王都民にとってのお祭り、王都武術大会。本戦二日目はこの祭りのメインであり、その観覧チケットはそれこそ金貨を積んでも欲しがる者が出る程の価値があると言われる程の人気を誇っていた。そんな価値あるチケットを手に入れた選ばれし幸運の持ち主たちは、今日はどういった戦いが繰り広げられるのかと期待に胸を膨らませながら思い思いの感想を口にする。
「ついにこの日がやって来たわ、“爆炎のリリー”様が名実ともにオーランド王国の頂点に立たれる日が。
リリー様が姿を消された三年間、私たちがどれ程その復活を心待ちにしていた事か。
リリー様、今こそ脳筋の男共に思い知らせてやってください、真の強者がどういうものなのかを!!」
「はぁ、何を言ってやがる。今年の優勝は“剛腕のテリー”様に決まってるだろうがよう。あの豪快にして流麗な大剣捌き、あれほどの剣士が他にいるか?
ズバリ優勝は“剛腕のテリー”様一択、間違いねぇ!!」
互いに一押しの出場者の名を上げ興奮する者、昨日の第一戦を振り返り分析を行う者。王都武術大会二日目は、開始前から大いに盛り上がりを見せるのであった。
「うわ~、スゲーの。シルバリアン見て来た?今日も闘技場の観覧席が人でぎっしり、何処からこんなに人が集まって来るのってくらいの賑わいを見せてるでやんの。
それだけ王都武術大会が注目されてるって事なのかね~。これって本戦二回戦に進んだ俺たちって結構な有名人になってるとか?もしかして握手とか求められちゃったりするって奴?」
そう言いやや興奮気味に話す黒蜜に、シルバリアンが冷静な口調で話し掛ける。
「黒蜜、我が家に伝わるある言葉を教えよう。“壁に耳あり、廊下にメアリー”、これは余計な事を口にして母上に説教を受けていた父の様子を見た兄が言った言葉だ。
女性というものは勘が鋭い、何処で話を聞いているかなど想像もつかない。先程の黒蜜の言葉も、あと少し調子に乗った事を言っていたのなら・・・。廊下に立っているのは誰になっていたんだろうな」
シルバリアンの言葉にバッと周りを見回し挙動不審になる黒蜜。
“危な、いくら言動を軽薄にしているからって女の子にモテモテじゃね?なんて言わないでよかった~、マジ気を付けよう!!”
黒蜜はそっと腹部に手を添えながら“油断、駄目、絶対!!”と心の中で唱え続けるのだった。
「“熱い戦いは遂に決着の時を迎える。この戦いが終わった時、王都に新たな英雄が誕生する。王都武術大会本戦第二戦、出場者の入場だ~~!!”」
“““““ウォ~~~~~~~~~~~~~~~~”””””
王都闘技場に魔道具から告げられる出場者入場の知らせ、本戦第二戦に勝ち上がった者は全部で八名、その誰もが一角の強者の風格を纏い舞台上へと歩を進める。
「“オーランド王国国王ゾルバ・グラン・オーランド陛下、御入場。
皆様、礼を以ってお迎え下さい”」
“““““ザッ”””””
「“皆の者、面を上げよ。王都武術大会第二戦に勝ち上がった者たちよ、昨日の戦い、見事であった。本日は本年度の大会優勝者が決まる戦い、皆の奮闘を期待する”」
“““““ウォ~~~~~~~~~~~~~~~~”””””
上がる歓声と拍手、王都武術大会二日目、真の強者を決める為の戦いの火蓋が、今切られるのだった。
「第二戦第一試合、黒蜜、テリー、舞台の上へ!!」
“““““ウォ~~~~~~~~~~~~~~~~”””””
「黒蜜~~~~、今日もその豪快な大剣でテリーの奴をぶっ飛ばせ~~~!!」
「テリー様~~~~!!そんな見掛け倒しな奴なんか、けっちょんけっちょんにしてやって下さ~~~い!!」
両者に掛けられる歓声、会場は舞台へと上がる二人の強者の登場に、大きな声で声援を送る。
「うへ~~、なんか凄い声援。流石は王都のお祭り王都武術大会、本戦二日目ともなるとその注目度が違うね~。
えっと、確か王都武術大会の常連“剛腕のテリー様”さんでしたっけ?どうぞよろしくお願いします」
そう言い慇懃に礼をする黒蜜。対してその態度が予想外であったのか「お、おう」と短く返すテリー。
「ところでちょっと気になったんで聞いてみたいんですが、その首から下げてる札みたいな奴って何ですか?“借金:金貨五百枚”とか書かれてるんですけど」
黒蜜からの問い掛けに「あぁ、これか」と言って自身の首から下がる木製のプレートを摩るテリー。
「これは俺の未熟の証よ。以前の俺は王都武術大会本戦出場の常連という事を鼻にかけて、自身はオーランド王国最強の一角であると思い込んでいた。強さこそすべて、腕っぷしの強ささえあればどんな横暴もまかり通るってな。とんだ思い上がり、己惚れもいい所だったよ。
アンタも知ってるだろう、辺境の蛮族、鬼神ヘンリーに剣鬼ボビー。あれは一年戦争の前の年、グロリア辺境伯家とランドール侯爵家が衝突し、二人の名が一気に有名になったときだった。
嘗ての英雄元金級冒険者“笑うオーガ“ヘンリー、庶民の憧れ元白金級冒険者“下町の剣聖”ボビー。辺境の小競り合いで名を売ったロートルとジジイ、その二人をぶちのめせばその名声はそのまま俺のものになる。貴族家に仕官したとの話だったが、そんなもの俺の力をもってすればどうとでも捻じ伏せられる、なんせ俺は王都武術大会の本戦常連なんだから。
馬鹿だよな、今考えれば愚かとしか言いようのない事を本気で信じて疑わなかったんだから。
幌馬車でオーランド王国の最果てに乗り込んで、村角に立つ門兵に正面から喧嘩を売って、一撃だったよ。あれが鬼神ヘンリーの力、俺なんか遠く及ばぬ高み。あとから聞けばそいつは鬼神でも何でもない、ただの門兵だったって言うじゃねえか、辺境の蛮族はどんだけだよって話さ。
で、その時犯罪者として背負わされたのがこの首輪と借金金貨五百枚、初めはそんなもの払うものかとも思ったんだけどな、この首輪はある種の魔道具でな、借金を払い終わるまでずっと借金の事が気になって、不安で夜も眠れなくなっちまう。
ちゃんと冒険者ギルド経由で支払っているうちは普通に生活できるってんだから、とんでもねえ首輪だろう?
漸く借金の支払いも終わってな、今じゃこの通り再び王都武術大会に帰って来れたって訳さ」
そう言い借金の総額の書かれた木製プレートを
「えっと、それならこのプレートを外してもらったら・・・」
「言ったろう?これは俺の未熟の証だって。俺が再び馬鹿をやらない為の戒め、王都武術大会で優勝出来たらその時は晴れて首輪を外してもらいに行くとするさ。
だからこの一戦、負ける訳にはいかないのさ」(ニヤリ)
口角を上げ闘志を漲らせるテリー、そんな対戦相手の様子に“ヤベー、なんで俺ドラゴンキラーなんて持ってきちゃったかな~。今からでも普通のロングソードに、駄目だ、ジミーが面白がっちゃってる”と後悔の念を膨らませる黒蜜なのであった。
「それでは両者開始位置に。第二戦第一試合、はじめ!!」
審判から掛けられた試合開始の合図、正眼に大剣を構え、油断なく前を見据えるテリー。巨大な剣を下段に構え、テリーの打ち込みを警戒する黒蜜。
続く沈黙、均衡を破ったのはテリーであった。
“ブオンッ、ガキンッ”
大剣のリーチを利用した上段からの打ち込み、だがそれを下方からの打ち上げで受け流す黒蜜。
“ガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキン”
テリーは剛腕と評される大きな身体と腕力をいかんなく発揮し、大剣をまるで小枝の様に振り回す。対して黒蜜は自らの身体を小刻みに動かし、巨大な剣ドラゴンキラーを宙に固定したかのように操りテリーの接近を許さない。
大物武器同士の高度な技術の応酬に、一気に盛り上がる観客たち。
「速っ、目茶苦茶手数があるんですけどー!!テリーさんのそれって大剣ですよね?ショートソードじゃないですよね!?」
「ハッハッハッハッ、そう言いながら黒蜜はその全てを受けきるどころかこちらを一切近付けさせないじゃないか。なんだそれは、まるで大型魔獣に睨まれてる様な圧迫感を感じるんだが?」
互いに言葉を交わしつつその手は一切止めることない激しい攻防、打ち合わされる剣と剣、弾ける火花が周囲に飛び散る。次第にそれは音を置き去りにし、光の宴へと変わっていく。
「あぁ、なるほど、そう言う事だったんだ」
黒蜜の口から零れる言葉、途端黒蜜の纏う空気が変わり、大剣で打ち込んでいたはずのテリーが後方に弾き飛ばされた。
「クッ、黒蜜の動きが変わっただと!?一体何が」
「あぁ、すみませんね。いやね、コイツ、ドラゴンキラーって言うんですけどね、重心位置がおかしくってですね、完全に剣の形をした鈍器だと思っていたんですよ。
でも違ったんです、全く使い方を間違えていたんです。
いや~、これもテリーさんのお陰ですわ、テリーさんほどの使い手が現れてくれなければ、これ程までに追い込まれていなければ俺もコイツの本当の使い方に気が付く事はなかった。
これはそんなテリーさんに対するほんのお礼です。行きますね、<地龍剛剣>」
“ズオンッドゴーーン、ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴ”
それは荒れ狂う嵐、大剣“ドラゴンキラー”から繰り出される一打一打が落下する巨大な岩石のような破壊力を以ってテリーの身体に襲い掛かる。その様子を舞台下から眺めていたシルバリアンは呟く、「あの動き、大福本体ヒドラ一つ首のものか?」と。
黒蜜はテリーの大剣を受け続ける中で気が付いたのだ、この攻防は何処かで見た事があると、それは自身の身体に染み付いた記憶、命を懸けて身に付けた戦闘の記録。
先に行くほど重くなる重心の狂った鉄の塊、大剣の形をした鈍器ドラゴンキラー。だがその造りはまるで縦横無尽に振るわれる大福ヒドラの首そのものであると。
であるのならやる事は一つ、大福チャレンジ本体ヒドラに挑戦の開幕である。
“ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴ”
「ハハハ、テリーさん、中々やりますね。でもね、地龍には尻尾もあるんですよ?」
”ドンッ、クルン、ドゴーーーーーン“
刹那の打ち込みで巨漢であるテリーを一瞬下がらせた黒蜜は、ドラゴンキラーの重さを利用しくるりと身を翻すや、わき腹目掛け回し蹴りを叩き込んだのである。
“グハッ、ドサッ”
吹き飛ばされそのまま石造りの舞台に叩き付けられるテリー。
「そこまで、勝者、黒蜜!!」
“““““ウォ~~~~~~~~~~~~~~~~”””””
立ち上がり歓声を上げる観客たち、第二戦第一試合黒蜜対“剛腕のテリー”の戦いは、黒蜜の勝利により幕を閉じるのであった。
「フ~ッ、結構しんどい戦いだったわ~」
舞台から降り会場脇の控えの場に戻った黒蜜は、椅子にドカリと腰を下ろし大きく息を吐く。舞台上では第二試合の選手が呼ばれ、互いににらみ合いを行っている。
「黒蜜、いい戦いであったな。だがあそこで大福ヒドラが出るとは思わなかったぞ、確かに我らにとってあれほど記憶に残る敵はいないからな、動きを真似るのも容易であった事だろうさ」
黒蜜の行った事、それは前世の漫画で読んだ中国拳法の一種、動物の動きを真似る象形拳と呼ばれるものの応用であった。大福ヒドラであったらどう動くか、その破壊力、その恐ろしさが魂のレベルで染みついている黒蜜にとって、重心が前に重いドラゴンキラーを使ってその動きを再現する事は比較的容易な事であると言えた。
「まぁ一発本番ってテリーさんには失礼な話かもしれないけどさ、思い付いちゃったんだから仕方ないよね。だって王都武術大会はお祭りだもん、楽しんだもの勝ちって事で」
そう言いどうだとばかりに顔を向ける黒蜜。
「確かにそうだな。我も精々楽しんで来る事としよう。どうやら試合も終わったようだ」
シルバリアンが顔を向けたその先では、炎に包まれながら舞台上から吹き飛ばされる対戦者の姿。
「げっ、あの勝者ってば次の俺の対戦相手じゃん。俺、炎に包まれるのなんてごめんだよ!?」
「ハハハ、そう言うな。焼け死ぬのは慣れっこだろうが。では行って来る」
そう言い舞台に向かうシルバリアン。残された黒蜜は、“マジ勘弁してください”と思いながらその背中を見送るのであった。
本日二話目です。
行ってらっしゃい。
by@aozora