“ガチャリ”
「やぁ、ジェイク・クロー君、エミリー・ホーンラビット嬢。
今日は私のお茶会によく出席してくれたね、感謝するよ」
開かれた扉、部屋の中には窓辺から差し込む陽光に照らされて、来訪者に柔和な笑みを向ける美しい青年。その輝ける笑顔には木々の合間を抜ける爽やかな夏の風が良く似合う。
「アルデンティア第四王子殿下、本日はこのような素晴らしい集まりにお招きいただき、感激の至りでございます。
ホーンラビット伯爵家が次女、エミリー・ホーンラビット。ホーンラビット伯爵家騎士、ジェイク・クロー。
辺境の田舎者ゆえこうした集まりの作法を知らぬ事、平にご容赦いただければと存じます」
そう口上を述べ、王都学園の制服姿でカーテシーを決める淑女と、その背後で膝を突き騎士の礼をする青年。
「ハハハハ、そんなに堅苦しい挨拶はいらないよ。ここは王都学園、身分に関係なく言葉を交わす事を許された場。
確かに私は第四王子という立場にあるけれどこの学園ではただの一生徒に過ぎない。そうでなければ多くの生徒と言葉を交わす事など出来ないし、してはいけない。
私はね、あまりに物を知らなさ過ぎた。王国の情勢、貴族間の繋がり、市井の者たちの考え方。
学ばねばならない事が沢山あり、耳を傾けねばならない言葉がなんと多い事かという事を学んだ。
ここは王都学園、これまで触れたことのない多くの者たちと言葉を交わす事の出来る場所。私の友人アリス・ブレイク嬢が私の知らない多くの考えを教えてくれたように、ジェイク・クロー君、エミリー・ホーンラビット嬢、私は君たちとも友達になれればと思っているんだよ」
そう言いにこやかに微笑まれるアルデンティア第四王子殿下。その隣ではアリス・ブレイク嬢が然も素晴らしい場面に立ち会えたと言わんばかりの満面の笑みを浮かべ、第四王子殿下の側近であるラグラ・ベイル様、カーベル・ハンセン様、ピエール・ポートランド様の三人が“流石はアルデンティア第四王子殿下、大変すばらしいお考えでございます”といったお顔をなさっておられます。
そんな中、俺とエミリーは張り付けた様な作り笑顔を浮かべ感謝の礼をしつつ、““ギャーーー、助けてラビアナ様~~!!””と叫び出したい気持ちをグッと堪えるのでした。
――――――――
「先ずは二人の立ち位置ですわね。どのような立場でお茶会に臨むのかでおのずとやることは決まって来ますわ。
先程ネイチャーマン先生が仰られた事は至極もっともな事ですけれども、
ジェイクは<勇者>ではありますがホーンラビット伯爵家の騎士であり、その言動は“ホーンラビット伯爵家の者の行い”として捉えられてしまいます。<聖女>エミリーは言わずもがな、ホーンラビット伯爵家の次女という事実は変えようがありませんもの。
であれば最低限守るべき礼儀というものは存在する。
これが全くの平民の出であればまた話は変わって来るのでしょうが、貴族とそれに連なる者であるお二人は王家に対し礼節をもって接しなければならない。
お二人はどうなさりたいのですの?」
アルデンティア第四王子殿下とのお茶会を控えた週の始め、俺たちはラビアナ様を相談役として“お茶会対策会議”を行った。
ネイチャーマン先生の教務室で決まった方針は、“第四王子殿下とは当たらず触らずの距離を保つ”という事。
だって王族よ?第四王子殿下よ?そんな御方と親しくする?無理無理無理無理。身分の違いは考え方の違い、俺たち辺境の田舎者には都会の御方様方との社交は敷居が
教務室内に第五王女であらせられるフレアリーズ殿下がおられるんじゃないのか?
あ~、この御方は何と言うか、ただのスライムマニアだし?それに距離感の取り方が絶妙と言いますか、普段はただそこにいてニコリと微笑まれているだけですし?
互いのテリトリーに干渉しない、素晴らしい事だと思います。
ただな~、スライムの事となると平気でつっ込んで来るんだよな~。今も時々俺の方を見て“今日は黒蜜ちゃんはおられませんの?私、是非黒蜜ちゃんとも交流を持ちたいのですけれども”といった視線を送って来るし。
出しませんからね!?フレアリーズ殿下、黒蜜と戯れだしたら止まらないじゃないですか、この前もそれでヘレン先輩に目茶苦茶怒られて涙目になってたじゃないですか!!
そんな俺の態度に悲しげな表情を浮かべシュンとするフレアリーズ第五王女殿下。・・・うん、王族感ゼロだわ。第五王女殿下の事はアルジミールに任せよう、頑張れアルジミール!!
「そう言えばアルデンティア第四王子は、この前の“商人街のお化け屋敷”の一件以降、正妃様から直接指導を受けていましたわね。何でも王家の者として国の置かれた現状を一から見直す必要があるとか。
私は詳しい事について知らないのでどうしてそうなったのかまでは分かりませんが、話を聞いた限りではそこまで大きな失態をしたとは思えなかったのですけれども」
こちらの話を聞いていたのだろうフレアリーズ第五王女殿下は、そう言い小首を傾げられます。第五王女殿下が仰るのはアルデンティア第四王子殿下の現状、つい先だって学園をお休みになられていた時のご様子についての事でした。
「フレアリーズ様に申し上げます。私もその点を不思議に思い調べてみたのですが、どうやらあの屋敷の持ち主が王家に関わる大事に繋がる人物であったようです。
ケビン・ワイルドウッド男爵、先のダイソン公国との戦を終結させたホーンラビット伯爵家騎士団の一人。聖者の行進、王城における三英雄による交渉劇。王家としてはホーンラビット伯爵家との関係構築を非常に重視しています。
そのような中で王家の者が渦中のホーンラビット伯爵家騎士の屋敷に乗り込み威光を翳せばどういう事になるのか。
確かにアルデンティア第四王子殿下の行いは、これまでであれば何ら咎めを受ける事のないものであったのでしょう。ですが情勢が変わりました。オーランド王国王家は今非常に難しい舵取りを行わざるを得ない状況にある。
隣国スロバニア王国との関係強化もそうですし、ホーンラビット伯爵家をはじめとした北部貴族連合との関係改善もそうです。
そのような中、フレアリーズ様は学園生徒という立場でありながら王家の者として十分以上の御働きをなさっている。
私は今日ほどフレアリーズ様を誇らしいと思った事はありません」
そういいハンカチを取り出し目元を拭うヘレン先輩。“スライムを愛でる姫君”の側近と言われ、今まで随分と苦労なさってこられたのでしょう。何かこっちまでもらい泣きしそうになります。
対して驚いたグラスウルフのような顔をして頭に疑問符を浮かべられるフレアリーズ第五王女殿下。
「あ~、うん。フレアリーズ第五王女殿下、改めましてご挨拶申し上げます。
先程の話にありました王城にて終戦交渉を行った三英雄の一人、テレンザ侯爵家三男、ロナウド・テレンザと申します」
「同じく先程の話に出たケビン・ワイルドウッド男爵の弟、ホーンラビット騎士団所属騎士“鬼神ヘンリー”ことヘンリー・ドラゴンロード男爵が息子、ジミー・ドラゴンロードです」
ロナウドとジミーの言葉に、“何の事?”といった表情をなさるフレアリーズ第五王女殿下。
「同じくホーンラビット伯爵家騎士団所属騎士フィリー・ソードです。私の義父は“剣鬼ボビー”の二つ名を持つホーンラビット伯爵家騎士団所属騎士ボビー・ソード男爵になります」
「はい、ホーンラビット伯爵家次女で<聖女>のエミリー・ホーンラビットです。私もホーンラビット伯爵家騎士団に所属しています。ダイソン公国との交渉にも参加しました」
「同じくホーンラビット伯爵家騎士団所属騎士ジェイク・クロー、<勇者>の職を授かってます。
俺も聖者の行進に参加しています。あれ、本気で凄かったですよ?」
「・・・えっと、これって俺も自己紹介しないといけない流れなのか?って言うかお前ら揃いも揃って先の戦争の英雄じゃんかよ、何でそんな重要人物が王都学園で呑気に学園生徒をしてるんだよ。
スロバニア王国だったら国の重要な役目を与えてるわ!
改めまして、先だっては素晴らしい
スロバニア王国マルローニ侯爵家次男、アルジミール・マルローニでございます。スロバニア王国とオーランド王国、両国の外交の橋渡しとなれるよう、誠心誠意努めてまいる所存でございます」
そう言い慇懃に礼をするアルジミールとキョトンとしたまま固まるフレアリーズ第五王女殿下。
「・・・ヘレン、これは一体どういう状況なんでしょう?」
「はい。王家が抱える諸問題、その解決の為国王陛下がアルデンティア第四王子殿下に望まれていた生徒同士の交流と称した関係作りを、フレアリーズ様は既に成し遂げられていたという事でございます。
これは大変喜ばしい事、王宮内でフレアリーズ様を馬鹿にする者はいなくなることでしょう」
フレアリーズ第五王女殿下、気が付けばいつの間にかミッションクリア、尚本人にその自覚一切なし。って言うかミッションの存在すら知らなかったんじゃないんだろうか?
フレアリーズ第五王女殿下、おいたわしや。
そんな状況の中ラビアナ様と言えば、「これってアルデンティア第四王子殿下のお立場的にどうなのかしら?お一人だけ何も出来ませんでしたって訳には行かないですし、より積極的に交流を図って来るといった事になるのかしら?」と一人不吉な事を呟かれておられるのでした。
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「アルデンティア第四王子殿下に申し上げます。エミリー・ホーンラビット嬢にしろジェイク・クロー様にしろ、聞けばお茶会に出席する事が初めてであるとか。
更に言えば王族でもあらせられるアルデンティア第四王子殿下と席を同じくする栄誉、オーランド王国国民として緊張するなという事の方が無理があるのではないかと。
先ずは少しずつ交流を取り、互いの事を知りながら関係を深められることが肝要と愚考いたします」
透かさず合いの手を入れて下さるラビアナ様、要約すれば“第四王子殿下焦り過ぎ、二人ともドン引きしてるから。行き成り友達って、よく知りもしない上位者と友達って普通に無理だから”といったもの。
「うむ、そうだったね、これは私が事を急ぎ過ぎたかな?
アリス曰く“まずは友達になろうと言葉にする事、そうすればだれとでも友達になれる”という事だったのでね、世間ではそうしたものなのかと思ったのだが。
これもところ変わればといった事なのかな?まだまだ学ばなければいけない事は多そうだ」
そう言いハハハと笑われるアルデンティア第四王子殿下。
“““ア~リ~ス~、この御花畑お嬢様、いいかげんにしろ?”””
そらまぁ聞いた話じゃアリス嬢のご実家はマルセル村と変わらないくらいのど田舎らしいし?隣近所みんな顔見知りって環境だし?会って言葉を交わせばみなお友達って考えも分からなくもないよ?
でもそれをこの高貴なるご身分の方々蠢く王都学園にそのまま持ち込むな~!!ストレスマッハだから、ミランダ夫人謹製の胃薬のお世話になりまくりだから。
俺とエミリーとラビアナ様はアリス嬢のまるで物語の正統派ヒロインの様な思考に頭を抱えつつ、このお茶会が無難に終わってくれることを女神様に祈らずにはいられないのでした。
因みに手土産はマルセル茶とキラービー蜂蜜をそれぞれ小瓶に入れたものです。領地の特産品や名物をお渡しする事で家としてのお付き合いをお願いしますといった意味合いになるんだそうです。
お茶と蜂蜜はディアがケビンお兄ちゃんから渡されていたものがあったので、容器をモルガン商会王都支店のロイドの兄貴にお願いしました。(ディアが涙目になった事は致し方が無いという事で)
流石ロイドの兄貴、見事なセンスです。小洒落た容器に移され小箱に包まれたこれらの品は、手土産としては申し分ないとラビアナ様からも太鼓判をいただく事が出来ました。
うん、俺たち頑張った、もう帰っていい?駄目なの?分かりました。(T T)
本日二話目です。
行ってらっしゃい。
by@aozora