転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第620話 転生勇者、王都武術大会(予選会)に出場する

「ねぇねぇ、今年の王都武術大会、本命は誰になると思う?」

「そりゃ、去年久方ぶりの復帰を果たされた“剛腕のテリー”様だろう。あの巨体から繰り出される繊細な剣捌き、大剣をまるで小枝のように扱うんだぜ、マジで最強だって」

 

「イヤイヤイヤ、それを言うなら金級冒険者“爆殺のリリー”様でしょう。その美しい容姿からは考えられない豪快な剣捌き、あの爆炎剣に掛かったらどんな相手だって吹き飛ばされるっての」

 

ガヤガヤと多くの人たちが集い噂話に花を咲かせる王都闘技場前、そこは昨日から行われている王都武術大会の予選会の様子を見ようと集まった多くの民衆により、熱気と興奮に包まれているのだった。

 

「大会参加者の皆さんはこちらにお願いしま~~す。予選会参加選手の入場受付はこちらで~~す」

そんな多くの人々でごった返す王都闘技場前では、係員の者が大会参加者と観覧客とを分ける為に大きな呼び声を上げる。

毎年観覧客の波に呑み込まれた予選参加者が観覧客とトラブルを引き起こすといった問題が発生する為、大会関係者は朝から気を抜く事が出来ないのだ。

 

“カツンッ、カツンッ、カツンッ、カツンッ”

そんな騒がしい王都闘技場前に響く足音。

 

“カツンッ、カツンッ、カツンッ、カツンッ”

静まり返る民衆に何事かと目を向けるも、まるで海が割れたかのように開いた人垣に驚愕する係員。

 

“カツンッ、カツンッ、カツンッ、カツンッ”

そんな民衆の間を、まるで無人の野を行くがごとく気負いもなく自然な足取りで進む二人の騎士。一人は黒い全身鎧に身を包み、一人は白銀の甲冑を光らせて。

 

“カツンッ、カツンッ、カツンッ、カツンッ”

「失礼、王都武術大会の予選会参加者入り口はこちらでよろしいか?」

 

掛けられた声に一瞬身を震わせた係員は、「は、はい、こちらになります」と予選会参加者受付を指差し誘導を行う。

 

「ふむ、感謝する」

甲冑姿の者たちはそう一言残すと、そのまま予選会参加者受付へと歩を進める。

気負うでもない、脅すでもない、ただその場にいる、それだけで絶対的な畏怖の念を抱かせる。人々は思う、“あの二人は今大会の嵐の目になる”と。

 

王都武術大会、それはオーランド王国中から腕に覚えのある強者が集う年に一度のお祭り。人々は新たなるヒーロー誕生の予感に、否が応にも期待を膨らませるのだった。

 

―――――――――

 

「お集りの皆様、これより王都武術大会予選会二日目第一予選を始めます」

大会係り員の言葉に一斉に目を向ける予選会参加者たち。これから始まるのは王都武術大会予選会二日目の第一予選。

俺は掌を何度も開いたり閉じたりして自身の緊張を和らげる。

王都武術大会の予選会は四日間にわたり行われ、午前中に第一予選会、午後に第二予選会といった風に計八回の予選会が開催される。

各予選会からは四名の予選通過者が選ばれ、本選には計三十二名の選手が出場する事となる。

 

「どうした黒蜜、何か落ち着きがないようだが?」

落ち着かない俺の様子に声を掛けて来たのは、直ぐ隣にいるシルバリアン・・・の中に入っているジミー。

そう、俺とジミーは黒蜜とシルバリアンの全身鎧を身に付ける事で姿を変え、この大会に参加しているのだ。

この格好、ただ甲冑を着込んでいるだけではと思われがちだがさにあらず、何と俺たちの魔力の質を誤魔化す事が出来るという優れもの。

何と言っても黒蜜もシルバリアンも魔物だし?俺たちが魔力隠しを行っていれば二体の魔力しか感じられないって言うね。

 

ケビンお兄ちゃん曰く世の中には魔力の質を見分け人物を特定するスキルや能力を持つ者もいるとか、何か魔力紋とか言ってたけど人は一人一人が魔力の質が違うらしく、魔力を登録する事で人物の特定を行う魔道具というものもあるらしい。

以前ケビンお兄ちゃんはミルガルの冒険者ギルドで“ギルド資格剥奪”処分を下されたことがあり、その時に教わったとかなんとか。

一体何をやっているのケビンお兄ちゃん!!「これで絶対に冒険者にならなくて済むんだよね~♪」ってそういう問題じゃないから、意味が分からないから!!

この話を聞いた時はジミーとエミリーの三人で頭を抱えたんだよな~。

 

折角お忍びで参加しているのに確り魔力紋で特定されちゃってましたってなったら目も当てられないしね、その辺は確り対策しないといけません。

黒蜜先生、シルバリアン先生、よろしくお願いします。

 

「いや、王都の街の人の多さには慣れたんだけど、多くの人々の注目を浴びるってのが初めてだろう?なんか緊張しちゃって。

別に俺一人が注目されている訳じゃないってのは分かっているんだけどさ、人前に立つ事なんてめったにないじゃん?」

俺の返事に「あぁ、そういう事か」と納得といった言葉を返すシルバリアン。

 

「こればかりは慣れるしかないだろう。我も向こうでの経験がなかったら黒蜜と同じ心持になったやもしれん。

向こうでは常に闘いの日々であり人の目など気にする余裕はなかった。だがこれがいざ人前で話をせよとなれば、我であっても心穏やかではいられぬであろう。

直ぐに慣れろとは言わぬ、我らはこの大会を楽しむために来たのだ、出たとこ勝負でいいのではないか?」

そう言い肩を竦めるシルバリアン。いかん、中に入ってるのがジミーだと思うとしゃべり方のギャップに思わず吹き出しそうになる。

ジミーの奴、眼鏡外すとマジ王子様だからな、本物の王子(アルデンティア第四王子殿下)を知った後でもジミーの方が王子じゃねって思うくらいに超王子。

そんな超絶キラキラ王子がこのしゃべり方をしてると思うと、腹筋が・・・。

これはあれか?前世で見たテレビ番組の笑ってはいけない企画って奴か?

 

「ありがとうシルバリアン、なんか緊張が取れたみたい。俺も出たとこ勝負で楽しむ事にするわ」

因みに俺は普段よりしゃべり方をチャラくして軽薄騎士を演じております。ジミーは暗黒大陸の鬼人族の忍びの里って所で武人的な話し方を身に付けてきたらしく、今のしゃべり方も無理なく出来るんだとか。

対して俺はぼろが出まくるくらいなら普段の話し方よりも崩せばいいんじゃないかって事で、チャラ男騎士に決定。イメージとしてはロイドの兄貴ですね、あの人どこかチャラい印象があるんだよな、本人に言ったら怒られるんだろうけど。

 

「それでは会場に向かいます。なお予選会からは公開競技となりますのでご了承ください」

 

係員に従い会場に向かう、そこは広い闘技場内、前世の野球場か陸上競技場といった感じの場所。

 

「では番号を呼ばれた方から舞台に上がって下さい。902038番、903168番、904225番・・・」

次々と番号を呼ばれ舞台に上がっていく予選通過者たち、会場観客席からはそんな彼らの様子に歓声が上がる。

 

「903205番」

「どうやら我の番のようだ。黒蜜、先に行く」

 

シルバリアンはそう言い俺の肩をポンと叩くと、そのまま舞台へと上がっていく。その身から漂う経験者の貫禄、魔都総合武術大会優勝者の名は伊達じゃないといったところか。

・・・って言うかそんな人物が普人族の大会に出ちゃっていいの?それってあの目茶苦茶強い魔王軍の本拠地の武術大会だよね?全人類が一致団結して事に当たらないと負けちゃうってくらいに強力な国家だったよね?

 

よし、考えない事にしよう。これはお祭り、全力で楽しもう。

俺は難しい事は棚上げにして今を全力で楽しむ事にするのでした。

 

――――――――

 

「あん?お前、その得物は本気か?」

舞台の上、そこでは集まった予選参加者同士の間で静かな鍔迫り合いが始まっていた。

 

「ん?あぁ、これは我に最も馴染んだ得物でな。本選出場の掛かった大事な予選会、へたな武器よりも信頼の出来る得物の方がよいであろう?」

そう言葉を返す甲冑姿の騎士に呆れの表情を向ける偉丈夫。

 

「いや、そうは言ってもいくら何でも木刀はないだろうが、木刀は。

そんなもの一太刀受ければボッキリだぞ?まぁそれだけご立派な甲冑を着ていれば死ぬこたぁねえだろうけどよ」

「ハハハ、御忠告痛み入る。相当な腕前とお見受けする、貴殿とは後程手合わせ願いたいものだ。

だがその前に軽く身体をほぐしたいのでな、どうやら我と遊んでくれそうな者たちが、先程から熱い視線を送ってくれているのだよ」

 

そう言い楽しげな雰囲気を醸し出すシルバリアンに「お、おう。それじゃ後程な」とその場から離れていく偉丈夫。

 

「この空気、対人戦は魔物とはまた違った楽しさがあるな」(ニチャ~)

ボツリと呟かれた言葉は、果たして誰に向けたものであったか。

 

「それでは第一予選第一試合を開始します。予選通過者は最後まで舞台に立ち続けていた者のみ、舞台上から落ちた者は失格となりますのでご注意ください。

はじめ!!」

“““““ウォ~~~~~~~~~~!!”””””

 

係員の開始の合図と共に一斉に剣を振るい始める参加者たち、その様子に観客席からは大きな声援が上がる。

 

「「「「もらった~!!」」」」

そんな中、手に木刀を構えた甲冑姿の者はだれがどう見ても絶好の獲物にしか映らず、参加者たちは我先にと襲い掛かって来る。

 

“スーーーッ、ズバンズバンズバンズバンズバンズバンズバンッ”

その動きは流麗、一切の無駄がなく美しいとさえ思える体捌きで身を躱すや、襲い掛かって来た者たちを次々と打ち据えるシルバリアン。

 

“ドサドサドサドサドサドサドサッ”

一瞬にして空間が開き呻き声を上げ転がる剣士たち、その姿にたじろぎ後退る参加者たち。

 

「ん?どうした、来ないのか?ならばこちらから向かおう」

 

“カツンッ、カツンッ、カツンッ”

ゆっくりと、だが確実に迫って来る強者。

 

「「「「ウォーーーーー!!」」」」

剣を振り上げ次々と切り掛かる参加者たち。

 

“スッドガッ、スッドガッ、サササッドガドガドガッ”

その悉くを華麗に躱し次々と仕留める白銀の騎士の姿に、観客席は大きく盛り上がる。

“あの騎士は誰だ、今年の注目株はあの白銀の騎士か?”

方々で上がる声、シルバリアンはそうしたものなど聞こえていないとばかりに淡々と木刀を振るう。

 

「ふむ、どうやら貴殿で最後の様であるな」

それはくしくも最初に言葉を交わした偉丈夫。

 

「おう、しかし見事なもんだな。これでも俺は本選出場経験者なんだが、これまでお前さんほど華麗な剣の使い手なんか見たことないぞ。

さぞ名のある師の下で研鑽を積んで来たと言ったところか?」

偉丈夫は言葉を交わしながらも油断なく構えを取る。

 

「うむ、我が師は騒がれる事を嫌う故名を伏せるが、おそらく貴殿もよく知る名だと思うぞ?

近頃は静かに暮らしたいが口癖であったか、今更だとは思うのだが」

“スーーーーッ”

後方に引かれた木刀、それは大きく打ち込む事の合図。

 

「ハハハ、ならば一度紹介して貰いたいものだ。<スラッシュ>!!」

それは瞬間の打ち込み、武技を併用し確実に相手を仕留めに来た武人の技。

 

「その一振りや見事、だが武技は一瞬の隙を生む諸刃の剣、対人戦においては使いどころが難しくもあるな」

“パキンッ”

 

「なに、<スラッシュ>の斬撃を木刀で切り落としただと!?

“ドスッ”グホッ、お見事・・・」

“ドサッ”

 

倒れ伏す偉丈夫、<スラッシュ>の斬撃を切り飛ばし返す刀で技後硬直の隙を逃す事なく打ち倒したシルバリアン。

“““““ウォ~~~~~~~~~~~~~~!!”””””

一瞬の間合いに繰り広げられた高度な攻防戦に惜しみない声援を送る観客たち。

 

「第一試合、予選通過者903205番、登録者名“シルバリアン”」

係員から告げられた勝利の言葉、会場に広がるざわめきとシルバリアンという名前。

王都武術大会の歴史にシルバリアンの名が刻まれた瞬間なのであった。

 

――――――――――

 

ウッ、凄いやりづらい。

ジミーの奴、武人らしいめっちゃいい勝負を演出して会場を盛り上げたんですけど。去り際に軽く上げた手は“場は盛り上げた、次はお前の番だ!!”って奴ですか、お前は俺に何を求めているんだ、何を。

 

俺は会場入りする前に係員の前で収納から取り出した武器を見詰め大きくため息を吐く。

何で借りて来ちゃったかな、ドラゴンキラー。バルド先輩に正体がバレないいい方法ってないですかねって相談したら、「目立つ武器を使えばそっちに意識が行くからバレ難いんじゃないのか?」って言われたんで借りて来たんだけども。

こんなの振るって流麗な動き?無理無理無理。だってこれ剣の形をした棍棒よ?設計思想が打撃武器のそれよ?“切る”じゃなく“ぶん殴る”ために存在する武器よ?

 

「903206番」

番号を呼ばれ舞台に上がる。周囲の者はドラゴンキラーの威容に一歩後退る。

そりゃそうだよね、こんなのでぶった切られた日にはハイポーションでもどうにもならないもんね。

何か王都闘技場の舞台は特殊な結界が張られていて致死性の攻撃を受けても致命傷だけは回避できるとか。それでも年に何人かは死亡するって言うんだからヤバいことこの上ないよな。

ゲームじゃないんだし剣を振るって切り合うっていうんだから当然と言えば当然なんだけど、前世の歴史の授業で習った古代ローマ時代のコロッセオよろしく人がバンバン死ぬ催しって、やっぱこの世界って命が軽いわ~。

 

俺は大剣ドラゴンキラーを腰脇に構え、開始の合図を待つ。

 

「はじめ!!」

係員から掛けられた声、俺は鞘に包まれたままのドラゴンキラーを側面を向けたままぶん回す。

 

「なっ、お前、それはギャー」「ちょっと待て、尋常にギャー」「こっちに来ないでギャー」

“ドガン、バゴン、ドガン、ズゴン、バシン”

次々と吹き飛ぶ舞台上の参加者たち、一瞬の隙を突いて切り掛かろうとする相手もいるが、そんなものを気にする暇はない。

周りの動きは常に気配察知で捉えてるしね、<縮地>を使って詰め寄ろうにもそれに合わせてぶん殴れば舞台下にご案内ってね。

 

「よし、終了~。審判さん、どんなもん?」

俺の声掛けに、唖然としていた係員が意識を取り戻す。

 

「第二試合、予選通過者903206番、登録者名“黒蜜”」

係員の勝利者宣言に「どうも~」と軽く応えた俺は、鞘が壊れていないか心配しつつ舞台を下がっていくのだった。

あ~、腹減った、帰りに何か食べて行こう。




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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