転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第645話 転生勇者、王宮を訪問する

鮮やかな緑、美しい花々が辺りを彩る。

 

「フフフ、スライムちゃん達~、美味しい魔力水ですよ~」

“““““プルプルプルプルプルプル”””””

 

庭園には小さなレンガ作りの池があり、その周りでは多くのスライムたちが身を横たえのんびりと日の光を浴びている。

 

「フレアリーズ様、アルジミール・マルローニ様ならびご学友の皆様方がお着きになられました」

そう言い慇懃に礼をするメイド様方。

 

「まぁ、ようこそおいで下さいました、アルジミール様、皆様。本日はごゆっくりしていってください」(ニッコリ)

ふわりと優しい空気が広がる。微笑みと共にカーテシーを決めるフレアリーズ第五王女殿下、目茶苦茶王女様です。婚約者候補であるはずのアルジミールとお付きのライオネスが、頬を赤く染めてポ~っとしています。

 

まぁ俺達マルセル村出身者はパトリシアお嬢様で免疫が出来てますし?収穫祭の時のアナスタシアさんやケイトさんの姿も見てますし?

今思えばマルセル村って美人さんがやたらいたからな~。エミリーのお母さんのミランダさんとかジミーの母親のメアリーさんとかデイマリア様とか。ケビンお兄ちゃんのお嫁さんズは飛び抜けていたけれども。

その昔マルセル村は貴族令嬢の幽閉地って言われていたくらいだし、貴族令嬢なら美形でもおかしくないしね。辺境に集まって来る訳アリは美形が多い、その美しい顔で苦労したのかな?

無論我が母、マリアお母様も美人です、美人だったら美人です!!(ドキドキ)

そんな環境で育った俺たちはお貴族様の上澄み、王都学園でも気負う事なく過ごす事が出来てます。寮の同級生曰く、「この環境で平然としてるお前たちはおかしい。ジェイクはまだいいとして、なんでジミーが余裕なんだよ!!」とのこと。

でもごめん、実はジミーが一番ヤバいんだわ。下手しなくても男も女も魅了しちゃうほどの王子様なんだわ。

 

そんな訳でフレアリーズ第五王女殿下のお姫様パワーにも普通に騎士の礼で返す事が出来ております。

お~い、アルジミール、ライオネス、いい加減帰ってこ~い。

 

「フフフフ、アルジミール様ったらおかしい。お顔が真っ赤ですよ?」

「あっ、こ、これは失礼いたしました。本日はお招きいただき、心より感謝いたします。

私はマルローニ侯爵家の者ではありますが、王宮に招かれる事など初めての体験、少々緊張していたようです。

これは私からの心ばかりの品、お気に召していただけましたら幸いでございます」

 

アルジミールの言葉に、ライオネスが傍にいたメイド様に小箱を差し出します。メイド様は小箱の蓋を開け中身を確認した後、その小箱を近くのテーブルに運び、中から赤い布地に包まれた何かを取り出しました。

 

「あら、一体何をお持ち下さったのかしら?」

“パラリッ”

 

外された布地、中からはクリスタルガラスで作られた精巧なスライムが姿を現したのでした。

 

「まぁ、なんてきれいなんでしょう。手に取っても?」

「どうぞ。フレアリーズ殿下はスライムがことのほかお好きですから、身近に置けるスライムとしてペーパーウエイトが良いかと愚考いたしました。

流石はオーランド王国王都バルセンの職人です。こちらの要望通りの作品を仕上げてくれました」

 

アルジミールの説明に、嬉しげにクリスタルスライムを手に取るフレアリーズ第五王女殿下。スライム文具であれば邪魔にならないし、お部屋のインテリアにも最適。

流石は侯爵子息、俺たちとはセンスが違う。

 

「ありがとうございます、アルジミール様。大切に使わせていただきますね」

フレアリーズ第五王女殿下はクリスタルスライムを大切に布地に包むと、箱に仕舞ってからメイドに部屋に運んでおくよう申し付けるのでした。

 

「ところでフレアリーズ殿下、こちらがどういったお庭であるのかお聞きしても?」

アルジミールの振りに“よくぞお聞きくださいました”と言わんばかりの満面の笑みを浮かべるフレアリーズ第五王女殿下。

 

「はい、ここは私とスライムちゃん達の交流のお庭なのです。まだ幼かった頃、この場所で初めてスライムちゃんと出会って。あの頃の私はまだ魔物というものを知らない幼子でしたから、フルフルと身体を震わせるスライムちゃんを部屋に持ち帰って愛でていたのです。

ですがお部屋に持ち帰ったスライムちゃんは、日が経つにつれ元気を失って。メイドに相談したところ元居た場所に戻してあげるのが良いと言われてそのように。

以来この庭が私の遊び場所となったのです。

他のスライムちゃん達は庭師の者やメイドたちにお願いして、王宮で見つけ次第この場に放してもらっていたものですね。流石に建物内でスライムちゃんを見つける事は難しいですが、王宮内でも探せば見つかるんですよ?」

 

そう言い近くのスライムを持ち上げるフレアリーズ第五王女殿下。「フフフ、とっても可愛らしいでしょう?」と言うその表情は本当に楽し気で、スライムに対する愛情が伝わってきます。

 

「そうですか、そのような大切な場所に私たちをお招きいただけるとは、このアルジミール、どう感謝の言葉を述べて良いのか。

私にもスライムを抱かせていただいてもよろしいでしょうか?」

「はい、どうぞ可愛がってあげてください。この子なんかは割と人好きする性格なので宜しいと思います」

 

そう言い多くのスライムの中から一体のスライムを抱き抱えてアルジミールに手渡すフレアリーズ第五王女殿下。

 

「・・・なぁジミー、お前あのスライム一体一体の区別って付くか?」

「いや、無理だろう。黒蜜くらい特徴があるスライムならまだしも、あそこのスライムは一般的な林や草むらにいるような個体だろう?色合いもほとんど一緒だし違いなんてあるのか?

大体俺は自分のスライムですら区別が付けられなくてまとめて“スライミー”と呼んでたくらいだぞ?今じゃ合体して一体になっちまったくらいなんだからな?」

 

ジミーの言葉に「「「「ですよね~」」」」と相槌を返す俺たち。

メイド様方はそんな俺たちの姿に“安心してください、私達も区別はつきません”と優しい眼差しを向けて下さるのでした。

 

“カチャッ、カチャッ、カチャッ”

テーブルに並べられるティーカップ、爽やかなミントの香りが鼻孔を擽ります。それぞれの席には他に小皿が用意され、焼き菓子のようなものが添えられています。

 

「本当によく来てくださいました。

この庭に招待した者はこれまでヘレンだけでしたから。これほど多くの友人を招く事が出来て、本当にうれしいのです」

膝に置いたスライムを撫でながら笑顔を向けるフレアリーズ第五王女殿下。プルプルと嬉し気に震えるスライムの様子から、とても良い関係を築けていることが窺えます。

 

「フレアリーズ殿下、本日はこちらのジェイクとジミーも自身の飼っているスライムを連れてきているのですよ」

アルジミールは膝に置いたスライムをムニムニ揉みながら俺たちに目配せする。

 

「フレアリーズ第五王女殿下、私のスライムをお見せするにあたり“従魔の指輪”の使用をお許しいただけますでしょうか?」

ジミーは立ち上がり左手人差し指の指輪を見せ使用許可を願う。

 

「従魔の指輪と言うと、確か三体までの従魔を仕舞う事の出来るダンジョン産アイテムでしたか」

「はい、私はスライムの他にリビングアーマーの従魔がおります。ですが王都学園で従魔を出す訳にもいかず普段は指輪の中に」

 

「スライムの他にリビングアーマーですか?ジミー君はテイマーではなかったと思うのですが」

「そうですね、私の職業は<剣天>という戦闘職になります。ですが嬉しい事にテイム系スキルに目覚める事が出来ましたので、あとは出会いがあったからとしか」

 

「そうですか、それは少し羨ましいですね。私もテイム系スキルがあればスライムちゃん達ともっと仲良くできるのでしょうけど」

そう言いながら膝のスライムを愛おしそうに撫でるフレアリーズ第五王女殿下。

ジミーは「それではいきます、<オープン>」と言ってスライミーを指輪の外に出すのでした。

 

“““ポヨンポヨンポヨンポヨン♪”””

元気に飛び跳ねながら庭で遊ぶ三体のスライム、その姿に目を輝かせるフレアリーズ第五王女殿下。

 

「あの、今一体のスライムちゃんが三体に分かれましたよね?そんな突然分裂するだなんて、私、スライムちゃんの分裂を初めて見ました」

そう言い興奮するフレアリーズ第五王女殿下。

スライムがどうやって数を増やすのか、それは分裂による増殖であると言われている。ただその様子を実際に目にする事は稀であり、彼のジニー師匠ですら数度しか見たことがないとその著書「スライム使いの手記」の中で述べていた。

そんな貴重な場面に立ち会う事が出来た、フレアリーズ第五王女殿下が興奮してしまうのも無理はないだろう。

 

「大変申し上げにくいのですが、こちらのスライムたちが行ったものは増殖の為の分裂ではありません。スライミー、<合体>」

ジミーの呼び掛けに跳ねるのを止め、一体のスライムに<合体>するスライミー。その様子に目を丸くするフレアリーズ第五王女殿下。

 

「あの、ジミー君、これは一体・・・」

「はい、こちらのスライムは“合体スライム”という種族になります。

元々はごく普通のスライムだったのですが、どういう訳か特殊な進化をしまして。三体のスライムが一体のスライムになってしまったんです。

正確には群れのようなものでしょうか?三体で一塊の“スライミー”としての存在を確立してしまったんです」

 

ジミーの言葉に何か天元突破と言った表情になられるフレアリーズ第五王女殿下、透かさずヘレン先輩とメイド様方がガードに入ります。

あ、お色直しですね。メイド様方によりどこかに連れ去られるフレアリーズ第五王女殿下、その場に残ったヘレン先輩がとても良い笑顔でこちらに顔を向けておられます。

他言無用であると、了解です。

 

「黒蜜、出ておいで」

俺の言葉に袖の間から伸びて掌の上で固まる黒蜜。そのミニチュアスライムの姿に、驚きの表情を向けるメイド様方。

 

「あっ、こいつは俺のスライムで黒蜜です。既にフレアリーズ第五王女殿下は御存じですので、問題ないと思い出てこさせました。

ちゃんと従魔登録も済ませている安全な個体ですので」

そう言いポケットから従魔鑑札を取り出す俺に、「「「えっ、スライムの従魔登録をなさっているんですか?流石はフレアリーズ様の御学友様方」」」と声を揃えられるメイド様方。

いや、だって黒蜜ヤバいんだもん。「ほう、変わったスライムであるな、貰ってやろう」なんて言われた日には王都が大変なことになっちゃうかも知れないんだもん。

俺は黒蜜をテーブルに乗せると、小皿の焼き菓子を差し出し「半分食べていいよ」と声を掛けるのでした。

そこは全部じゃないのか?俺だって食べたいの、王宮の焼き菓子、凄く気になります!!

 

そうして俺たちがスライム庭園でミントハーブティーと焼き菓子を楽しんでいると背後から大勢の人が近付いてくる気配が。どうやらフレアリーズ第五王女殿下のお色直しが終了したようです。

 

「まぁ、皆様このような場所で随分と楽しそうにしていらっしゃること。

ところでフレアリーズは何処にいるのかしら?」

 

お声をお掛け下さったのは気品あるドレスに身を包んだゴージャスな御方様。周りにいたメイド様方が一斉に首を垂れることから王宮の偉い方?

俺たちは急ぎ席を立つや臣下の礼を示します。

 

「これはカルメリア第四王女殿下、突然のご訪問、感激の至りでございます。

只今フレアリーズ第五王女殿下は席を外しておりますが、御用向きをお聞きしてもよろしいでしょうか?」

ご質問にお答えしたのはヘレン先輩、その表情は硬く、どこか敵愾心に満ちているような。

俺たちは前触れもなくやって来た王宮のとっても偉い人の登場に、唯々困惑の表情を浮かべる事しか出来ないのでした。

 




本日一話目です。
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