「慎重に移動するぞ」
「「せえのっ!!」」
“ドザッ”
眼下の闘技舞台の上では、大会役員の人間が横たわる全身甲冑姿の戦士をタンカに載せ急ぎ医務室に運んで行く。その様子をどこか物寂し気に見詰めるシルバリアン。
「シルバリアン・・・」
「ん?あぁ、ジェイク。いや、すまん、黒蜜。
いかんな、我はどうもシルバリアンという役になり切れていなかった様だ、不意にジミーに戻ってしまう」
「いや、いいよ。こんな所の声なんてどうせ誰にも聞こえちゃいないだろうし。でもあれか、さっきのヤーマイトって」
「あぁ、おそらくだが呪いの類で行動が縛られてたんだろうな。俺は専門家じゃないから詳しい事は分からないが、突然空中に跳び上がって来賓席に攻撃を仕掛けたのは本人の意志とは関係なかったんだと思う。
戦いの最中、薄っすらとだが意思の目覚めはあったんだ、それが突然。
アイツ、謝ってたよ、すまんって」
「あれだろ、ジミーが闇属性魔力をぶち込んだ掌底。それ以前も目茶苦茶強かったけど、あの後動きが明らかに変わったもんな。なんて言うか魂が入ったっていう感じ、力強さが全然違ってたし。
でも最後、“ありがとう”って言ってただろう?本当は止めて欲しかったんじゃないのか、アイツ自身。どこまで自分の状況を把握していたのかは分からないけど、意思を捻じ曲げられて戦わされるってのは、やっぱ辛いもんだと思うしな」
「そうだな。でもこれ以上先は俺たちには何も出来やしない。形はどうであれ来賓席に向かって攻撃を仕掛けたことは事実、いくら黒蜜が防いだからと言ってヤーマイトが無罪放免とはいかないだろうし、呪いによる縛りもある。
・・・俺は無力だな。こんな時俺には何も出来やしない、マルセル村でスライム相手に木刀を振るっていた時から何も変わらない」
「それを言ったら俺なんてただの壁だぜ?気持ちは分かるが今は脇に置いておこう。それにいつまでもここにいちゃ周りが心配する。早く下に降りようぜ、シルバリアン」
そう言い闘技舞台に降りていく黒蜜。シルバリアンはそんな黒蜜の背中を見詰めボツリと呟く。
「ありがとうな。やっぱりお前は勇者だよ、ジェイク。
さて、俺たちも気分を切り替えて決勝に臨むか。シルバリアン、この後も頼むぞ?」
“あぁ、我もジェイク殿との戦いは楽しみにしていた故な。それに黒蜜殿の硬さは先の攻撃を受けても平然としていた事から想定を上方修正すべきであろう。ジミー殿やヘンリー殿、ボビー殿、白雲殿に散々痛めつけられようともケロッとしているジェイク殿に黒蜜殿の硬さが加わった、これはジミー殿とて全力で当たらなければ勝負がつかないのではないか?”
シルバリアンからの声に口元を緩めるジミー。
「あぁ、本当にそうだ。俺の親友は最高だよ」(ニチャ~)
修羅は舞い降りる。王都武術大会決勝戦、戦いの時は、刻一刻と迫っているのであった。
―――――――――
「“<火竜演舞・激流>”」
「面白い、“水遁・濁流流し”」
“ズドーーーーン”
ぶつかり合う技と技、闘技舞台が水蒸気に包まれ戦いの様子は見えないものの、激しく打ち付け合う剣の音が、未だ勝負が続いている事を教えてくれる。
“シュパンッ、シュタンシュタンシュタンシュタン”
突如霧の中から跳び上がり宙を駆け上がるヤーマイト、これは上空からの大技が来る、誰もがそう思った瞬間であった。
「“<豪覇・次元突き>”」
放たれた武技、迫る凶刃、その向かう先は来賓観客席!?
突然の事態に思考が停止する人々。だがその時、たった一人行動を起こした者がいた。
“バシュンッ”
「俺の腹筋は世界一~~~~~~!!」
“ズドーーン”
巨大な大剣を掲げ、何故か武器である剣ではなく自身の肉体で迫る凶刃を受け止めた勇敢なる者、黒蜜。
「“<豪覇・次元十連突き>”」
“ズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバッ”
続けざまに振るわれたヤーマイトの武技、だが・・・。
“ドドドドドドドドドドッ”
「マッスルパワー!!」
その悉くを鋼の肉体で受け止める黒蜜、そして何故か空中で行われるマッスルポーズ。フロントダブルバイセップスからのサイドチェスト、大剣を持ちながらだととってもシュール。
そしてそんな黒蜜に向かってキャーキャー言いながら歓声を上げる<聖女>エミリー、「鉄壁の城門、キレてるキレてる!!」ってどこの呼び掛けですの?大体黒蜜って全身甲冑でしてよ?ポージングしてもその筋肉は隠れたままでしてよ?
フィリーとその隣のメイドは手を組みながら「「ジミー君、私の胸で癒してあげたい」」とか言ってますし。
って言うかなんでジミーが魔王四天王のシルバリアンと同じ甲冑姿で戦ってますの、しかも名前まで同じシルバリアンって。
フィリーにあの甲冑の名前がシルバリアンだと聞いてその疑問は解決しましたけど、そんな甲冑を持っている事自体意味が分かりませんわ!!
「えっ、ジミー君がシルバリアンを着ている訳?前に暗黒大陸に武者修行に行った時に、向こうの武術大会に出て景品で貰ったんだって。
それと魔王四天王は龍人族の人とサキュバス族の人と骸骨の人とホーンラビット族のゼノビアさんだよ?
私はホーンラビット族のゼノビアさんしか見た事ないけどね、前にマルセル村の秋の収穫祭に遊びに来たの」
<聖女>エミリーの話を聞いて余計訳が分からなくなってしまいましたわ。<聖女>エミリーって時々こういった突拍子のない話をしますものね、所謂天然キャラという奴なのかしら?
要約すればジミーは何らかの理由でマルセル村を訪れた魔王四天王?のゼノビアという方と暗黒大陸に渡り、武者修行をして(この時点ですでにキャパオーバーですわ)シルバリアンと呼ばれる甲冑を手に入れた。
今は身バレ防止のためにその甲冑を着込んでいるという事なのでしょう。そしてそれは黒い甲冑姿で黒蜜と名乗る<勇者>ジェイクも同じであると。黒蜜の持つ巨大な大剣は代々剣術部に保管されていた品で、この大会に出るにあたり借り受けて来たと。
何とか理解したという事にしておきましょう。
「それでね、黒蜜はいつもジェイク君にくっ付いているスライムさんでね、プルプルしていてとってもかわいいの♪」
・・・<聖女>エミリー、結構残念な子でしたのね。あなたは基本黙って微笑んでいる方がよくってよ?“雄弁は銀、沈黙は金”という格言もございましてよ?
「そう言えばケビン殿はどこかに行ったのか?さっきから姿が見えない様だが?」
ロナウドの言葉に席を見れば、いつの間にかジミーのお兄様のお姿が。
「う~ん、ケビンお兄ちゃんが突然姿を消したり突然現れたりするのはいつもの事だから気にしない方がいいよ?
ケビンお兄ちゃんっていつもコソコソ何かやってるし。今回もきっと何かやってるんだよ、それが何かまでは分からないけど。でも周りに迷惑を掛けるような事はしないから、そっとしておけばいいんじゃない?
下手に何をしたのか知っちゃったら多分胃に悪いから」
<聖女>エミリーの言葉に、
何でこの人達は平然としていますの、意味が分かりませんわ~~!!
――――――――――
「先生、第三戦第二試合に出場したターケル・ヤーマイト様をお連れしました。対戦者のシルバリアン様に大きく切り付けられ上空から落下、舞台の石畳に強く打ちつけられておりました」
「分かりました、先ずは状態を確認しましょう。甲冑を外すのを手伝ってください」
大会役員により医務室に運ばれたヤーマイト、待機していた医療スタッフにより甲冑が外され治療が開始される、そうなるはずであった。
“ガチャガチャガチャガチャ”
「これってどうなっているんですか?取り外す箇所が見当たらないんですが」
困惑しつつもなんとか甲冑を外そうとする医療スタッフたち。
「あぁ、それは呪術により無理に外す事が出来なくしてあるからね。頑張っているところ悪いが、ソレはこちらで引き取らせてもらうよ」
掛けられたのはその場に似つかわしくない声音、次の瞬間。
”カチャッ、タッタッタッ、ズバズバズバズバズバ”
突如医務室に入り込んで来た複数の人影、振るわれた凶刃、飛び散る鮮血、その場に崩れ落ちる医療スタッフたち。
「さて、邪魔な遺体はそのままでいい。死兵一式に石化の呪符を貼ったらマジックバッグに仕舞い込むんだ。
今回の失敗は残念だが最悪一式だけでも持ち帰らなければならない。時間はない、王国側が動き出す前に撤収する」
「「「ハッ」」」
フードを被り正体を隠した者たちが、目的を果たしその場を後にしようとした、その時であった。
「部隊長、扉が開きません」
「部隊長、こちらの窓もビクリともしません。叩き割ろうにも衝撃が伝わっていないかのように一切の反応がありません」
「クッ、罠か!?総員、警戒態勢。敵は見つけ次第殲滅せよ!!」
「「「ハッ」」」
短剣を構え油断なく周囲を見回す、フードを被った侵入者たち。
「クックックッ、アッハッハッハッ。いや~、見事に引っ掛かってくれたね、流石は帝国の暗殺部隊といったところかな?
こちらからの問い掛けに一切の動揺も無しと、うん、訓練された特殊部隊はやっぱり一味違うね~」
掛けられた声、だが口を開いているのは部屋の床に切り倒された一体の躯。
「酷いよね~、行き成り切り付けるんだもん。普通だったら死んじゃうよ?躊躇や容赦が一切なしって、帝国の闇も深いな~」
“ザクザクザク”
しゃべりながらゆっくりと起き上がろうとした躯、だがそんな隙をフードの者たちは見逃さない。一斉に突き立てられた短剣、それは頭・首・心臓と、人の急所を的確に捉える。だが・・・。
「せっかちだな~」
「「「クッ、抜けない!!」」」
尚も平然と話を続ける躯、突き立てた武器が抜けず、咄嗟に手を放し後方に下がるフードの者たち。
“ズブズブズブズブ”
身体の中に呑み込まれて行く短剣、その光景を睨みつける部隊長と呼ばれた者。
「“生き人形”、人の呪いにより在り方を歪められし我らが同胞。恨み、妬み、辛み。人の負の感情が生み出す数々の悲劇。
負の感情により増幅された甘美な闇属性魔力は、我々のような存在を引き付けて止まない、そうだろう、皆のものよ」
“ノソッ、ノソノソノソッ”
躯の言葉に呼応するかのように身を起こす他の死体たち。白目をむき、血を流し、生気を失った表情で自分たちを手に掛けた者たちに顔を向ける。
「あぁ、いいよ、いい表情だ。いくら訓練により感情を制御できたと言えども、根源的な未知に対する恐怖は決して失われる事がない。思考が理解出来ずとも魂が理解する、それは正しく人の営み」
“パンッ”
躯が正面で手を打ち鳴らす。ゆっくりと開かれる掌と掌、その間から現れる赤黒く染められた禍々しいロングソード。ドクンドクン剣身に脈打つ血管、ギャリギャリと響く謎の音、その場に広がる重圧を伴う圧倒的な殺意。
「魔剣闇喰らい、みんな大好き呪われた剣。君たちの魂にべっとりと染みついた怨念を喰らいたいと興奮しちゃってるよ」(ニタ~~~~)
「クッ、総員、全ての武装の使用を許可する。何としてでもこの場を脱出する!!」
「部隊長、身体が、床から血の塊が!!」
それはいつの間にか床全体に広がっていた鮮血、その全てが足下からせり上がり、フードの者たちを蝕んでいく。
“ズブズブズブズブ”
床に向かい沈んでいく身体、鮮血に包まれ身動き一つできなくなる自身。失っていた、捨てたはずの恐怖という感情。
「「「「アッ、アッ、アッ、アッ・・・・」」」」
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い、ガタガタと奥歯を鳴らし虚空を見詰めながら沈んでいく自身。
“トプンッ”
静まり返った医務室、そこには侵入者の痕跡も、運ばれたはずのヤーマイトの姿も、何もかもが一切残されていないのであった。
本日二話目です。
行ってらっしゃい。
by@aozora