転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第629話 転生勇者、王都武術大会本戦に出場する (2)

“ガキンッガキンッガキンッガキンッ”

剣と剣が交わる音が会場に広がる。そのメロディーは人々の熱狂を呼び、観客席からは戦士たちに向け大きな声援が掛けられる。

 

「クッ、<縮地><重撃><ダブルスラッシュ>」

「なんの、<豪炎城壁>」

“ドゴーーーーン”

 

技と技、意地と意地とのぶつかり合い。互いの命を懸けた剣士たちの戦いに、観客たちの興奮は止まらない。

 

「はい残念、大技の後の技後硬直って本当に致命的よね。武技を三つも同時発動させたその技量は流石だけど、ちょっと相手が悪かったかしら?

また来年頑張ってね~♪<火炎一閃>」

“ドスンッ”

“ウゴッ、ドサッ”

 

振り抜かれた一閃、戦士たちの戦いの果て、一人の強者が舞台上に残される。

 

「そこまで。勝者、リリー!!」

“““““ウォ~~~~~~~~~~~~~~~~”””””

 

自身の二つ名の元となった魔剣ファイヤーストームを大きく掲げ、観客に勝利をアピールする金級冒険者“爆殺のリリー”。その表情は、既に明日の戦いに向け獰猛に歪む。

 

「“引き続き第五試合、出場選手たちよ、出てこいや~~!!”」

魔道具より広がる大会役員の呼び掛け。会場端に用意された席を立ちあがり、舞台へと向かうシルバリアン。

 

「シルバリアン、分かってるよな?明日の事もあるんだからな?」

声を掛けたのは先に明日の第二戦へのチケットを手に入れている黒い甲冑姿の戦士、黒蜜。

 

「うむ、分かっておる。黒蜜が盛り上げた大会の空気を、明日の第二戦に向け更に熱くせよと言うのであろう?ここはひとつ<旋風領域>を広げて会場全体を吹き飛ばすというのも・・・」

 

「だ~~~!!違うから、派手にやれなんて一言も言ってないからね!!嬉しいのは分かるけど何か漏れてるから、自重自重」

黒蜜の言葉に自身がいつも以上に興奮している事に気付き、足を止めるシルバリアン。

 

「ふむ、どうやら我も祭りの熱気に当てられていた様であったか。これはまだまだ修行が足りぬと見える、黒蜜よ、感謝する。しかしどうしたものか、直ぐに終わるというのも味気なくはあるが、下手に抑えていては面白くないのも事実」

「剣術縛りでどうよ、武技や魔纏いを封印して己の身体に染み付いた剣術で勝負。相手は予選を勝ち抜いた一角の戦士、果たしてシルバリアンの剣術がどれ程通用するのか、楽しみじゃね?」

 

「・・・うむ、面白い。我はそもそも剣術に魅了された者故、その提案を受け入れぬ理由はない。黒蜜よ、感謝する。では行ってまいる」

そう言い舞台に向かうシルバリアンの後ろ姿に、“フィ~、これで舞台破壊は防げたよ。危ない危ない、ジミーの奴めっちゃテンション上がってるんだもん”とホッと胸を撫で下ろす黒蜜。

黒蜜はミッションクリアとばかりに肩の力を抜くと、席の背もたれに背中を預け、「役員さん、何か飲み物貰える?果実水があるの?じゃあそれで」と一人リラックスモードに入るのでした。

 

舞台の上では既に三人の戦士が揃い、それぞれの開始線について闘気をみなぎらせていた。

 

「待たせたようであるな、すまぬ事をした」

「いや、構わない。気持ちの高ぶりを抑えるには丁度良かった」

「シルバリアン、これまで聞いた事のない名だが、予選会では見事な剣技を披露したと噂になっていた。強い相手であれば多少の事はどうでもいい、早く始めよう」

“・・・コクリ”

 

三者三様、それぞれの反応にシルバリアンは剣を引き抜く事で応える。

 

「ん?予選会では木刀だったんじゃないのか?やはり本戦ではそうもいかないとみえるな、いい心掛けだ」

“スーッ”

 

「さてどうするか、どいつもこいつもいい雰囲気纏ってやがるからな」

“スーッ”

 

“・・・”

“スーッ、カチャリ”

 

「ふむ、これは楽しみだ。このシルバリアン、全力を以って貴殿らの期待に応えよう」

高まる闘気、その緊張が伝わったのか自ずと静かになる観客席。

 

「それでは各人開始線について下さい。第一戦第五試合、はじめ!!」

 

“バッ”

最初に動いたのはシルバリアンであった。向かったのは左側の対戦相手の下、相手はその動きに呼応しロングソードを構え迎撃の姿勢を取る。

 

「甘い、敵は一人ではないぞ!!」

だがそれを隙とばかりに横槍を入れる正面にいた戦士。シルバリアンは自身に迫る剣の横腹を叩き軌道を逸らすや、身を捻り肩同士をぶつける事で相手を最初の標的側に飛ばし、その反動を利用して気配を殺し迫って来ていた最後の一人の剣に対応する。

 

“ガキンッ”

「ほう、私の剣に応えますか、中々やりますね。ではこれではどうですか!!」

 

“バッ”

「<烈風連撃>」

“ガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキ”

それは嵐の如き連撃、まさに縦横無尽に撃ち込まれる重く鋭い剣技に防戦一方となるシルバリアン。

その背後ではシルバリアンに敵を擦り付けられた戦士が相手の隙を突いて斬撃を入れる。

周りは全て敵、混沌とした状況が生んだ一瞬の攻防に、押し黙っていた観客が一斉に歓声を上げる。

 

“ガキガキガキガキガキーンッ”

あまりの連撃についに吹き飛ばされるシルバリアン、その先には鍔迫り合いを行いにらみ合う戦士たち。

 

“クルンッ、ドスドスッ”

““グハッ、ドサッ””

 

身を翻し瞬時に両者を叩きのめしたシルバリアン、全ての動きが計算されたものであったことに驚きの声を上げる会場の観客たち。

 

「<縮地><ダブルスラッシュ>」

“ガキンガキンッ”

だがその勝利に酔いしれる暇など残った対戦相手が許しはしない。勝利後の一瞬の隙を狙う事は集団対人戦における定石、戦場では息つく暇すら命取りとなるのだから。

 

“ガキガキガキガキ、ガンッ、ギリギリギリギリ”

打ち合いの末の鍔迫り合い、顔を向け合い闘志を(みなぎ)らせる両者。

 

「素晴らしい、素晴らしいぞ。だが楽しみはここまでだ、“鬼の爪”」

途端剣を引き柄で相手の手元を打ち上げるや、膝を折り腰を沈めた体勢から曲げた肘を相手のみぞおち目掛け一気に叩き込むシルバリアン。

 

”ズドンッ、ビシビシビシ”

踏み込みの震脚により罅の入る舞台、勢いよく後方に飛びそのまま舞台に叩き付けられる対戦者。

 

「そこまで。勝者、シルバリアン!!」

“““““ウォ~~~~~~~~~~~~~~~~”””””

 

戦いは終わった。“武技や魔纏いを封印しての勝負は中々に知恵を使う楽しいものであった”と先程までの試合を振り返るシルバリアン。

 

「全てを封じ自らの剣技のみで戦う、ケビンお兄ちゃんは縛りプレーとか言ってたけど、制約の中での全力って言うのも悪くないかな」

シルバリアンはつい先週行った学園交流会の事を思いだし、次は何処まで解放しようかと口元をニヤケさせる。

 

「シルバリアン、それって剣技じゃなくて拳技だから~~~!!」

舞台下から響く黒蜜のツッコミ。数瞬考えた後、「あっ」と一言漏らしたシルバリアンが思わずそっぽを向いた事は致し方のない事なのであった。

 

―――――――――――

 

激しい打ち合いからの一瞬の逆転劇、見ごたえのある戦士たちの攻防に席を立ち腕を振り上げ興奮を露にする観客たち。そんな観客に手を振り勝利をアピールしながら舞台を下がるシルバリアン。

舞台の上では大会役員たちが出場者たちの治療に走り回る。

 

「クルーガル・ウォーレンよ、大剣聖のそちの目から見て本年度の王都武術大会はどうであるか」

 

会場観客席の特別な場所、来賓観客席でこれまでの戦いを見守っていた国王ゾルバ・グラン・オーランドは、同じ来賓席で戦いを見守っていた大会ゲスト大剣聖クルーガル・ウォーレンに、今大会の様子について意見を求める。

 

「ハッ、畏れ多くも国王陛下にお言葉をいただき感謝いたします。今大会は先の戦争により多くの実力者が各貴族家に仕官した事もあり出場者たちの実力不足が懸念されておりましたが、いざ蓋を開けてみればこれまで活躍してこなかった者たちの躍進や、新たな戦士の登場と、見どころの多い大会となっておりますな。

中でも注目は大会の常連とも言える“剛腕のテリー”と“爆殺のリリー”。聞いたところではここしばらくの大会には出ていなかったそうですが、以前見た時よりも数段実力が上がっているように見受けられました。

他には先程第二戦に進んだシルバリアン。武技を一切使用せず全ての攻撃をいなし、剣を押し合ってのせめぎ合いからの肘打ち。これは相当な技量がなければ到底出来るものではありません。

あと三戦、どんな戦士が台頭してくるのか楽しみでなりません。出来れば優勝者と剣を合わせ・・・」

 

「オホン、ウォーレン殿、御意見はありがたく。

国王陛下、陛下はどの様にご覧になられましたか?」

急ぎ大剣聖の言葉を遮るヘルザー宰相、“やたらな事を言ってゾルバ国王陛下がその気になったらどうする!!”と内心冷や汗を掻きつつ、話題の中心をゾルバ国王に移す。

 

「うむ、単純に愉快であったのは第一試合の黒蜜であったか。単純明快、見ていて爽快であったわ。続いた第二試合の“剛腕のテリー”も捨てがたい。以前の粗暴な感じが鳴りを潜め、その所作に戦いに対する敬意が感じられた。この数年、あ奴に何があったのかは分からんが、人生観を変える程の出来事があった事は確かであろう。

そしてクルーガルも言っていたシルバリアン、果たしてこの後どの様な戦いを見せるのか、明日の第二戦が楽しみな人物であるな」

 

“ドゴーーーーン”

“““““ウォ~~~~~~~~~~~~~~~~”””””

 

戦いは進む、各出場者が明日の第二戦を目指し剣を振るう。

王都武術大会本戦は更なる盛り上がりを見せながら、次なるステージへと進んで行くのであった。

 

――――――――――

 

街の喧騒は続く、昼間に行われた王都武術大会の興奮はそのまま夜の歓楽街に持ち込まれ、眠らぬ街に更なる輝きを与える。

そんな歓楽街の一角、他とは一線を画す紳士の社交場“倶楽部雪の雫”でも話題の中心は王都闘技場で行われた武術大会の事であり、紳士たちの語る大会のようすに、麗しの蝶達は興奮気味に耳を傾ける。

そんな超高級娼館の更に奥、一部の関係者しか立ち入ることを許されていない場所でさえ、それは変わらない。

 

「“暴虐”、今日の王都武術大会本戦、お前はどう見る?」

「はぁ?それを俺に聞くか?そんなもん全員この拳で吹き飛ばして見せるって言いたいところだがな、よく分からないのが二人、それと明らかにヤバい奴が一人混じっていやがった。

上手く誤魔化してたみてえだが、ありゃ既にまともな人間じゃねえぞ。こういう事は“占い屋”のばぁさんの方が詳しいんじゃないのか?」

 

“暴虐”の言葉に“占い屋”と呼ばれた者は嫌そうなそぶりを見せながらも口を開く。

 

「ハァ、まったく“暴虐”の坊やもいい勘をしてるね~。確かにアレはこっちの分野だね。“生き人形”、本来死者を操り生前の技術を再現させる“呪い人形”と呼ばれる死霊術の一種、それを生者に施したものがそれさ。

素体となる人間の同意を得る事で魂を縛り不死の化け物を作り出す。その人物の性格的特徴は引き継ぐものの基本的に術者の命令に忠実な人形の出来上がりさね。

所謂禁術、素体の同意を得る方法なんざ幾らでも用意出来るからね、こんな稼業に身を置くあたしが言えた義理じゃないが、外道の所業さね。

 

まぁあんなものを用意するくらいだ、目的はおそらく国王陛下の暗殺、動乱の世を再びといった所じゃないのかい?

“伯爵”にはその辺の話は入って来てないのかね」

 

「いや、私のところには全く。奴の素性を洗ってはみたのだが、スロバニア王国から来た銀級冒険者といった事しか分からなかった。これもおそらくは罠、いざ騒動が起きればたとえ未遂であろうとオーランド王国とスロバニア王国との関係に大きな溝を作る事が出来るだろう。

この機会、帝国が逃すと思うか?これはおそらくという話になるが、十中八九帝国絡みの案件だろうな」

 

“伯爵”はそう答えると腕組みをしたまま口を(つぐ)む。

国王の暗殺ともなれば次期国王であるレブル王太子がそのまま王位を継ぐ事になるのか、それとも王太子をも暗殺し他の王子を擁立する勢力が台頭するのか。国内に帝国と繋がる勢力が?であるのならば自分たちの立ち位置は。

 

「ふ~ん、この様子じゃあの“生き人形”に君たちは絡んでないみたいだね。だからどうって事でもないんだけど、帝国は相変わらず元気だよね~。

確か前回のオーランド王国侵攻作戦の中心人物だった東部方面作戦参謀長イワン・ビスコッティーって人物が失脚しちゃったんだっけ?帝国には呪術を研究する組織ってのもあるみたいだし、大方手柄を欲した軍の人間か貴族辺りが差し向けた刺客って所だろうね」

 

突然の声に一斉に臨戦態勢に入る闇の者たち、テーブルにはいつぞやの化け物がいつの間にかティーカップを傾けながら席に着いている。

 

「あぁ、今日はちょっと王都武術大会の事が気になったから顔を出しただけ、特に何か要求があるとかじゃないから安心して。それといつも“料理長”にはお世話になってます。君たちの情報網は本当に役に立つよね、これはほんのお礼」

そう言い化け物がどこからともなく取り出したもの、それはレッサードラゴンの尻尾と脚。

 

「ちゃんと血抜きしといたから捌けばすぐに食べれるよ。今日と明日は王都のお祭りみたいなものなんでしょう?皆も楽しんでね、それじゃ」

そう言うやまるで初めからそこには誰もいなかったかのごとく忽然と姿を消す化け物。だがその事が幻覚などではないという事は、その場に残されたレッサードラゴンの肉塊が知らしめる。

闇の者たちは止まらぬ冷や汗を拭いながら、「化け物の対応は“料理長”に一任しよう」と全会一致で決定するのだった。




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