転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第639話 辺境男爵、伯爵閣下に定期報告を行う

“ゴソゴソゴソゴソ”

“キュワックワ、キュワ”

“““““クワックワッ”””””

“““““キュキュキュキュ~”””””

 

収穫期の農場の朝は早い。まだ空に暗さが残るうちから畑に出て果菜類や葉物野菜、根菜類といった作物を次々と収穫していく従業員たち。

畑の管理は日々の手入れ、伸びてきた雑草の芽をこまめに取り除き、作物の生育に適した環境を維持するのも農家の仕事である。そんな時、背の低い小回りの利く者たちは無類の力を発揮する。

 

ここはケビンの実験農場と呼ばれる村外れの農場、そこでは様々な魔物が飼育され、従業員として働いている。

 

“““““タッタッタッタッタッ、シュタンシュタン”””””

畑の畝の合間を縦横無尽に走り回り雑草を取り除いていく鷹の目コッコたち、彼らはその小柄な体と身体能力をいかんなく発揮し、広い農場を隈なく走り回る。

 

“““““ビョコンピョコンピョコン、ムシャムシャムシャ”””””

同じく畑の方々に散らばり雑草の芽を取り尽くさんばかりに口を動かすホーンラビットたち。訓練の末パニック行動を克服した彼らは、可愛いさを振り撒く愛玩動物の道を目指すだけではなく、農作業の手伝いをする良きパートナーとしての道を模索し始めていた。

 

ここはケビンの実験農場、こうした実験により積み上げられた研究成果は領主であるホーンラビット伯爵に報告され、マルセル村発展のために活かされていくのである。

 

「みんなお疲れ、収穫物はこっちの籠に持って来てくれるか?それと朝食を用意しておいたから終わり次第休憩に入ってくれ」

“““““クワックワックワッ♪”””””

“““““キュイッキュイッキュイッ♪”””””

 

俺からの掛け声に嬉しそうに集まってくる鷹の目コッコとホーンラビットたち。切っ掛けはちょっとした家族との会話からだった。

 

「そう言えばトーマスさんが畑の雑草取りが大変だってぼやいていたのよ、ビッグワーム農法は作物の育ちがいい分雑草の伸びも早いから。

前はジェイク君が手伝ってくれていたからいいけど、今はトーマスさん一人でしょう?おチビちゃん達が手伝いに来てくれると言っても、毎回当てにする訳にはいかないしね」

 

夕食時にアナさんから聞かされた言葉、我が家は畑の守護神緑と黄色がいるし、マッシュとキャロルも控えていて万全だ。だが他所の畑はどうか?

働き手が帰って来たマルコさんのところはいいとしても、助産師のセシルお婆さんや子供の小さなギースさんの家とか。

ここは農村、働き手が多いに越したことはない。でも腰を曲げてのきつい作業を代わってくれる者がいるのなら誰しもが喜ぶに違いない。

俺は団子に相談し、癒し隊の中から畑作業に従事してもよいというメンバーを選出、実験農場で緑たちの研修を受けてもらう事とした。

鷹の目コッコたちは暇してるみたいなので声を掛けたら即快諾、アイツらなんか忍びの集団みたいになっちゃってるんだもん。

首の輪コッコは相撲部屋だし、家畜らしい家畜って斑点コッコくらいじゃね?

班目コッコの危険度はホーンラビットに近いものがあるもんな~、卵を沢山産んでくれるんでいいんですが、産業として広めるのが難しいんですよね。

 

「おはようケビン、何か私だけゆっくりしててごめんなさい」

「おはようアナスタシア。こっちの事は気にしないで、ゆっくり寝ていていいんだよ?」

畑脇の小屋から顔を出したのはアナさん。一人だけ遅くまで寝ていてなんか申し訳ないといった顔をしていますが、それはしかたのないこと。

だってアナさん、まだ安定期に入ってませんし。

妊娠が発覚したのは一月前、何か魔力の流れがおかしいなと思ってセシルお婆さんに見て貰ったら妊娠が確認されまして。最近は一番落ち着くという理由で、自己領域の城じゃなくて畑脇の小屋で生活しています。

 

「でも何か申し訳なくて。ううん、そうじゃないわね、ありがとうあなた。いま朝食を作るわね」

そう言い小屋に戻っていくアナさん。家族は協力し合うもの、申し訳ないと負担に思うんじゃなく感謝すればそれでいい。

互いに分かり合い少しずつ家族になっていく、それが夫婦というものなのだから。

 

「そう言えばケイトはどうしたの?まだ寝ているのか?」

「いえ、私より先に起きたはずだけど。・・・そう言えば朝の稽古がどうのとか言っていた様な」

 

“パシンッ、パシンッ、バシンッ”

 

「・・・ケイトーーーー!!お前も妊娠してるんだから首の輪コッコの稽古に参加してるんじゃな~~~い!!」

アナさんの妊娠が分かった際に、一緒に診てもらったケイトの妊娠も発覚。ザルバさんとカミラさんが大喜びして出産までホーンラビット伯爵家で暮らさないかと言ってくれたんですけどね、「堅苦しそうで嫌」と一蹴されてザルバさん超落ち込んでいたっけ。

って言うか妊婦がぶつかり稽古に参加しちゃ駄目でしょうが~~~!!

俺は首の輪コッコ飼育場からケイトを引き摺り出すと、「二度とこんな事をしない様に、次やったらカミラさんに引き渡す」と強く言い含めるのでした。

 

――――――――――

 

‟コンコンコン”

「失礼します、ケビン・ワイルドウッド、定期報告にまいりました」

「どうぞ、入って下さい」

 

“ガチャッ”

扉を開けると品の良さげな家具と調度品が目に入る。ここはホーンラビット伯爵邸にある伯爵閣下の執務室。美しい木目の執務机に座るホーンラビット伯爵閣下は、執事長のザルバさんから渡された書類に目を通しながら難しい顔をなさっておられます。

 

「あぁ、ケビン君、いつもすまないね。今は収穫期で各商人とのやり取りも多いだろう、書類が山のように溜まってしまってね。

伯爵という地位を得て権限が増えた分、やらなければならない事も増えてしまった。毎年のように食糧難に頭を悩ませていた頃も大変だったけど、多くの取引先との関係を維持するのも大変だよ。ない袖は振れないというのに要望ばかり多くてね。

 

特に増えたのが冒険者ギルド支部の設置要請と教会の建設許可願い、それと各商会出店許可申請かな?

王家との取り決めで行っているオークション、アレの影響が大きくてね、どうやらマルセル村に行けば大森林の素材が簡単に手に入ると思い込んでいるみたいなんだよ。

私に言わせれば大量の死者が出るだけなんだけどね。欲に目が眩むと言うかなんと言うか、闘技場に集まる冒険者の中にも大森林に挑ませろという事を言い始める連中がいてね、どうしたものかと思っていたんだよ」

 

勢いのよい土地には多くの人と物とが集まってくる。勢いが良いという事は多額の金銭が動くという事、成功を夢見る者たちが欲望のまま集まってきても何ら不思議はない。

だがそんな者たちをマルセル村に入れる訳にはいかない。故郷マルセル村を荒される訳にはいかない。

 

「そうですね、だったらそうした冒険者たち用の村でも用意します?二日ほど離れたところに冒険者村でも作って管理は冒険者ギルドに一任するんです。

街道もそれ用の道を敷いてしまえば問題ない、教会も商会も新しい村に作らせればいい。魔物対策は自分たちでやらせればいい、それは自分たちが望んだことなんだから。

特別に街壁までは作ってあげましょう、中の建物は冒険者ギルドと商業ギルド、教会が話し合って決めてください。

街の管理はやりたい奴がやればいい、俺は知りません」

 

要するに開拓村、開拓の許可だけ出してあとは好きにしろって奴ですね。確か開拓から十年くらいは無税だったんじゃないかな?ホーンラビット伯爵領からは外れるかもしれないんで、グロリア辺境伯家との話し合いが必要かもしれませんが。

 

「そうだよね~、ウチに頼らずに勝手にやってくれって話だよね。

その辺はこちらから提案してみる事にするよ、面倒事は勘弁だしね」

 

ランドール侯爵領には確か城壁都市というものがあるとか。周囲を城壁のような立派な街壁に覆われた冒険者の街、グロリア辺境伯家とホーンラビット伯爵家の共同で城壁都市を築くのもありっちゃありだと思うんだよね~。向こうは人材も豊富だし、街の監督官をやりたいって人間も多そうだしね。

 

「まぁこちらの件はいいとして、報告を頼むよ」

「はい。先ずは王都のエミリーお嬢様たちの学園生活の様子です」

 

俺はここしばらくの若者軍団の王都学園での様子、第四王子殿下絡みのワイルドウッド男爵家王都屋敷訪問の話、王都武術大会の様子などを語って聞かせるのでした。

 

「という形で引き分けに終わりました。本当にいい勝負でした、互いに拮抗した者同士の戦いは手に汗握りますねってどうかなさいましたでしょうか?」

目の前にはこめかみを押さえグリグリと揉み解すホーンラビット伯爵閣下のお姿が。ザルバさんは黙ってジャイアントフォレストビー蜂蜜(甘太郎バージョン)の光属性魔力水お湯割りの準備をなさっておられます。

クッキーですか?私がお出ししますね。

 

“カチャッ、コトッ”

差し出されたティーカップとクッキーの盛られた小皿。ホーンラビット伯爵閣下はそれらを口にすると大きくため息を吐かれるのでした。

 

「うん。ケビン君からの報告は定期的に行ってくれればいいとは言ったけど、これ程色々と溜め込んでくるとは思わなかったよ。

エミリーちゃんが王都学園で楽しくやっているという報告は嬉しかったかな。ジェイク君やジミー君、フィリーちゃんやディアも上手く王都に溶け込んでいるみたいで本当によかった。彼らの事はこれからもよく見てやって欲しい。

ジミー君が大剣聖様に模擬戦で勝ったことは前回報告で聞いていたし大剣聖様がマルセル村にやって来た事にも納得いったけど、王都武術大会でジェイク君と共に準優勝をするとは。決着がつかずの引き分けって、実質的に優勝したようなもんだよね、彼らまだ十三歳だよね?すでにオーランド王国の上澄みなんだけど?

これで貴族絡みの面倒事に巻き込まれないようにするって、無理だよね?」

 

そう言い困った顔をなされるホーンラビット伯爵閣下。そこは閣下の御威光で一つ、辺境の蛮族ここにありって所をですね。

 

「それと国王陛下暗殺未遂って、バルカン帝国の特殊部隊って、ケビン君はこんな所で報告なんてしていていいのかな?普通は王都でその後の調査に協力しないといけないような事態なんじゃないのかな?」

「あっ、それは大丈夫です。今回の件は王都諜報組織“影”により防がれたことになっていますから。襲撃の情報はベルツシュタイン伯爵閣下経由でヘルザー宰相閣下、ゾルバ国王陛下に事前に知らされていましたし、来賓観覧席には王宮魔法師団から結界魔法の使い手が複数名派遣されていましたんで。

彼らの面目を保ちつつ事件は未然に防がれたという形で決着しています」

 

俺の言葉に「ケビン君がケビン君してるし」と意味不明な事を言い始めるホーンラビット伯爵閣下。

 

「まぁ納得は出来ませんが収まりが付いている様なので良しとしましょう。アルデンティア第四王子殿下の件もヘルザー宰相閣下自らが収めて下さったようですし、ベルツシュタイン伯爵閣下には私からも礼を言わねばなりませんか」

「そうですね、互いに持ちつ持たれつ、何か困った事があれば手を貸す程度でよいかと。あまり深くかかわるとベルツシュタイン伯爵家にあらぬ疑いが掛けられてしまいますので。

王都貴族社会は本当に面倒臭いですから、本気で帰ってきていいですか?」

 

マジでお願い、王都はたまに行く分には楽しいけど結構面倒臭いのよ。

 

「どうどうどう、ケビン君落ち着こう。

そうそう、ケビン君が連れてきた移住希望者の二人、蒼雲さんのお茶畑で頑張っているみたいじゃないか。ザルバに様子を見てきてもらったけど、働き者の気さくな若者だと褒めていたよ。

ケビン君が連れてくるくらいだから何らかの事情を持っているとは思うんだけど、どういう人物なのか聞いてもいいかな?」

 

「・・・あの、本当に聞きます?多分後悔しますよ?」

 

遂に今回最大の地雷に足を掛けてしまったホーンラビット伯爵閣下、その決断は如何に!?

 

「あっ、うん、でも聞かない訳にはいかないし・・・因みに今回はどのランクかな?」

このランクというのは以前御神木様の話をした時に例として出した奴ですね。ランク一、地方の騒動レベル。ランク二、オーランド王国北西部地域の騒動レベル。ランク三、オーランド王国全体の騒動レベル。ランク四、国家間紛争レベル。ランク五、国家消滅レベル。って感じです。

 

「そうですね、場合にもよりますがランク四からランク五といったところかと。歴史と国家の闇を垣間見ることができる程度にはヤバい話かと」

「ザルバ、飲み物のお代わりを。ちょっと口をサッパリさせたいし、聖茶を頼もうかな?」

 

「畏まりました。伯爵閣下、私も一緒にいただいてもよろしいでしょうか?」

「あぁ、構わない。そうだな、そちらのテーブルの方でいただく事としよう」

 

「あっ、それでしたらガーネットさんの分もお願いします。どうせベルツシュタイン伯爵閣下にも報告しないといけない事でしょうから」

俺の言葉に部屋の脇に控えていたメイドの顔から一切の表情が消え、能面の様な面立ちでテーブル席に着くのでした。

 

「それじゃ何から話しましょうか。事の起こりは王都武術大会で国王襲撃事件が起こるかもしれないという情報を手に入れた事でした」

俺は時系列的に生き人形の情報を手に入れた事、王都武術大会で国王襲撃を阻止した流れ、生き人形の解術を試みたら勇者物語の剣の勇者と賢者でオーランド王国王家の陰謀とバルカン帝国の陰謀に翻弄されて今に至っている事などを話して聞かせるのでした。

 

「「「なんて事を聞かせるんだ、このケビン!!」」」

聞かれたから答えただけなのに怒られるっておかしくね?

 

「あぁ、因みに解術にはエリクサーを使用しました。

エリクサーで若返るって本当なんですね、二人ともすっかり若返っちゃって、新しい人生の門出にピッタリかと。

世界樹の葉っぱは前にエルフの里に行った時に貰ってきた奴ですね、ドラゴンの涙の入手先は秘密です。因みにランク五です」

 

「「「絶対に言わないでください、お願いします!!」」」

思いっきり頭を下げてお願いされてしまいました。“ケビンなら言いかねない”って、信用ないな~。俺だって常識あるんだよ?本当だよ?

 

両耳を塞いで「「「ケビンだから仕方がない、ケビンだから仕方がない」」」と謎の詠唱を始める御三方の様子に、ガックリと肩を落とす俺なのでした。




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