転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第628話 転生勇者、王都武術大会本戦に出場する

週は変わり、王都武術大会本戦開催日。天候は晴天、会場の王都闘技場前には会場入りする為に多くの人々が集まり賑わいを見せていた。

本戦出場者である俺とジミーはシルバリアンと黒蜜の格好で早めに会場入りし、選手控室でお茶をしながらくだらない話に花を咲かせていた。

 

「しかし驚いたのはあのアルジミールが隣国スロバニア王国からの留学生で、マルローニ侯爵家次男ってご身分だったことだよね。アルジミールの態度からてっきりどこかの伯爵家子息か何かだと思っていたのに、めっちゃ大物だったんだもん。

今回の婚約候補の話も一年戦争以降親密さを増した両国間の関係を更に強める為とかなんとか。もっともアルジミールは本命候補じゃないらしいんだけど、婚約者候補として外交の一環という名目で第五王女殿下を街に誘う事が可能なんだって。

それだけオーランド王国がスロバニア王国を重要視しているって事なんだろうね」

「うむ、そうであろうな。ダイソン公国との騒動は終結したとはいえバルカン帝国は名目上無傷、いつまた軍備を整えて侵攻を開始するか分からない。であれば同じくバルカン帝国の脅威に晒されているスロバニア王国がオーランド王国と手を組むは必定。

オーランド王国としてもバルカン帝国の脅威が変わらず存在する以上、へたにダイソン公国にちょっかいを掛ける訳にはいかない。ダイソン公国には良き隣人、よき壁になってもらわなければならんからな。

スロバニア王国との関係もそうだが外交的に難しい状態にあるという事は確か、国家間の婚姻外交も当然行われるだろう。

第五王女殿下、第四王子殿下に未だ婚約者が決まっていないという事はそうした政治的背景があっての事だろう」

 

フレアリーズ第五王女殿下の“ぬいぐるみ工房モフモフマミーに行きたい”という願いは、アルジミールの働きかけにより本当に実現する運びとなりました。

理由としてはモフモフマミーのある辺りが比較的治安のよい地域であり警護のし易い場所であった事、訪ねる場所がモフモフマミーだけである事などであったそうですが、最大の理由はスロバニア王国の婚約者候補からの申請であったことと第五王女殿下が同意している事だったそうです。(ヘレン先輩情報)

 

まぁフレアリーズ第五王女殿下としては相手がだれであれ安全にモフモフマミーに行ければそれでよく、アルジミールは一度でもフレアリーズ第五王女殿下をお誘い出来たという実績さえ残せれば本国に対し面目が立つのだとか。

自分と同じくらいの年齢ですでに国際外交に携わる二人、生まれながらに身分が高い人たちって本当に大変だよね。

 

その点俺はただの騎士爵だし、準貴族は貴族じゃないし、仕えてるのはホーンラビット伯爵家、つまりエミリーの家だし。

偉そうに見えて実は気楽、辺境の蛮族最高。ついでに言えばエミリーガードとこないだのやらかしのお陰でお貴族様絡みの変な接触一切なし。ラグラ君経由で一度第四王子殿下たちとお茶をする事にはなっているけど、まぁそれくらいはね。

参加者はアルデンティア第四王子殿下と側近三人と俺とエミリーとアリスさんとラビアナ様。何故にラビアナ様って思ったらアリスさんがどうしてもって頼んだんだそうです。第四王子殿下としてはアリスさんに対して少しでもイメージの回復を図りたいところだろうし、ラビアナ様は変な横槍を入れないから了承したってところなのかな?

あの御方、アリスさんと見目麗しい殿方の恋愛模様が見れれば満足っていう変態さんだからな~。頑張って公爵令嬢をしてますって辺りがなんとも残念臭を増幅させてくれるよね。

クルドア先輩に話を聞いたら、昔はごく普通の貴族令嬢だったらしいんだけど、三年前にアルデンティア第四王子殿下の婚約者候補に選ばれた辺りからどんどんよく分からない感じになっていったんだとか。

「叔母は使用人から闇属性魔法の使い方を習って喜ぶような奴だったからな。<ダークボール>や<ダークアロー>を習うならまだしも、<隠密>や<気配遮断>だぜ、意味が分からん」とはクルドア先輩の言葉。やっぱりラビアナ様は昔から変わり者だったようでございます。

 

なんやかんやとおしゃべりをしながら出場者控室でのんびりお茶をしている俺たち。フルフェイスのヘルムで顔を隠してるんじゃなかったのかって思うでしょう?黒蜜甲冑、口元が開きます。と言うか自由自在です、だってスライムだもん。

ジミーに至ってはヘルムを取って顔を晒しています。意外な若さに周りは驚いてましたが。(でもどう見ても旅立ちの儀は()うに終わった青年なので無問題)

そんな事をしていて大丈夫なのか?眼鏡をはずしただけなんですけどね、これが意外にばれないんですよ。流石は目立たないシリーズの眼鏡、印象ががらりと変わり過ぎです。

髪留めとミサンガはしていますよ?これを取ったら激ヤバですから。今でさえ結構な視線を集めていますし。

 

 

「それでは皆様、本戦開幕式が始まります、会場にお願いします」

大会係員の呼び掛けに動きだす面々。一癖も二癖もありそうな本戦出場者の顔ぶれに、ジミーの顔が歪む歪む。早くヘルムを被りなさい、変なオーラが漏れて周りがビビってるからね。

俺はテンション爆上がりのジミーを(なだ)めつつ、王都闘技場の舞台へと足を進めるのでした。

 

―――――――――――

 

ここはどこだ?確か昨日は食堂でボビーの奴に“いい加減に王都に帰れ”と説教されつつ、そんなボビーを揶揄って遊んでいたはずだが。

結構飲んでいたのは覚えている。そのまま食堂脇の元ホーンラビット伯爵邸であった宿泊施設の部屋で横になってぐっすり眠って、目を覚ましたら違う部屋とは意味が分からん。

これが知らない部屋というのならまだ分かる、何者かが何らかの目的で私を攫ったといっただけの話。これでも大剣聖と呼ばれる男、逆恨みを含めればどれ程の恨みを買っているかなど分かりようがない。

だがここは・・・。

 

“コンコンコン”

「失礼します、クルーガル先生、お目覚めでしょうか」

扉を叩き声を掛けてきた者、その聞き覚えのある声にまずは入室を許可する。

 

「クルーガル先生、おはようございます。朝食の準備が出来ましたのでお声掛けさせていただきました」

そこにいたのは見知ったよく知る人物、だが会う事の出来ない筈の人物。

 

「ラグラ殿、一つお聞きしたい。もしかしなくともここは王都にあるベイル伯爵殿の御屋敷で間違いござらんかな?」

「はい、クルーガル先生と従者の方は昨夜遅く馬車でお着きになり、お疲れのご様子であったため我が家の使用人の手で部屋にお運びさせていただきました」

 

ラグラの言葉にしばし考えこむクルーガル。自身が何らかの手段で眠らされ王都まで運ばれたことは疑いようもないだろう。であれば今がいつであるのか、少なくとも一月は掛かる行程、その間眠らされていたという割には身体にまったく違和感がない。

 

「してラグラ殿、今日が何日であるのかお聞きしても?少々寝過ぎた為か未だその辺がはっきりしないのでな」

「そうですか、長旅お疲れ様でございます。本日は六月の第四週、火の日でございます。予め先触れで大会当日には間に合うように戻られると聞いておりましたが、そこまでご無理をなさっておられたとは。流石は大剣聖クルーガル・ウォーレン様、その責任感の高さ、学ばさせていただきます」

 

そう言い慇懃に礼をするラグラ、対して何の事だか分からないといった表情のクルーガル。

 

「大会?大会とは一体・・・」

「ハハハ、流石はクルーガル先生、周りの者に気を使わせまいとするその態度、大剣聖としての御心の広さですね。

ではこのラグラの口から敢えて申し上げます。本日クルーガル先生が来賓として呼ばれております王都武術大会本戦の事でございます。

大会の行われます王都闘技場へは、朝食の後我が家の馬車でお送りさせていただきますのでご安心ください。では食堂でお待ちしております」

 

そう言い一礼の後部屋を下がるラグラ、ラグラの言葉に自身の中である考えに思い至るクルーガル。

 

「“偏屈屋のボビー”、あ奴、やってくれおったな。昨夜までやたらと王都に帰れと騒ぎ立てていたのはこちらを油断させるための罠であったか。

おのれボビー、この私を出し抜くとは生意気な。こちらの用を済ませたら直ぐに向かってやるからな、覚えておけよ!!」

部屋に響くクルーガルの怒りの声。だがその声はどこか楽し気で、さてどうやってやり返そうかと悪戯を考える子供の様な響きを含んでいるのであった。

 

――――――――――

 

“パッパラー、パッパラー、パパパパ~~~~~”

「“皆様、長らくお待たせいたしました。これより、本年度王都武術大会本戦を開始いたします。

本戦出場者入場、皆様、拍手を以ってお迎え下さい”」

 

“““““ウォ~~~~~~~~~~~~~~~~”””””

上がる歓声、鳴り響く拍手。多くの王都民が見守る中、俺とシルバリアンは薄暗い廊下を抜け明るい闘技場内に降り立つ。

大会役員の案内の下、一人一人舞台へと上がる本選出場者たち、その数三十二名。

 

「“オーランド王国国王ゾルバ・グラン・オーランド陛下、御入場。

皆様、礼を以ってお迎え下さい”」

魔道具による場内アナウンスが響く。来賓席の最上段、現れたオーランド王国最上位者の姿に、会場の者は皆頭を垂れ、礼を以って答える。

 

「“皆の者、面を上げよ。これより本年度王都武術大会本戦の開幕を宣言する。皆これまで研鑽を積み重ねてきた自身の力を存分に発揮し、勝利を掴み取るのだ。健闘を祈る”」

 

“““““ウワァ~~~~~~~~~~~~~~~~”””””

上がる歓声、鳴りやまぬ拍手、観客席に向かい手を振るゾルバ国王に人々の熱狂はさらなる盛り上がりを見せる。

 

「“それではこれより本戦第一戦を開始します。第一戦は四人による勝ち抜き戦、壇上に上がった四人のうち次の第二戦に上がれるのはたった一人。明日の第二戦に進みたければ、命を懸けて戦うがいい!!”」

まるで会場を煽るかの様なアナウンスに更なる興奮に包まれる観客たち。

 

「さてと、それじゃいっちょかましてきますか。シルバリアンは第五試合だっけ、そうなるとシルバリアンと当たるには決勝まで上がらないと駄目なんじゃん。これって・・・」

「うむ、期待しておるからな。途中で敗退しようものなら・・・」

 

「えっ、まって、ちょっと待って。俺って武器がドラゴンキラーなのよ?ロングソードのシルバリアンとは違うのよ?」

「互いに得手の得物ではない事に代わりはあるまい?では楽しみにしておるぞ」

 

「ちょ、それってズルくね?そのロングソードってば元々のシルバリアンの武器じゃんかよ~~~!!」

会場に虚しく響く声、手を振り舞台を降りていくシルバリアンに、黒蜜の情けない訴えは届かないのであった。

 

「ククク、何だお前、そんな大そうな装備を付けて今から負けた時の言い訳か?阿呆みたいな大剣を背負ってるからどれ程の剣士かと思えば、とんだ見掛け倒しだった様だな。そんなんでよく予選を通過できたもんだ。

これまで古参で活躍してきた大会の常連の多くがお貴族様に仕えるようになったからって、ここまで大会の質が落ちるとはな。

まぁいい、敵が一人減ったと思えば気楽なもんだ」

あざけりの笑いを浮かべ黒蜜に声を掛ける冒険者風の剣士、その腰には立派なロングソードが下がっている。

第一試合の為に舞台に残るのは四人、それぞれが強者の風格を纏い、黒蜜に鋭い視線を向ける。

 

「あら、あらららら?もしかして俺ってば最弱認定されちゃったとか?取り敢えず邪魔な弱そうな奴を皆さんで排除してから試合再開って奴ですか?

か~、世知辛い、もう少し夢を見させるくらいの懐の広さってものはないのかね~。そんなんじゃ新人が育たないぞ~。

折角のお祭り、楽しまないとね~」

そう言い剣帯を外し「ちょっとごめんね~」と声を掛けてから鞘を舞台下の係員に預けに行く黒蜜。

 

「いや~、めんごめんご。こいつってばデカいじゃん?鞘も大きくってさ~。武器なのに直ぐに引き抜けないって、これ造らせた奴って阿呆だよね。職人さん大変だっただろうな~、使ってる俺が言うのもなんだけど」

そう言い“よいしょ”と巨大な大剣を構える黒蜜、その威容に観客席からどよめきが起きる。

 

「それでは各人開始線について下さい。第一戦第一試合、はじめ!!」

審判の開始の合図に一斉に駆け出す三人の戦士。

 

「「「デカ物が足枷になったな、さっさと脱落しちまいな、間抜け!!」」」

三方向からの一斉攻撃、誰か一人に対処しようとすれば残りの二人に叩かれる絶体絶命のピンチ。

 

「うん、その判断は悪くないし正論だと思う。でもこれ、剣の形をした打撃武器なんだわ。だから長さや大きさは破壊力に直結するってね」

そう言い右肩に構えた大剣ドラゴンキラーを、バットのように横薙ぎに振るう黒蜜。

 

「それくらい読んでるわ!!」

“ガキンッ、ドゴッ”

「なんだと!?」

“グショッ”

「ちょ、うわ~」

“ドガンッ”

 

「フンッ!!」

“ブオンッ”

「「「うわ~~~!!」」」

一斉に攻め込んだことが仇となったのか、舞台上を吹き飛ぶ三人の戦士。

 

“ドサドサドサッ”

「「「ウググッ」」」

「はい、おまけ~」

“ドガッ、バゴッ、ドゴッ”

 

ドラゴンキラーから手を放し転がった三人に向け走り寄った黒蜜は、とどめとばかりにそれぞれの頭部に蹴りをお見舞いする。

 

「そこまで、勝者、黒蜜!!」

“““““ウォ~~~~~~~~”””””

 

あまりにあっけない結末、観客たちはその奇想天外な戦いぶりに驚きつつも、その飄々とした態度の戦士に惜しみない声援を送るのだった。




本日二話目です。
行ってらっしゃい。
by@aozora
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