していく者もいる。そうした者たちは皆、強者の雰囲気を纏った一角の剣客たちであった。
「それじゃ行ってくる」
「あぁ、そっちで待っててくれ」
先に動いたのは銀の騎士シルバリアンであった。
「それではこちらの木剣をお使いください」
渡された木剣はズシリと重さのある丈夫そうなもの。
「はじめ!!」
審判役の掛け声と共に一斉に試験官へと切り掛かる参加者たち。
“タンタンタン、スタンッ、スタンッ、スタンッ、スタンッ”
だがそんな彼らを試験官は華麗に躱し、次々に一本を決めていく。
「さて、そこのお前、お前は来ないのか?制限時間が過ぎればその時点で失格だぞ?」
予備選考会の制限時間は短い、多くの参加者が自分から攻撃に掛かったのにはこの短い制限時間内に一本を決める為でもあったのである。
「そうだな」
その者の挙動は静かであり滑らか、まるでその場から一歩も動いていないのではと錯覚させるほど上体にブレがない。
“スッ”
「これでいいか?」
伸ばされた木剣、それはいつの間にか試験官の喉元に突き付けられている。
「一本!!」
審判の声が上がり下げられた木剣、試験官は未だ何が起きたのか理解出来ず、ただその場に呆然と佇む。
「「「「「ふざけるな、なんだそれは!!お貴族様だか何だか知らねえがズルも大概にしやがれ!!」」」」」
上がる怒声、その場にいた未だ試験を受けていない者たちから上がる非難の声に、シルバリアンはゆっくりと振り返る。
「ほう、この我を卑怯者呼ばわりするか。面白い、それならこうしよう。
我から一本取ってみよ、さすれば我の予備選考会通過資格をその者に進呈しようではないか。
だが我に打ち倒された者は試験官殿に倒されたと同等とみなし失格とする。であるのなら互いに文句もあるまい?
試験官殿もそれでよろしいか?この様なことでいたずらに問題を起こしても馬鹿らしいであろう?」
殺気立つ参加者たちを尻目にどうだとばかりに提案を行うシルバリアン。試験官は双方の様子を見て仕方がないとばかりに了承する。
「ほら、今なら卑怯者を倒して即予備選考会が通過できるぞ、早い者勝ちだ!!」
「「「「「ウォーーーーーー!!」」」」」
シルバリアンの挑発に一斉に襲い掛かる参加者たち。
“サッ、スパンッ、サッサッ、スパンスパンスパンッ、トンッ、スパンスパンスパンスパンッ”
その動きは流麗、まるで舞を踊るかのように男達の間をすり抜け次々と木剣を打ちつけるシルバリアン。
“ドサドサドサドサドサドサドサドサ”
倒れ伏す参加者、その中で一人優雅に木剣を下ろすシルバリアン。参加者たちは思う、“この男、本物だ”と。
「では試験官殿、騒がせて悪かったな」
「いや、こちらこそすまなかった、礼を言う」
シルバリアンは試験官に一礼すると、予備選考会通過者たちの待つ控室へと足を向けるのだった。
“スパンッ”
「いや~、相変わらずシルバリアンはやってくれるわ。あっ、アイツ俺の連れなんだよ。まさに武人って感じだろう?
で、俺は一本取ったって事でいいんだよな?」
別の試験官との対戦を行っていた黒蜜は、皆の意識がシルバリアンに向いた隙を突き、悠々と予備選考会通過を果たすのだった。
―――――――――
「ってなことを午前中にやって来ました」
昼の学食、多くの生徒が集まりそれぞれ思い思いに言葉を交わし食事を楽しむそこで、エミリーたちに事の詳細を伝える俺。
学校をさぼって王都武術大会の参加受付に行ってもよかったのか?
フフフ、ここをどこだとお思いで?天下の名門王都学園ですよ?
通われる生徒の皆さんはやんごとない御家柄の者ばかり、そうした方々はお家の事情でお休みする事は日常茶飯事。
近しい所だとアルデンティア第四王子殿下が諸事情により休まれていたな~。最近お顔をお見せになられたけど、妙に静かと言うか表情に余裕がないと言うか。多分王城でこってりお説教されたんだろうね、ケビンお兄ちゃんのお化け屋敷でヘルザー宰相閣下に怒られてたみたいだったし、王家の者として~とかなんとかあったのかもね。
まぁそんな訳でちゃんと申請さえ出せば割と簡単に外出許可も出たりします。申請理由に“王都武術大会参加申し込みの為”って書いたらえらく驚かれましたが。
王都武術大会に出る学園生徒というものは割といるらしいんだけどその大半が武術学園の生徒、王都学園の生徒が参加申し込みをするのは稀との事。でも王都学園に入った武術系の上級職の人たちってそういうのには参加したがらないものなんだろうか?
バルド先輩みたいに侯爵家の看板を背負ってるんならまだしも、平民や下級貴族出身者なら・・・すでに就職先が見つかってるんですね、流石は高位貴族家による青田買い会場、武術大会で自身の実力をアピールする必要はないと、納得です。
「まぁ無難に予備選考会は通過できたよ。予選会が来週から始まるんだって、俺とジミーは二日目の出場だったかな?それが終わったらいよいよ本選なんだけどね。
先ずは予選会を通過しないと話にならないんだけどね、予選会からは王都闘技場の観客席で観覧も出来るらしいよ、当日券のみだから凄い混雑するって話だったかな?
遅れないように来てくれって言われちゃったよ」
俺の話に“まぁ当然だよね”といった顔をする一同。予備選考会は試験官による審査だし、要は篩い分け。一定基準以下の足きりが目的だから勝負といったものでもない。
互いの全てを賭けた戦いでない以上マルセル村出身の俺たちが負けるはずもない。
「ところで学生交流会の方はどうなったの?何か話は聞いてる?」
俺の言葉にロナウドが口を開く。
「あぁ、さっき武術担当教諭から話があってな。武術学園との交流会はバルド・シュティンガー先輩とジミーとジェイク、それと第四王子殿下の側近のラグラ・ベイルと二年のクルドア・バルーセン先輩に決まったそうだよ」
「クルドア・バルーセン先輩・・・バルーセン先輩って」
俺の言葉にコクリと頷くロナウド。
「あぁ、そのバルーセンで間違いない。バルーセン公爵家次男クルドア・バルーセン先輩だ」
「えっ、ラビアナ様って上級生にお兄さんがいたんですか?全然知らなかったです」
ロナウドの言葉に驚きの表情を浮かべるエミリーとフィリー。でもそうか、ラビアナ様にはお兄さんがいたのか。・・・さぞ大変だったんだろうな。
俺はまだ見ぬラビアナ様の御兄さんの苦労を思い、「あら、皆さんお揃いですこと。楽し気に何の話をされていたのかしら」・・・。
そこには食事の終わったトレーを手に持ったラビアナ様の御姿が。
「いや、今度行われる武術学園・魔法学園との交流会の事についてな。武術学園との交流会を行う代表の中にラビアナ嬢の兄上であるクルドア・バルーセン先輩の名前が挙がっていたんでその事についてな」
ジミーの言葉に軽く首を傾げるラビアナ様。
「クルドアは兄ではありませんでしてよ。現当主であるオルセナお兄様の子供、
同じ家に住んでいても滅多に顔を合わせる事もありませんし、学園ではまだ一度も顔を合わせたことがありませんの」
そう言いどこか寂しそうな表情をなさるラビアナ様の言葉に、“それって絶対避けられてますから、ラビアナ様の残念具合にドン引きなさってる証拠ですから”とツッコミを入れたいのをグッと堪える俺たちなのでありました。
本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora