転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第622話 学園交流会(武術学園) (2)

“ドゴーーーーン”

「そこまで、場外によりダミアンの失格とする。勝者、王都学園バルド・シュティンガー」

 

“““““ウォ~~~~~~~~!!”””””

大きな歓声を上げ盛り上がる観客席、舞台上ではバルド先輩が剣を掲げ観客に勝利をアピールしています。

舞台から落ちたダミアンさんは、痛そうにしていますが命に別状はないようですね。<聖女>アリスの治療を受けて嬉しそうに鼻の下をっておい、ちゃんと勝負したんだよな、わざと負けたとかじゃないよな?

・・・頑張った戦士に対するちょっとしたご褒美という事にしておきましょう。

 

「次は俺の番だな。バルド先輩がいいものを見せてくれたからな、俺もそれなりの勝負をしないと失礼だろう」(ニチャ~)

「待て、ジミー、少し落ち着け。相手は学園の生徒さんだ、いくら才能があろうとも常に危険に身を晒してる冒険者や武芸者とは違うんだからな?その辺分かってるよな?」

 

俺の言葉に何をあたり前の事をといった顔を向け、首を捻るジミー。

いや、だってお前、その顔は絶対分かってない顔じゃん、口元が笑ってるじゃん!!

 

「安心しろジェイク、俺だってこの王都に来て学んだ、マルセル村と王都との違いをな?

“砂漠には砂漠の、魔境には魔境の”だったか?場所場所によって常識や考え方が変わるように、その土地に合わせなければいけないという事もな。

今の俺は王都学園の生徒、であるのなら王都学園の生徒を基準にすべき。覇気も魔力纏いも封印、武技も封印した方がいいだろう。

要はマルセル村のお祭りでボビー師匠とお父さんに勝負を挑まれるときのケビンお兄ちゃんみたいなものさ、制約の中での全力、それもまた一興ってな」

 

そう言い悪戯そうな笑みを浮かべるジミー。この場に女の子は、ゲッ、アリスさんがいたよ、なにかジミーの事を見てポーッとしちゃってるよ。

アリスさん落ち着いて、それって恋でもなんでもないから、ジミーのジゴロにやられてるだけだから~!!

色気と少年らしさと男らしさがまじりあったジミーのジゴロパワー、今度マスクでもさせようかな、マジで。

 

俺の心の葛藤など露知らず、手を振り颯爽と舞台に上がっていくジミー。

 

「第四試合、王都学園ジミー・ドラゴンロード、武術学園ヘンドリック・バーン」

 

舞台の上ではジミーと対戦相手のヘンドリックが、正面から向かい合って対峙する。

 

「なぁ、一つ聞いてもいいか?なんかお前が大剣聖様に模擬戦で勝ったっていうホラ話が武術学園にも聞こえて来てるんだが、それって本当なのか?」

「あぁ、確かに大剣聖様とは手合わせして貰ったな。あれは武術の特別授業の時だったか。

確か大剣聖様に一本入れたのは俺の組の他にもう一組いたぞ?まぁその後直接手合わせして下さったあたり随分とお優しい方ではあったな」

 

そう言い肩を竦めるジミーに訝しみの視線を送るヘンドリック。

 

「要は大剣聖様がお前ら王都学園の連中に花を持たせたってだけじゃねえか、それをさも自分が実力で勝ったみたいに」

「まぁそういう事だな。その辺は大人の事情というものなんじゃないのか?俺にはよく分からんが。

それよりも試合だ、武術学園代表者の力、俺に知らしめてくれるんだろう?」

 

そう言い口元に笑みを作るジミー、それって完全に挑発してるよね?ヘンドリックさん、めっちゃ睨んでますよ?

 

「両者、開始位置へ。はじめ!!」

「ウォーーーーー!!」

開始の合図と共に突っ込んで来るヘンドリック、その様子をその場でじっと観察するジミー。

 

“ブンッ、ブンッ、ブンッ、ブンブンッ”

“サッ、サッ、サッ、サットンッ”

 

振るわれるロングソード、縦に横に、時にはフェイントを入れ突きを行って。だがその悉くを体捌きと足捌きにより躱していくジミー、その目はずっと対戦相手であるヘンドリックを捉え続ける。

 

「クッ、嘗めやがって。<ダブルスラッシュ>、<横薙ぎ一閃>!!」

ヘンドリックの武技、異なる武技を連続で使う高等技でジミーを追い詰めるヘンドリック。

 

「ふむ、大体分かった。ならばこちらからも行くぞ?ウォーーーーー!!」

大きな叫びを上げロングソードを振るうジミー、その剣はヘンドリックの武技に当たるやその勢いを相殺する。

 

「あれは<パリィ>?いや、ただ拍子を合わせてロングソードを打ち付けただけか?」

俺の隣でバルド先輩が呟く。ジミーの奴、覇気や魔力纏い、武技はおろか自身の剣技すら封印しやがった。その上で身体能力のみで対戦相手のヘンドリックを圧倒って、こんなのヘンドリックさん涙目よ?

まぁ本人には分からないだろうからいいんだけども。

その後も体捌き足捌きですべての打ち込みを躱し、武技をなんちゃってパリィで相殺していくジミー。一見派手に見える対戦に観客たちは大いに盛り上がっています。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ちょこまかと逃げ回りやがって。攻撃の一つも出来ない腰抜けが!!」

「ん?いいのか?それじゃ遠慮なく。ハァーーーーーッ」

 

膝を折り腰に力を込め、ロングソードを両手で握り右肩越しに掲げるジミー。その姿はまるで前世のマンガで見た薩摩藩士の構え。

 

“バッ、セイヤーーーーーッ、バゴンッ”

瞬間の踏み込み、一瞬にして間合いを詰められたヘンドリックは、反撃に転ずる間もなくジミーの一撃に沈められる。

 

「勝者、王都学園ジミー・ドラゴンロード。<聖女>アリス、至急治療を頼む、<ハイヒール>は出来るか?」

「は、はい、やってみます!!」

 

急ぎ倒れるヘンドリックの下に向かい治療を行おうとするアリス。

 

「あぁ、ちょっと待ってくれ。その前に衝撃でズレた骨格を調整した方がいい。それと内臓位置もな」

“バギッ、ボゴッ、ボギボギッ、フンッ”

 

物凄い音を鳴らして骨格調整を行うジミー、最後に背中に膝を当て“癒しの覇気”を打ち込んだ瞬間勢いよく口から血を吐き出したヘンドリックの様子に、「敗者にそこまでするのかよ」とドン引きになる観客たち。

 

「よし、これで問題ないはずだ。内臓もかなり損傷している、よろしく頼む」

「は、はい。“大いなる神よ、その御業を我が手に、ハイヒール”」

 

“パーーーーーッ”

アリスさんの詠唱と共にヘンドリックの身体全体が光に包まれる。そしてその発光が収まった時、ゆっくりと目を開けムクリと起き上がるヘンドリック。

 

「・・・ここは。お前はジミー、そうか、俺は負けたのか」

ボツリと呟くヘンドリックに、何も声を掛けられないアリス。

 

「あぁ、楽しませてもらった。またいつかやり合いたいものだ」

「ふん、次に勝つのはこの俺だ、だからそれまで負けるんじゃないぞ、ジミー」

そう言い自らの脚で舞台を降りていくヘンドリックに、観客席から惜しみない拍手が送られる。

 

「あの、いいんですか?勝ったのはジミーさんですし、ヘンドリックさんを救ったのもジミーさんです。私一人の力ではあれだけの容態の患者さんを、あんな風に直ぐに動ける身体にする事は出来なかったと思います」

そう言いジミーを見詰めるアリスさん。

 

「構わんさ、好きでやった事だ。それにあの男は“次に勝つのは俺だ”と言って去っていった。俺にとってそれ以上に嬉しい報酬はないから」(ニヤリ)

そう言い舞台を降りていくジミー。アリスさんはそんなジミーの背中をいつまでも見詰め続けるのでした・・・って駄目だよ?おそらくだけどそれってつり橋効果の一種だからね、そのドキドキは命の現場に携わった緊張からのドキドキだから、共にヘンドリックさんを救った事で共同意識が芽生えただけだから!!

 

無自覚天然ジゴロジミー、また一人の乙女がジミー地獄に引き摺り込まれて行くのでした。(合掌)

 

 

「次、第五試合、王都学園ジェイク・クロー。武術学園バネロハ」

 

舞台の上で忙しなく吐血跡を清掃していた係りの人たちが下がった後、名前を呼ばれた俺はゆっくりとした足取りで石段を上がった。

目の前には武術学園のヤバい人。バルド先輩が聞き込んだ情報によれば、素行と言動に問題ありとして王都学園入りを逃した<剣豪>の上級職持ちだとか。こうして代表選手に選ばれるくらいなんだから、武人としての素養はあるのだろう。

 

「チッ、いつまでも待たせやがって。前座なんざどうでもいいからさっさとやらせろっての。

おいお前、<勇者>なんだって?大そうな職業を授かって有頂天ってか?

でもな、職業って奴はただ授かっただけじゃどうしようもねえんだよ。

自分に何が出来るのか研鑽を積んで理解を深めて、そうして初めて職業は活きるんだ、知ってたか?

俺はな、手前が王都学園でチヤホヤされてる最中も確り鍛え上げて来たのよ、つまり手前よりも上って事だ、残念だったな。

この試合が終わったら俺も晴れて王都学園行きだ、そうなったら精々こき使ってやるからよ、楽しみにしてろよな」

 

そう言い嫌らしく笑うバネロハ。うわ~、関わり合いになりたくない人種だわ~。前世でいうところのDQNって奴じゃん、自分は好き勝手するくせに相手に歪んだ常識を押し付けてくるタイプじゃん。

 

「両者、開始位置へ。はじめ!!」

「オラッ、沈めや、<重撃連打>」

“ドガドガドガドガドガドガ”

 

開始の合図と共に繰り出されるバネロハの武技。

 

「まだまだ~、<横一線・縦一線>」

“バスバスッ”

 

「そんでおまけだ、<百連突き>!!」

“ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド”

 

怒涛の攻撃をただなす術もなく受け続ける<勇者>ジェイク。その姿に観客の間にざわめきが走る。

“あれが今代の勇者だと?あまりにも弱すぎないか?”

“いや、勇者と言っても未だ授けの議から一年と少々と聞く、それではあれ程の武技の使い手を如何する事も出来まい。これは対戦相手のバネロハを褒めるべきでは”

“しかしそれにしても無様すぎやしないか?”

 

期待と羨望、そして落胆。人は身勝手に相手の存在を大きくし、その理想に沿わなければ裏切られたと切り捨て、あしざまに罵る。

マルセル村のものたちはそうした人の本質、人の性というものを嫌というほど知っている。

 

「ハハハハ、どうした勇者様?反撃の一つも出来ないで情けないものだな。こんな奴が勇者じゃオーランド王国の未来も暗いよな~。

まぁ安心しろ、お前の代わりはこの俺様が確り務めてやるからよ」

そう言い目の前のボロ雑巾の様な相手を見下すバネロハ。

 

「そうか、それは助かるよ。俺はいずれ冒険者として世界に旅立つつもりだからな。この会場のお貴族様方もお前の技量を高く評価していたよ、よかったな、仕事の口には困らないかもしれないぞ?」

 

だが返ってきた答えは自身の望むものとは全く違うもの、それは至極冷静で淡々とした言葉。

 

「クッ、流石勇者と言ったところか、やせ我慢は一流だな、おい。

だが言葉遣いがなっちゃいねえ、ここは確りとどちらが上かその身体に教え込んでやらねえとな!!<一閃>」

“ズバンッ”

 

「<重撃乱舞>!!」

“ドガンドガンドガンドガンドガンドガンドガンドガンドガンドガンドガンドガンドガンドガン”

 

止む事のない怒涛の攻撃、まさに蹂躙。観客たちは思う<勇者>の命運もここ迄だと。

<勇者>は確かに強い、それは多くの歴史に残る活躍が証明している。だがそれは生まれ付いての強さではなく鍛え上げられ培われた強さ、なにも<勇者>の職業を授かった瞬間に圧倒的な強さを身に付けられるというものではない。

<剣聖>然り、<剣豪>然り、勇者に勝ちうる職業持ちは存在するのだ。

ましてやこれは武術の試合、魔法と剣術の両方を高い水準で使い熟す事が出来るという勇者の特性は完全に殺されている。

 

「ハハハハ、どうしたどうした、<勇者>と言っても所詮こんな物かよ~!!」

舞台上に響くバネロハの下卑た笑い、このまま<勇者>が何も出来ずに倒れバネロハが勝利する、多くの者がそう確信した。

 

「あぁ、もういいか?と言うかやれることはこれで終わりか?」

その声は武技の的となっていた<勇者>ジェイクから掛けられたもの。

 

「なっ、手前、なんで・・・」

そこにいるのはけだるそうに頭を掻く<勇者>ジェイク、先程までの激しい武技の洗礼が、まるで子供のじゃれつきであったと言わんばかりの冷めた目付きでバネロハを見詰める。

 

「俺ってさ、一般的な武技って受けたことがなかったんだわ。だからどんなもんかなって思って体験してみたんだけど、まぁ想像していたものと大差なかったかな?

それで格の違いを教えてくれるんだっけ?確り分かったよ、ありがとう。

お礼に俺もお前に格の違いを刻みつけてやるよ。

あぁ、安心しろ、刻み付けると言っても身体に傷を残す様なへまはしないから。

アリスさん、これってアリスさんにも出来る技だから覚えておくといいよ。<聖女>ってだけで色んな輩から狙われるかもしれないからね」

 

ジェイクがそう言うや、その手に握るロングソードが淡く光り出す。

 

「“魔纏い”、魔力を身体に纏う技なんだけど、訓練を積む事で手に持つ物にも影響させることができるんだよ。ただこうした金属製の武器に纏わせる事は凄く難しくてね、代わりに長杖なんかを使うといいかもよ?

それで纏わせる魔力なんだけど、<ヒール>、こうして魔法を纏わせる事も出来るんだよ。

これには無詠唱が出来るくらいの魔法に対する理解が必要だけどね。

それでね・・・」

 

ジェイクの気配が変わる、これまでの無風の野原の様な静けさが、嵐の如き暴風に変化する。

 

「いくよ、バネロハ」

“スッ、ドガドガドガドガドガドガドガドガ”

 

打ち込まれた一振り一振りが全身を砕かんばかりの衝撃をバネロハの身体に叩き込む。バネロハは避ける事も打ち返す事も出来ず、只管にその衝撃を浴び続ける。

 

“ドサッ”

その場に倒れ崩れ落ちるバネロハ。

 

「おいおいバネロハく~ん、なに勝手に寝転んでるのかな?傷どころか痛みすらないでしょう?だって打ち込んだヒールで確り治しておいたはずだしね。<リフレッシュ>、ほら、起きた起きた」

ジェイクの魔法により意識を覚ましたバネロハは、何が起きたのかも分からずノソリと立ち上がる。

 

「ね、アリスさん、便利でしょう?いくら剣を叩き込んでもケガをしないどころか元気になる。魔法って凄いよね。

さて、バネロハ君にはまだまだ学習が必要だよね、君が人の痛みってものを想像できるくらいに学習するまで、じっくり付き合っちゃうよ~」

 

<勇者>ジェイクの教育、観客席に集まった貴族たちは思った、“無理に<勇者>を取り込もうとするのは止めよう”と。

その後<勇者>による教育は、バネロハが「はい、ご指導ありがとうございます!!」と返事をするようになるまで続けられるのだった。




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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