転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第631話 転生勇者、王都武術大会本戦二日目に出場する (2)

「第二戦第三試合、シルバリアン、ゲイン・バルボア、舞台の上へ!!」

“““““ウォ~~~~~~~~~~~~~~~~”””””

 

“コツンッ、コツンッ、コツンッ”

その剣士は声援鳴り響く王都闘技場の中を、一人悠然と舞台に向け歩んでいく。

 

“コツンッ、コツンッ、コツンッ”

石段を踏みしめ上った先の舞台には、既に対戦相手の巨漢が待ち構えていた。

 

「よう、小さいの。そんなナイフで俺に挑もうだなんて無謀が過ぎるんじゃないのか?」

ヘルムを被り立派な口髭と顎ひげを蓄えた身の丈三メートを超える様な巨漢、その太い腕には巨大なバトルアックスが握られる。

剣士は嘗て暗黒大陸で拳を交えた龍人族の戦士を思い出し、口元を緩める。

 

「あぁ、問題ござらん。それよりも一つ聞きたいのだが、バルボア殿のご家族もみなバルボア殿のように大きいのかな?あまりに体格が良いので、もしや種族が違うのではと思い聞いてみたのだが」

「おう、やっぱり気になるか。まぁ俺のところの一族は皆大柄だな、先祖に伝説に謳われる巨人族の血が入っているなんて話もあったりするが、何処まで本当なんだか。

大きい事は強い事、特に不便は感じてねえからいいんだけどよ。

でもまぁ俺の出身シュトライド王国やセルベア冒険王国には俺よりデカい奴もいるから、あながち間違いじゃねえのかもしれねえがな」

 

バルボアの話にフルフェイスのヘルムの中で口角を上げる剣士。まだ見ぬ世界の強者の情報に、背筋をゾクゾクといった歓喜が走る。

 

「ふむ、世界は広い、いずれ訪ねてみる事としよう。ではバルボア殿、一手手合わせ願おうか」

“カチャリ”

 

剣士の構え、重心を落とし右肩にロングソードを担ぎ上げるかのような独特なスタイルは、これまでの流麗な動きで対戦相手を倒して来た彼には見られなかったもの。

 

「ほう、今までみたいな軟弱な動きじゃ俺に勝てないと踏んで、構えを変えてきたか。おもしれえ、どんな曲芸を見せてくれるのか楽しみだぜ」

右肩に担いでいたバトルアックスを両手に持ち直し油断なく剣士を見据えるバルボア。剣士は担ぎ上げたロングソードをゆらゆらと揺らし、落とした下半身に力を込める。

 

「それでは両者開始位置に。第二戦第三試合、はじめ!!」

審判により掛けられた声。

 

「吹き飛べや、小さいの!!」

バトルアックスを振り上げ突進するバルボア。

 

「フゥ~~~~~~~、<霊亀尾閃・双撃>」

“バッ、ビュンビュン”

「ウォーーー“バッバッ、ドサッ”、なに!?」

 

それは刹那の打ち込み、銀閃が二度光ったかと思うと女性のウエストよりも太いバルボアの両腕が、バトルアックスとともに舞台に落ちる。

 

「良い戦いであった、<鬼打ち>」

“ドゴンッ、グホッ、ドサリ”

剣の柄を力の限り鳩尾に叩き込む剣技、<鬼打ち>。口から泡を噴き、白目をむいたまま舞台に崩れ落ちるバルボア。

 

「そこまで、勝者、シルバリアン!!」

審判から告げられる勝利者宣言、剣士は対戦相手であるバルボアに深い礼をしてから、ゆっくりと舞台を降りていくのだった。

 

――――――――

 

「おい、シルバリアン、この後俺にどうしろと?」

それは素晴らしい試合であった。力に勝る巨漢相手に瞬時に技を撃ち込む事で攻撃力を削ぎ落し、鳩尾に打撃を加え意識を刈り取る。両腕を切り落とすなど一見非道に思えるかもしれないが、傷口も見事であり、直ぐに治療を行えばハイポーションどころかポーションでも完治するかもしれない。どちらかと言えば鳩尾に叩き込んだ打撃の方がヤバい、あれってちゃんと治療しないと復帰に時間が掛かるってタイプの技じゃん。

シルバリアン、めっちゃ気合入ってたって奴じゃん。

そんな高度な技により優勝大本命のゲイン・バルボアを下したシルバリアン。会場はシルバリアンの起こしたジャイアントキリングに大盛り上がりでございます。

 

「いや、どうしたもこうしたも、普通に戦ってくればよいのではないか?

相手は二つ名持ちの金級冒険者“爆炎のリリー”、引き出しは多そうであるし、黒蜜はその技の全てを受け止めてだな?」

「イヤイヤイヤ、燃えちゃうから。第二戦第二試合の対戦相手と同じく丸焼きにされちゃうから。

ちょっと心配になって大会役員に聞いてみたら何とか命は助かったって話だけど、あんな状態になったら普通再起不能よ?一生夢に見ちゃうよ?今回お人形さんは仕込んでないのよ?」

 

シルバリアンの軽い返しに思わずツッコミを入れる俺。シルバリアンの奴、めっちゃテンション上がってるみたいで大技を繰り出す繰り出す。さっきのだって普段なら絶対やらない様な技じゃん。

 

「シルバリアン、さっきのって」

「うむ、霊亀の技を自分なりに再現したものであるな。黒蜜の試合を見ていて思い付いたのだが、上手くいって良かった」

 

う~わ、シルバリアンの奴、即興で剣技を作り出してやんの。しかもその剣技で強敵を倒すって、瞬殺って。バルボア選手涙目じゃん、バトルアックスが青春の汗でびしょ濡れよ?

 

“カキンッカキンッカキンッカキンッ”

舞台の上では第四試合の対戦者同士が激しい打ち合いを繰り広げている。

 

「<斬撃乱舞>」

片方の選手が飛ぶ斬撃の乱れ撃ちというとんでも武技で、対戦相手を追い詰める。

 

“スッ、スパスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパッ”

だがそこは本選第二戦進出者、剣技によってすべての斬撃を切り落とす。

 

「“<応虎一閃>”」

“バスンッ”

ボツリと何かを呟き剣を振るった全身甲冑姿の剣士、その一振りはまるで吸い込まれる様に相手の胴体に向け走り抜け、“ドサッ”一瞬にして勝負を決めてしまうのでした。

 

「そこまで、勝者、ターケル・ヤーマイト」

“““““ウォ~~~~~~~~~~~~~~~~”””””

割れんばかりの歓声が観客席から鳴り響き、勝利者であるヤーマイトが舞台を下がっていく。

 

「シルバリアンの対戦相手が決まったな」

「うむ、無駄のない動き、対戦者として申し分のない相手であろう」

決まった相手の技量の高さに、嬉しさを露にするシルバリアン。

 

「しかし俺とシルバリアン、それにさっきのヤーマイトといい、準決勝戦進出者のうち三人が全身甲冑って。シルバリアン、ヘルム外してみる?」

「断る。それこそそういう事は黒蜜の役目ではないのか?いずれ否が応でも顔を晒す事になるのであろう?」

互いに有名になる事を擦り付け合う俺とシルバリアン。だって折角王都学園でそれなりに大人しく生活できてるってのに、厄介事は勘弁じゃん?

顔を晒したら何のために偽名を使ってるのか分からないし。

ここはボビー師匠にお越しいただいて全ての功績を擦り付けるって方向で。

俺とシルバリアンがそんなくだらない事を話していると、審判から呼び出しの声が掛かる。

 

「第三戦第一試合、黒蜜、リリー、舞台の上へ!!」

“““““ウォ~~~~~~~~~~~~~~~~”””””

 

俺は席を立つと、床に寝かせておいたドラゴンキラーを掴み鞘から引き抜く。

 

「ねぇ、シルバリアン、武器を変えるのって」

「駄目であるな。それと軽薄騎士の黒蜜も続行するのだぞ?

あっ、そう言えば言い忘れていたのだが、お嬢様が見えられていたぞ?どうやらチケットを手に入れられたようだ」

 

「えっ、ウソ、本戦のチケットってロナウドでもどうにもならないって言ってたんじゃないの?ラビアナ様が来賓席ならどうにかなるって言ってたけど、流石に国王陛下のお傍は勘弁してって事で泣く泣く諦めたんじゃなかったの?」

「うむ、その筈であったのだがな。しかし現れたのが廊下でなくて良かったな、余計な会話は聞かれてないであろう」

 

「いや、してないから、マジでしてないから。大会役員さんが呼んでるから行ってくるわ~」

俺は焦る内心を押さえつつ、“壁に耳あり、観客席にエミリー。早めに気が付いて良かった~、めっちゃ油断してた~”とシルバリアンに感謝するのだった。

 

――――――――――

 

「ねぇエミリー、今ジミー君がこっちを見てなかった?」

「あ、本当だ。ジェイク君もこっちを見た、お~い、ジェイクく~ん」

 

観客席から手を振りジェイク君に声援を送るエミリーちゃん。

 

「エミリーちゃん、フィリーちゃん、お待たせ~。飲み物と摘みを買ってきたよ。ディアさんもお手伝いありがとうね、お腹空いちゃったよね、食べよう食べよう」

俺は買い出しに付き合ってくれたディアさんに礼を言いつつ、マッシュのスティック揚げに手を伸ばす。塩味が利いててなかなか旨いな、これ。

 

「なんかさっきジェイク君が目茶苦茶焦ってたみたいだけど、もしかして今日エミリーちゃん達が見に来る事って二人に話してなかったの?連絡は随分前にしたよね?」

俺の問い掛けに悪戯そうな笑みを浮かべる三人。

 

「へへへ、実は話してないんでした~。お母さんたちが話してたんだけど、男の人ってこうやってコッソリ駆け付けたりすると驚いて喜ぶんだって。十六夜さんも“学園ものにはサプライズが重要”とか言ってたし。

何でも帝国の学園もの恋愛小説に出てくる言葉で、主人公の男の子にヒロインの女の子がコッソリ仕掛ける悪戯みたいなものなんですって。

さっきのジェイク君の様子だと、“サプライズ大成功”って言う奴なのかな?ジェイク君、喜んでくれたみたい♪」

そう言い花の様な笑顔を浮かべるエミリーちゃん。

あれは喜んでいたんだろうか、舞台に上がるジェイク君、めっちゃぎこちなかったんだけど。

 

「でもケビンさんはどうしてもっとも入手困難と言われる王都武術大会本戦二日目のチケットを六枚も持っていたんですか?侯爵家子息のロナウドですら手に入らないと嘆いていたのに」

「うん、それは疑問に思ったの。二人が王都武術大会に出るって言った時、恥を忍んでラビアナ様にお願いしようとも思ったんだけど、「来賓席なら何とかなるかもしれませんけど」って言われて諦めたんだもん。流石に国王陛下のお傍の席じゃ、緊張しちゃって観覧どころじゃなくなっちゃうもんね」

 

そう言い肩を竦めるエミリーちゃん。って言うかラビアナさんスゲーな、来賓席に場所を用意できるって、流石はバルーセン公爵家令嬢、発言力が半端ないです。

 

「あぁ、それは一年以上前から予約していたからかな?エミリーちゃんとジェイク君が<聖女>と<勇者>の職を授かったって分かった時、グロリア辺境伯閣下とホーンラビット伯爵閣下のお供で王都に来た事があったでしょう?その時に以前マルセル村にも来たベルツシュタイン伯爵閣下にお会いしてね、チケットの購入を頼んでおきました。

マルセル村に来る観光客(武闘派)の中にも王都武術大会に出場した事があるって自慢する連中もいたし、王都に行ったら絶対に見たくなると思ってね。

どうせ見るなら決勝戦が見たいじゃん?流石はベルツシュタイン伯爵閣下、「本年度は戦争の煽りで中止になったけど、来年度なら何とかなる」って言って快諾してくださいました。

持つべきものは権力者の知り合いだよね」

 

そう言いドヤ顔をする俺に、信じられないものを見るような目を向ける人物が二人。

 

「お話の中、宜しいかしら?先程ジミーのお兄様が仰られていたベルツシュタイン伯爵様とは、あのベルツシュタイン卿の事で宜しいのかしら?

(わたくし)の聞き間違いではなくて?」

「“王家の剣”にして王都諜報組織“影”の総帥、王都貴族が最も警戒し恐れる人物、ベルツシュタイン伯爵家当主ハインリッヒ・ベルツシュタイン卿。

そんな大物に王都武術大会のチケット購入を依頼するって。

ケビンお兄ちゃんだから仕方がない、ケビンお兄ちゃんだから仕方がない」

 

何故かロナウドが自身の常識と戦い始めてるんだけど?いいじゃん、使えるコネは使っておこうよ~。こうやって皆して大会を見れてるんだし。

因みに私、昨日も見に来てます。チケットは“料理長”経由で購入、やっぱり便利だ暗殺者ギルド、お金は有効に使いましょう。

 

「ほら、そろそろ始まりそうだよ?」

俺は何故かジト目を向け「やはり“影”が最大の警戒を向ける人物、ベルツシュタイン卿との関係は相当に深いと考えるべきでしょうか」と呟くラビアナさんをスルーし、観覧席に着くのでした。

ホーンラビットの油揚げ、うまうまです。




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