転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第65話 村人転生者、森を散策する

「終わった~」

当面の懸案であったホーンラビット牧場脇の管理小屋兼新居の建築が終了した。マジで疲れました。

お子様のやるお手伝いのレベルじゃないから、一端の建設業者の仕事だから、いくら木札支払いでお代が頂けるとは言え、貰った木札を何処で使えと?欲しいものがあっても買うところなんて無いですから。

モルガン商会の行商人ギースさんには幾つかの商品を注文したとは言え大した物を頼んだ訳じゃないし、ベネットお婆さんに試作品のお代を払おうとしたらビッグワーム改の干し肉払いにしてくれって言われるし、マルコお爺さんはエール作製小屋の建設をねだるし、本当に何処で使えと?

頑張って働いても只管貯蓄、物流の希薄な村の哀しさよ。(T T)

 

ですので暫くは働きたくないでござる。

でもな~、家でゴロゴロしてるとなんやかんやで捕まるんだよな~、特にドレイク村長代理に。

こないだ捌いた試食用角無しホーンラビットを干し肉にした物をお持ちしたところ、ドレイク村長代理が天元突破致しまして。テンションが上がりまくって訳の分からない事言い出すって言うね。

“マルセル村をウサギの楽園にする”って、管理し切れないホーンラビットは元に戻っちゃいますからね?これって絶対他所でも問題になりそう。

 

確かに売れると思うけどね、管理も簡単だしね、でも油断したら森の悪魔に早変わりだからね?その辺の村なんてあっと言う間に全滅よ?

その繁殖力も半端ないんだから、マルセル村の飼育情報を詳細に監察官様に報告して安全な飼育管理方法を確立しないと、グロリア辺境伯領ホーンラビット地獄よ?ドレイク村長代理、オーランド王国を滅ぼした悪魔って言われて一族郎党極刑よ?

そこまで話して(ようや)く冷静になるドレイク村長代理、やっぱり旨い肉は人を魅了して止まない危険な一品って事なのね。

 

何とかホーンラビット牧場の追加建設を回避した私、当面の懸案事項はなんだったっけ?

・・・有ったよ大問題、ヤバヤバ蜂蜜が。ミランダおばさんお気に入りの生姜茶の原材料、無くなったからまた頼めないかって言われてたんだよな~。言えないよな~、あれ一壺で金貨三百枚以上するなんて。マジで乾いた笑いしか出ね~。

と言う訳で暫くは森に代わりの蜂さん(養蜂用)を探しに行かないといけなくなってしまいました。それは仕事とは言わないのか?自己保身の為の苦労は労働とは言わないのだよ、必要経費と思いなさい。

 

ケイトには暫くはベネットお婆さんの所のお手伝いをお願い致しました。あいつ紬と仲がいいからな。

後団子の散歩もお願いします。メタボホーンラビットって駄目でしょう、ほっとくと一日中ゴロゴロしてるもんな、あの駄ウサギ。

 

「御神木様~、肥料をお持ち致しました」

蜂の事なら蜂に聞け、御神木様に肥料をお持ちするついでにデカ蜜蜂さんに情報収集をお願いしようかと。

 

“ブブブブブブッ”

「オイッスB子さん、これいつもの芋汁」

B子さんってのはいつも蜂蜜を持って来てくれるデカ蜜蜂の呼び名ですね、最初に森で見つけた蜂さんです。

 

「今日も蜂蜜持って来てくれたんだ、いつもありがとうね。でもまだ花もそんなに咲いてないんだし、無理しなくてもいいよ?

一年中花が咲いてる穴場がある?周辺の蜜蜂は皆そこを利用してるんだ。でもだったらどうしてあの時は死にそうになってたのさ。乱暴な蜂にやられた?どの世界にもそんな奴がいるんだ、困ったもんだよね。

 

そうそう、今度村で養蜂をする事になってさ、引っ越してくれそうな蜂さんを探してるんだけど、誰か知らない?

ちょっと心当たりはない、そりゃそうか。

それじゃあさ、さっき言ってた穴場の花畑に連れて行ってくれない?現地でスカウトしてみるから」

 

“ブブブブブッ”

羽根を激しく動かし了承の意を示してくれるB子さん、森でウロウロ蜂探しする羽目になるかと思っていた俺にとっては、これ程心強い味方はありません。これは中々いい展開なのでは?

 

そうして森を移動する事暫し。

・・・暫しじゃないだろう、相当奥地だろう、ここ。当然の様に気配を消して無音行動でB子さんの後を追走しましたけどね、飛んでる蜜蜂めっちゃ早かったですけどね。と言うかここって確実に大森林の中じゃん、B子さんったら大胆、勘弁して下さい。

よくよく考えれば一年中花が咲いてる穴場がある何て、魔力の豊富な大森林以外あり得ないじゃん。冬のあの厳しさも乗り切るって事のおかしさ何で気付かないかな、俺。もうね、日々の修行の成果を発揮しまくりですよ。

 

知ってます?無意識の内に体外に漏れている魔力を完全に身体の中に収めると魔物に見向きもされないんですよ?魔物って獲物の魔力に敏感らしくて匂いや音、気配以外にも魔力で感知していたみたいです。

普段気配を消して無音行動をしていた時も無意識でかなり押さえ込んでいたみたいなんですけど、魔力過多症の治療薬を飲んで人工的に魔力枯渇状態にしてから無音行動をしたら全く気が付かれなかったんですよね。

緑や黄色はもちろん角有りホーンラビットや団子、大福に至るまでって、あの時はマジでビビったわ。

 

それでこれがどう言う事か検証した結果、先程の事実が判明したって訳です。まさに瓢箪から駒、棚からぼた餅、あらぬところから最も欲していた技術が手に入ってしまいました。何でもやってみるものです。

お陰でビビりつつも大森林を高速移動出来ているって言う訳です。でもB子さん、こっちからお願いしておいてこんな事を言うのもあれですが、マジで勘弁して下さい。

 

 

「うわ、何ここ、めっさ綺麗と言うか凄いと言うか、なんでこんなに爽やかなの?」

そこは森の中にぽっかりと開けた草原、見渡す限り色とりどりの花が咲き誇る花の楽園。そんな楽園には色とりどりの蝶や虫、蜜蜂たちが飛び交い、さながら昆虫の王国と言った光景を作り上げていた。

常春の地?妖精の楽園?何このファンタジー。魔力の悪戯か、大森林の祝福か。世界の広さを改めて教えてくれる光景に、暫し声を失うケビン少年なのでありました。

 

“あら?こんなところに人間が来るなんて珍しいわね。”

聞こえて来た声に驚きハッと我に返るケビン少年。ここは大森林、そんな場所でボケッとするなど自殺行為に等しい。突然の声掛けに警戒しつつ感謝するケビン。

 

“そんなに驚かなくても何もしないわよ。と言うか何も出来ないわよ。だって私実体無いんだもの。”

 

声のする方を向けばこちらをじっと見詰め佇む女性。ただその姿の先が透けて見える影の薄い方。そしてなぜか若干地面から浮き上がっていると言う身の軽さ。

あ、うん、お亡くなりになられておりますね。と言うかこの場に憑いてる地縛霊的な方なんでしょうか。

 

“なんか失礼な事考えてない?大森林で死んだ無念でさ迷い出たレイスとかじゃないからね?ちゃんとお墓があるから、惜しまれつつ弔われてますから。って言うかここが私のお墓だから。”

そう言い花畑の中心を指差す女性、そこには立派な墓標が鎮座しているのでした。

 

“ここはね、私の秘密の花園だったのよ。”

ふわふわ浮きながら前を進む女性に連れられ、花畑の中心に向かう俺。B子さんはそんな(わたくし)の頭部にしがみ付いて羽根を休ませておられます。

 

“これでも私結構な魔法使いだったのよ。王宮に勤めていた事もあったけど、あそこって下らない柵が多くてね。結局は辞めて冒険者をしたり魔道具職人の真似事をしたりとかね。

でもそこでもなんやかんやで色々とね。結局はこんな大森林の奥地に居を構えて余生を送っていたって訳。

でもそんな私にもひょんな出合いがあってね、弟子と言うか娘と言うか。捨て子だったあの子と過ごした日々が、私の人生の中で最も輝いていたんじゃないかしら。

そんなあの子も旅の途中で訪れた勇者と共に旅立って、その後どうなったのか。”

辿り着いたそこにあったのは立派な墓標。表面には“大賢者シルビア・マリーゴールドここに眠る”と掘り込まれていた。

 

“あの子が私を弔ってくれたのね。こんな森の中にあって、これ程立派なお墓を作ってくれるだなんて。師匠冥利に尽きるってものよ。

それにこのお墓を守りたかったのかここら辺に魔物避けの結界を張ってくれたみたいで、大型魔獣の侵入もなく今に至るって訳。だから貴方がこの場所にいたことには驚いたわ。ここって惑わしの術が掛かっていてある程度の魔力を持つものは近付く事も出来ない筈なのよ。

逆に魔力の少ない弱い者は大森林の深部に侵入なんて出来ないわ。我が弟子ながら良く出来た結界だと思ったものよ。貴方本当に人間?精霊の類いとかじゃないの?”

 

・・・(わたくし)ケビン、人間を卒業された方から人外扱いされてしまいました。(T T)

 

“でね、弟子がお墓を建ててくれたり、私の大好きな花園を保全してくれたのは嬉しいんだけど一つ問題があるのよ。”

 

墓標の前で佇む二人。

姿の透けた女性は、真剣な表情でケビンを見詰めながらゆっくりとその口を開きました。

 

“暇なのよ、私って所謂幽霊って奴じゃない?魔物のレイスと大差ないじゃない?やることがないと言うか何も出来ないと言うか?

この場を離れようにも結界があって出れないって言うね、あの子優秀過ぎ、全然結界効果が切れないんだもん。私この世に未練なんて無かったのに花園の精霊みたいになってるって、どうしてこうなったって感じ?

それでたまにでいいからお話しでもしに来て欲しいのよ。無論タダでとは言わないわ、墓標の脇の出っ張りを押して貰える?”

 

“ガコンッ”

ケビンがその出っ張りを押すと、なにやら台座の一部が開き、中から黒い腕輪の様な物が転がり出て来た。

 

“それは収納の腕輪。腕輪に込めた魔力の分だけ空間が広がる魔法使いの必須装備ね。ただあまり欲張ると魔力枯渇を起こすから気を付けなさい。

私の発明の代表作、それを呪いの魔道具だなんて失礼しちゃうわ。そんなの欲張る方が悪いんじゃない、時間停止機能を付けたから魔力を馬鹿食いするけど、そんなの最初だけじゃない。

空間維持は空間魔力を採用してるから後は出し入れの際の魔力だけだって言うのに、あいつらは何も分かっていないんだから。”

 

何かぶつぶつと昔の文句を言い始めた影の薄い女性。今彼女は何と言った?収納の腕輪?いや、大事なのはそこじゃない、“欲張ると魔力枯渇を起こすから気を付けなさい”とか言わなかったか?

つまり“欲張れば魔力枯渇が出来る”と言う事。

 

よっしゃー!!

魔力枯渇グッズゲットだぜ~!

人生は思わぬ形で欲しいものが手に入る事がある。これも全ては日頃の行いだよねと腕輪を眺め満面の笑みを浮かべるケビン少年なのでありました。

 

 

人の欲と言うものは際限ない。

「この悪魔め、この様な呪いの魔道具を作りおって!」

彼女の忠告は悉く軽視される。初めは己の力量に合わせて使用していた者も、いつしかその欲に負け、結果魔力枯渇に陥り感謝の言葉を罵倒に変える。

 

「じゃあ早速使わせていただきますね。」

誰も訪れる事の無かった花園に現れた不思議な少年、そんな彼に渡した腕輪は彼の人間性を知る為の試金石。彼が欲望に溺れる様な者ならば、この楽園を壊す様な者ならば。

 

「おぉ、来てます来てます、これですよこれ、俺の求めていた魔道具が今ここに!」

吸われて行く魔力、止まる事の無い魔力の流出、このままでは魔力枯渇を起こすのは明らか。やはり人は欲望には勝てないと言う事、それはまだ世に出ていない少年と言う年齢であろうとも変わらないと言う事なのだろう。

森の花園の主は、そんな少年の姿を見ながら悲しげに表情を歪める。

 

「おっしゃ~、なんと言う効率、素晴らしい。魔力スッカラカン、身体が重い重い、これですよこれ、ビバ魔力枯渇!」

そう言いながら満面の笑みで屈伸を始める少年。

・・・あれ?思っていた反応と違うんですけど?あの~、収納の魔道具ですよ?時間停止機能付きですよ?金貨数百枚でも買えない逸品ですよ~。って言うかなんで動けるの?魔力枯渇を起こして大喜びって訳分からないんですけど!?

 

勇者病仮性重症患者ケビン。

その思考は大森林の隠された花園の主をも混乱に陥れ、誰も予想の付かない明後日の方向をひた走るのでありました。




本日一話目です。
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