転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第63話 転生勇者、現役冒険者に教わる

「いいかいジェイク君、ジミー君、エミリーちゃん。冒険者は冒険しない、無謀や挑戦は訓練の時にするものだ。依頼を受けた冒険者が冒険なんてしたら、依頼者に対して失礼なばかりでなく依頼者の命に関わる。これは絶対に忘れてはならない事だ、分かるな」

 

「「「はい、ソルトさん!」」」

 

「よし、いい返事だ」

 

マルセル村を訪れたモルガン商会の行商人一行は、本日は商品の仕入れを行い明日の朝早くに出発するとの事。村での滞在中の護衛は必要ないとの事で、護衛依頼で訪れた銀級冒険者パーティー“草原の風”の二人は丸一日休みとなっていた。

そんな絶好の機会を逃すほどマルセル村のチビッ子たちは甘くはない、言葉巧みに二人の現役冒険者をボビー師匠の訓練場に誘い出す事に成功していた。

 

「そしてこれから行うのは訓練。現役銀級冒険者に挑む事はハッキリ言って無謀以外の何物でもないが、これは訓練だ、全力で掛かってくるがいい」

 

「「「はい、よろしくお願いします!」」」

 

現役銀級冒険者ソルトは自他共に認める子供好きであった。彼は冒険者に憧れキラキラした目で冒険譚に耳を傾ける子供たちが好きであった。木刀を手に掛け声高らかに挑んでくる子供たちの真剣な顔が好きであった。

だからこうした村に滞在する機会が出来た際は、可能な限り子供たちの要望に答える様にしていた。

 

「よし、始めはジェイク君だな。この半年でどれくらい成長したのか、全力で挑んで来るがいい!」

 

「はい、よろしくお願いします!」

 

そんな子供たちと冒険者の様子を見るボビー老人は、彼らチビッ子軍団にある制約を掛けていた。

“魔力纏いは使わない”、“力任せの攻撃を行わない”。

全力とは何も力強い一撃を打つ事のみを指す言葉ではない、己の学び研鑽してきた技術を駆使する事、知恵を絞りまるで詰め将棋の様に相手を追い詰める戦略的戦いもまた、全力の戦いに他ならない。

 

“ジェイク君、君の剣は素直過ぎる。この中に少しだけ嘘を混ぜる事でその戦術の幅は大きく広がる”

ジェイクの脳裏に甦る元騎士長グルゴの言葉。

打ち込んで打ち込んで、凪払うと見せ掛けて小手打ち。

“タンッ”

“カランッ”

落ちる木刀、冒険者ソルトが慌てて木刀を拾いに走るも、そこには残心を忘れず刃を向けるジェイク少年の姿。

 

「そこまで。勝者ジェイク」

 

「ジェイク君強くなったな~、まさかこうも完璧に負けるとは思わなかった。以前はもっと力任せと言うかがむしゃらな印象だったが、今の剣には一つ一つの動きに意図があり意志が感じられた。

冒険者の戦わなければならない相手は何も魔物ばかりではない。ジェイク君はこの冬対人戦術の修行でもしていたのかな?」

 

「はい、流石はソルトさんやっぱり分かりますか?僕たち頑張りました!」

ソルトの問い掛けに元気いっぱいに答えるジェイクは、彼の答えに冷や汗を流すソルトには気が付きもしない。

 

「そ、そうなんだ。もしかしてジミー君もかなり腕を上げてるとか?」

 

「僕なんかジミーの足元にも及びませんよ。こと剣術に関してはジミーが一番ですから」

そう言い我が事のように自慢げな顔をする少年ジェイク。

 

「ベティー、先にエミリーちゃんとの手合わせをお願いしてもいいか?俺ちょっと装備付けて来る」

 

「ハァ~?あんたなに言ってるのよ、相手は授けの儀前の子供なのよ?それを装備って、あぁ行っちゃった。みんなごめんね、あの馬鹿が急に訳の分からない事を言い出して。

それじゃエミリーちゃんはこのベティーお姉さんが見てあげるわ、準備は良いかしら」

 

「はい、ベティーさんよろしくお願いします」

そう言い深々と頭を下げるエミリーに“素直な子供は可愛いわね”と頬の緩むベティー。だがそんな余裕は勝負開始後直ぐに打ち消される事となる。

木刀を取り構えるエミリーの立ち姿は堂に入っており隙らしい隙が見えない、そしてじっくりとこちらを見定める様な目は、獲物を狙う獰猛な獣のそれ。

実力のほどを見てあげる?私はなんて勘違いをしていたのか、観察され計られているのはこちら、エミリーちゃんはいつでもこちらを仕留められる、そして油断なくその時を狙っている。

“ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ”

乱れる呼吸、掛る重圧。掌にじっとりと溜まる汗、仕掛けなければ、殺られるのはこちら。

 

「ハッ!」

瞬間の打ち込み、これまで培った冒険者としての経験が最適な動きを導き出す。だがエミリーはその剣にぴったりと合わせるかの様に木刀に切っ先を打ち付け、剣の軌道を逸らしベティーの懐に身体を潜り込ませてくる。

“掛った!”

だがそれこそがベティーの仕掛けた罠、実践における駆け引きにおいて一日の長のあるベティーの計略、それは剣の柄による打ち下ろし。すでにそこは逃げようのない危険地帯、勝負は決まったかに思われた。

 

その瞬間、エミリーが微笑んだ。

打ち下ろされた柄もとを両の手で優しく包み込み、勢いを殺さずに引きずり込む。

“フワッ”

宙を舞う身体、逆さまになる世界。

“ドサッ”

地面に打ち付けられ初めて自分が投げ飛ばされたのだと気が付くベティー。一体何が起きたのだと言うのか?

“スッ”

首筋に添えられる一本の木刀、それはエミリーちゃんの持つ刃。

 

「そこまで」

掛けられたボビー老人の声に漸く理解が追い付く、自分は敗北したのだと言う事に。

 

「ありがとうございました」

元気よく満面の笑みで礼をするエミリーちゃんからは先程のような鋭さは一切感じない。これは一体何だったと言うのか。

ベティーはテトテトと走り去っていくエミリーの後ろ姿を、ただ呆然と見送るのでした。

 

 

「お待たせして悪かったねジミー君。ってベティー、お前エミリーちゃん相手に真剣使ったのかよ。何考えてるんだお前は、危な過ぎるだろうが」

訓練場の真ん中で剣を片手にボ~ッと佇むベティーに思わず声を掛けるソルト。それはそうだろう、子供たち相手の稽古に真剣をかざしている者がいれば誰だって注意する。

 

「だって変に慣れない木刀を使うよりもこっちの方が安全じゃない、ってあんた何フル装備で来てるのよ。」

ソルトの声掛けにハッと我に返ったベティーは言い訳しつつ振り向いた瞬間、ソルトの姿を見て声を上げる。上体には丈夫な革鎧を着こみ、手には手甲、脚にも太ももと脛を守る防具、額宛を付けた完全戦装束姿の相方を見れば驚きもする。

 

「馬鹿野郎、俺は死にたくないの、それくらい肌で感じろこの脳筋」

 

「肌で感じろって、相手はまだ授けの儀の前の子供・・・ごめん、ソルトの方が正しいわ。危機意識が足りないのは私の方だったみたい。それをすぐに察知して準備したあなたは一流の冒険者であり一流の護衛だわ」

ソルトの言葉に言い返そうとして自分の浅はかさに気が付くベティー。

彼はジェイク君との一戦で感じ取ったというのに自分はそんな二人の戦いを見ていながら全く気付く事が出来なかった。それは依頼遂行時においては失敗を、最悪パーティーの全滅を意味する大失態。

 

「って事はエミリーちゃんもって事か。ボビーさん、あんたこの子らに何教えてるんですか!?」

 

「いや、儂は普通に生きる術をだな」

 

「この子たちのどこが普通なんですか、そこらの自称一流銀級冒険者の何倍も強いじゃないですか、実力だけなら金級冒険者並みじゃないですか、相手をして貰ってるのって俺らの方じゃないですか!!」

 

「いや、まぁ、うん、そう言う事もあろう。何事も経験、気にするな」

 

あいまいに言葉を濁すボビー老人。彼は心の中で思った、“ビッグワームの緑はもっと強いぞ~”と。

ボビー老人は自らがビッグワームに劣ると認め、自身を見つめ直す事でさらなる心の強さを手にしていたのであった。何度もケビン少年に挑む男は伊達ではないのだ。

 

「ソルトさん、よろしくお願いします!」

礼儀正しく挨拶をするジミー少年。その姿は彼の落ち着きのある立ち振舞いと相まってとても大きく見える。

と言うか本当に大きいな、この冬でまた一段と背が伸びたんじゃないのか?実際俺と大差ないだろう、旅立ちの儀が終わってますって言っても誰も疑わないっての。その上あの甘い面立ち、領都だったら日夜女性たちが大騒ぎだぞ。

 

“スッ”

構えられた木刀、それだけでジミー少年の雰囲気が一変する。それは長年最前線で戦い続けてきた戦士の気配、あらゆる無駄を削ぎ落とした一振の剣。一切の油断は許されない、神経を、精神を研ぎ澄ませて始めて同じ舞台に立てる、そんな領域。

 

“見られている”

足先の動きが、重心の移動が、瞳孔の開き、胸の鼓動に至るまで全てが冷静に観察され分析されている、そんな感覚。

ソルトはまるでドラゴンに対峙したかの様な恐ろしい迄の重圧を、これ迄の実戦と知識、経験によってはね除ける。

 

冒険者は決して冒険しない。これは己の信念であり、実戦の中で培った生き残る為の知恵。

だが実戦の場ではその様な“理想”は簡単に覆される。情報を集め、装備を揃え、入念に準備を整えてもなお襲い来る危険。魔物跋扈するこの世界において、依頼における危険とは往々にして想定の範囲を軽く凌駕する。

その様な事態において冷静且つ臨機応変に対処し状況を乗り切る、依頼者の利益を最大限確保する。そうして生まれる数々の冒険譚、事態を乗り切った者たちの知恵と工夫の物語。

彼ら冒険者が子供たちの憧れとなり、敬意を込めて“冒険”者と呼ばれる所以である。

 

“冒険者は決して冒険しない、然れど訓練における無茶無謀は別、それは明日の命を繋ぐ糧になる”

銀級冒険者ソルトの心は決まった。この場の格上は目の前の少年ジミー君、ならば自分のやる事は変わらない、いつもの様に足掻くのみ。

そうしてソルトが決意の籠った目でジミー少年を見据えた時であった。

 

「そこまで」

突如掛けられるボビー老人の声、一体なんだと言うのか。

だがその答えは直ぐに理解出来る事となる。

突き付けられた木刀、眼前で構えを取るジミー少年。ソルトはそこで初めて自分が既に敗北していた事を知る。

 

「ありがとうございました!」

礼儀正しく頭を下げるジミー君に未だ何がどうなったのか理解出来ず混乱するソルト。

 

「あ~、うん、まぁそうなるわな。離れて見ていたベティーは何が起きたか理解出来たかな?」

 

「いえ、ジミー君がゆっくりソルトに近付いてそのまま木刀を突き付けたとしか。ただ気になったのはその動きが恐ろしく滑らかに見えた事くらいでしょうか」

 

「うむ、言うてそれだけの事ではあるのじゃが、人というものは上下左右のブレの動きが無いものを動いておると認識する事は困難なのじゃ。先のジミーの動きはソルトから見れば全くと言っていい程動いて見えなかった筈だが、どうであった?」

 

「はい、ボビーさんに声を掛けて貰うまで、木刀を突き付けられている事すら分かりませんでした」

ソルトは先程の光景を思い出し身を震わせる。あれが真剣であったなら、実際の依頼先であったのなら、自分は今こうして話など出来ない身体になっていたのだと。

 

「うむ、あれは本来達人と呼ばれる程の剣士が見せる高等技術、スキル等とは全く別の所謂剣技の極み。その動き自体は只人でも見る事が出来るものの容易に真似る事の出来ぬ絶技。ソルトが対処出来ぬのも致し方のない事なのじゃ」

そう言い鼻の頭をポリポリ掻くボビー老人。

 

「「だったら何故そんな絶技をジミー君が会得してるんですか!ボビーさんは彼らをどうするつもりなんですか、国家転覆の為の特殊部隊でも育てているんですか!」」

堪らず詰め寄る二人の銀級冒険者、そんな二人を宥めつつ困った顔をするボビー老人。

 

「そうは言われてもの、あ奴らどんどん強くなるんじゃから仕方あるまい。それに先程のジミーの技はわしが教えたものでもないしの。ほれ、そこに元凶が来ておる」

そうボビー老人の指し示す先には、昨日出会ったケビン少年の姿が。

 

「ソルトさんにベティーさん、チビッ子の相手をして頂きありがとうございます。お身体の方は大丈夫ですか?彼ら子供とは思えない程強いから大変だったでしょう。

一応ポーションとスタミナポーションを持って来たんですが、お怪我の方は大丈夫みたいですね、良かったです」

 

「丁度良かったわい、ケビン、ちょっと手合わせに付き合わんか。ほれ、子供たち、ケビンお兄ちゃんの剣技、良く見ておくんだぞ?」

 

「「「ケビンお兄ちゃん、頑張って!!」」」

 

「ちょ、爺!それは卑怯だろうが!」

 

「ワハハハ、状況を整えるのも戦いじゃわい、ケビンは魔力纏い及び魔力による強化は禁止じゃ、己の身体能力の全てを掛けて戦うがいい!」

 

「ちょっと待て爺!それは縛りがキツ過ぎるだろうが!って木刀を投げて来るな!うわ、早い早い、打ち込みが本気だろうが~!」

 

“ドガドカドカドカ”

ボビー老人のその年齢からは考えられない様な鋭い剣戟がケビン少年を追い詰める。

 

「どうしたケビン、いつも言っておろう、そんな剣の使い方では一流の冒険者にはなれんと」

 

「そっちこそ何度も言わすな、俺は村人、冒険者にはならないの!大体普段から剣を持ち歩く村人なんかいるか~。対襲撃用防御術“白煙幻夢”」

途端ケビン少年の構えが変わる、それは木刀を一本の杖として見なす棒術の構え。そしてボビー老人の怒涛の連撃を捌くだけでなく、隙を作りだし懐から何かを取り出しボビー老人に投げ付ける。

ボビー老人はそれを咄嗟に木刀ではね除けるがそれこそがケビン少年の狙い、木刀によって弾かれたそれはその衝撃で空中に霧散し周囲を白い煙で覆いつくす。

 

「グホッ、ゲホッ、目が、目が染みる。しかも強烈なこの臭いはなんじゃ~!!」

“ゴブリンの腰巻を濃縮した臭いですよ、ボビー師匠”

“ドガドガドガッ”

“ドサッ”

訓練場に鳴り響く強烈な三連撃の音、そして倒れ伏すボビー老人。

ケビン少年は全く学習しない老人を肩に担ぎあげると、“結局このポーションはボビーさん行きなのね”と呟きながら練習場脇の家へと運んで行くのでした。




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