転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第647話 転生勇者、王宮を訪問する (3)

「黒蜜ちゃんいきますわよ~、それ~~」

掛け声と共に振り上げられた右腕、その手に握られた黒い塊はアンダースローで床に転がされ、コロコロと回転しながら棒状に形を変えた三匹のスライム目掛けて転がっていく。

 

“ドンッ、バタバタバタ”

 

「キャ~~、やりました、スライミーちゃん達を全部倒しましたわ。黒蜜ちゃん、やりましたよ~♪」

““““ピョンピョンピョンピョンピョンピョン””””

フレアリーズ第五王女殿下の喜びの声に一緒になって飛び跳ねまわる黒蜜とスライミーたち。

そんなフレアリーズ第五王女殿下のお姿を拝見しながらテーブルでお茶を飲む俺とジミー、アルジミールとライオネス。エミリーとフィリーは人を駄目にするスライムクッションでダメ人間と化しており、ディアはそんな二人を羨ましそうに見つめながらメイドの仕事を続けています。

 

ここはフレアリーズ第五王女殿下のお部屋、スライム庭園での惨状を「何か大変なことになっていますが、私に出来る事はありませんし、ここは王宮ですから直ぐに誰かが駆け付けるでしょう。それよりもスライミーちゃん達です」と言って完全スルーなさったフレアリーズ第五王女殿下。

それでいいのか王族よ、お姉様がお倒れになられているぞ!!

背後に立つヘレン先輩に目を向ければこめかみを揉んでいらっしゃるし。

 

まぁそんなこんなで途中お倒れになっていたフレアリーズ第五王女殿下付きのメイド様方を、エミリーとフィリーとディアの女性三人が<クリーン>(これ重要)と<リフレッシュ>で回復させ、一緒にフレアリーズ第五王女殿下のお部屋に向かったのでございます。

 

「あの、フレアリーズ第五王女殿下、少々気になる事がありましてお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「はい、ジェイク君、構いませんよ?それと私だけ長い呼び方で、ヘレンは“ヘレン先輩”なのは不公平です。

私の事も“先輩”と呼んでください」

 

そう言い頬を膨らませるフレアリーズ第五王女殿下。この仕草はアルジミールたちにドストライクだったのか、顔を赤くしてポーッとしていらっしゃいます。

そう言えばチェリーちゃんも時々こんな表情してたっけな~、アレは可愛かったよな~。チェリーちゃん、お兄ちゃんの事忘れてないといいんだけど。早く冬期休暇にならないかな~。

王都学園には夏休みなんて高尚なものはないし、「社交シーズンは冬だろう」ってアルジミールに言われた時はスゲーがっかりしたんだよな。

 

「えっと、それではフレアリーズ先輩と。

それで質問というのは先程の話に出たジミーが行った殺気についてです。事の経緯についてはアルジミールが話した通り、フレアリーズ先輩が不在中に庭園を訪れたカルメリア第四王女殿下が、<勇者>である俺と<聖女>であるエミリーとを自身のお茶会に誘おうとして断ったら暴走したって事なんですけど、その時衛兵様方に囲まれて一触即発といった状況になりまして。ジミーが広範囲に殺気を飛ばして事を収めたんです。

 

フレアリーズ先輩が庭園に戻ってこられた際に倒れていた衛兵様方がそうなんですが、あれってかなりの範囲に影響が出たはずなんですよ、現にフレアリーズ先輩付きのメイド様方もお倒れになられていましたし。

でもフレアリーズ先輩はいたって平然としておられた、それが気になりまして」

 

俺の言葉に黒蜜をムニムニしていた手を止め、「あぁ、あれですか」と口を開かれたフレアリーズ先輩。

 

「あの廊下を歩いている時にブワッときた気配のようなものですね、あれは殺気というのですね。

簡単に言えば慣れでしょうか、あのような感覚には覚えがありまして。少々長くなりますがよろしいでしょうか?」

そう言い黒蜜を抱えたまま席に着くフレアリーズ先輩。スライミーは一体に合体するとジミーの膝の上に飛び乗ります。

 

“カチャッ”

メイド様により差し出されたティーカップ。フレアリーズ先輩はそれを口元に近付けると、「いい香りです」と匂いを楽しまれてから一口。

ティーカップを受け皿に戻してから口を開かれました。

 

「そうですね、あれは私がまだ小さい頃、スライムちゃんを探して王宮内の探索を行っていた頃だったでしょうか。

今でこそ多くのスライムちゃんを愛でる事が出来ていますが、当時は数体のスライムちゃんとしか出会うことが出来なかったのです。

そんな時にカルメリアお姉様がこんな話を教えてくださいました。「アーメリア王妃殿下の別邸であればスライムがいるかもしれないわよ?現在は王都教会の管理下に置かれていて、庭師がたまに入る程度らしいから」と。

私は早速メイドたちに頼み、そのアーメリア王妃殿下別邸へと向かったのです」

 

・・・ん?アーメリア王妃殿下別邸、どこかで聞いた事があったような。どこだったかな~。

 

「そこで知り合ったのがアーリー様でした。アーリー様は初め屋敷を訪れた私たちを酷く警戒なさっていたようでしたが、私がスライムを探しに来たとお話ししたところ親切にもスライムのいる場所を教えて下さって。

それから何度も通ううちにすっかり仲良くなって。

先程ジミー君が飛ばしたという殺気ですか?あれもアーリー様が「王族たるものどんな時でも冷静であらねばなりません」と言って訓練してくれたものにひどく似ていたものですから、少し驚いたくらいでしたか。

メイドたちが座り込んでしまった時はどうしようかとも思いましたが、アルジミール様方をお待たせしていたのでそちらを優先させて頂きました」

 

王族の教育ってスゲー、衛兵でも気を失うようなジミーの殺気を受け流せるほどの胆力を身に付ける為の訓練って、しかもそれを幼い時分に行っていたフレアリーズ先輩って。

俺とジミーがフレアリーズ先輩に対し「中々やるな」と感心の眼差しを送っている中、何故か表情を硬くし口元を引き攣らせるアルジミール。

 

「どうしたアルジミール、謎が解けて驚き過ぎたとか?まぁ気持ちは分からなくもないけどな、俺たちだって目茶苦茶驚いたし。

でも王族ってやっぱりすごいんだな、小さな頃からそういった「王都三大禁足地・・・」・・・へ?」

 

「王都三大禁足地、ここ王都バルセンにはそう呼ばれる人が決して足を踏み入れてはいけないとされている場所がある。

一つ、初代国王バルセリア・グラン・オーランド陛下の墓所バルセリア霊廟。ここは初代国王陛下の眠る神聖な場所であり、少数の墓守と王族でも国王陛下、王妃殿下、王太子殿下しか近付くことが許されない場所として有名だ。

一つ、“商人街の悪夢”。商人街と呼ばれる閑静な住宅地、そのうちの一軒で起きた凄惨な殺人事件。以来その場所ではこの世を呪う悪霊が生き血を求め彷徨い出るという。

そして最後の一つ、アーメリア別邸。悲劇の王妃アーメリア・ウル・オーランド妃が晩年を過ごされたとされる貴族街の屋敷であり王宮からも比較的近い。だがあの場所は未だ浮かばれぬアーメリア王妃の御霊が彷徨っているとか。

過去アーメリア別邸を取り壊そうとした者は、アーメリア王妃の呪いにより悉く命を落としたなんて話も残っている。

そしてアーメリア王妃の愛称が確かアーリーだったはず」

 

・・・広がる沈黙、よく分かっていないといった表情で黒蜜を撫で続けるフレアリーズ先輩。

 

「「うん、そんなこともあるよね、普通普通」」

「「いやいやいや、普通じゃないから、なに受け入れちゃってるの?」」

 

アルジミールの言葉に“そうか、だからフレアリーズ先輩は殺気に対して耐性があったのか”と得心がいった俺とジミー。対して意味が分からないと騒ぎ立てるアルジミールとライオネス。

 

「あ~、アルジミール、ライオネス、よく聞け。亡くなったものが何らかの理由でこの世に留まる事はそれなりにある事なんだぞ?

時にはそれが強力なアンデッド魔物に転ずることもある。アルジミールも聞いた事ないか?“奇跡の夜”の話。

オーランド王国とダイソン公国との終戦間際、オーランド王国に向け侵攻を開始したバルカン帝国の数万という軍勢。アスターナ戦役で亡くなった多くの将兵が家族の下に現われた奇跡の夜、家族との別れを済ませた後、彼らが向かったのは何処であったのか。

ゾルバ国王陛下は正式な言葉として、「我々オーランド王国国民は“英霊”により守られた。死して尚愛する者を思い、そして旅だった英霊に黙祷を捧げる」と宣言したとか。

あるんだよ、そういう事って。死して尚子孫の教育を行う、素晴らしい王妃様じゃないか、そういう事にしておこう」

 

俺の言葉に「お、おう。まぁそれが無難だな」と渋々ながら納得するアルジミールたち。

だってしようがないよね、俺たちの魔法の先生ってお亡くなりになってる大賢者様と賢者様だし、“商人街の悪夢”はケビンお兄ちゃんの王都屋敷だし。悪霊を使用人として雇ってる人もいるんだよ?気にしたら負けだって。

俺は未だ常識との狭間に揺れるアルジミールとライオネスに、“こんなのはまだ入り口だぞ~、ケビンお兄ちゃんのケビンお兄ちゃんはこんなもんじゃないぞ~”と優しい目を向けるのでした。

 

――――――――――

 

「ご報告申し上げます。先程我々を襲った強烈な殺気により城内で多くの者が気を失い、意識のある者も座り込み身を震わせるものが多くみられます。

現在、光属性魔法を扱う回復術師、魔導師団の者を優先的に治療、回復次第他の者の治療に当たらせているところであります」

 

「ご報告申し上げます。先程の殺気に因る被害範囲ですが、王城全域に上るものとの報告が入っております。特に被害が大きいのが王宮内の庭園、フレアリーズ第五王女殿下がお茶会を予定されておりました通称“スライム庭園”を中心とした範囲であります」

 

近衛騎士たちにより次々と齎される情報、国王執務室に集まった面々は、その一つ一つに表情を歪め、頭を抱える。

 

「ヘルザーよ、何がどうなっている。確か本日はフレアリーズの下にスロバニア王国のアルジミール・マルローニ侯爵子息が参っているのではなかったのか?

フレアリーズはスライムを介した交流という名目で<勇者>ジェイク・クロー、<聖女>エミリー・ホーンラビットを王宮へと招いた。この意味は大変重い。

<勇者><聖女>との関係が良好になるばかりでなくホーンラビット伯爵家との関係もより親密になる。オーランド王国国内の安定にとってこれほどの良策はない。

またそれを行った者がスロバニア王国からの留学生である事も素晴らしい。スロバニア王国とオーランド王国の友好がより一層深まる、そうなるはずではなかったのか?」

 

「はい、王都学園に於いてフレアリーズ第五王女殿下の果たした役割は非常に大きなものでした。王女殿下は政治とは全く関係のない角度から彼らとの接触を試みた、王女殿下がお取りになった“生活魔法の講義を受ける”という接触の仕方、これは流石に私も考え付きませんでした。

生活魔法の講義を受けるという特殊な状況で交流を深め、王族という垣根を取り払ったようです。

更にその交流の中で自身のスライム好きというともすれば醜聞ともなりかねない趣向を明かし、スライムを通じて親密さを増す事に成功した。

これは大いに評価すべき功績です」

 

「うむ、しかしこのような大事な日に一体何が」

「ご報告申し上げます。今回最も被害が大きいと見られます“スライム庭園”にて、カルメリア第四王女殿下の救出が確認されました」

 

「なに!?なぜそのような場所でカルメリア第四王女殿下が」

宰相ヘルザーの声が執務室に響く、それは驚きというよりも“一体何をやってるんだあの馬鹿王女は!!”という憤りを含んだもの。

 

「失礼いたします、ベルツシュタイン卿がおみえになられました」

「うむ、着いたか。直ぐに通せ」

 

ゾルバ国王の言葉に執務室の扉が開かれる。

 

「これはこれはゾルバ国王陛下並びにレブル王太子殿下、何か大変な事態が起きたと聞き及び登城いたしましたが、一体何の騒ぎですかな?」

「ベルツシュタイン卿、言葉遊びはよい。お前の事だ、既に事態の全容は把握しているのだろう。ありていに申せ」

 

この大事な場面でも飄々とした態度を崩さないベルツシュタイン卿の態度に若干の苛立ちを覚えつつ、ゾルバ国王は次の言葉を促す。

 

「ふむ、さてどうしたものでしょうかな。ではこうしましょう、この事態に詳しそうな人物を連れてまいりましたのでその者に話を聞くというのはどうでしょうか?」

ベルツシュタイン卿の言葉、それは現場を見ていた人物がいるという事、城内に潜ませていた“影”の耳目に話を聞くというもの。

 

「うむ、分かった。その者の入室を許可する」

「ゾルバ国王陛下のお言葉、感謝いたします」

 

一礼の後、扉前の近衛騎士に目配せをするベルツシュタイン卿。

 

“ガチャリ”

開かれた扉、入室して来たのは騎士服を纏った一人の男性。

 

「失礼いたします。国王陛下の御前で臣下の礼を取れぬ無礼、平にご容赦願いたく存じます」

それは嘗て王宮第二訓練場にて自らの矜持を示した人物。

 

「ホーンラビット伯爵家騎士ケビン・ワイルドウッド男爵、ホーンラビット伯爵家全権を預かる者として登城させて頂きました」

 

一礼をし真っ直ぐ前を見詰める者、それはオーランド王国王家が最も恐れ警戒する者、ケビン・ワイルドウッド男爵その人なのであった。




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