職業、それは魔物蔓延るこの世界で人々が生き残れるようにと女神様がお与えくださった福音である。スキル、それは力ない人類に女神様がお与えくださった慈悲である。
王都学園と王都魔法学園との交流会。より実戦に近い魔法技術を披露する目的で行われた魔法学園生徒との対人戦、それは各人が己の持てる力を精一杯引き出し、己の最良を観客にアピールした素晴らしいものであった。
己のスキルと向き合い、己の最良を引き出す。これは王都武術学園との交流会に於いて各代表生徒たちが戦いの中で教えてくれたこと。
俺は自身の掌を見詰め己に問い掛ける。
「<鑑定>」
<鑑定>
名前 ジェイク・クロー
年齢 十三歳
種族 普人族
職業 勇者(堅牢)
スキル
鑑定 魔力支配 身体支配 聖剣術 収納 挑発 堅牢堅固 不撓不屈 自己回復 心頭滅却(New) 金剛無双(New)
魔法適性
火 土 風 光
称号
スライムの王の弟子 理不尽の弟子 神々の同情
加護
・・・なんか増えてた。授けの儀から一年と少し、マルセル村での修行の日々ってヤバかったもんな~。ボビー師匠・ヘンリー師匠・白雲さんにボロボロにされたのもそうだけど、大福ドラゴンヒドラがな~。
俺、何回死んだんだっけ?死をも厭わない修行って言葉は聞いた事があるけど、死ぬ事前提の修行って一体。そりゃ精神的に世間一般とのズレが生じるのも仕方がないよな。
俺は鑑定結果の新しい項目に再鑑定を掛ける。
<鑑定>
<心頭滅却>
たとえ劫火に包まれようと、その心は静かなる水面の如く。精神耐性に極大補正。
<金剛無双>
硬い、目茶苦茶硬い。どの様な攻撃にも耐え得る事の出来る究極の肉体をあなたに。物理攻撃耐性・魔法攻撃耐性に極大補正。
<慈愛神の加護>
健康・精神安定・自己回復力増強に補正。
*自分を大事にしてください。健気なあなたをいつまでも見守っていますよ。
・・・めっちゃ心配されてるんですけど。やっぱりマルセル村の修行って異常なんだって、神様が心配するレベルなんだって。
しかも新たなスキルも只管に耐える系統のものばっかじゃん、<勇者(堅牢)>が更に強化されちゃってるじゃん。
俺の職業やスキル構成から考えられる自己アピールの方法としては、午前中にバネロハ君相手にやったみたいに相手の攻撃を只管受けまくるってのが一番だったのに、それをロナウドの奴が先にやっちゃうし。
俺から壁要素を取り除いて何が残るっていうのさ!!ロナウドのバカヤロー!!
マジでこの後どうしよう。俺は重い足を引きずりながら、舞台の石段を一歩一歩上がって行くのでした。
「第五試合、王都学園ジェイク・クロー。魔法学園セシル・ロマーリオ」
タスマイヤー先生により名前が告げられる。舞台の上には俺と対戦相手のセシルさんが残される。
・・・あれ、タスマイヤー先生、どちらに行かれるんです?
「フフフ、あなたが今代の<勇者>ジェイク・クロー君ね。午前中の武術学園との戦いは見せてもらったわ。
あなたってば本当に凄いのね、私今まで色んな人を見て来たけど、あなたほど打たれ強い人って初めてよ。これって期待しちゃっていいのかしら?」
そう言い妖艶に微笑むセシルさん。えっとそれってどう言う意味で・・・。その艶やかな唇が違った意味で怖いんですけど。(主にエミリーの視線が)
「私ね、今まで全力を出せなかったの。だって人って直ぐに壊れちゃうじゃない?
あぁ、今的当ての事を考えなかった?あんなの子供のお遊びじゃない、本気になんかなれないわよ。武術学園の連中が人形相手の打ち込みに本気になれると思う?それと一緒、やっぱり駆け引きや読み合いがあっての戦闘よね。
そう言う意味じゃ魔法学園はいいわよ、ちゃんとした戦闘の授業があるんですもの。王都学園じゃそうはいかないらしいじゃない、リリアーナもかわいそうよね、あれだけの腕があれば存分に戦いたいでしょうに。
でもそんな学園で最強の座に就いてしまった私はどうしたらいいの?弱い者いじめなんて面白くないじゃない?
いつまでも活きのいい相手、直ぐには壊れないおもちゃ。あぁ、なんて素敵なのかしら」
そう言い恍惚とした表情で俺の事を見詰めるセシルさん。ってなんで俺の相手ってヤバい奴ばっかり!?
タスマイヤー先生これ知ってただろう、知ってて逃げただろう!!
「両者、開始位置へ。はじめ!!」
「フフフ、まずは小手調べ。<ファイヤーボール×20>」
“ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ”
“パンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンッ”
怒涛の如く繰り出される<ファイヤーボール>の連撃、だが俺はその悉くを手に持つ木刀で上空に叩き上げる。
「変わった形の長杖だと思っていたけど、それって木刀じゃない。そんなもので魔法の補助になるのかしら?」
「あぁ、安心してください。これ、素材がブラックウッドなんで。武器としても使える魔法杖、魔力増幅の魔方陣は刻まれていませんが魔力の通りは凄くいいんです。
お陰で今みたいに簡単に魔法を弾く事も出来るんですよ」
俺の言葉に「ふ~ん」と興味なさげに応えるセシルさん。
「でもそれじゃ詰まらないのよね。私はあなたが耐える姿が見たかったんだもの。
と言う訳で少し早いけど本気でいくわよ?<ファイヤーボール×40>」
“ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ”
“パンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンッ”
「アハハハ、凄い凄い“バシュッ”」
「それはどういたしまして“パシンッ”。怒涛の連撃の後の隙間を縫っての無詠唱での<ファイヤーランス>、中々えげつない事をしますね。
流石は魔法学園の最強です」
そう言い右手で襲って来た<ファイヤーランス>を掴み取る俺に、驚愕と言った表情を向けるセシルさん。俺はその<ファイヤーランス>を上空に投げ捨てると、次の攻撃に備える。
「アハ、アハハハハハ、凄い凄い。私の<ファイヤーランス>を手掴みって、一体何をどうしたらそんな事が出来るのよ。
やっぱりあなたって最高よ」
“バシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュ”
「いえいえ、<ファイヤーランス>を無詠唱で飛ばして来るセシルさんほどではありませんよ」
“パスンパスンパスンパスンパスンパスンパスンパスン”
激しい攻防、怒涛のランス魔法、俺はその悉くを上空に弾き飛ばしていく。
「それ程の魔法の腕があれば王都学園から編入のお誘いがあるんじゃありませんか?」
俺の問い掛けに途端嫌そうな顔をするセシルさん。
「嫌よ、そんな高位お貴族様揃いの学園。何が理由で処罰されるか分からないじゃない。それに中央学園には対人戦の魔法授業はないんでしょ?そんなの詰まらないじゃない。
私はね、魔法を使ったゾクゾクする戦いがしたいのよ、その為に魔法学園に通ってるの。
無論あなたが私の欲求不満解消に付き合ってくれるって言うんなら、考えてあげてもいいわよ?」
そう言い目を細め、妖しく唇を舌舐めずりするセシルさん。その妖艶な様子に観客席からはゴクリと生唾を飲む音が・・・。
エミリーさん、今のは俺じゃないですからね、怪しい殺気を高ぶらせるのは止めてください!!
「ハハ、それは遠慮させていただきたいですかね。って何するつもりです?」
「アハ、分かっちゃった?私ね、憧れの御方がいるの。元白金級冒険者のルビアナ・ブリーチ様、王都魔法学園出身の才媛。
隣国スロバニア王国で発生した大規模スタンピードをたった一人で焼き尽くし解決に導いた英雄、またの名を“獄炎のルビアナ”。
そのルビアナ様が最も得意としその二つ名の基となった魔法。
“大いなる創造の女神よ、大地を作り炎を生み出せし神よ、その御業を持ちて我に仇なす敵を打ち滅ぼせ、ボルケーノ”」
それは炎の海、大河のような炎獄の流れ。打ち寄せる逃れようのない燃え盛る炎の波に、一瞬にして飲み込まれる<勇者>ジェイク。
その時誰しもが<勇者>ジェイクの敗北を悟る。
多彩な魔法の才能、絶え間ない努力の末に辿り着く<勇者>の頂。魔法の勇者の英雄譚は、人々の心に根強く息づく憧れ。
だが目の前で繰り広げられる魔法の深淵はそんな人々の幻想を容易く打ち砕く。
<勇者>ジェイクは伝説に語られる魔法の勇者などではない、<勇者>の職業を授かっただけの全くの別人。
伝説に至るための冒険も始めていない未完の英雄。英雄とは与えられるものではない、成し遂げるものである。
未だ事をなしたことのない<勇者>に一体何を求めようと言うのか。
“ボフーーーッ”
その時、大地が爆ぜた。舞台を埋め尽くした炎の海が立ち上る柱の如く上空へと吹き飛ばされる。
「いや~、びっくりした。なんですか今のは?所謂上級魔法って奴ですか?それとも更に上の魔法?
なんにしても行き成り火の海に包まれるって意味が分かりませんよ、話に出てた“獄炎のルビアナ”って御方もとんでもないですけど、その御方の魔法を再現されるセシルさんもとんでもないですね」
そう言い「ぷへ~、参った参った」と平然とした顔を向ける<勇者>ジェイクに驚き固まるセシル。
「まぁね、魔法使い同士が互いの技量を高める為に魔法戦を行う、この事自体に反対するつもりはありませんよ?
確かに碌に戦闘経験も積んでいない魔法使いは実戦の場でものの役に立たないって話は、納得できますしね。
でもその為には最低限魔法に対する耐性や魔法攻撃に対する対処が出来るという事を前提としなければいけないと思うんですよ。
例えば魔法学園の代表生徒さんは魔力障壁を使いこなし、魔法戦闘における立ち回りもしっかり学んだうえでこの舞台に上がっている。対して王都学園の代表生徒は何も聞かされずこの場に立っている。
タスマイヤー先生、ブラウニー先生、そしてこの対戦を良しとした観客席の生徒保護者の皆さん、あなた方は馬鹿ですか?
貴方方は授けの儀の終わった子供を、上級職を授かったからと言って行き成り大森林に放り込む愚か者ですか?一人でも生き残れば上等、<勇者>なら生き残れるはずだ、死んだらそれまでのものだった、なんと期待外れな“はずれ<勇者>”だったことか。
何という無知、何という傲慢。己の欲と想像力の無さに胡坐をかき、教え導くという教職の者の責務も忘れ。
あぁ、セシル・ロマーリオさん、あなたの魔法は大変すばらしかったですよ。その言動は別としてあなたが魔法に対し真摯に真っすぐ向き合い研鑽を積んできたことはボール魔法一つとっても確り伝わってきました。
それに憧れの白金級冒険者の魔法を己のものとする、それがどれほど大変でどれ程の偉業であるのか、その事は俺が語るべくもない。
そんなセシルさんにはあなたのこれまでの成果をその身で味わってもらいましょうか」
そう言い<勇者>ジェイクが指差したのは上空、見上げた先、そこにあったものは・・・。
「はい、これまでセシルさんが俺に撃ち込んでくれた火属性魔法は全て上空に待機させておきました。
知ってます?火属性魔法は同じ火属性魔力を纏う事で掴む事が出来るんです。これはさきほど<ファイヤーランス>でやって見せましたよね。
これはその応用、上空に火属性魔力を伸ばしておいて打ち上げた魔法を捕まえておく。簡単そうに見えて結構難しいんですよ?
あぁ、折角です」
“ブオン、ドサドサッ”
「「ウガッ、一体何を」」
「先生方も味わって行ってくださいよ、大切な生徒の成果です、自らの魔力障壁で耐えられるものかどうか。
これくらい大丈夫、ケガはしても命に別状はないとの判断からこの対戦を考えられたんですよね?」(ニッコリ)
“““ゾクッ、ガタガタガタガタ”””
舞台上で声もなく震える三人、だが<勇者>ジェイクの言葉は舞台上の者ばかりでなく、観客席の者に対しても向けられる。
「この闘技場ご来場の生徒保護者の皆様方に申し上げます。これより始まりますは皆様方が望んだ学園生徒同士の魔法対決の集大成、魔法学園代表セシル・ロマーリオ嬢の火属性魔法の大爆発です。
ただ大変申し訳ない事にこの対戦に対しこの会場には魔法用の備えはありません。つまり大魔法による余波は全て会場内に広がることとなります。
先程の大魔法<ボルケーノ>は
なに、この場で何が起きたのかは生き残ったこの俺が王宮関係者にお伝えしますのでご安心を、こう見えても丈夫さだけには定評がありますので。
では参ります。降下!!」
「参りました、私の負けです!!どうかこれ以上はお止めください!!」
<勇者>ジェイクが掲げた手を振り下ろそうとした瞬間、大きな声で敗北を宣言するセシル。ジェイクは中途半端な姿勢なまま審判であるタスマイヤーに目を向ける。
「勝者、王都学園ジェイク・クロー!!試合は終わった、その魔法は直ぐに消したまえ!!」
叫ぶように告げられた宣言に、どこか詰まらなさそうにするジェイク。
「試合が終わってしまったんなら仕方がありませんね。セシルさん、いい試合でした。それでは」
そう言い舞台を降りるジェイク。
「ジェイク・クロー、あの上空の魔法を・・・」
「あぁ、そうでしたね。“炎よ飛べ、そして弾けろ”」
それは形を変え、巨大な火の鳥の姿に変わると上空高く舞い上がり、そして・・・。
“ドッゴーーーーーーーーーーーーーーーン”
王都上空を染める赤き炎、轟音とともに降り注ぐ爆風に、その魔法の恐ろしさを実感する観客たち。
その場に集まった貴族たちは思う、“<勇者>ジェイクに無理強いはしちゃいけない。貴族の横槍、駄目、絶対”。
こうして王都学園と王都武術学園・王都魔法学園との交流会は、各代表生徒たちの活躍の下、無事に終了したのであった。
“よし、エミリーの撲殺治療なし、俺頑張った!!”
舞台の下、一人本日の目標達成に小さく拳を握るジェイクなのでありました。
本日一話目です。