転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第62話 村人転生者、商談の席に参加する

ありがたい、本当にありがたい。

隣村に向かってみて初めてわかった事。草原の広さ、各村間の距離的隔絶。もうね、本気で辺境、最果てって言われている理由が分かったわ。

こんな利益率の希薄な村にまでわざわざ商品を届けて下さって、本当にありがとうございます。

俺はこの春も行商に訪れて下さったモルガン商会の行商人ギースさんに深々と頭を下げる。

 

「いや、うん、そこまで感謝されるとちょっと居心地が悪くなるからその辺にしてもらっていいかな?今年もケビン君の元気な顔が見れて良かったよ。

去年も色々お世話になったからね。

ケビン君が作り出したビッグワーム干し肉も大分市民権を得て来てね、ケビン君が教えてくれた”試食”だっけ?小型の火起こし壺で炭火を起こしてその場で焼く販売方法、これがかなり受けてね。

あの香りで人を呼ぶって発想はなかったよ、始め商会でも屋台じゃないんだからって否定的な意見が多かったけど、それを数字で黙らせることが出来たってのは私の大きな実績にもなったしね。

 

それと商品名<畑のお肉>、これが良かった。流石にビッグワーム干し肉と言われると二の足を踏むお客さんも、畑のお肉と言われれば興味を示してくれる。その上で試食して味を知ってしまえば、後からこれがビッグワーム肉だって分かったところで止められるものでもないしね。

味の種類も香草の配合でお酒に良く合うピリ辛風味と料理に一味加える爽やか風味、それと基本の岩塩干し肉。

ケビン君が教えてくれた“選べる事が楽しさに繋がる”と言う話は正解だったよ。

これには商会長も大絶賛されてね、一度ケビン君に会いたいと(おっしゃ)っておいでだった。

ケビン君は今年授けの儀を迎えるんだろう?領都に来た際は是非モルガン商会に顔を出して頂きたい」

 

行商人様に感謝申し上げたら十倍で返されてしまいました。

でもビッグワーム干し肉売れてるんだ~、良かった良かった。

 

「実はこの冬に周辺四箇村を廻りまして、ビッグワーム農法を広めて来たばかりなんですよ。ですんでこれからもっと大量のビッグワーム干し肉が出荷される予定でして、領内各地で売れてもらわないと困った事に成るところでした。

 

まぁ彼らの本命はビッグワームが作る肥料の方なんでそこまで気にしないとは思いますけど、今年からマルセル村の野菜に近い農産物がどんどん出荷出来る様になると思うんですよね。

前にギースさんが仰っていた他の商会との兼ね合いも、これでかなり解消されるんじゃないんですか?

 

こんな辺境の地に大量の農産物を取りに来るのも一苦労ですからね、大容量マジックバッグがあれば可能とは言ってもそれ目当ての盗賊に狙われたんじゃ目も当てられませんし。複数の商会と手を組んで輸送や販売網の確立を行うのが得策かと。

何と言っても農産物ですから、新鮮なうちに捌く必要もありますしね。

 

モルガン商会が一枚噛むのならお薦めはゴルド村です。あそこは村長のホルンさんが元石工ですからね、ワームプールも正確に作り上げてましたし、なんと言ってもホルン村長自身ビッグワーム干し肉に惚れ込んでましたから、美味しい干し肉を作ってくれるはずです。無論野菜も期待出来ると思います。

逆に避けた方が良いのはヨーク村でしょうか。あそこは村長をはじめ村全体がかなり排他的です。自分たちのこれ迄の生活を変えるのに時間が掛かると思います。恐らく他の村が成功したのをみて慌ててちゃんとやり出すと言った感じになるんじゃないでしょうか。

それでも時々指導官なりを送って良くみておかないとつまらないところで手を抜こうとすると思います。その癖一番文句を言って来るのもヨーク村でしょう。関わりにならないのが一番かと。

ビッグワーム農法自体は伝えてありますので、農作物の出来に関しては良くなるとは思いますが。

 

この地域周辺五箇村が本格的に向上するのは農業重要地区入りを果たしたのちになると考えてください。それまでは投資の段階、きっちり根を張って雁字搦めに入り込んでしまえば他所からの横槍も跳ね除けられますから。

ってどうしました皆さん、さっきからこっちの方を向いてボケッとして。折角行商人様がこうしていらして下さったのですから、ちゃんと仕事してください?」

 

「あぁ、いや、ジェラルドもザルバもケビン君の今の姿を知らないからね、驚きに固まってるだけなんだと思うよ。

この私だって時々ケビン君が授けの儀の前の子供と言うことを忘れるからね。先程のやり取りなんか領都の商会、下手したら王都でも通用するんじゃないかな?

授けの儀の際にモルガン商会の商会長に会ったら即採用とか言われかねないからね?あの人は偏見無く本人の能力で相手を見る人だから」

 

「えっ、マジっすか、ちょっと嫌だな。俺、村から出る気全く無いですから、商材は出しますんで頑張って売って来て下さい。

 

そうそう、前にドレイク村長代理に差し上げた照明の魔道具擬きがあったじゃないですか、領都の魔道具職人に作製をお願いするとかなんとか言ってた奴。あれの改良版が出来たんですよ」

 

そう言いカバンの中をガサガサ、あったあった。

 

「これなんですけどね、木枠と金属板で作ってみました。早速使わせて頂きましたよ、鍛冶道具。トンテンカン叩くのって良いですね、なんか止まりませんよ、あれ。

 

で、今回の目玉はちゃんと誰でも使える様にした所です。ギースさん、この取っ手の所を持って頂けます?はい、ありがとうございます。そうしたらこの魔道具に魔力を流す様に考えてみて下さい。そうですね、分からない様ならプチライト呪文を唱える要領で“大いなる神よ”って唱えてもらって良いですか?」

 

「“大いなる神よ”」

“パッ”

 

「「「おお~」」」

 

「結構明るいでしょ?これでもプチライトと殆ど変わらないくらいの魔力しか使ってないんです。欠点は手を離すと魔力の供給が切れて暫くしたら消えちゃう事かな。でもまぁ普段使いには十分かと。あれだったら魔石でしたっけ?それを使って改良しても良いんじゃないんですか?どうです、悪くないと思うんですけど」

 

「おい、ドレイク、どう言う事だ。何でケビン君が魔道具なんて作っているんだ。ケビン君は授けの儀の前じゃなかったのか!?」

 

「いや、間違いなく授けの儀の前だよ。ただな~、ケビン君は元魔道具職人のマルコさんの所で色々作っているからな~。

他にも裁縫師のベネットさんとか調薬師のミランダさんとか?まぁ色々やってくれてるよ。でだ、比較的安全な商品からヤバめの商品迄色々開発してくれたんだけど、どれから見る?」

力ない笑いを浮かべそう語るドレイク村長代理に、顔の引き攣る行商人ギース。

 

「そ、その話は後でゆっくりしようか。今はビッグワーム干し肉と今年の農産物の事について話そう。この話だけでも相当な大事だからな」

 

「あぁ、賢明な判断だと思うぞ。今年の収穫量予想も出してある、これは昨年とその前年の収穫量推移を基に算出したものだ。そこに今回周辺四箇村をこの目で見て私なりに下した評価を加味してある。報告書としてまとめておいたから商会長にも渡してくれ。

ザルバ、こないだまとめた書類を持って来てくれ。

ケビン君は話を聞いて疑問に思った点などがあれば意見を頼む」

こうして村の命運を懸けた商談は日の暮れる時間まで続いて行くのでした。

 

――――――――――――――――――――

 

部屋の中をランプの明かりが淡く照らす。暖炉から漏れる炎の明かりも相まって生活するには十分な光、そんな部屋の中では二人の男がワインを酌み交わしながら旧交を温める。

 

「しかしドレイクがいつの間にか離婚してるとはな、完全に諦めて一生を村長職に捧げるものだとばかり思っていたんだけどな。よくあの奥さんから逃げられたもんだ、彼女死んでも離さないとか言ってなかったか?」

陶製のワイングラスに口を付けながら話すギースからは、友人に対する心配の感情が溢れていた。ドレイクはそんな友人に苦笑ぎみに事の真相を話す。

 

「情けない話だが、俺は息子の教育に失敗してしまった様でな。このままではマルセル村は駄目になる、ならばいっその事グロリア辺境伯家の直轄地にしてしまえって言うのが元々の発想だったんだよ」

そう言い炙り焼きにしたビッグワーム干し肉を手に取るドレイク。

 

「全てはケビン君が作り上げたこのビッグワーム干し肉が切っ掛けだったんだよ」

そう言いどこか遠くを見詰める様な顔をするドレイクなのでありました。

 

 

「ドレイク、身体には気を付けるんだよ」

「うん、分かっているよ母さん。それじゃ兄さん、母さんの事頼んだよ」

「あぁ、お前も元気でやれよ。出来ればでいい、たまには手紙でも送ってくれ」

 

ドレイク・ブラウンはブラウン男爵家の四男として生まれた。ブラウン家は男爵と言っても小さな村を任されただけの貧乏男爵家、家族の者総出で農作業に勤しむような家であり、暮らしは決して裕福とは言えないものであった。

しかしだからこそ家族の仲は貴族家と思えないほど良く、父親の死後ブラウン家を引き継いだ長男に協力し家族を支えて来た。だがそこは貧乏男爵家、いつまでも家に縋り付く訳にはいかない。姉たちは上手い事嫁ぎ先を見つけ、兄たちはそれぞれの道へと進んで行った。

 

ドレイクもその例に漏れず、十五歳の旅立ちの儀を迎えた後家を出る事となった。ドレイクの授かった職業は剣士と言う割とありふれたものであり、貧乏男爵家の四男でこれと言ったコネもない彼が冒険者と言う道を選ぶのは半ば必然であったのかもしれない。

 

「ボビーさん、いや、ボビー師匠。私に剣を教えてください」

当時すでに全盛期を過ぎていた白金級冒険者ボビーの門を叩いたのも、そんな彼の精一杯の抵抗であったのだろう。ドレイクは攻撃的な剣の才能は乏しかったが、防御や受け流しに関しては目を見張る才能を持っていた。

剣の師匠ボビーの助言もあり商隊の護衛任務を積極的にこなしていった彼は、如才ない態度や人当たりが高く評価され、とある商会の商会長に見い出される形で商人の道へと進む事となって行った。

 

だがそんな彼を思わぬ転機が訪れる。商会長に認められ行商人として独立を果たしたドレイクは、新たな販路を求め遠く辺境の寒村にまでも足を運ぶ隙間営業を行う事で業績を伸ばして行った。どのような地へ訪れた際も決して偉ぶらず相手を立てる彼の営業姿勢は、安心と信頼を与え、商売は順調に進むかに思われた。

 

「おはようドレイク、昨夜は凄かったわ❤」

嵌められた。そう思った時は既に遅かった。ようやく手に入れた販路、最果ての地マルセル村。

何度か通い詰めて油断していたという事もあった。互いに信頼関係が築けていたと思っていた。だがこのような手に出られるとは。

旨いワイン、美味しい料理、美しい村長の娘。彼女の事は他の村から仕入れた情報で知っていた。元金級冒険者“血まみれのシンディー”、己を絶対と信じ戦う姿勢は頼もしくもあり恐ろしくもあると。十分警戒はしていたし大丈夫と思い込んでいた。まさか料理に薬を盛られていた!?

隣を見ればベッドに体を起こし自分のお腹を摩るシンディー・マルセル嬢。

“やっぱりオークキングの精力剤って凄いわね。かわいい赤ちゃんが生まれると良いわね、あなた❤”と言う彼女の呟きは、ドレイクにとって人生終了の知らせの様に聞こえた事だろう。

 

 

「でもお前が村長家に婿入りするって聞いた時は上手い事やりやがってって思ったけど、それがマルセル村で相手が“血まみれのシンディー”って聞いた時には、思わず天に祈ったものだよ。

それがこうして共に気兼ねなく酒を飲める日が来るなんてな。

以前のお前は常に“村長ドレイク・マルセル”を演じ続けていたからな」

 

「まぁ仕方がないさ、アイツらはその役割の人間が必要だっただけ、ドレイク・ブラウンと言う人物の事なんか見てはいなかったんだから。奴らを油断させ村の方向性を変えさせるのには苦労したよ。

村長には貫禄が必要だって食うにも困る村で肥満の村長なんてあり得ないだろう?でも役には立ったんだよなこれが。

肥満は富の象徴とはよく言ったものだよ、金回りが良さそうに見えるのか商談もすんなり決まる。辺境と舐められない為には見た目も重要だったんだろうな」

 

「そこだよそこ、何でお前そんなに痩せてるんだよ。最初は病気かとも思ったけど目茶苦茶健康そうじゃないか、髪も肌も艶々って若返りの秘薬でも飲んだのかって勢いだよ」

 

「ハハハ、それはギースがこの村の住民になったら教えてやるよ。上手い飯と適度な運動、それと心の若さかな?昼間も言ったけど、ホーンラビット牧場、俺はこの牧場の可能性に賭けてるんだよ。その為にはグロリア辺境伯家との強い繋がりが必須、中途半端な知識の広まり方は危険の増大に他ならないからな。

領主主導での技術指導は必要不可欠なんだ」

 

ドレイク・ブラウンの熱い思い。それは貧乏男爵家四男だからこそ身に染みて知っている飢餓の恐ろしさと、それに苦しむ人々を救いたいという信念。

 

「ドレイク、お前やっぱり立派な村長だわ。俺も出来るだけ協力するよ。それにケビン君は面白いからな、これほどワクワクと驚きの詰まった村なんて今まで見た事ないって言うの」

 

「ハハハ、その分胃薬が欲しくなるけどね」

「それは間違いない」

「「ハハハハハハ」」

 

男達の楽しい夜はいつまでも続くのであった。

 

 

「あ、俺今度再婚するから、実はもう彼女子供を授かっててさ。この歳でお父さんってのもあれだけど、もっと頑張らないとな」

「ちょっとまて、聞いてないぞ。相手は誰なんだよ」

 

「まぁ言ってないし。お前も良く知ってるミランダさんだけど?」

「ちょっとふざけるなよ、何でお前ばっかり。うが~、俺の聖女様が~!!」

 

「ワハハハ、やっぱり男は頼もしさと筋肉じゃね?肥満は女性受けしないらしいぞ?」

「ドレイクてめ~フザケンナ~!!」

 

その柔らかそうな身体を揺らす行商人ギースの魂の叫びは、夜のマルセル村に虚しく響くのでした。




新年度、新学期、新入社員、新入生。
色々バタつく日々が続きますね。
でもまだまだ始まったばかり、頑張って行きましょう。
いってらっしゃい。
by@aozora
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