お茶会、それは高貴なる方々の社交の場。
共に集まり優雅にお茶やお茶菓子を嗜み談笑に興じる。一見穏やかに見える一時、その中で繰り広げられるのは情報の交換や家同士の交渉事、公式の場に上らない事前交渉などは粗方こうしたお茶会などの席で決まると言われる程、高貴なる方々にとって社交の場は重要視されている。
お茶会とは、高貴なる方々にとっての静かな戦場であるのだ。
「ところでラグラ、学園交流会の時俺が対戦した武術学園のヤバい奴、名前は度忘れしちゃったけど、アイツがその後どうしてるのかって知ってる?
試合の後の挨拶で武術学園の連中からものすごく感謝されるくらいヤバい奴だったから気になっちゃって」
「あのなジェイク、あんな公衆の面前で公開処刑した相手の名前くらい覚えておけ。バネロハだ、ああ見えて武術学園では一番の強さを誇っていた奴だ。
聞いた話では<剣豪>の職を授かるも素行と言動とに問題があるとして王都学園入りを逃していたとか。交流会でのあの態度を見るに当然の措置だったとは思うがな。
でだ、ジェイクが公開処刑を加えてからというもの人が変わったかのように人の話を聞くようになったらしい。
まぁこれまで力こそ正義と公言し自身の腕っぷしだけで全てを捻じ伏せて来た者が、ああも言い訳のしようがない形で徹底的に捻じ伏せられれば性格も変わるだろう。その実力の確かさから王都学園への編入の話もあったらしいが、「自分にはその資格がない」と言って辞退したと聞いている。ただその時ガタガタと身を震わせていたらしいがな」
そう言いジト目を向けるラグラ。イヤイヤ、あれは仕方が無くね?だってあのヤバい人、本気でヤバかったんだもん。誰かが確りと教えてあげないといけない状況だったのよ?ヘンリー師匠案件よ?
「それでね、患部が表面上だけじゃなく身体の奥の部分にまで根深く広がっている場合、普通のヒールじゃ完全に病状を取り除く事が出来ないの。
例えば毒素を取り除く<キュア>や状態を安定化させる<リフレッシュ>などを併用して回復に努める必要があるの。
でもこれが一人の患者さんばかりでなく大勢の患者さんを対象とした場合、一人一人に通常の魔法で治療を施していたのでは直ぐに魔力枯渇に陥ってしまう。
そこで有効になるのが接触型魔力運用法なの。
一般的に回復魔法の運用は非接触型、放出型と言ってもいいかな?触れずに全体を照らすようにして行使される。これは患部の特定が成されていなくとも、魔法詠唱の導きにより安定的な治療効果が望めるやり方なの。
一方直接患部に触れる接触型の方法は治療範囲が狭くなる反面、より深い部分の治療に効果を発揮する。極端な話、生活魔法のプチヒールでも身体の中に直接手を差し込んで使用すれば、深い刺し傷だって治す事が出来る。
私の尊敬する村のお兄ちゃんが以前そんな実験をしていたの。魔法杖のような魔力をよく通し増幅するような道具を使い、光属性の魔法適性が無い者でもケガや病気の治療が出来ないかと言ってね。
その結果回復魔法程ではないものの、有効な回復手段になり得るって証明していたの。ただあまりにも革新的すぎて世の中には発表できないって笑っていたんだけどね。
話は戻るんだけど、回復魔法を少ない力でより効果的に運用するにはどうしたらいいのかといえば、患者の患部を正確に特定し、集中的に回復魔法を作用させるしかないの。
その為には魔力視を鍛え魔力の流れの異常から患部を特定したり、容体観察から原因を究明したりといった事が必要なの。
患部が特定できたなら後は効率的に回復魔法を撃ちこむ事、アリスちゃんとカーベル様は回復魔法を拳に乗せるやり方は習得してるんでしょう?これは拳じゃなくとも掌底や指先による刺突でもいいんだけどね。
自分に最も適したやり方を模索する、それが重要だと思うの」
そう言い拳にヒールをのせ、シャドーボクシングを始めるエミリー。その動きは目の前の患者を的確に瞬殺(完治)する<(撲殺)聖女>エミリーの姿を幻視させる。
言葉を交わし交流を以って情報を共有する、これぞお茶会。
俺はお茶会ミッションを無事クリアできている事にホッと胸を撫で下ろしつつ、出されたハーブティーに口を付けます。
テーブルの向かい側にはどこか遠くを見詰めるアルデンティア第四王子殿下とピエール・ポートランド君、その脇では一人額に手を当てるラビアナ様。
えっと何か問題があったんだろうか?
「ジェイク・クロー!!あなたは自重というものを知らないのですか?なんてお話を第四王子殿下に聞かせるのですか!!」
「えっ、そうは言われましても俺は聞かれた事に対して素直にお答えしただけですが?」
俺は何か問題があったんだろうかと首を傾げる。
アルデンティア殿下から初めに聞かれたのは王都三大学園の交流会の件についてだった。これに関しては側近のラグラも参加していた行事でもあり、ありのままを素直にお話しした。
「大体なんですの、対戦相手の武術学園の生徒を手に回復魔法の<ヒール>を纏った状態で気絶するまで殴り続けて、同じく回復魔法の<リフレッシュ>で意識を戻してから只管殴り続けるという事を繰り返したってのは。それではただの蛮族ではないですか、それのどこが<勇者>なのですか!!」
「え~、だってあのバネロハって頭おかしかったんですよ?あの場で「クックックッ、ここで王都学園の奴らをぶっ飛ばして、王都学園に入った暁には<聖女>アリスを俺のものに」なんて呟くような奴なんですよ?「この試合が終わったら俺も晴れて王都学園行きだ、そうなったら精々こき使ってやるからよ、楽しみにしてろよな」なんて言いながら嫌らしく笑う奴なんですよ?
ボコった後に武術学園の関係者全員から感謝されたくらいなんですから」
そう言い然も心外ですといった顔をする俺に、“駄目だこいつ”といった顔になるラビアナ様。
「魔法学園との試合についてはあの日起こった王都上空大爆発事件の原因として既に知られていたのでそこまで衝撃的ではないと思いきや、あの程度の事は割と誰でも出来るって、ジェイクの中の常識は一体どうなってるんですか!!」
「いや、そうは言ってもですね、あれは俺の魔力を使ったわけじゃありませんし、<魔力制御>と<魔力操作>を只管磨いていけば出来ますから。
それに俺たちにこの技術を教えてくれたケビンお兄ちゃんの職業って、<田舎者(辺境)>ですから」
俺は回復魔法<リフレッシュ>を使って小型のグラスウルフを作り出すとそれをエミリーに向け走らせます。エミリーは両手に<リフレッシュ>を纏ってグラスウルフを受け止めると、自身の魔力でビッグクローの姿に作り変えてから俺に飛ばしてくるのでした。
その光景を見て何やらぶつぶつ呟くピエール君、ちょっと怖いです。
「それになんですの、“大福チャレンジドラゴンヒドラに挑戦”って。<聖女>エミリーから「マルセル村には最強のスライムがいて、子供の頃から毎日戦いを挑んでいたのですが一度も勝てませんでした」と言われた時のどう返事をしていいのか分からないといったアルデンティア第四王子殿下のお気持ちを考えられましたの?
家よりも大きなヒドラに姿を変えるスライムって、意味が分かりませんわ」
「そうは言われましても事実ですし、大福の事は王家もご存じのはずですよ?うちの村には王都諜報組織“影”の諜報員の方が二名メイドとして潜伏してますから。
でもあれって潜伏って言うのかな?ホーンラビット伯爵閣下が公然と招き入れてたからな~。「どうせ探られるなら堂々と好きに探ってくれ」ってホーンラビット伯爵閣下って大胆ですよね。
ですんで俺やエミリーたちが毎回命懸けの訓練を積んでいた事なんかは全部知ってるはずなんですけど。
アルデンティア第四王子殿下、そうした事は王宮でお聞きにならなかったんですか?大福ヒドラの疑似ドラゴンブレスに焼かれて死にまくっていた話とか鬼神ヘンリーと剣鬼ボビーにボコボコにされていた話とか」
アルデンティア第四王子殿下が「辺境の戦力は軽く王国を滅ぼしうるという話が真実だとでも言うのか!?そんな、それでは我がオーランド王国王家は・・・」と何か不穏な事を。
あれ?王妃様から確り再教育をされたって話だったんじゃなかったっけ?その割にはえらくショックを受けられているような。
「ジェイク、よく聞きなさい。ダンジョン産アイテムである“身代わり人形”は大変貴重で高価な品なのです、そんな戦闘訓練の為にポンポン消費できるような品ではないのですわ。
それにそんな命懸けの戦いを繰り広げる相手がただの戦闘訓練相手って、そんな相手に打ち勝つ者が何人もいるって、あなたの住むマルセル村はどれだけの魔境ですの!!」
「そんな事を言われましても、それくらい出来ないようじゃ王家の要望する大森林の素材オークションに出品する素材なんて集められませんし。
アルデンティア第四王子殿下、ピエール君、今一度よく考えてみてください。
バルカン帝国の最新兵器である石火矢や樽に入った爆薬、果ては数万という将兵を一瞬にして消し去った精霊砲。そんな脅威渦巻く戦場にたった三十騎の騎馬隊で乗り込んで停戦条約を締結させてきたという事がどういう事か。
王都騎士団及び貴族家の私兵団待ち構える王都街門にたった八騎で乗り込み全てを戦闘不能にしたとはどういう事か。
お二人が何らかの思惑を持って俺とエミリーに接触しようとしている事は知っていますし、王都学園がそうした場だという事はちゃんと理解しています。その上でまずは友好関係を結びたいというのであればそれは構いませんが、そこに貴族としての常識や忖度を期待されるのであればおやめになられた方がよろしいかと。
これも既に情報が上がっているはずですのでご確認していただければと存じますが、現在のホーンラビット伯爵領マルセル村に住む村人のほとんどは、なんらかの理由で国の各地から逃げ延びた人たちです。そんな私たちに国に対する帰属意識や権力欲、金銭に対する欲求はあまりありません。全てを奪われ命からがら逃げ延びた者に、そのようなことを期待されてもといった話ではあるのですが。
アルデンティア第四王子殿下も仰いましたように、ここは身分に囚われることなく言葉を交わす事の出来る王都学園。であれば聞いてください、俺たち辺境の村育ちの者が一体何を見て何を感じて今ここにいるのかを。
これまでであれば不敬であると一蹴されてしまうような発言を、何故こうして聞かなければならないのかを。
そうすれば何か見えてくるものがあるやもしれません」
俺の言葉に口を結び視線を向けるアルデンティア第四王子殿下。
でもね、俺の話はマルセル村のほんの一端に過ぎないんですよ?
<勇者>や<聖女>などという職業を遥かに超えたマルセル村の実態、それに触れた時アルデンティア第四王子殿下はいったい何を思い何を考えるのか。
俺は近い将来精神的な衝撃に襲われるだろうアルデンティア第四王子殿下の事を思い、心の中でそっと手を合わせるのでした。
「一体マルセル村は何なんですの~!!」
あ、ラビアナ様は出来れば現地で体感してください。その方が面白そうなので。
ラビアナ様のツッコミ力がどこまで磨かれるのか、今から楽しみでならない俺なのでした。
本日一話目です。