転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第633話 転生勇者、王都武術大会本戦二日目に出場する (4)

男は静かに佇んでいた。そこは王都闘技場のど真ん中、観客席には大勢の観客が詰め掛け大きな歓声を上げている。

だが男の心はピクリとも動かず、ただ静寂の中にあった。

男は自身がいつからここにいるのか、何故ここにいるのかすら分かってはいなかった。この場において剣を交える、戦う事が求められているという事が男の全てであった。

 

「“お前の役割はこの国の王、ゾルバ・グラン・オーランドの暗殺。まずは王都武術大会に出場し、優勝する事。表彰式に於いてゾルバ国王がお前の傍に近付く、その隙を逃すな”」

 

魂に直接刻まれるような声音(こわね)、するべき事は分かっている。戦って勝てばいい、それはこれまでと何も変わらない。

 

「両者開始位置に。第三戦第二試合、はじめ!!」

審判の者の合図が聞こえる、男は剣を引き抜き構えを取る。仕事の始まり、無茶や無謀は当たり前であった、全てに嫌気がさし愛する者と共に故郷を去った。

 

“カキンッカキンッカキンッ”

男は何も分からない、ただ静かに剣を振るう。それが男に与えられた仕事なのだから。

 

――――――――――

 

「始まったか」

観客たちの声援が一際大きくなり、戦士たちの戦いが始まった事を知らせてくる。フードを被った者は、自身の役割を果たす為に歩を進める。

 

「首尾は」

「ハッ、第一第二強襲部隊の配置、完了いたしました」

「死兵零式、稼働に問題ありません」

 

音もなく集まる集団、彼らは皆自身の顔をフードで覆い、その正体は掴めない。

 

「よし、死兵一式に通達。状況が変わった、全力で戦い観衆の目を引き付けよ。来賓観覧席には大剣聖クルーガル・ウォーレンの姿がある、場合によっては一式にとどめを刺させる必要があるやもしれん。

その際の指示はこちらから出す、行け」

“““““バッ”””””

散開し、その場から姿を消す集団。一人その場に残るフードの者は、歓声轟く闘技舞台に目をやりほくそ笑む。

 

「民衆とは暢気なものだ。自分の身に火の粉が掛からなければ痛みも苦しみも分からない、ついこの前大量の死者を出した戦争があった事すら既にこの者たちには遠い過去の物語なのだろう。

王位をめぐる貴族同士の争い、敵か味方かが分からない泥沼の内戦、そんな混乱した王国を襲う強大な力。無知蒙昧な者たちよ、精々今を楽しむがいい、破滅の時は直ぐにでも始まるのだからな」

 

フードの者の呟きは、大いに盛り上がりを見せる観客の声に呑み込まれ、誰にも聞かれる事なく消えていくのであった。

 

―――――――――――

 

“カキンッカキンッカキンッ、バッ、カキンッカキンッ”

闘技舞台の上では二人の男が剣を交え、互いの隙を窺いつつ火花を散らす。

 

「ふむ、打ち込みの鋭さ、絶妙な位置取り。相当に戦い慣れしているとお見受けした。それも強者との戦いに慣れているといったところか、動作に対する判断に淀みがない。

その身に纏う闇の気配、期待外れであったらどうしたものかと思ったが、これはどうして、楽しめそうではないか」

 

剣と剣との打ち合いとは、すなわち命を懸けた対話。相手の思考を読み、相手の更に上をいく事で初めて勝利を手にする事が出来る。

剣を置く、軌道を逸らす、体勢を変え身を捌き。誘い、誘導し、欺き、騙されたふりをして。虚実交えた人同士の争い、その中でたった一つの真実を掴み取る。

 

対してこの者はどうか、真っ直ぐな剣筋の中に老獪な技を隠し、失った意思の中にハッキリとした思いを宿す。ただの案山子ではない、これまでの戦いの歴史と歩き続けた人生が確りと剣筋に乗った強者。

 

「確か兄上は言っていたな、闇属性魔力には固定化と補完の力があると。ならばこの見るからに闇に縛られた囚われし者に闇属性魔力を与えたら、意思を取り戻すのか?さすればより鋭い剣技をもって対戦してくれるという事であろうか・・・」

 

“カキンッカキンッカキンッ、ギシギシギシ”

せめぎ合う両者、剣と剣とが激しくぶつかり、互いに睨み合う形で鍔迫り合いに入る。

 

“ガツンッ”

「<鬼打ち>」

膝を折り、体勢を崩しつつ剣の柄で相手の剣をかち上げ柄頭をがら空きの胴に叩き込もうとするシルバリアン。

対して打ち上げられた上体に逆らわず、膝蹴りでシルバリアンの剣の握りを叩きに行くヤーマイト。

 

「“掌底・闇打ち”」

“ズドーーン”

全てはブラフ、体勢の崩れたヤーマイトにこの一撃を撃ち込むための布石。上体を逸らし膝蹴りを行う不安定な姿勢での大きな隙、蹴り上げられた剣の柄を手放し、濃厚な闇属性魔力を込めた右掌によるシルバリアンの掌底打ちは、隙を晒したヤーマイトの胴を捉えその身体を石畳の舞台に叩き付ける。

 

バウンドし、舞台の上を転がるヤーマイト。だがヤーマイトがすぐに立ち上がるだろうことはシルバリアンには分かっていた。過去同様に闇の魔力に縛られた霊亀との戦いにおいて、脚を砕こうともすぐに立ち上がろうとした霊亀の姿は、シルバリアンの脳裏に今も鮮明に残っている。

シルバリアンは急ぎ手放した剣を拾い、ヤーマイトの反撃に備える。

 

「“ここは・・・”」

ゆっくりと立ち上がったヤーマイト、彼はシルバリアンに剣を構えつつ、ボツリと呟く。

 

「ほう。ヤーマイト殿、お初にお目に掛る。我が名はシルバリアン、この闘技舞台上にて貴殿と剣を交えている者だ。

我が望みはただ一つ、強者との語らい。意思を取り戻したのなら分かるであろう?戦いとはすなわち意志と意志とのぶつかり合いであると。

先程までのヤーマイト殿も中々に楽しめはしたが、戦いの鮮度がいまいちでな?

やはり同じ剣を交えるのなら、より純度の高い濃厚なものが良いであろう?」(ニチャ~~~)

 

剣を構え、殺気を漲らせるシルバリアン。状況が分からずも魂に命じられる言葉に従い動き出すヤーマイト。

 

「“<疾風連撃><竜尾一閃>”」

“ドカドカドカドカドカドカドカドカ、バシュンッ”

 

“ガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキン、ガギーーーン”

全ての攻撃を受け切るも後方に弾かれるシルバリアン。ヤーマイトの魂には新たなる指令、“全力で戦い観衆の目を引き付けよ”という思いが流れ込む。

 

「ウオ~~~~~~~ッ、<縮地><金剛撃>」

“ドゴーーーーン”

 

「<竜尾一閃><重撃連斬>」

“ズバッシュ、ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドーーン”

 

ヤーマイトの激しい攻撃に防戦一方となるシルバリアン、観客席はこれまでの技と技とのぶつかり合いから一転、絶対的な力の行使を行うヤーマイトの姿に大きな歓声を上げる。

舞台の盛り上がりは人々の目を惹き付け、王都闘技場の全ての者たちの意識が、二人の戦いに注がれるのだった。

 

――――――――――

 

“““““シュタン、サッサッサッサッサッサッ”””””

闘技場の観客席通路を複数の影が走る。目指すは来賓席、国王ゾルバ・グラン・オーランドの首。

 

“タンッ”

「皆様、申し訳ございません。これより先は関係者以外の立ち入りを禁止させていただいております。

どうぞそのままお帰りになられますよう、お願い申し上げます」

そう言い目の前に立ち塞がる様に姿を現した一人の女性執事。

 

「「「「「・・・・・」」」」」

“““““カチャリ”””””

引き抜かれた短剣、その場に緊張が走る。

 

“““““バッ”””””

散開し一斉に襲い掛かるフードの集団、だが次の瞬間。

 

“ズボズボズボズボズボズボズボズボ”

床面より立ち上がった黒い壁に突っ込む様に姿を消す襲撃者たち。

 

「さて、あなたはどうなさいますか?どうやら私と同じ人形のようですが」

ただ一人その場に残り、油断なく構えを取るフードの者に話し掛ける女性執事。

 

「“・・・・・・”」

「どうやら意志は残されていないようですね。命令に従う便利な人形、力の半減がない分以前の私よりも優秀という事でしょうか」

 

「“<ファイヤートルネード><ウォータートルネード>”」

掛けられた声に応える事無く、両手を向け短縮詠唱で戦略級上級魔法を撃ち出すフードの者。逃げ場のない廊下、絶体絶命のピンチと思われた、その時。

 

“ポヨンッ、ガバ~~~ッ、ガボッ”

女性執事の足下の影から突如姿を現した漆黒のスライム。スライムは廊下に出るやその姿を大きく伸ばし、襲い来る戦略級上級魔法ごとフードの者を飲み込んでしまうのだった。

 

“ポヨンッポヨンッ、ブルブルブル”

伸ばした身体を元に戻し、満足気に身を震わせる漆黒のスライム。女性執事は床のスライムを抱き上げると、周囲の気配を探る。

 

「どうやら別動隊も月影メイド長と十六夜たちが対処した様ですね。大福先輩、太郎の影に落ちた者たちはどうなさいました?」

“プルプルプル”

 

「そうですか、魔力枯渇にして転がしてあると。それでは後程手筈通りベルツシュタイン卿に引き渡す事といたしましょう。別動隊の方は十六夜が石化の呪いにより無力化した様ですし、まとめてお渡しすればいいでしょう。

その生き人形の方は暫く大福先輩が預かっておいてください。人形ですから精神を病む事もないでしょう」

 

“コツッ、コツッ、コツッ、コツッ”

闘技場観客席から大きな声援が響く、女性執事は漆黒のスライムを抱えたまま、何事もなかったかの様にその場を後にするのだった。

 

―――――――――――

 

「・・・反応が消えた?それはどういう事だ」

「ハッ、死兵零式のものと思われる魔力反応が感知された後、一切の呪力反応が消えました。死亡や解術の通知は来ていませんので、何らかの方法で無力化され囚われたものかと。

また強襲班に施された生命探知機からの発信も途絶えています。こちらは生死不明となります」

 

配下からの報告に、ギリギリと拳を握り締めるフードの者。

 

「クッ、王国め、やってくれる。死兵一式に通達、作戦変更、直接国王ゾルバの命を奪え!!

相手方にこちらの動きは完全に読まれていると見ていい、ならば力の差を見せ付けるまで」

「「ハッ」」

 

悪意は動く、それは戦う者の意思とは関係なく、世界を混沌へと沈める為に。

 

「“<火竜演舞・激流>”」

“ゴウッ”

それは豪炎の斬撃、剣身に炎を纏ったヤーマイトのロングソードが、渦巻く火炎を作り出しシルバリアンを襲う。

 

「面白い、“水遁・濁流流し”」

対してシルバリアンはロングソードの剣身に水流を纏わせ、燃え盛る炎を水龍の如き水の流れで呑み込んでいく。

 

“ガキーーン、ガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキン”

大技同士のぶつかり合い、舞台上に激しく広がる水蒸気。そんな視界の無くなった戦場に戦士たちの戦いのワルツが響き渡る。

 

“““““ウォ~~~~~~~~~~~~~~~~”””””

観客たちは次から次と繰り出される武技の数々に興奮し、歓声を轟かせる。

 

そんな中、変化は突然起こった。

 

“死兵一式に通達、作戦変更、直接国王ゾルバの命を奪え!!”

その言葉はヤーマイトの魂に直接語り掛けられる決して逆らう事の出来ない意思。

ヤーマイトはシルバリアンに打ち込むための剣を下ろし、暫しその場で足を止める。

 

「いかがいたした、ヤーマイト殿。まだまだやれるのであろう?さぁ、奏でようではないか、我らのメロディーを」

「“・・・・すまん。<空歩>”」

“シュパンッ、シュタンシュタンシュタンシュタン”

 

突如舞台をけり上空へと飛び上がったヤーマイト、霧の中から現われたヤーマイトの姿に、観客席からは声援が飛ぶ。

 

「“<豪覇・次元突き>”」

それは嘗て剣を交えた強敵を屠った技、戦いの中で知った互いの境遇、命を賭し仲間を守り抜いた強敵に、味方であるはずの者たちよりも強い共感と親愛を感じたあの戦い。

忘れていた、思い出す事すら出来なかった。ヘルムに隠された頬に熱い雫が流れる。

放たれた刃の目指す先は一つ、この国の国王ゾルバ・グラン・オーランドの心臓。かくして凶刃はオーランド王国の中心を穿ち、世は混沌の波に呑まれる、そうなるはずであった。

 

“バシュンッ”

「俺の腹筋は世界一~~~~~~!!」

“ズドーーン”

 

それは先の第三戦第一試合の覇者、黒蜜。黒い全身鎧の戦士は何故か巨大な大剣を掲げながら空中に佇んでいる。その腹部に直撃したはずの攻撃などものともせず、様々にポーズを変える黒蜜。

 

「“<豪覇・次元十連突き>”」

“ズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバッ”

“ドドドドドドドドドドッ”

撃ち出された十連突き、どの様な強敵であろうともこの猛攻には決して耐える事など「マッスルパワー!!」・・・。

 

高らかに笑い声を上げ無傷をアピールする黒蜜、その様子に動きの止まるヤーマイト。

 

「ヤーマイト殿、残念であるよ。貴殿ほどの武人であろうともその身を蝕む呪縛からは逃れられんとは。

ならばせめてその意識、ここで断ち切ろう。<魂魄礼斬>」

背後から掛けられた声、ヤーマイトが咄嗟に剣を向けた、その瞬間。

“シュピンッ”

美しい剣の軌道、自身が追い求めて止まなかった剣の極致。ヤーマイトは悟る、ようやく終われるのだと。

 

「あり・・・がとう・・・」

静かに、まるで落ち葉が零れ落ちる様に舞台へと落下するヤーマイト。

“ドンッ、バタ”

 

「そこまで、勝者、シルバリアン」

“““““ウォ~~~~~~~~~~~~~~~~”””””

審判から告げられた勝利の声、観客たちは両者の健闘を称え大きな歓声を上げる。

だが未だ宙に佇むシルバリアンの心に喜びはなく、大会役員に運ばれていくヤーマイトの姿を物寂し気に見つめ続けるのであった。




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