転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第640話 転生勇者、王女殿下のお供をする

“カッポカッポカッポカッポ”

青く澄んだ空、眩しい日差しが夏の訪れを告げる。

多くの人でにぎわう王城前広場には様々な屋台が立ち並び、果実水の入ったカップを手にした男女が、噴水の前で楽し気におしゃべりに興じる。

 

“カッポカッポカッポカッポ、ガチャッ”

そんな王城前広場に停車した一台の馬車、御者の男性が御者台を降り、サッと扉を開く。

 

「おはようございます、マルローニ様。本日はよろしくお願いいたしますわね」

「おはようございます、フレアリーズ第五王女殿下。私の事は是非アルジミールとお呼びください」

 

「そうですわね、本日はアルジミール様と私《わたくし》との交流を兼ねての場、私の事もフレアリーズと」

「ではフレアリーズ様と呼ばさせて頂きます」

 

馬車から降りた王都学園の制服を着た女性はニコリと微笑むと、同じく王都学園の制服を着た男性と共に歩きだす。その周りには同様に王都学園の制服を着た男女が連れ歩き、周囲の人々に微笑ましい笑顔を向けられている。

週の終わり闇の日、王都の中心地では若者たちの青春が花を咲かせているのであった。

 

「なぁジェイク、俺帰っていいか?」

「ちょっと待とう、ジミー君。一応俺たち護衛役なんだから帰っちゃ駄目じゃん。そりゃ周囲には既に護衛部隊が展開されているけども、お傍を守る者は必要でしょうが」

 

王都武術大会が無事に閉幕し、気持ちも新たに王都学園の生活に戻った俺とジミー、待っていたのはアルジミールからのお願いでした。

 

「頼む、フレアリーズ第五王女殿下との王都観光に護衛としてついて来てくれないか?」

この話、元々はモフモフマミーに行きたいという第五王女殿下の望みをアルジミールが叶えるといっただけのもので、馬車でサクッとモフモフマミーに寄ってお買い物をして解散という事であった。

だがアルジミールの取った手段が隣国の婚約者候補がオーランド王国の姫である第五王女殿下をお誘いするというものだったことがまずかった。

アルジミールの出身国スロバニア王国との関係強化を進めたいオーランド王国王家としては、“折角スロバニア王国の婚約者候補の男性がお誘いいただき第五王女殿下も乗り気だというのに、一店舗を覗いてそれで解散とはいかがなものか”という話が持ち上がってしまったのである。

 

「しかし王城前広場で待ち合わせして近くの商店街を回り、馬車で移動してモフモフマミーへ行く。これって第四王子殿下の王都観光と一緒じゃないか。

何で人のデートを二度も付いて回らないといけないんだ?」

「あ~、多分警護し易いからなんだろうね~。このお決まりのようなデートコース、もしかしたらこの商店街自体高貴な方々のお忍び用に準備された場所なのかも。どんな事態が起きても直ぐに対応できるように人が配置されているとか。

冷静に考えたら王都学園の制服を着た人間がこれだけぞろぞろ歩いているのに商店街の人たちが平然としているってのも不自然だしね。王都学園と言ったら伯爵家以上の高位貴族子弟が通ってることが前提、そんな御家柄の方々が訪れたら普通緊張するだろうにそれが一切ないってのも」

 

俺の言葉にそれもそうだなと納得を示すジミー。エミリーとフィリーはヘレン先輩とおしゃべりしながらフレアリーズ第五王女殿下側を固めています。

 

「なぁライオネス、お前はアルジミールの護衛兼相談役的立ち位置なんだろう?こうした警護の場合どう立ち回ればいいのかって分かるか?」

ジミーの問い掛けに暫し考えるライオネス。アルジミールは自らの役割を果たさんと積極的にフレアリーズ第五王女殿下に話し掛けている模様。

 

「そうだな、基本的には要人警護の要領、人数にもよるが前と横と後ろに護衛を配置する形だな。俺は一人で傍に付くことが多いからアルジミールの左斜め前に立つことが多いかな?

これは右利きの剣士が多い事が理由なんだが、切り掛かられる場合向かって左側からといったものが多いだろう?その為対処し易いのが左斜め前となる。

護衛対象に剣を抜かせる事なく対処するのは当然、護衛対象が強かろうと弱かろうとそれを庇い守るのが護衛だからな」

「「おぉ~、勉強になる」」

 

俺にしろジミーにしろ共に戦うって事はしても、何かを守っての戦いはした事ないからな~。昔マルセル村からミルガルまで護衛任務体験をした事があったけど、あれも終始ボビー師匠とケビンお兄ちゃんに守られてたし。あの時の化け物、今だったら多少は対抗できるんだろうか?

行き成り強制魔力枯渇を引き起こす化け物、魔力枯渇訓練は毎日しているし、あとは攻撃手段。覇気を剣に纏って切り付ければワンチャンあり?今度みんなと検討しておかないとまずいよね。

“あらゆる危険を想定して常に準備は怠らない”

ケビンお兄ちゃんの教えは冒険者として生きる為の行動指針です。

 

「ジミー、左斜め後方から接近者。動きからスリの可能性あり、要警戒」

「あぁ、暗殺者の類の動きじゃないな。ちょっと威圧を掛けておく」

 

ジミーが後方から接近してくる容疑者にピンポイントで魔力をぶつけます。すると急に顔色を青くさせてその場から離れていく容疑者。

 

「今までこうした魔力の使い方はしてこなかったが、面倒事を避けるって意味では便利な使い方だよな」

「そうだね、前にケビンお兄ちゃんが魔力の説明の時に話してたやり方だっけ。<魔力操作>と<魔力制御>の訓練には丁度いいかもね。

って言うかスリが多いな、ここ。王都学園の生徒って、結構スリのカモにされてるとか?」

 

右前方を見ればフレアリーズ第五王女殿下と談笑するアルジミールの姿、その周辺には平民服を着た影の護衛の方たち。こんな状況にもかかわらず王都学園の制服を目印にわらわら集まってくるスリの方々。

俺とジミーはそんな間抜け共に呆れつつ、まるでゲームでもするようにピンポイントで魔力を当てていくのでした。

ライオネス?なんか横で顔を引き攣らせてますが何か?

どうもライオネスは<魔力操作>と<魔力制御>がそこまで得意ではないようです。

 

「ライオネス、ネイチャーマン先生が仰っていただろう、<魔力操作>と<魔力制御>を鍛えるには生活魔法を使いまくればいいと。

一学年の内に生活魔法による訓練を行えば、二学年になった頃にはこれくらいの芸当は出来るようになる。<魔力操作>と<魔力制御>は鍛錬あるのみ、頑張れ」

パーティーリーダーであるジミーの言葉に、頷きで返すライオネス。そんな彼の表情に大福相手に疑似ボール魔法を投げまくっていた日々を思い出し、どこか懐かしい気持ちになる俺たちなのでありました。

 

――――――――

 

“ガチャッ”

「いらっしゃいませ、ぬいぐるみ工房モフモフマミーへようこそ。本日はどのような商品をお探しでしょうか?」

 

商店街観光はこれといった問題もなく無事に終了、馬車に乗りぬいぐるみ工房モフモフマミーへと移動することとなりました。移動用の馬車に乗り込む前に、影の護衛の方から「よくやってくれた、君たちは大したものだな。<勇者>ジェイクに<剣天>ジミー、よく覚えておくよ」とお褒めの言葉をいただきました。

流石王家の護衛、俺たちがやっていた事ぐらい丸わかりだったんですね。俺たちは頭を掻きながら「皆さんのお役に立てたのなら良かったです」と言って馬車に乗り込んだのでした。

 

目的地に到着し店の扉を開けた先に待っていたのはキレイに陳列された輝かんばかりのぬいぐるみたちとお店の方々。皆さん張り付いたような笑顔でお出迎えといった感じです。

 

「こんにちは、今日はお世話になります。フレアリーズ様がこちらのぬいぐるみを大層気に入られまして、特にスライムのぬいぐるみがお好きなのですよ。

確か製作者はポーラ・キムーラという方であるとか」

「はい、私がぬいぐるみ工房モフモフマミーの店主ポーラ・キムーラでございます。ご希望のスライムのぬいぐるみはこちらになります」

 

そう言いスライムのぬいぐるみが並ぶ棚に案内するポーラさん。目茶苦茶緊張されておられます。心の中は“誰か助けて~~!!”って気持ちで一杯なんだろうな~。だって接客相手がフレアリーズ第五王女殿下なんだもん、一平民からしたら“何この状況?”だよね。

事前に知らされていたからか店内はピカピカに磨かれてるし、ぬいぐるみたちもブラッシングで整えましたって感じになってるし。これが王家のお忍び、前世の記憶でいうところの天皇陛下がやってきたってのに近いんだろうか?

 

フレアリーズ第五王女殿下、スライムのぬいぐるみを抱えて超笑顔。スライムクッションに手を伸ばそうとして、ヘレン先輩の妨害にあっておられます。

この場でスライムクッションは不味いでしょう、スライムのぬいぐるみをことのほか気に入っている話は予めポーラさんに伝えただろうし、スライムクッションも最高の品を用意しているはず。関係者しか居ないとは言え、公衆の面前であのヤバい表情はお見せ出来ませんって奴ですね、王家の威信に関わりますからね。

 

「ポーラ殿、フレアリーズ様はこれらのスライムたちを大変気に入られた様子。大中小を各一点ずつ、それとこちらのスライムクッションをいただけますか?

フレアリーズ様、どうぞお選びください」

アルジミールの言葉に「あの子もいい、この子は全体の丸まりが可愛い」と真剣に悩まれるフレアリーズ第五王女殿下。

 

「なぁジミー、あのスライムのぬいぐるみたち、それぞれに表情があるらしいんだけど、違いが分かるか?」

「すまん、俺には全部一緒に見える。違いは大きさだけじゃないのか?」

 

真剣に悩まれるフレアリーズ第五王女殿下の姿に、「そうですね、それでしたらこの子はいかがでしょう?ちょっと気が強い子ですが、それもまた魅力と言いますか」とかなり深い意見を返すポーラさん。

それ、ぬいぐるみですよね?性格は表情に現われるから一目見れば分かるんですか、そうですか。

どんな世界も極めると凄いんだなと改めて教えられた一幕でございました。

 

「本日はありがとうございました。フレアリーズ様も大変喜んでおられたご様子、是非また立ち寄らせて頂きますよ」

「素晴らしい作品の数々、堪能させて頂きました。新作のスライムちゃん達が登場した際は必ず教えてくださいね」

 

ポーラさんに礼を述べるアルジミールと満面の笑みで感謝を伝えるフレアリーズ第五王女殿下、王女殿下の破壊的な笑顔に頬を赤く染める従業員の方々。流石王族、カリスマ性が半端ないです。

 

「アルジミール様、本日はありがとうございました。お陰でとても楽しい一時を過ごす事が出来ました」

「こちらこそこのような機会をお与え下さり感謝に堪えません。今後ともより良いお付き合いをいただければと存じます」

 

フレアリーズ第五王女殿下のお言葉に深い礼をしながら答えるアルジミール。アルジミールの奴、心の中では“お役目終了、これで実家に顔が立った。あとはのんびりするぞ~!!”とか考えてるんだろうな~。

 

「はい、近いうちにまた。今度は私のスライムちゃん達をご紹介いたしますわね。是非王宮に遊びにいらしてください」

そう言葉を残し迎えの馬車に乗りこまれるフレアリーズ第五王女殿下。

 

「アルジミール、やったな。どうやら第五王女殿下はお前をスライム仲間とお認め下さったようだぞ?」

「キャ~、アルジミール君凄い。王女様とのラブロマンス、今度一緒に臨時教務棟に挑戦してみる?」

 

ジミーの言葉に自身の置かれた状況が理解出来ず身を固めるアルジミール。

 

「王女殿下を買い物に誘った。一緒に会話を交わしながら街歩きをし、目的のお店でお買い物を楽しんだ。別れ際に家に招待された。

これって完全に気に入られたって事だよな。アルジミール、人生何があるのか分からないけど、スロバニア王国とオーランド王国のより良い未来のために頑張ってくれ。俺たち下々の者はアルジミールの活躍に期待しているよ?」

「な、おま、お前こそ<勇者>だろうが!!そういう重要な事はお前の役割だろうが~~~!!」

 

「あ~、アルジミール君、職業によって相手の人生を強要するのはよくないな~、それって女神様に禁止されてる事項だから。

それに俺、地方伯爵家の騎士だし、侯爵家令息のアルジミール君とは身分が違うし。

高い身分の方にはそれ相応の役割があるっていうじゃん?」

「そうだな、因みに俺は男爵家の小倅(こせがれ)だな」

「うちは伯爵家だけど、私は連れ子、しかも平民出身~」

「私は男爵家の娘ですね、養女になります」

 

「「「「という訳で両国の未来はアルジミール君に任せた」」」」

「ダ~、何でこうなった~!!俺は形だけ役割を果たせれば十分だったのに~!!」

 

人生、何がどう転ぶのかは分からない。俺たちはこれからのアルジミールの活躍にそっとエールを送るのだった。

ライオネス?何か凄い悪い顔でサムズアップなさっておられます。

 




本日二話目です。
行ってらっしゃい。
by@aozora
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