「次、第二試合。王都学園ナバル・パイロン、魔法学園ミリー・スペンサー」
エミリーの治療により回復したキャッシーさんが共に舞台を降りた後、タスマイヤー先生の呼び掛けに応えナバル先輩が舞台に上がっていく。
「フフフ、ナバル、あなたとこんな形で顔を合わせる事になるとはね」
「あぁ、久し振りだな。最後に会ったのは一年戦争が終わる前だから一年半ぶりくらいか、元気そうで良かったよ」
「そうね、第二回アスターナ戦役でお父様が亡くなって、お家騒動が起きて。あの頃は大変だったから。
結局スペンサー子爵家は叔父が後を継ぐ事になり、私と妹は追い出されるように王都の遠縁の家に。今の時代珍しくもない乗っ取り劇、せめてお母様が生きていれば話が変わったんでしょうけど、今更どうしようもないわ」
「俺にもっと力があればよかったんだが、俺の家も父親と多くの側近が死んで混乱していたからな。幸いうちは先代の祖父が存命だったのと兄貴が確りしていたからすぐに騒ぎは収まったが、婚約者であるお前に手を貸せなかったことが今でも悔やまれるよ。
今更こんな事を言えた義理じゃないが、あの時は何も出来ずすまなかった」
そう言い深く頭を下げるナバル先輩。
「フフフ、相変わらず律儀ね。そんな事じゃ新しい婚約者さんに嫌われるわよ、男ならもっとどっしりとしないと」
「その台詞、昔も言われなかったか?“スペンサー子爵家を継ぐんだったらもっとどっしりと構えなさい”だったか?」
「そんな事も言ったかしらね、何か懐かしいわね。
昔話はおしまい、今は学園の交流会、ちゃんとしないとね」
「そうだな。ミリーにはいつも勉強を教えてもらっていたし、少しはその成果を見せないとな」
そう言い互いに短杖の魔法杖を構えるナバル先輩とミリーさん。
「両者、開始位置へ。はじめ!!」
「<アースアロー×5>」
「<アースウォール><ファイヤーボール×3>」
“バスバスバスッ、ドドドッ、バシュバシュバシュ、ドガンドガンドガン”
途端始まる激しい攻防、舞台上に轟音と共に爆炎が広がる。
「あら、<魔力障壁>も使えるようになってたのね。それに展開が凄く早いわ、真面目に魔法に取り組んでる証拠ね」
「まぁな、俺にはこれしか取り柄がないからな。そうは言っても兄貴や爺さんには遠く及ばないんだが。<ウインドランス>」
透かさずランス魔法を繰り出すナバル先輩、「<ウインドランス>」それに対抗して同じランス魔法をぶつけるミリーさん。
“ドガ~~ン”
空中でぶつかり合い相殺されるランス魔法。
「<魔力制御>の巧みさは親父さん譲りだな、あの人も凄まじかったからな」
「えぇ、私と妹はお父様の魔法に憧れていたもの。授けの儀の前でも出来る<魔力制御>の訓練は、今でも欠かさず行っているわ。
だからこんな事も可能よ?」
“ブワッ”
突如ミリーさんの背後に現われた何本もの触腕、<魔力制御>と<魔力操作>の賜物である触腕を操作する、魔法の家系って凄い。
「クッ、俺ですら二本しか操れないってのに、何歩も先に行きやがって悔しいったらねえな。<アースランス×2><操腕>」
「残念ながら私は<魔法使い>、<魔導士>のナバルには威力で負ける。でもその分を技術で補えば十分対抗できる、それを証明してみせるわ。
<アースランス×8><操腕>」
“バゴバゴバゴバゴ、ガギンガギンガギンガギン”
互いに作り出したランス魔法を魔力の触手で操りぶつけあう二人、その予想外の攻防に言葉を失う観客席。
激しい打ち合いに耐え切れず形を失うミリーさんのアースランス、だがそのダメージはナバル先輩のアースランスも同じ事、質の良いアースランスも数に勝るミリーさんのアースランスに徐々に押されていく。
“バリーン”
ナバル先輩の二本のアースランスが遂に砕ける、そしてミリーさんの触腕には残り二本のアースランスが。
「これで私の勝ちかしら?」
ナバル先輩に突き付けられたアースランス、ミリーさんが穏やかに微笑む。
「残念、引き分けだ。<闇腕>、闇属性の魔力腕は意識していないと気付くのが難しいだろう?」
そう言いニヤリと笑うナバル先輩、ミリーさんの首元には闇属性の触腕から伸びる鋭い刃が突き付けられている。
「そこまで。この勝負引き分けとする。両者、開始位置に戻るように」
審判のタスマイヤー先生の声が舞台上に響く。フゥ~と大きく息を吐くナバル先輩と悔し気に下唇を嚙むミリーさん。
「ミリー、お前がこの勝負に勝って王都学園入りを狙っていた事は分かっていた。だがお前の事情が何であれ俺が手を抜く事は出来ないし、そんな失礼な事をお前にだけはしたくない。
謝りはしない、ただお前は強かったよ」
「当然ね、そんな事をしていたらたとえナバルであっても力いっぱい殴っていたわよ。
あなたが対戦相手でよかった、ありがとう」
そう言い互いに礼をし舞台を降りる二人。
なんかスゲードラマチックなんですけど、エミリーさんとフィリーさんがお目目キラッキラなんですけど。「これが大人の恋愛、キャー、堪んない!!」とか言ってるんですけど!!
逃げて、ナバル先輩逃げて!!
俺はこの
―――――――
「第三試合、王都学園リリアーナ。魔法学園バルバロッサ」
第三試合の代表生徒の名が呼ばれるも未だざわつきの収まらない観客席、これまで抱いていた魔法職同士の戦闘とは一味違った玄人好みの打撃戦。
まさか観客も魔法の対戦でランスをぶつけ合う武闘派な戦いを見せられるとは思っていなかったのだろう。
私的には大変好ましい戦いだったのですが、世間はこの新しい感覚について行けない様です。
「ネイチャーマン先生、先程の戦いは一体・・・」
隣に座る武術担当教諭もその一人。それはそうですよね、魔法職の戦いで弱点である接近戦に持ち込もうとしたら何本もの触腕を出されてフルボッコにされかねないのですから。
「あぁ、アレは<魔力制御>と<魔力操作>を高める事で可能となる<触腕>と呼ばれるものでしょう。その呼び名は各家各流派で異なりますが、要は魔力を使って防壁を作る<魔力障壁>のように、魔力を直接使い何本もの腕が生えているかのように操る技となります。
しかしあのミリーという女子生徒は素晴らしかったですね、<触腕>は要するに自身の身体に新たに腕を生やすようなもの、その操作は並大抵ではない。簡単に言えば右手で文字を書き左手で絵を描いて、右足で投げ輪を行い左足で飛び跳ねるようなものです。
頭の中がぐちゃぐちゃになるような複雑な作業、それを八本同時に行うなんて尋常な<魔力操作>ではありません。
おそらく周辺の状況も確りと観察しながら全てを操っていたのでしょう。
ですがそれ程の複雑な操作を行っていればどうしても粗が出る。その隙を突いたのがナバル君です。会話の中に自身が作る事の出来る<触腕>が二本であるという誘いを入れた点も素晴らしい。
魔法の技量は相手の方が上、ならばどうすればそこを崩せるか。
私にはあの対戦が高度な心理戦を交えた名勝負に見えました」
「なるほど、魔法の対戦と聞いてただ強力な魔法の打ち合いと思い込んでいた不明を詫びなければいけませんな、本当に奥の深い」
私の解説に感心の頷きをする武術担当教諭。って学園長もですか?学園長は分かってあげなければいけないのでは。
ミリー嬢の力量は王都学園でも立派に通用する部類のものですよ?
しかし驚いたのはマルセル村以外にも<触腕>に辿り着き自身の武器としている魔法使いたちがいたという点です。驕り高ぶりはいけないと言いながら、いつの間にか私自身魔力操作技術はマルセル村に敵う者がいないと思い込んでいたのかもしれません。
世界は広いという事を改めて教えていただいた素晴らしい試合でした。
「両者、開始位置へ。はじめ!!」
タスマイヤー先生の合図に短杖を構える両者、ジリジリと動きながら相手の隙を窺っている姿は、まるで西部劇のガンマンの様ではありませんか。
「「<ファイヤーボール>」」
“ドガーーーン”
「<ファイヤーアロー×10>」
“サッ”
「<ファイヤーボール×10>」
“ドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガ”
両者の中間地点でぶつかり合い相殺されるボール魔法、その爆発の隙に多重<ファイヤーアロー>を撃ち込むバルバロッサ君。対してその動きは読んでいたとばかりに身を躱し多重<ファイヤーボール>を撃ち込むリリアーナ嬢。
「フゥ、流石に魔法学園の代表になるだけあってやるわね。私が避けて魔法弾を撃ち込んでくる事も計算済みだったってこと?
魔法学園では魔法による対人戦の訓練を行っているって話はどうやら本当の事みたいね、恐れ入ったわ。
でもなんて言うか、ある程度こういう場合はこういった対策をする方が効率的だっていう決まりごとが出来上がっちゃってるみたいね。
フィリーと対戦したキャッシーって生徒が同じ様な対応をしてたわよ?
それってある意味弱点になるから気を付けた方がいいわよ」
爆炎が晴れる、そして。
“ドサッ、バタン”
「勝者、王都学園リリアーナ。エミリー嬢、治療を」
膝を突き倒れ込むバルバロッサ君、急ぎ舞台に上がり治療にあたるエミリーさん。勝負は一瞬、まるで剣士の一騎打ちのような展開に、大いに盛り上がる観客席。
「ネイチャーマン先生、今の戦いは」
「はい、結果的にはあっけなく終わったように見える勝負ですが、互いに相手の行動を先読みした素晴らしい戦いでした。最初の<ファイヤーボール>のぶつかり合いで広がった爆炎、互いに相手が見えなくなる事を予測し撃ち込まれたバルバロッサ君の多重<ファイヤーアロー>、そうなることを見越し大きく身を躱したところから撃ち込まれたリリアーナ嬢の多重<ファイヤーボール>。
バルバロッサ君はこの反撃も確り読んで前面に大きく魔力障壁を展開していた。
でもこの行動は魔法学園での魔法による対人戦の中で生まれたお決まりの対策だったのでしょう、現に第一試合のキャッシー嬢も同様に魔力障壁を展開していた。
リリアーナ嬢はその点を見逃さなかった。
フィリー嬢よろしく繊細な魔力操作を行い背後からの奇襲を行ったと言ったところでしょうか。お見事の一言です」
私の解説に周囲で聞き耳を立てていた観客が“おぉ~~~”と感嘆の声を漏らす。
・・・学園長、武術の試合もそうですが魔法の試合も解説があった方がいいのでは?何か分かった様な顔をしてよく分かっていないといった保護者の方々がおられるようなのですが。
私は今後の学園交流会の在り方に提案申し上げるべく心のメモに記すのでした。
―――――――
「さて、次は俺の番か」
そう言い舞台へと向かうロナウド。
「ロナウド、穏便にな、ここって来週王都武術大会で使う場所だから、くれぐれも破壊だけは」
「あぁ、分かっている。直ぐに終わらせる」
俺の願いに手を振り石段を上がるロナウド、凄く不安なんですけど。
俺は舞台が壊れませんようにと祈りながら、ロナウドの戦いを見守るのでした。
「第四試合、王都学園ロナウド・テレンザ。魔法学園ミリアム・テール」
ロナウドの登場にざわめきが起こる観客席、ダイソン公国軍の精霊砲から多くの将兵を救った“万軍を救いし者”の称号を与えられし者、オーランド国とダイソン公国との戦いに終止符を打った三英雄の一人。
そんな生きる伝説がどの様な戦いを見せるのか。
「両者、開始位置へ。はじめ!!」
タスマイヤー先生の合図と共に短杖を構えるミリアム、対して腕をだらりと下げたまま前に歩を進めるロナウド。
「クッ、嘗めるな!<ウォーターボール×10><ウォーターアロー×10>」
“ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド”
撃ち出された魔法、それは勢いを増し正確に目の前のロナウドに突き刺さる。
だがロナウドの歩みは止まらない、まるでそよ風が吹く春の野を行くがごとく、平然と魔法の嵐の中を突き進む。
「クソッ、何なんだよこの化け物は!!<ウォーターラン“ガシッ、ギュッ”ギャー」
「残念だったな、ここまでだ。<ウォーターラン「ま、参った、俺の負けだ!!」・・・チッ」
“ドサッ”
額を鷲掴みにしていた手を離されその場に崩れ落ちるミリアム。その目は怯えるようにロナウドを見詰め、身体をガクガクと震わせる。
「勝者、王都学園ロナウド・テレンザ」
静まり返った王都闘技場、ロナウドはスッと踵を返すと、何事もなかったかのように舞台を降りていくのでした。
・・・ってめっちゃやりにくいわ、俺この後試合なんだけど!!親指立てながら「場は温めといたぞ!」って冷え切っとるわー!!
その後俺が舞台から降りて来たロナウドの胸ぐらを掴み、ガクガク揺さぶった事は致し方がない事だと思います。(T T)
本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora