転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第641話 転生勇者、第四王子殿下とのお茶会に出席する

色鮮やかな紺碧の空、夏の眩しい日差しが木々の緑に降り注ぐ。木立を吹き抜ける爽やかな風が枝葉を揺らし、木漏れ日の影が大地に踊る。

 

「玄関先、地面ヨシ、天井ヨシ、左右確認」

「了解、廊下二メート先、魔法陣らしき文様を発見、指示を頼む」

 

木造の確りとした二階建ての建物、緊張した面持ちで玄関から入っていく若者が二名。

 

「状況を確認、魔力感知型か生命探知型か。いずれにしても解術を“カチッ”・・・あっ」

“バリバリバリバリバリ”

「「ギャ~~~~~~~~~~~~~!!」」

 

挑む心、挑戦する心。若者たちは常に高みを目指し、志を持って前に進む。一つ一つ壁を乗り越え、一歩また一歩。

そうして己を磨き、大きく羽ばたいていくのだ。

 

“バタンッ、プスンプスンプスンプスン”

頬を煤けさせ頭部から白い煙を浮かべた姿で玄関扉を開ける二人の若者。

 

「ライオネス、これって本当に必要な事なのか?って言うか侯爵家の人間としてこの姿って不味いんじゃないのか?」

凄まじい寝ぐせで髪の毛が爆発したとしか思えない状態のアルジミールが、隣の男性に声を掛ける。

 

「仕方がないじゃないですか、フレアリーズ第五王女殿下がネイチャーマン先生の教務室での待ち合わせを指定なさったんですから。

互いに生活魔法の講義を受ける者同士、講師であるネイチャーマン先生にお話をお伺いに行くと言う形であれば不自然さはありませんからね。

婚約者のお決まりになられていないフレアリーズ第五王女殿下と必要以上に親しくするのは互いにとって醜聞となる。前回のように正式にお話を通してであれば別ですが、それ以外での接触は必要以上にするべきではない。

そうした状況で関係性を深めるには必然性も必要でしょう」

髪型を綿雲のようなアフロヘアにしたライオネスは、煤けた顔もそのままに真剣な表情で言葉を返す。

そんな側近の態度に大きくため息を吐きつつ、再び背後の建物、臨時教務棟に目をやるアルジミール。

 

「これも務め、せめて嫌われない程度には頑張らないといけないか。

うちはそこまで立場も強くないからな~。見た目だけはいい第三王子や公爵家のお花畑との顔繫ぎにまでこぎつけないと、兄貴や親父が困るか。

宮仕えは辛い所だな~」

「ハハハ、何を仰います。アルジミール様だって十分素敵な面立ちをなさっておられるじゃないですか、余計な騒ぎに巻き込まれたくないと言って隠されているだけで。

何でしたら全開放しちゃいますか?そうしたらフレアリーズ第五王女殿下であっても、いちころかもしれませんよ?」

 

そう言い自身の左手に嵌めた指輪を指差すライオネス。

 

「嫌だよ、それでお袋や兄貴がどれだけ苦労したと思ってるんだよ。顔立ちがいいって事は良い者も悪い者も引き寄せる、並みでいいんだよ並で。

知ってるか?社交界の並ってのは世間じゃそこそこな面立ちらしいぞ?

さて、おしゃべりはここまでだ、もう一回行くぞ」

「そうですね、いつまでもお待たせする訳にはいきませんから。行けるところまで行ってしまいましょう」

 

そう言い再び玄関扉を開く主従、彼らの挑戦はまだ始まったばかりなのであった。

 

―――――――――

 

「一体なんですの?アレは。ジミー、何か知ってるのではなくて」

目の前で繰り広げられる青春ドラマの一幕に呆気にとられるラビアナ様。俺とジミーは乾いた笑いを浮かべ、トラップ屋敷と化している臨時教務棟の事について説明する。

 

「はぁ!?あなた方は馬鹿ですの?そんなもの学園長に抗議して取りやめさせればよいのではなくて?」

そう言い呆れた様な表情をなさるラビアナ様。

 

「いや、それが難しいんですよ。基本臨時教務棟はシルビーナ先生の資料置き場という扱いになっていて、ネイチャーマン先生がその一部を間借りしているという事になっているんです。

シルビーナ先生は教務棟の方に別の教務室を持っているんで、防犯のためにトラップを設置したと言われると強く抗議も出来ないんです。

ネイチャーマン先生は週に二回講義があるだけの臨時講師ですから、用件があるのであれば授業の終わりにでも聞けばいいと言われてしまうとそれ以上は。

逆に安全にトラップ解除の練習が出来ると、学園長から正式に許可が下りたくらいですから」

そう言い肩を竦める俺とジミーの態度に、頭を抱えるラビアナ様。王都学園、想像していたより自由だよね、うん。

 

「ジェイク君、ラビアナ様、早く行くよ~」

声を掛けて来たのはエミリー、その手には三メートルほどの長い棒を持っている。

 

「えっと、<聖女>エミリーは一体」

「あぁ、アレは罠解除用の三メート棒ですね。ここって魔法トラップの他にも廊下に仕掛けが仕込んであったりと油断が出来ませんから。長棒を使って確認しながら進む必要があるんですよ。

エミリー、フィリー、お待たせ。それじゃ行こうか」

 

俺とジミーとロナウド、それとラビアナ様の四人は、三メート棒を持つエミリーとフィリーの先導の下、魔境内部に潜入して行くのでした。(ネイチャーマン先生の教務室を訪ねたとも言う)

 

――――――――――

 

“ジョロジョロジョロジョロ、コトンッ、コトンッ、コトンッ、コトンッ”

 

「えっと、これで全員行き渡りましたかね?」

然程広くもない教務室。そこにぞろぞろと集まってきた十人もの生徒たち。然して人気の講義を受け持っている訳でもないのにこれは一体どうしたものかと首を捻る。

 

「ネイチャーマン先生、何かすみません。突然大勢で押し掛けて」

「いえいえ、別にそれは構わないのですが、皆さんがこうして集まったという事は何かあったのかと少々心配になりまして」

 

私は代表で口を開いたジェイク君に言葉を返す。ジェイク君たちの様子は常に式神によって監視しているし、学園全体の様子にも気を配っている。

幸い十六夜が持っている学園もの小説の様な陰湿なイジメなどは起きていないようで、今のところ学園はいたって平穏なもの。

学園長は<勇者>や<聖女>といった特別な職業を持った者が入学した場合、その者を取り込もうと様々な生徒同士の駆け引きが行われると言っていたが、<聖女>アリスが第四王子殿下に取り込まれ、<聖女>エミリーにいたっては己の拳で存在感を確立し<勇者>ジェイクの所有権を主張している現状、争いごとの起こりようがない状況になっている。

問題が起こるとすれば未だ婚約者が決まっていない第五王女殿下と第四王子殿下をめぐっての争いなのだが。

 

「フフフフ、やっぱりスライムちゃんはいいです、安らぎます。ヘレン、今度スライムちゃんのぬいぐるみを持ってきては「駄目です。一学年の時学園の森でスライムに餌付けをしていて大騒ぎになった事を忘れたんですか? “スライムを愛でる姫”、あの事件を切っ掛けに社交界で一段下に見られてしまったんですよ?

それまでフレアリーズ様にすり寄っていた男子生徒もぱったりいなくなって。あの掌返しは今考えても腹が立って腹が立って」どうどうどう、落ち付いて、もう言わないから」

 

フレアリーズ第五王女殿下、一学年の頃色々とやらかしていたようです。

スライムとビッグワームは最下層魔物である、この考えは広く世間一般に思われているもの。そんな最下層魔物を愛でる、子どもの頃であれば微笑ましい出来事ですむかもしれないが、授けの儀を過ぎてしまえば奇異の目で見られてしまう。ましてやただでさえ注目を浴びる第五王女という立場、その噂はあっという間に社交界を駆け抜けた事だろう。

「最下層魔物しかテイム出来ない外れテイマーと随分馬鹿にされたもんさ」

冒険者時代の出来事を語るジニー師匠は、世間とはそうしたものであると教えて下さった。

フレアリーズ第五王女殿下を守ろうとするヘレン嬢も、気苦労が絶えない事だろう。

 

「なぁライオネス、スライムを愛でる事って何か問題でもあるのか?大図書館で「スライム使いの手記」を読んだんだが、かなり使える魔物だと思ったんだがな」

「そうですね、あれはこれまで役に立たないとされていたスキル<魔物の友>を持った外れテイマーの価値を数段引き上げる名著でしたから。

アルジミール様のご指示通り豪華版を十冊、活字版を百冊、本国のマルローニ侯爵領へ送るように手配しておきました。

それと「ビッグワーム農法指南書」ですが」

 

「あぁ、アレは画期的な農法だったからな。我が領の各村落に必ず一冊は備えさせたい。モルガン商会王都支店には後で俺も顔を出そう、支払いの関係もある、貴族の横暴と思われないようにその辺はハッキリさせておきたい」

「畏まりました、先方には予め連絡を入れておきましょう」

 

えっと、アルジミール君は確か隣国スロバニア王国からの留学生だったはず。そうですか、ビッグワーム農法の有用性に気が付いて下さいましたか。

ドレイク村長の夢、この世から飢えをなくしたい。その思いは国境を越え、世界に広がっていくようです。

この一事をもって私の王都学園務めは意味のある事であったと言えるでしょう。これは是非とも後で報告しておかなければなりませんね。

 

おや?フレアリーズ第五王女殿下がアルジミール君をじっと見詰めていらっしゃいます。これはこれはひょっとして?

エミリー嬢とフィリー嬢がサムズアップなさっている。フムフム、これはクッキーもお出しした方が良いですかな?

 

「<勇者>ジェイク様、<聖女>エミリー嬢、(わたくし)の話を聞いていますの?今日ここに集まったのは今度のアルデンティア第四王子殿下とのお茶会の事についての話し合いでしてよ?」

(小声で)

“ところでアルジミールとフレアリーズ第五王女殿下、何かいい感じですけれど、この前の公式デートはどうでしたの?”

“それがね、アルジミール君の積極的でありながらがつがつしていない態度が良かったみたいで、フレアリーズ第五王女殿下的には好感触だったみたい。それにアルジミール君って身分に拘りなくよい物は取り入れるって感じでしょう?スライムに対する忌避感も全くないし、保守的って事もない。一緒にいて楽しかったみたい”

 

“美しい王女殿下と冴えない侯爵家次男との恋模様、ク~~~ッ、私も見に行けばよかったですわ~!!

このところアリスはすっかり自己研鑽に嵌ってしまって、イケメンとの甘い時間が。カーベル様とは同志って感じで中々恋模様に発展しませんし、アルデンティア第四王子殿下との距離も縮まりませんし”

“フッ、甘いですよ、ラビアナ様。今一番熱いのはリリアーナ先輩とバルド・シュティンガー先輩との恋模様です。この夏を機に一気に深い仲に進むのか、それとも・・・。ジレジレの恋物語は秋の最終章に向け加速しているんです!!”

 

“えっ、ちょっとフィリーさん、その辺詳しく”

““どうぞどうぞ。ようこそ、リリアーナ先輩とバルド先輩を見守る会へ””

 

「お~い、エミリー、フィリー、ラビアナ様~、話し合いはどうしたんですか~。ある程度話を合わせておいた方がいいんじゃないんですか~」

 

ジェイク君の言葉にバツの悪そうな顔をしながら内緒話を止める御三方。なにか青春といった感じがしますね、思わず私の頬も緩みます。

 

「オホン、失礼しましたわ。今度のお茶会はアルデンティア第四王子殿下主催で、<勇者>ジェイク様、<聖女>エミリー嬢、<聖女>アリス嬢がゲストとなりますわ。ホスト側はアルデンティア第四王子殿下、ラグラ・ベイル様、カーベル・ハンセン様、ピエール・ポートランド様の四人となりますわ。(わたくし)はアリス嬢のおまけですわね」

 

「はい、質問です。基本的な話になりますが、お茶会って一体何をするものなんですか?」

エミリー嬢の伯爵令嬢とは思えない様な質問、ですがその事を笑うような者はこの場にはいません。だってマルセル村若者軍団はもとよりロナウド君ですらよく分かっていないのですから。

ラビアナさんが“えっ、マジ!?”って顔をなさってますが、マジなんです。彼らは田舎者と辺境のみそっかす侯爵貴族子息、お茶会なんて高尚なものは経験ないんです。

 

「そ、そうですわね。基本的にはこうして多くの者が集まり、テーブルを囲み会話に花を咲かせるといったものなのですが。

会話の内容、話題の回し方、そうした暗黙の了解のようなものがあるのも事実ですし」

 

“カチャッ”

「普通に楽しんでくればよいのではないでしょうか?」

若者の会話に年長者が口を挟むのは無粋ですが、変に背伸びをしてもよい事はありませんからね。ここは年上の意見という事で一言申し上げておきましょう。

 

「お話を聞かせていただいた限りですと、アルデンティア第四王子殿下が<勇者>ジェイク君と<聖女>エミリー嬢を招待してのお茶会とか。

であるのならその主体は<勇者>と<聖女>であると考えて良いでしょう。傍若無人に振る舞うというのは論外ですが、礼節をもって相手に接すればそれで充分であるかと。

貴族社会における暗黙の了解は同じ貴族社会の者同士の決め事、本来のお茶会の目的は主催者であるホスト側が賓客であるゲスト側をもてなすといったものです。

呼ばれた側が何かをしなければならないといったものではない、そうする事を求めるのならばそれは予めホスト側から知らされるべきものであり、そうした事もなしに暗黙の決まり事を常識として求めるのは招くつもりがないという事。

 

ジェイク君にエミリー嬢、お二人は<勇者>と<聖女>という職業の関係でこれからも様々な席に招かれる事となるでしょう。その時どう接するか、それは互いの関係をどうしたいのかといった意思表示にもなるのです。

今回の場合でも二人が第四王子殿下と親しくしたい、より密接に関わりたいと思うのならお茶会とはどういうものであるのか、どのような態度で向かえば失礼に当たらず喜んでもらえるのかを考える事でしょう。

第四王子殿下側がより密接に付き合いたいと思うのなら二人の事を調べどうすれば二人が喜んでくれるのかを考えるはずです。

これが一方的にただ豪華な席を用意する、自分たちの決まり事を押し付けるといったものであれば何も考えていないという事になる。

 

人と人との付き合いとはただこちらを知って欲しい、分かって欲しいといったものばかりではない。

互いに思い合い分かり合おうと努力するところから、初めて関係性が生まれるのです。

ですので招待されたのなら相手に失礼がない程度に楽しむ、これが最もふさわしい態度であると考えます。

ラビアナ様、いかがでしょうか?」

 

私の言葉に暫し考え込むラビアナ様。

 

「そうですね、確かに今回の場合それが最も相応しいかもしれません。

私はどうも王家の威光や<勇者>と<聖女>の立場というものに考えが偏っていたようですわ。何故学園というものが作られているのか、その意味を今一度考え直す必要があるのかもしれませんわね」

そう言いティーカップに口を付けられるラビアナ様。

・・・でもこうした話し合いは普通学園のサロンで行われるものなのではないでしょうか?何故にこの子たちは私の教務室に集まっているのでしょうか?

私はいつの間にか生徒のたまり場になりつつある教務室にため息を吐きつつ、お茶のお代わりを淹れて歩くのでした。

フレアリーズ第五王女殿下、ファイヤースライムのぬいぐるみを隠そうとしない。それは新作なんです、あげませんからね!!




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