転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第635話 王都武術大会、決勝

そこは暗闇の中であった。周囲一帯に広がる真っ暗な闇、遥か上空にぽつりぽつりと灯る光の点が、唯一ここがどこかの空間内である事を示す手掛かりであった。

ぼんやりとした視界、その中に映る宙に浮く何か。次第に合っていく焦点、それは一本のサーベル。

“ブワッ”

“怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい”

 

サーベルから噴き出す魂を押しつぶさんばかりの怨念、咄嗟に顔を逸らせば、そこには宙に浮くショートソード。

“ズワ~~~~~~~”

ショートソードの周りに広がる霧状の何かその霧に触れた瞬間、クズグズと崩れる衣類とただれ落ちていく身体。

 

「「「「ウワーーーーーー!!」」」」

死にたくない、その一心で逃げ出そうとした、だが身体を向けた先には・・・。

 

“ギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリ”

“殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す”

 

ドクンドクンと脈打つ剣身に浮かぶ血管、赤黒いロングソードがまるで獲物を前にした化け物のように、気が狂いそうになる自分たちを待ち構える。

 

“ズオンッ”

突如全身を襲う重圧、堪らずその場にへたり込む囚われし者たち。

中空に浮かぶ一振りの黒鞘の直刀がまるでその場の者たちを監視するかのようにゆっくりと揺れる。

 

「「「「アッ、アッ、アッ、アッ・・・」」」」

自分達はどうなってしまうのだろうか、ガタガタと奥歯を鳴らし恐怖に震えながら地面に這いつくばる囚われし者たち。

 

「みなさん、その辺で。正気を失ってしまっては意味がありません。

この者たちは学ばなければいけない、如何に自分たちが矮小で愚かで罪深い者であるのかを。

恐怖に魂を削られたのならば補充してやればいい。あなた方は幸運だ、こうして霊薬をいただく事が出来るのですから」

 

それは凛とした声音、口から注がれるのは甘さを含んだ液体。身体の芯から力が溢れ、弱った心が回復していく。

 

「元気を取り戻せましたか?それでは私はこれで、また皆様の限界が来た頃にお伺いいたしましょう」

だがそれは救いではなかった、再び訪れる恐怖の始まり。

 

“ズオンッ”

全身が地面に押さえつけられる。

“ギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリ”

気が狂わんばかりの殺意が襲い掛かる。

“ブシュッ、ジュワ~ッ、グズグズグズ”

皮膚はただれ、指先が崩れ落ち。

“怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨”

身体の中を虫が這いずる様な激しい不快感と強烈な痛みが全身を襲う。

 

「「「「グァーーーーーーーーーーーーーーー!!」」」」

「では、ごゆっくりお楽しみください」

 

“コツンッ、コツンッ、コツンッ”

遠ざかっていく足音、それは地獄の始まりを告げるもの。

暗闇の空間、薄れる事のない意識の中に、その足音はいつまでも響き続けるのだった。

 

――――――――

 

「はい、皆さんお疲れ~。あっ、残月お帰り、捕まえた襲撃者たちはどうだった?暴れたりしてなかった?

黒鴉たちが嬉々としてお仕置きしてくれてるんだ、そりゃよかった。

まぁ相手は帝国の特殊工作員だしね、職務に忠実、聖茶でもちゃんと話をしてくれるかどうか、濃さを間違えれば聖人様の出来上がりだし、調整が難しいもんね。

その点確り分からせた後なら割と素直になってくれるし、そうなったらベルツシュタイン伯爵閣下に丸投げしちゃえばいいしね。

残月、壊れないように調整の方お願いね」

「はい、畏まりました」

 

ケビンの言葉に、慇懃に礼をし返事をする女性執事。

 

「月影、襲撃犯の連中はどうしたの?」

「はい、残月が対応した者たちは大福が魔力枯渇にして無力化、太郎の影空間に捕え、私達が対処した者たちは無力化したのち石化の呪いを掛けマジックバッグに収納、先程それらの者たちをベルツシュタイン卿の配下の者に引き渡して参りました」

 

「そう、仕事が早いね。ジェームス、ドーバン、さっきは医療班役ご苦労様。シルビアさんとイザベルさんもありがとうございました、ちょっとお化け役が足りなかったんですよ」

ケビンの声に礼で返す執事と庭師。ローブ姿の女性たちは呆れた顔をしながら言葉を返す。

 

「まぁ私たちは基本暇人だから別にいいんだけど、お化け役って何よ、お化け役って。それとこっちの二人、レイスとかじゃなくて怨霊じゃない。何で怨霊がこんなに理性的なのよ、しかもかなりの力を持った怨霊よ?リッチキングにも負けないわよ?同じ死人の私が言うのもなんだけど、意味が分からないわ」

そう言い肩を竦めるシルビア。ケビンは‟えっ、ジェームスたちってそんなに強かったの?それじゃこれからも屋敷の警備は万全じゃん”と見当外れの事を考える。

 

「まぁなんにしても王都武術大会における国王襲撃事件はこれで終わりでしょう。面倒な事は王都諜報組織“影”の皆さんに丸投げって事で。

これから決勝戦ですが、皆さんはこちらの窓から戦いの様子をご覧ください」

ケビンが腕をサッと動かすと、床から黒い壁が現れる。その壁が真ん中から両開きの窓のように開いたと思うと、そこから眩しい光が差し込んで来る。

 

“ウワ~~~~~~~~~~~!!”

飛び込んでくる大きな歓声、眩しい日の光の向こうに広がっているのは王都武術大会の会場。

 

「結界魔法と影魔法の組み合わせで作ってみました。観客にはこの窓の存在は一切分からないようになってます。向こうの音は聞こえますが、こっちからの音は聞こえないって感じですね、結界があるのでこの窓から出る事は出来ませんが。

それじゃ俺は会場の方へ行くんで、後の事はお願いします。大会が終わったら出入り口を作っておくから王都観光でも楽しんでね、街の案内はジェームスに頼んであるから。

大福、行くよ」

 

そう言いスライムの大福を抱えその場に沈むケビン。暗闇に残された使用人たちは相変わらずの主人の無茶苦茶振りに呆れながらも、イスやテーブル、飲み物や摘みを用意し王都武術大会決勝戦を楽しむのでした。

 

――――――――

 

「エミリーちゃんたち、突然いなくなってごめんね~。ちょっと野暮用があったもんで」

そう言いながら現われた俺に、「またケビンお兄ちゃんがどこかでケビンお兄ちゃんしてたんだよ」とヒソヒソ話を始めるエミリーちゃんとフィリーちゃん。

うん、全く信用ありませんね。まぁその通りなんで反論はしませんけども。

 

「あの、ケビンさん、その腕に抱えておられる黒光りするものは一体?」

声を掛けて来たのはラビアナさん。ほうほう、こちらの物体が気になりますか、ならば教えて進ぜましょう。

 

「あぁ、これはね「あっ、大福だ。大福先生、お久し振りです。相変わらず艶めいていてきれいですね」・・・」

“プルプルプル”

フィリーの言葉に身を震わせて喜びを示す大福。

 

「えっと、大福先生と仰いますと?」

「それはね、「大福先生は私達の修行相手のスライムなんだよ?大福先生はマルセル村の最強、マルセル村の守護神にして超えるべき壁なの」・・・」

にこにこと笑顔を浮かべ大福の事を紹介するエミリーちゃん。

 

“ポンポン”

触手を伸ばし俺の肩を叩く大福。

だ、大丈夫なんだからな、俺は大人だから言葉を遮られたくらいで落ち込んだりしないんだからな!だからそれ以上ポンポンするな~、なんか悲しくなってくるわ!!

 

「そ、そうですの。随分と懐いておられるのですね」

そういい顔を逸らすラビアナさん。あの、エミリーちゃんは決して残念な子じゃないですからね?この場で証明する事は出来ませんが、大福がマルセル村の最強なのは事実ですから。

でもまぁ普通スライムが最強とか言ってる奴を見たらそうなるわな。その事に触れない辺り、ラビアナさんは気遣いの出来る子という事なんでしょう。

 

「“戦士たちは戦った、己の信念の為に、己の強さを証明する為に。そして今、その頂点が決定する。

王都武術大会決勝、黒蜜、シルバリアン、舞台の上へ!!」

“““““ウォ~~~~~~~~~~~~~~~~”””””

 

上がる歓声、俺は席に着き大福を膝の上に載せながら、視線を闘技舞台に向ける。舞台の上に立つのは漆黒の甲冑を着込んだ戦士黒蜜、白銀の甲冑を着込んだ戦士シルバリアン。

両者は自身の得物を軽く振ると、開始位置へと歩を進める。

 

向き合いジッと動きを止める両者、黒蜜は右肩に大剣ドラゴンキラーを担ぎ、シルバリアンはロングソードを両手で掴み、右下方に下げる。

徐々に観客のざわめきが静まり、会場全体が静寂に包まれる。

 

「両者開始位置に。王都武術大会決勝戦、はじめ!!」

““バッ、ダッダッダッダッ””

走り出したのは両者同時であった。

 

“ブオンッ、ガキーーーーーン”

激しくぶつかり合う剣と剣。

 

“ガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキン”

まるで小枝のように振るわれる黒蜜の大剣、だがそんな大質量な物体の衝撃をものともせず打ち返していくシルバリアン。

長物の剣とロングソード、重量と取り回しにくさという欠点を乗り越えた力強さと破壊力に勝る大剣と、速さと鋭さに勝るロングソードの戦いに優劣はない。あるのは意思の力、意地と意地とのぶつかり合い。

 

「全力だ、<龍牙一閃>」

“シュパンッ”

「初っ端に放つ技じゃないだろうがー!!<龍鱗金剛壁>」

“ドガーーーーン”

“バッ、ガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキン”

攻撃と防御、互いに技を繰り出してからの速攻の打ち合いに、大きく盛り上がる観客たち。

 

「剣が速過ぎ、手数が多いわ!!<地龍剛剣>」

小枝のように振るっていた大剣を前面に押し出し、打ち込まれるロングソードの盾としながら重量のある打ち込みを行う戦法に変えた黒蜜。

そんな黒蜜に対し、脚を使い回り込みを狙うシルバリアン。

 

「「「「「<幻脚・影分身>」」」」」

途端幾人もの姿に変わるシルバリアンに、観客の歓声が響く。

 

「クッ、<円月一閃>!!」

“ブゥオン!!”

長大なドラゴンキラーのリーチを活かした範囲攻撃。複数の敵に一斉に襲われたのならその全てを一蹴すればいい、シンプルかつ合理的な攻撃により姿を消すシルバリアンの幻影。だが・・・。

 

「それは読んでいたよ、<襲雷(しゅうらい)>!!」

それは(いかずち)、天空を走る稲妻の如く、ジグザグと宙を駆け、黒蜜に迫ったシルバリアンが光の如き一閃を黒蜜に打ち込んだ。

 

“ドゴーーーーン”

激しい打撃音と共に宙を飛ぶ黒蜜。

“ドサリ”

勝負あり、誰もがシルバリアンの勝ちを確信した。

 

「イッタ~~~、シルバリアンの奴、思いっきり打ち込みやがんの。って言うかドラゴンキラー何処よ?何でお前の方が吹き飛んでるんだよ、ドラゴンキラー!!

ってわ~~、待て待て待て、剣くらい拾わせろ~~~~!!」

 

場違いなほど気の抜けた声とともにムクリと起き上がる黒蜜に唖然とする観客たち、そんな黒蜜に透かさず追撃を加えるシルバリアン。

 

「<十連突き>」

“ババババババババババッ”

“ドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカッ”

「イテテテテテって死ぬわド阿呆~~~!!」

 

“イヤイヤ、何でそれだけの攻撃を受けて平気なの?意味が分からないんだけど?”

シルバリアンの見事な剣技、だがその攻撃をもろに受けて平然としている黒蜜の姿に、観客の心は一つになるのであった。




本日一話目です。
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