観客により埋め尽くされた王都闘技場、上げられる声援、鳴りやまぬ拍手、人々の視線降り注ぐ石造りの闘技舞台の上では、一組の男女が言葉を交わす。
「フフフ、一年戦争の影響で中止された去年の王都武術大会、これまで常連と呼ばれていた実力者たちの多くが各貴族家に請われ仕官していった。
なれば当然のように新たな者たちが台頭してくる、これまで上に抑えられて燻っていた者や新しい挑戦者、今年の王都武術大会は荒れる、多くの者たちがそう囁き合っていた。
蓋を開けてみればどう?準決勝進出者四人のうち王都武術大会本戦出場経験者は私一人、他の三人は今回が初参加の全くの新人って、大荒れもいいところじゃない。しかもそれぞれが確りとした実力者、決して王都武術大会の質が落ちたなんて言われる筋合いの無い素晴らしい試合内容って。
まだまだ無名の強者がこんなにいたなんて、本当に嫌になっちゃうわ」
そう言い肩を竦める“爆炎のリリー”。だがその言葉とは裏腹に、口元は愉悦に歪む。
「いや~、めっちゃ有名人の“爆炎のリリー”さんにそう言われると照れちゃいますよ~。
って事はあれっすか、これで俺も有名人の仲間入りって感じっすかね?もしかしたら二つ名とか付いちゃう感じっすか?“大剣の黒蜜”とか?」
「そうね、それだけ目立つ武器を持っていればそれに因んだ二つ名が付くってのはよくある事だし、“巨剣の黒蜜”とか言われても不思議じゃないわ。“巨剣の黒蜜”、フフフ、何かそそるわね」
そう言い妖艶に瞳を光らすリリーに、ゾクリと悪寒を感じる黒蜜。
「そ、そうっすね~。って事は“爆炎のリリー”って二つ名もその燃え盛る両手剣から来てるって感じっすか?」
視線を落とし燃えるロングソードを指差す黒蜜に、口元を歪め答えるリリー。
「えぇ、魔剣サラマンドラ。ダンジョン産の逸品、私の人生を変えた相棒。私はこの魔剣を手に入れた事で冒険者の頂点に立てると信じて疑わなかった。
でも現実は甘くなかったわ。王都武術大会の常連と言われた私であっても通用しない世界、遥かなる高みは存在した。
あなたも話を聞いた事くらいはあるでしょう?“辺境の蛮族”、一年戦争での活躍でこの国では知らない者もいないくらいに有名になったホーンラビット伯爵家騎士団。最初に騒がれたのはグロリア辺境伯家とランドール侯爵家との衝突をたった二人の武力で治めたって言う、“鬼神ヘンリー”と“剣鬼ボビー”の噂。
当時はアルバート子爵領マルセル村だったかしら。相手は新興貴族に仕える嘗ての有名人、倒して名を売りたい、力を示して仕官がしたい、様々な思惑とともに多くの冒険者が北西部の辺境に集まっていたわ。
私もその一人、地方貴族の小競り合いで名を売ったロートルを倒し、“爆炎のリリー”の名を知らしめようとした。本当に世の中を知ったつもりになっていただけの小娘だったのね」
リリーは愛剣サラマンドラを見詰め、どこか懐かしそうに言葉を続ける。
「まったく相手にならなかった、お金を払って挑戦者として挑むも、圧倒的な覇気と剣技の前に一瞬にして両足を断ち切られてしまったわ。
幸いそれなりの貯えがあったから直ぐに治療してもらえたけど、下手したらあなたが第二戦で戦った“剛腕のテリー”みたいに首から借金の木札を下げる羽目になるところだったわ。まぁあの馬鹿は自業自得だったんだろうけど。
己の力不足を悟った私は自身の剣技を見直し更なる高みを目指した、向かった先は隣国ミゲール王国。あの国には大魔境に接する通称“ワイバーンの谷”と呼ばれる危険地帯があるの。大魔境に行けば尽きる事のない魔物の群れ、隣接する城壁都市には多くの冒険者が集まっている、力自慢の実力者が日々研鑽に励んでいるそんな場所。これほどの修行場所が他にあると思う?
私はその地でワイバーンを倒し、白金級冒険者になるための資格を手に入れた。でもそれは自身の目標を果たしてから。
王都武術大会の優勝、その栄光を掴んだ時、私は晴れて白金級冒険者としての一歩を歩き出すつもり。そして再び辺境の蛮族に挑むわ。
この戦いはその為の礎、全力で掛かっていらっしゃい」
そう言い艶めいた唇を獰猛に引き上げる‟爆炎のリリー”。
黒蜜は思う、“リリーさんってば実質白金級冒険者じゃん、それで金級冒険者って階級詐欺じゃん!!ワイバーンを倒したって、ワイバーンってあのマルセル村の上空に現われてケビンお兄ちゃんと共に世界樹に旅立った怪獣だよね、あんなのを倒すって人間やめちゃってるよね!?どうか手加減してください、俺まだ死にたくないっす!!”と。
「それでは両者開始位置に。第三戦第一試合、はじめ!!」
審判の合図に構えを取る両者、激しい力と力のぶつかり合いは静かな睨み合いから始まるのであった。
“ガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキン”
炎を纏った魔剣が、俺に向かい容赦なく打ち込まれる。俺はドラゴンキラーを前面に押し出し魔剣を受け止め、受け流し、全ての攻撃をいなしていく。その場に広がる炎の宴、俺は周囲の熱に焼かれ、徐々に体力を奪われ追い詰められていく。
などといった事はなく、普通に戦っております。
「アハハハ、あなたってば耐久値が高いのね。これまで私との打ち合いにこれ程平然と対応できたのって金級冒険者の“血まみれのシンディー”くらいよ。最近じゃ二つ名を“守護者シンディー”に変えてたって話だったかしら?
彼女、ワイバーンの谷でワイバーン討伐を成し遂げたら直ぐにグロリア辺境伯領に帰っちゃったから、一度しか手合わせできなかったのよね。普通のロングソードじゃいまいち気分が乗らないし、本当に参ったわ。
でもあなたなら力一杯楽しめそう、最高よ!!」
“ガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキン”
歓喜の笑いと共に尚も激しく打ち込むリリーさん、魔剣サラマンドラはそんなリリーさんに呼応する様に、更にその熱量を増していく。
でもごめん、大福のドラゴンブレスには遠く及ばないって言うか、黒蜜甲冑が熱を防いじゃうって言うか。傍から見れば凄い接戦に見えるんだろうけど、正直“剛腕のテリー”さんとの打ち合いと変わらん。
俺は小刻みに身体を横に動かしドラゴンキラーを操っていく。
「アハハハ、本当に凄いわね。それじゃこれでどうかしら?<飛炎斬>」
“ボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッ”
飛来する燃える斬撃、それは<スラッシュ>の炎版、破壊力マシマシの多重<ファイヤーカッター>。
「どわー、こんなの魔法じゃないですか、激ヤバじゃないですか!!」
「そんな激ヤバの斬撃を全て受け切ってるあなたに言われても嬉しくないんだけど?<
炎が渦巻く、ボビー師匠の<旋風領域>の様な炎の竜巻が、俺に向かい襲い来る。
「ちょっと、ヤバいって。<
俺はドラゴンキラーに火属性魔力を纏わせ、横薙ぎに力一杯引っ叩く。魔力の流れを乱され霧散する炎の竜巻、その光景に驚きの表情になるリリーさん。
「アハ、何その力技、意味解らないんだけど?もしかしてその大剣って魔剣か何かだったりするのかしら?」
「いえ、そんな話は聞いてないんで、ただデカくて丈夫な剣の筈なんですけど・・・」
俺はリリーさんの言葉に“そう言えば鑑定してなかったな”と思い至る。
<鑑定>
名前:魔剣ドラゴンキラー
ドラゴン討伐を目的にただ只管丈夫に折れない様にとの思いを込め造られた逸品。魔力を込めれば込める程丈夫になる。
製作者:デンバー・バトルソード
・・・ドラゴンキラーさん、魔剣でした。しかもその能力が魔力を込めると丈夫になるって。切れ味が増すとかそういうんじゃないんかい!!職人さんの方向性!!
まぁドラゴンに挑むって事自体が無謀極まりないもんな~、まずは折れない事を第一にするって発想は分からなくもないけども。
「まぁいいわ、手の内を晒さないってのは冒険者の鉄則ですもの。それにどうせこのままじゃあなたには勝てそうにないしね。
黒蜜って言ったかしら、生きてたらまた戦いましょう、あなたがより強くなって立ちはだかってくれることを楽しみにしているわ」
そう言い自身の魔力を高める“爆炎のリリー”さん。
「“魔纏い”、<
“ブオッ”
リリーさんの周囲を包み込むように立ち上がる炎の塊、それは形を変えとある存在を顕現させる。
「炎の・・・ワイバーンだと!?」
観客席から聞こえる呟き、舞台の上では燃え盛る炎のワイバーンが翼を広げ、対戦相手の黒蜜に目標を定める。
“ゴウンッ”
撃ち出された炎のワイバーン、黒蜜はドラゴンキラーを両手で掲げるや斜め前に下ろし身体の正面を炎から守ろうとする。だが・・・。
“ブワッ”
“ゴワーーーーーッ”
全身を炎に包まれその場に固まる黒蜜。その叫び声だけが舞台上に響く。
リリーは勝利を確信し、審判に目を向ける。審判は両者の様子に目をやり、手を掲げる。
「そこま「ちょっと待ってくださ~い、まだ終わってませんよ~」・・・」
その緊張感のない声は、燃え盛る炎の中から聞こえるものであった。
「いや~、ビビったビビった。行き成り目の前に炎のワイバーンが現れるんだもん、どうしようかと思いましたよ~。
でもまぁ何とかなってよかったかな、これって要は火属性魔力なんですよね~、だったら同じ火属性魔力で受け止めてやればいい。
折角です、リリーさんも受けてみます?ただし俺のは飛竜じゃなくて地竜ですけどね」
それは炎に包まれた黒蜜のもの、そして黒蜜を覆っていた炎は形を変え、一体の地竜を顕現する。
「<火炎竜・
“グォ~、ゴウンッ”
大きくもたげられた火炎竜の首、その首が頂点に達した時、頭部が勢いよくリリー目掛け振り下ろされる。
「<豪炎城壁>!!」
迫りくる火炎竜に、魔剣サラマンドラを縦に構え炎を広げ壁を作り出すリリー。
「残念、この火炎竜にはちゃんと実体があるんでした~」
“ズゴーーーン”
轟音と共に炎の壁を突き破る火炎竜の首、吹き飛ばされ勢いよく舞台下に飛んでいく“爆炎のリリー”、そして炎の消え去った舞台では黒蜜が右腕でドラゴンキラーを突き出した姿勢のまま身を固める。
「そこまで、場外によりリリーの失格とする。勝者、黒蜜!!」
“““““ウォ~~~~~~~~~~~~~~~~”””””
立ち上がり歓声を上げる観客たち、激しい戦いと黒蜜の劇的な勝利に武術大会は一層の盛り上がりを見せるのであった。
いや~、ヤベーヤベー、力一杯丸焦げにされるところだったわ~。
何さっきの技、炎のワイバーンってヤバすぎでしょう。こっちも火属性魔力の魔力纏いで対抗する事を思いつかなかったらどうなっていた事か。マルセル村での修行の日々が確り活きた結果ですね、“田舎暮らしの必須技能魔力纏い”、鍛えておいて本当によかったわ。
でもリリーさんもあれだけの大技を見せておいて、本命がドラゴンキラーによる突きだとは思わなかっただろうな~。「武技と言えども所詮は魔力現象、魔力を使えば対抗できる。結局最後は武器を持っての殴り合いだよね」とはケビンお兄ちゃんの言葉、火炎竜に気が向いてるところにドラゴンキラーを突き出されたら堪ったもんじゃなかっただろうな~。ちゃんと火属性魔力を纏わせて炎の障壁を突破できるようにしておきましたし!!(ドヤ顔)
俺は未だ歓声を上げる観客席に向かい手を振り上げると(特にエミリーに向け重点的に)、ゆっくりと舞台を降りていくのでした。
「うむ、中々見どころのある良い試合であったぞ」
舞台下では自身の試合に備えるシルバリアン、その身体からは先程の俺の試合に感化されたかのように覇気の迸りがですね。シルバリアン、ちょっと落ち着け、マジに落ち着け。行き成りアクセル全開じゃ対戦相手が死んじゃうから!!
「ん?あぁ、どうも黒蜜の戦いを見て気が高ぶっていた様であったな。これから我が戦うはヤーマイト殿、確りと対戦相手を見据えなければ失礼であるからな」
そう言い深呼吸の後、剣の柄に手を添えるシルバリアン。うん、武人ですね、もう何も言いません。
「第三戦第二試合、シルバリアン、ターケル・ヤーマイト、舞台の上へ!!」
“““““ウォ~~~~~~~~~~~~~~~~”””””
上がる歓声、審判の呼び掛けにシルバリアンが舞台に向かい歩を進める。
「シルバリアン、程々にな、自重って言葉を忘れるなよ?」
「うむ、分かっておる。相手に合わせよという事であろう?しっかり楽しんで来る故安心せよ」
シルバリアンはそう言い手を振りながら石段を上がっていくのでした。
・・・まったく安心出来ないんですけど!?
俺は舞台の下から“会場が無事で済みますように”と祈らずにはいられないのでした。
本日二話目です。
行ってらっしゃい。
by@aozora