アルジミールに頼まれフレアリーズ第五王女殿下を訪ね王城にやってきた俺たち。
通されたのは王宮内のよく手入れのされた庭園、そこには小さな池の周りや木々の木陰でのんびりと過ごすスライムたちの姿が。
フレアリーズ第五王女殿下とスライムたちの心穏やかな空間、ジミーが連れて来た“合体スライム”スライミーに、感激のあまり天元突破するフレアリーズ第五王女殿下。
そしてメイド様方により強制お色直し。
ここまではよかったんですけどね~(対外的にはあまりよろしくはないが)、現れちゃったんですよね~、フレアリーズ第五王女殿下の姉に当たるカルメリア第四王女殿下が。
あの、妹のお茶会?スライム交流会?に参加しているゲストを自身の主催するお茶会へ引き抜くってどうなのよ?
俺の様な庶民にはお貴族様の常識や慣習は分からないけど普通にアウトじゃね?その辺は忖度しろって、意味分からんわ。
ちゃんと断ったんですよ?相手はオーランド王国でもトップクラスに偉い人、言葉を選び失礼の無いように。
俺、アルジミール、エミリーがそれぞれ言葉を変え失礼の無いように気を使いつつ。
でもそんな態度が気に入らないって、やっぱり王家の御方様は全てに優先されることが常識なんでしょうか?
最終的にホーンラビット伯爵家の令嬢であるエミリーに対し、“私に逆らったらどうなるのか分かってるのか?お前んち潰すぞ?”って。
道理も理屈も関係ない、私の言葉が全てなのだ!!ってどこのマリーさん?パンが無ければケーキを食べればいいの?
で、これは駄目だねって事で俺たちはお暇させていただこうって事になったんですけどね。
「なっ、一体何を勝手していますの、不敬ですよ?私がいつこの場を下がってよいといいましたか?」
・・・帰るんですけど何か?だってここにいても仕方がありませんし?
アルジミールが現状を説明し、後はホーンラビット伯爵家と王家の話し合いって段階に事が進んでいたんですが、カルメリア第四王女殿下が衛兵を呼び込んで俺らを包囲しちゃうし。
まぁどうという事もないんですけどね、ジミーが殺気を飛ばしただけでみんなひっくり返っちゃいましたし。
それで改めて帰ろうとしたところにお色直しが終わったフレアリーズ第五王女殿下の登場、この状況で「そうですわ、皆様私のお部屋に参りましょう。アルジミール様に購入していただいたスライムクッションもございますのよ?」って、普通もっと違う感想が出ると思うんですけど?
周辺に倒れてる衛兵様方を前にして、「何か大変なことになっていますが、私に出来る事はありませんし、ここは王宮ですから直ぐに誰かが駆け付けるでしょう。それよりもスライミーちゃん達です」って、「スライミーちゃんも一緒に行きましょうね~♪」って言いながらスライミーの一体を抱き上げてとっとと廊下を歩いて行っちゃうし。
そんなこんなでフレアリーズ第五王女殿下に従う形でお部屋にお邪魔していたんですけどね。
「フレアリーズ第五王女殿下、この者が発言する事をお許しいただけますでしょうか」
「はい、構いません。どうぞお話し下さい」
目の前にいるのは以前ケビンお兄ちゃんに紹介していただいた王都諜報組織“影”の総帥ベルツシュタイン伯爵閣下、そしてその背後に控えているのは・・・。
「ハッ、フレアリーズ第五王女殿下の寛大な御心に感謝を。
こら、そこの五人、場所柄を考えろ場所柄を!
今はベルツシュタイン伯爵閣下がフレアリーズ第五王女殿下にご挨拶申し上げてるところだろうが、そんな時に勝手に発言しているんじゃない、不敬罪で処分されても文句が言えないぞ!」
「「「「「すみませんでした!!」」」」」
一斉に頭を下げる俺たちに、目を見開くアルジミールたち。
何故この場にケビンお兄ちゃんが?しかもホーンラビット伯爵家騎士団の騎士服を着込んでるって。
「なぁジェイク、あの人って」
「あぁ、ジミーのお兄ちゃん、ケビン・ワイルドウッド男爵。俺たち全員が頭の上がらない人」
俺の言葉に「へ~、なんでまたそんな人が王宮に」と呟くアルジミール。それは俺の方が聞きたい。
「あ~、ジミー、ジェイク君、エミリーお嬢様、なにか大変だったな。まぁあの場でジェイク君たちが席を立った判断は間違っていない、その事に関して何かを言うつもりはない。
その後ジミーが殺気を飛ばしたこともまぁ仕方が無いといえばしかたのない事だっただろう。
ただ一つだけ、お前らはホーンラビット伯爵領が、マルセル村の人々がこの件を切っ掛けに全滅するという事をちゃんと覚悟していたのか?
ことはお前たちの命で済む話じゃない、マルセル村村民全員の命にかかわること、チェリーちゃんやロバート君、ミッシェルが殺されるところだったという事をちゃんと考えて行動したのか?その覚悟はあったのか?」
ケビンお兄ちゃんの言葉にハッと気付かされる俺たち、俺たちはなんてことをしてしまったんだ、自身の行いの為に村人たちが危険に晒される、その事を一切考えていなかった。
マルセル村の大人たちは強い、そんな思いで驕り高ぶっていたのは自分たちの方だと気付かされる。
「勇者病<極み>、己の理想と信念に多くの者を巻き込み自ら危険を呼び込む一種の厄災。
お前たちは確かに強い、お前たちだけなら王家からの圧力も跳ね除ける事が出来るだろう。
だがお前たちの周りの者は?親や兄弟たちは?
お前たちは勇者物語に語られる勇者たちが何故権力者の言う事を聞き、危険に飛び込んでいたと思う?
彼らがそう望んだから?それもあるだろう。だが人はひとりでは生きられないの言葉の如く、無言の圧力で脅しを掛けられていたとしたら?
今回カルメリア第四王女殿下はかなり分かり易く脅しを掛けてきたようだが、より巧妙に本人だけにしか分からないように脅す手段などいくらでもある。
その時どう考えどう行動するのか、今からよく考えておくことだ。時は待ってはくれない、後になって後悔しても遅いんだからな?」
ケビンお兄ちゃんの言葉にただ黙って頷く俺たち。俺たちはまだまだ子供だった、浅はかで考えなしのガキだった。
自分にとって大切なものは何か、その事が分かっていなかった、分かったつもりになっていた。
俺だけじゃなくジミーやエミリー、フィリーとディアも俯いて自身の行動を振り返る。自らの力に酔いしれていたのはカルメリア第四王女殿下だけじゃない、自分たちもまた同じだったのだと。
「分かってくれたみたいだな。こうした問題はお前達が冒険者として世界に旅立った時いつかぶつかるかもしれない事だ。
例えば街を牛耳り人々を苦しめる商人がいたとする。その商人は街の監督官と手を組み悪徳の限りを尽くしていた。
そんな時お前らはどうする?助けを求められ考え無しに商人を潰すか?悪事に加担する監督官もついでとばかりに切り殺すか?
確かに街の者たちは抑圧から解放されたと喜ぶかもしれない、だがその後は?
監督官殺しは重罪だ、監督官を殺さず商人だけを潰したとしても、お前らは監督官から犯罪者として手配されるだろうな。
物事には手順があり落しどころがある。たとえ切っ掛けが些細な事であったとしても、本当の意味で解決に導くためには国を変えるくらいの努力が必要な事などざらにあるのが世の中だ。
お前達が初めての護衛任務としてミルガルの街のバストール商会を訪ねた時の事を覚えているか?
あの時ボビー師匠は何と言っていた?「何かをする、手を差し伸べるのなら相手の一生を抱え込むくらいの気概を持て」と言っていなかったか?
自身の行動の責任、それがたとえ人から賞賛される素晴らしいものであったとしても、物事はそれだけで終わるほど簡単なものではない。
たとえ人々を苦しめる盗賊団を単独で討伐したとしても、盗賊団に囚われていた人々をどうするのか、苦しめられていた村々の事を見捨てる事が出来るのか。
全てを救う事など出来ないが、縋る人々の手を払うのは簡単な事ではない。
少々話が逸れたな。要はあとの事をどれだけ考えられていたのか、落しどころをどうするつもりだったのかという話だ」
ケビンお兄ちゃんはそう言い俺たち一人一人の顔に目を向ける。それは言外に“お前たちは覚悟をもって行動したのか?”と問い掛ける。
「まぁこればかりは経験だからな、今回の件を何も考えずに“自分たちは正しい事をした”などと考えている様なら魔力枯渇空間で大福相手に無限乱取りさせるところだったんだが、その顔付きならちゃんと現状を把握できたみたいだな」
「「「「「本当に申し訳ありませんでした!!ですのでそれだけは何卒ご勘弁を!!」」」」」
魔力枯渇空間での大福相手の無限乱取り、ただでさえ魔力枯渇状態で自身の身体能力で戦わなければならないところに相手はあの大福、倒れようが骨が折れて呻こうが、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度もナンドモナンドモ。
「だ、大丈夫かジェイク。ジミーにフィリー、エミリーにメイドさんまで、顔色真っ青だぞ!?」
魂に刻みつけられた恐怖、魔力枯渇状態にも慣れ調子に乗っていた俺たちにケビンお兄ちゃんが課した試練を思い出し、ガタガタと身を震わせる俺たち。
「最初に言ったが、今回の件でお前たちを責めるつもりはない。むしろよくやったと言ってもいい。
だがその後の対処が足りなかった。
必要なのは如何に事態を収束させるかという事。俺が普段色々言われながらもホーンラビット伯爵閣下に様々な問題対処を頼まれるのは、最終的には問題を終息させているからだ。
そうした意味においてこの場にお前たちを引き留め続けたフレアリーズ第五王女殿下の判断は素晴らしい。これでお前たちが一度でも王城を下がってしまえば、ことはカルメリア第四王女殿下の暴走では済まない、ホーンラビット伯爵家とオーランド王国王家、果ては北西部貴族連合・南西部貴族連合・ダイソン公国・南部貴族連合とオーランド王国との大戦争に発展する可能性すらあったのだからな。
フレアリーズ第五王女殿下は王家ばかりでなく俺たちを、オーランド王国の全国民をお救いになった聖女であらせられるのだ」
突然ケビンお兄ちゃんに絶賛され、黒蜜を抱えながらコテンと首を傾げられるフレアリーズ第五王女殿下。
・・・ごめん、ケビンお兄ちゃん。多分フレアリーズ第五王女殿下は何も考えていなかったと思います。単にスライミーや黒蜜と戯れたかっただけだと。
“ガバッ”
膝を突きフレアリーズ第五王女殿下に対し臣下の礼を取るケビンお兄ちゃん。俺たちは互いに目配せをしてケビンお兄ちゃんに倣い膝を突き臣下の礼を取ります。
これはあれだね、ケビンお兄ちゃんのいつもの奴だね。
「フレアリーズ第五王女殿下に申し上げます。この度は我がホーンラビット伯爵家が次女エミリー・ホーンラビットお嬢様並びに、ジェイク・クロー、ジミー・ドラゴンロード、フィリー・ソードが多大なるご迷惑をお掛けし、心から謝罪いたします。
また騒ぎの鎮静化を図るためフレアリーズ第五王女殿下が取られた機転により、オーランド王国王家とホーンラビット伯爵家の間に生じた諸問題は無事解決を見る事が出来た事を、ここにご報告申し上げます」
ケビンお兄ちゃんの言葉に合わせ、ベルツシュタイン伯爵閣下や部屋にいたメイド様方が一斉に頭を下げられます。
そんな中全く状況についていけていないフレアリーズ第五王女殿下。
「本来であればこのような言葉で済まされる程度のご恩ではないのですが、事を穏便に鎮める為の方策であるとご理解いただければ幸いでございます。
それとこれは私の友人である王都学園講師ビーン・ネイチャーマンから相談された事なのですが、フレアリーズ第五王女殿下はお育てになられているスライムとより親密になる為の方法を模索なさっておられるとか。
私は自身もスライムを傍に置くほかスライム学の権威でありますジニー・フォレストビー氏とも交流がございます。
フレアリーズ第五王女殿下とスライムとの関係向上に何かお手伝い出来る事があるやもしれません」
そう言い提案するケビンお兄ちゃんの言葉に、目を輝かせて反応するフレアリーズ第五王女殿下。ぶれない、フレアリーズ第五王女殿下、ぶれない。
そんなフレアリーズ第五王女殿下の態度に、“それでいいのか王族、アルジミール、このお方をどうにかして!!”と思う俺たちなのでありました。
本日二話目です。
行ってらっしゃい。
by@aozora