“ドゴーーーーーン、バゴーーーーーン”
嘗て世界を混沌の闇に叩き落とした厄災があった。
“ズゴーーーーーン、ドガーーーーーン”
それは険しい山岳部の更に奥、人類の訪れを拒絶するような大山脈の最奥に佇む巨大な樹木。
““ウォーーーーーー、ドガーーーーーン””
デビルトレント、周囲の強大な力を持つ魔物を支配し、全人類を滅亡に追いやろうとした最悪の魔王。
そんな人類最大の危機に立ち上がった者たちがいた。それが勇者であり、勇者パーティーの者たちであった。彼らは勇敢にも魔王の潜む大山脈に赴き、激闘の末その討伐に成功した。
その戦いの際勇者が用いていた武器が、最強の聖剣スカイソードであり、最強の聖盾グレートアースであると言われている。これらの品は勇者の伝説と共に女神信仰の国ボルグ教国の宝物庫に眠っていると言う。
「隙あり、<龍王一閃“鬼切り”>」
「阿呆かー!!死ぬわー!!唸れ、俺のシックスパック、マッスルパワー!!」
“シュパンッ、ズゴーーーーーン”
時が経ち、ある者がふと思った。“最強の聖剣と最強の聖盾、ぶつかり合ったら勝つのはどっちだろう?”と。
ある者は答えた、“そりゃ何と言っても聖剣スカイソードに決まってるだろうがよ。何といっても鍛冶の神様がお造りになったといわれる神器だぜ?切れないものなんかないだろうさ”と。
ある者は答えた、“絶対の防壁、聖盾グレートアース。その盾に防ぐ事の出来ぬ攻撃はない、ならば勝つのは聖盾グレートアースだろう。何と言っても鍛冶の神様がお造りになった神器である故な”と。
この戯言は人類に神がお与えになられた慈悲に対する冒涜として、公に語られる事のない話ではあったものの、人々の心に残る疑問として未だ多くの者に語り継がれる話題の一つであった。
「ふん、やはり硬いな。戦い甲斐のある相手というものは素晴らしい」
その技量において今大会一と謳われる白銀の騎士シルバリアン。
「イッタ~~~~~、マジで胴体ちぎれちゃうから、即死よ、即死!殺気マシマシで切り掛かって来るって意味分からんわ~!!」
その防御力に於いて今大会最硬と呼ばれる黒蜜。
この二人による決勝戦は、まさに聖剣と聖盾の疑問そのものの様相を呈していたのである。
「大剣聖クルーガル・ウォーレン、貴殿はこの戦いをどう見る」
決勝戦開始からすでに五時間、未だに決着の付かない白熱の戦いに、既に体力と気力の限界を迎え静かになる観客席。互いに高い技量を持つ戦士同士、剣と剣を交えての技と技のせめぎ合いを行っていたと思えば、叩き込まれる武技の数々。
一瞬でも見逃せば即勝負が付くと言わんばかりの攻防にも関わらず、延々と続く緊張感の抜けない戦いのワルツ。
初めは立ち上がり歓声を上げていた観客も一人、また一人と観客席に座り込む。
“ドガーーーーーン”
一瞬のスキを突いて叩き込まれたシルバリアンの斬撃に、舞台上から吹き飛ぶ黒蜜。勝負 あり、誰もがそう思いそうになる状況、だが・・・。
「グヘッ、お返しだ~~!!」
“ダンッ、タッタッタッタッタッ、ドゴーーーーーン”
宙を蹴り舞台に戻るや、逆にシルバリアンを場外へと吹き飛ばす黒蜜。吹き飛んだシルバリアンは空中でくるりと身を翻すや、宙を蹴り立体的に上空からの攻撃を仕掛けていく。
「そうですな。あの者たちに舞台から落ちての場外負けというものはあり得ない。見るものが見れば分かるやもしれませんが、瞬時に足下に結界障壁を張ることで足場としている。
やろうと思えば出来る者も多いこの技術ですが、実際の戦闘の中で多用する事は非常に難しい。
ただの魔法防御として使うのではなく、足場とする以上見えない場所に正確に作り出す必要がある。そしてそれを正確に把握し踏み外すことなく利用する。
要するに目隠しした状態でまばらに立てた丸太の上を走り抜ける様なもの、そんな状態で尚且つ剣を振るい続けている。更に言えばどちらの攻撃も全く致命傷にはなっていない、シルバリアンは高い技量で、黒蜜は呆れる様な耐久性で衝撃をやり過ごしている。
開始から五時間、その動きにまったく変化がないどころか動きが洗練されより鋭くすらなっている、このまま試合が三日三晩続いたとしてもなにも不思議はない。
ある種の膠着状態と言えるでしょう」
“ウ~~~~~ン”
大剣聖クルーガルの言葉に唸りを上げる国王。大会の主催者としてはきちんとした決着は見届けなければならない。
だがいつまでも呑気にこの場に留まる訳にもいかない。
伝統ある王都武術大会、これまで多くの英雄を輩出してきたこの大会で、今新たな歴史が刻まれようとしていた。
“カンカンカンカン”
「そこまで!!両者開始位置に!!」
審判から打ち鳴らされた合図、その手にはいつのまにか拍子木が握られ、戦士たちに開始位置へと戻るように促す。
「王都武術大会決勝戦、黒蜜対シルバリアンの戦いを両者拮抗状態とみなし引き分けとする。
繰り返す、王都武術大会決勝戦、黒蜜対シルバリアンの戦いを両者拮抗状態とみなし引き分けとする。
これはゾルバ・グラン・オーランド国王陛下の決定である」
両者拮抗状態による引き分け、この前代未聞の裁定に果たして文句を唱える者はいなかった。
観客が力尽きた現状、どの様な形であれ勝負が終わったという事に、全ての者が安堵のため息を漏らしたからであった。
「うむ、決着がつかなんだか。これは我の修行不足、次こそはその鉄壁の肉体に絶対なる一撃を」
「だから死んじゃうから、シルバリアンの打ち込みはシャレにならないから!!事実俺今回何度か死を幻視したんだからな、いくら俺が打たれ強いからっていい加減にしろ~!!」
掴みかからんばかりの勢いで抗議する黒蜜に、“イヤイヤイヤ、打たれ強いとかそんな次元じゃないから、意味が分からないから”と心の中でツッコミを入れる観客たち。
「尚、今大会は優勝者無し、準優勝者二名とする。互いに、礼!!」
“パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ”
長い戦いが幕を閉じた。王都武術大会、その会場に鮮烈な存在感を示した戦士たち。彼らの戦いは多くの人々に語り継がれ新たな伝説となるだろう。
こうして王都武術大会は、表向き無事に閉幕を迎える事となったのであった。
王宮内晩餐会会場、そこでは今回の王都武術大会において第二戦にまで勝ち進んだ戦士たちが招かれ、王家主催のパーティーが催されていた。
「なに、黒蜜殿が何処にも見当たらないだと?」
「はい、先程まで来客者たちと談笑しておられたのですが、国王陛下とのご挨拶を終えたのちいつの間にかお姿が。それとシルバリアン様も同様に」
「なっ、お二人はこのパーティーの主役ではないか!!未だ準優勝の賞金や副賞の引き渡しも終わっていないのだぞ!
探せ、まだ会場のどこかに居られるはずだ、隈なく探すのだ!!」
王都武術大会準優勝者二名の失踪、この出来事はパーティー参加者全員に緘口令が敷かれ、世間には知られる事のない出来事として処理された。
だが常に甲冑姿で大衆に素顔を晒す事のなかった彼らが一体何者であったのかという噂は、王都の謎として広く語り継がれることになるのであった。
――――――――――
「お疲れ~、いや~、素晴らしい戦いでした。お兄ちゃんは同じマルセル村出身者として誇らしく思います。
と言う訳で今日はお兄ちゃんの奢りです、存分に楽しんじゃってください」
テーブルに並べられた色鮮やかな料理の数々、漂う香りはそのどれもが心を込めて作られた逸品であることを胃袋に訴えかける。
テーブル席に着くのは王都では知らない者のいない王都学園の制服を着た者たちと執事服やメイド服を着た者たち、それと王都商人なら誰もが知っている超大物王都商業ギルド会長ベルナール・アパガードと、王都諜報組織“影”の総帥ハインリッヒ・ベルツシュタイン伯爵。
「あの、ジミーのお兄様、少々お聞きしてもよろしいでしょうか?このレストランは王都でも三本の指に入る程の格式高い超高級店ですわよね?確か十年先まで予約が埋まっているとかなんとか。
この店の料理長は貴族の横槍など一切聞かない芯の入った御方であるとか、噂では料理の神様の加護をお持ちと聞いた事があるのですが」
言葉を掛けたのはラビアナさん。神様の加護持ちは特別な人間、ましてや料理の神様の加護を持つ者は絶品料理を作り出す事で有名。神様の加護がある以上その者を権力によって縛ることは、神の意向に逆らう事。
このレストランのオーナーシェフが王都で三本の指に入るレストランを経営しつつ、貴族の横槍を跳ね除け続けられる理由ですね。
「え~、その件につきましてはこちらのベルナール・アパガード氏にお願いしてマルセル村のお野菜(ケビンの実験農場産)をお届けする事で話を付けました。
うちの畑のお野菜は絶品ですからね、料理長が満面の笑みで快諾してくださいました」
そう言いどや顔を決める俺に、口を開けたままポカンとするラビアナさん。持つべきものは顔の広い権力者の知人、これが大人の社会というものなのだよ、ラビアナ君。
「いや~、しかしあの決勝戦で戦っておられたお二人が、ワイルドウッド男爵閣下の弟様と今代の<勇者>様であらせられるジェイク・クロー様であったとは。
ワイルドウッド男爵閣下もお人が悪い、こういう事は前もって教えていただければ」
「いや~、申し訳ない。でもあまり多くの者に知られてしまうと彼らの平穏な学園生活が荒らされてしまいますので。
<勇者>ジェイクは言うに及ばずジミーもあれほどの実力者、いずれこうしてゆっくりと食事をする事の叶わぬ身となってしまうやもしれません。であれば王都学園に通っている間くらいは楽しく過ごさせてやりたいというのがマルセル村の長兄としての思いでして。
それとベルツシュタイン伯爵閣下に於かれましては色々と根回しをしていただきありがとうございました。お陰を持ちまして王都武術大会の決勝を無事迎える事が出来ました。
本日はほんのお礼、マルセル村の食材を使い最高の料理人が作り上げました料理の数々、どうぞご堪能下さい」
俺はそう言い上座に座るベルツシュタイン伯爵閣下に慇懃に礼をする。本当に閣下にはお世話になっちゃって、国王襲撃犯の後始末もそうだけど、ジェイク君とジミーが決勝戦まで当たらないように細工してくださったのも、ベルツシュタイン伯爵閣下のお力でございます。
だって、どう考えても千日手になることは明らかだったんだもん。お互いに取り決めをして覇気や魔力纏いによる強化や覇魔混合を封印していてくれたお陰で会場大破壊なんてことにはならなかったけど、二人とも夢中になってたからか結構な流れ弾がね。
それらをばれないように障壁結界で防いでいたのはうちのスタッフ(トライデント)、大会役員の格好で決勝の舞台周りに配置してくださったのは王都諜報組織“影”の方々でございます。
無論上空に飛んじゃった奴なんかもありましたが、それは俺がこっそり張った大結界で防がせていただきました。徐々に威力が弱まって消えて行く特別仕様、派手に砕けないからそこに大結界があるって事は気が付かれなかったんじゃないかな?
「いや、こっちこそ色々世話になったよ。お陰で仕事がうまく進んだしね。あとの事は任せてくれて大丈夫かな、例の件もうまく処理しておいたから」
ベルツシュタイン伯爵閣下の言う例の件とは“生き人形”の件ですね。本来ならターケル・ヤーマイトも引き渡さないといけないんだろうけど、折角手に入れた“生き人形”をあげるのもね~。
捕らえた関係者(幹部を含む)を引き渡し“生き人形”二体はこっちでもらう事で話を付けたって訳です。
うちら頑張ったし?問題ナッシングでしょう。
「「「「「「やっぱりケビンお兄ちゃんがケビンお兄ちゃんしてたんだよ」」」」」」
俺とベルツシュタイン伯爵閣下が互いに笑顔を向け合っていると何故か学園生徒さん方から謂れのないお言葉がですね?
俺、何も悪さしてないよ~、本当だよ~。
“カチャリ、カチャリ、カチャリ”
俺たちがそんな感じで挨拶を交わしていると、次々と運ばれてくる美しく盛り付けられた料理の数々。
“““““““グゥ~~~~~~~~~~~~~~”””””””
聞こえてくるのは元気のいい虫の声。
「まぁ何はともあれ、無事に王都武術大会は終了しました。思いっきり楽しんだ二人を祝して乾杯しましょう。
ジェイク君、ジミー、二人とも準優勝おめでとう。カンパ~イ!!」
「「「「「カンパーイ」」」」」
進むフォーク、驚きの表情を浮かべ舌鼓を打つ若者たち。王都の楽しい夜はこうして更けていくのでした。
本日二話目です。
行ってらっしゃい。
by@aozora