転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第651話 転生勇者、落としどころについて学ぶ

ケビンお兄ちゃんの提案で再びスライム庭園に向かう事になった俺たち。

先頭には走り出さんばかりにノリノリのご様子のフレアリーズ第五王女殿下と、その隣で相槌(あいづち)を打つアルジミール。その後ろを行く補佐役のヘレン先輩とライオネスが何やら悪い顔をしながら小声で相談事をしている。

これはアレだね、今後の為の地盤固めを行って外堀を埋めきってしまおうって事だね。

 

フレアリーズ第五王女殿下は言わずと知れた“スライムを愛でる姫君”、姉であるカルメリア第四王女殿下に王都三大禁足地の一つアーメリア別邸に誘導されちゃうような扱いを受けていたみたいだし、そのアーメリア別邸に通い詰めても心配されない程度に王宮では蚊帳の外の存在だったみたいだし。

アルジミールはマルローニ侯爵家の次男ではあるものの、マルローニ侯爵家自体が然程力のある家ではなかったとの話。上のお兄さんは顔だけ第三王子とお花畑公爵家子息に振り回されているって事だったしな~。

二人共立場的にあまりパッとしない扱いを受けていたことは想像に難くない。双方の側近であるヘレン先輩とライオネスは悔しさに唇を噛んでいた事だろう。

 

そんな主人たちに訪れた転機、この機会を逃す訳にはいかない。

カルメリア第四王女ざまぁ、顔だけ第三王子、お花畑侯爵子息ざまぁ。利害の一致、急速に近づく側近の二人。

だからエミリーさんにフィリーさんにディアさん、二人の事を指して「これは王宮ラブロマンスの予感」とか「国境を越えた愛の始まり、一歳差など誤差」などと言って盛り上がるのは止めて差し上げなさい。

あちらのお二人、どう見ても初心ですから、こちらのひそひそ声が聞こえて耳まで真っ赤になっていらっしゃるから。

 

進む廊下、わちゃわちゃ盛り上がる俺たち。そんな俺たちの姿を見ながら「う~ん、青春だな~。ベルツシュタイン伯爵閣下が学園生徒の頃はどうでした?」「そうだな~、私は家が家だったからね、あまりこう言った爽やかな青春は送れなかったかな」とおじさんトークを繰り広げるケビンお兄ちゃんとベルツシュタイン伯爵閣下。

って言うかケビンお兄ちゃんまだ十六歳じゃん、こないだ誕生日を迎えたばかりじゃん。壮年のベルツシュタイン伯爵閣下と同じ目線で青春を語るケビンお兄ちゃん、何でそんなに哀愁が漂ってるの?

 

「あの、ベルツシュタイン伯爵閣下、ケビンお兄ちゃん、失礼しました。ケビン・ワイルドウッド男爵がどうして王城にいるのかお聞きしてもよろしいでしょうか?

いえ、原因が俺たちにあるという事は理解しているのですが、ベルツシュタイン伯爵閣下がケビン・ワイルドウッド男爵を呼び出すにしても早過ぎる気がいたしまして」

 

それは俺たち全員が思った疑問、事態の対処にケビンお兄ちゃんが動いた事は分かる、だがいくらなんでも早過ぎる。もしかして王宮に潜んでいたとか?俺たちが王宮に来ることは分かっていた事だし、何らかの方法で呼び出していたとか?

 

「あぁ、それか。別に予め王城に待機していたとかそういう事じゃないからね?って言うかいくらなんでも無理だからね?王城ってそう易々と訪れていいような場所じゃないから。

ここはオーランド王国の中枢、国の中核を担うヘルザー宰相閣下やベルツシュタイン伯爵閣下ならまだしも一地方貴族、しかも男爵といった平民に毛の生えた程度の爵位の者が気軽に訪れていいような場所じゃないから。

 

答えは黒蜜、正確には黒蜜が見聞きした事を受け取った大福から連絡が入りました」

 

そう言い俺の腕の中の黒蜜を指差すケビンお兄ちゃん。それってどういう事?

 

「ジェイク君は黒蜜が大福から分裂した個体だって事は知ってるよね?大福から直接黒蜜を譲り受けたんだから。でもそれは普通のスライムの分裂とは少し違っていてね、黒蜜は分裂体ではなく眷属として生み出された個体になるんだよ。

眷属というのはヨークシャー森林国の聖霊樹様と精霊たちとの関係と同じで、親である大福から力を与えて生み出された別個体といった関係になるんだ。

そして眷属の見聞きした事は親である大福が感じ取ることができる。ただ大福から黒蜜に対して何らかの指示を送る事は出来ないんだけどね。

大福は黒蜜の目線からこの王都の暮らしを見聞きし、人というものを学んでいるんだよ。王都はマルセル村では知る事の出来ないような人々の営みで溢れているからね。

 

で、収穫期で忙しく野菜の収穫をして村役場に運んでいた俺のところに大福から緊急連絡が入ってね、ジミーが王城で盛大にやらかしたって聞いた時は一瞬頭が真っ白になったよ。“この忙しいのに何してんじゃボケー”ってのが本音だったかな。

詳しい状況を聞いてしようがないかなとは思ったけどね」

 

驚きの真実、黒蜜さん、大福先生の情報収集型子機でした。但し大福先生からの指示は届かず一方的に情報を送るだけ、宇宙探査機ボイジャーかな?便利なようなそうでないような。

 

「えっ、って事は俺の日頃のあれやこれやは全てケビンお兄ちゃんに筒抜けって事?それ物凄く恥ずかしいんだけど?」

「いやいや、それはない。俺一々大福にジェイク君の様子を聞いたりしないし、その辺は全て大福にお任せだし。

ただ今回のような比較的事が大きくなりそうな面倒事の場合だけ教えてって頼んでいるだけ、これも大福が人間社会の仕組みについて詳しく理解出来ているからこそ可能なんだけどね。大福、俺より頭いいし、国の運営をさせても上手くやるんじゃない?本人にやる気がないから無理だけど」

 

“ブホッ”

スライム王国初代国王大福、全くの絵空事と思えないから恐ろしい。

ベルツシュタイン伯爵閣下が「えっ、それってマルセル村のヒドラスライムの話だよね?あのスライムってそんなに頭がいいの?お願いだからしっかり抑えておいてくれない?」って超焦ってるんですけど。確り現状を把握している為政者からしたら、これ程怖ろしい話はないと思います。

 

「大丈夫ですよ、大福は水辺でゴロゴロしてるか村の大人相手に戦ってれば満足ってスライムですから。でも王都武術大会のアレは羨ましがってたな、なんか面白そうって言って。

俺に変身合体しろってしつこいしつこい、俺も嫌いじゃないんでね、一緒に考えたりしたんだけどさ」

 

「変身って言ったら合言葉だよね、あと変身ポーズは基本でしょう」と言いながら目を輝かせるケビンおにいちゃん。やっぱりケビンお兄ちゃんはケビンお兄ちゃんでした。

 

「それと今回色々言ったけど、ジェイク君たちの失敗は事態を放置しちゃったところなんだよ。

こうした事は迅速に相手を丸め込むのが重要、だって時間が経てば経つほど事態の収拾が面倒な事になるってのは歴史が証明してるじゃん?

今回だってジミーが殺気を飛ばした後にフレアリーズ第五王女殿下と合流できたんならこれ幸いと事情を説明し、ゾルバ国王陛下に弁明に向かえばよかったんだよ。

仲立ちとしてフレアリーズ第五王女殿下の名前を出して「フレアリーズ第五王女殿下の顔を立てて矛を収めますが、こうした事が二度と起きないようによろしくお願いします。ホーンラビット伯爵家にはそちらからご連絡をお願いします」とか言って丸投げしちゃえば全く問題なかったんだから。

 

あ、これって前に俺がやったやり方。あの時は王家に大森林素材を売りに来てあまりに互いの関係性を分かっていなかったものだからガツンと言ってやりました」

 

「あぁ、そういえばあったね~。去年の春だっけ?王宮第二訓練場で広範囲の威圧を飛ばした奴だよね。あの時も大変だったな~、後処理が」

 

そう言い乾いた笑いを浮かべるベルツシュタイン伯爵閣下。って言うかケビンお兄ちゃんもやらかしてたんかい!!

「酷かったんだよ?貴族街の有名どころを潰して回ったりして無茶苦茶だったんだから」と言うベルツシュタイン伯爵閣下の言葉にケビンお兄ちゃんに対しジト目を向ける俺たち。ケビンお兄ちゃん、俺たちがマルセル村を危険に晒してどうのとか言ってなかったっけ?どの口がそんな事を言ってるのかな?

 

「だからさっきも言ったじゃん、落としどころが大事だって。それだけの事をしておきながら何の問題も起きてないでしょう?

まぁ起きたら起きたで対処するからいいんだけど。俺はマルセル村を離れる気なんかさらさらないし、これまでどれ程の準備をして来たと思ってるのさ、対抗手段は選り取り見取りよ?」

そう言い胸を張るケビンお兄ちゃん。やっぱり駄目だこの人、どうにかしないと。

 

「でもジェイク君たちは世界を股に掛ける冒険者になるんだから一所に構う訳にはいかない。これがただの冒険者であればそこまででもないかもしれないけど、ジェイク君たちのことだから金級冒険者や白金級冒険者になるのなんてあっという間だしね。

高位冒険者はそれだけ柵も多いから。父ヘンリーやボビー師匠がマルセル村に引き籠ったのもそれが原因だし。

その上ジェイク君たちは<勇者>に<聖女>に<賢者>に<剣天>に<聖騎士>。人々の希望と持ち上げられて縋りつかれるのは目に見えてるしね。

今回みたいな事の対処や心構えは早めに覚えておいた方がいいんだよ。

なんならベルツシュタイン伯爵閣下のところで色々お話を聞いてごらん、剣の勇者様や魔法の勇者様の世間では語られていない裏話をたくさん知ってるから。夢も希望も無くなると思うけどね」

 

そう言いニヤリと笑うケビンお兄ちゃん。そんなケビンお兄ちゃんの言葉に、「あぁ、アレか~」とどこか遠い目をするベルツシュタイン伯爵閣下。

・・・マジでどうなっちゃうの俺たち!!オーランド王国の歴史の闇、めっちゃ怖いんですけど!!

 

「どうやら着いたみたいだね」

そんな不安をよそに、スライム庭園に到着した俺たち。倒れていた人々はどこへやら、すっかり何事もなかったような雰囲気を醸し出すその場所に、思わず口を開けてポカンとする俺たち。

 

「あぁ、そう言えばさっき王宮全体にスキル<清掃>を掛けたからね、恐怖の痕跡はきれいさっぱりです。ついでに癒しの覇気で混乱した心も鎮めておいたから、今頃各自の持ち場に戻って職務についてるんじゃないのかな?」

「「「「「ケビンお兄ちゃんがケビンお兄ちゃんしたって事ですね、納得です」」」」」

 

ケビンお兄ちゃんの落としどころって結局力技じゃんか、そんなの真似出来るか~!!

心の中で盛大に叫んだ俺は悪くないと思います。

 

「それではフレアリーズ第五王女殿下、スライムたちをお見せいただいてもよろしいでしょうか?ジェイク君たちはフレアリーズ第五王女殿下の指示に従いスライムを集める手伝いをしてくれるか?」

 

ケビンお兄ちゃんの言葉にスライム庭園のスライムたちを集め始める俺たち。木々の合間や枝の上、池の周り。池の中のスライムは黒蜜に回収して貰いました。

そうしてスライム庭園の中央に集められたスライムたちの総数三十五体。フレアリーズ第五王女殿下はこのスライム一体一体を「あっ、チビちゃんがいません」・・・区別ついているんですね、流石です。

 

「こちらのスライムですね、先程壁の隙間に潜り込んでいるのを見つけました。大勢の人がやって来て余程恐ろしかったのでしょう」

そう言い小振りのスライムを他のスライムたちと一緒にするケビンお兄ちゃん。

 

「“集まってくれたスライムの諸君、どうもありがとう。私の名はケビン、ケビン・ワイルドウッド男爵という。

今日は諸君に一つの提案があってお邪魔した。諸君らも知っての通り、フレアリーズ第五王女殿下は心より諸君の事を大切に思っておいでだ。その事は日頃からフレアリーズ第五王女殿下に触れ合っている諸君の方がよく知っての事だろう。

フレアリーズ第五王女殿下は諸君らとより親密な関係になりたいとお望みである。諸君はどうか”」

 

それは念話、心に直接響く意思の波動。

 

「“諸君はスライムである、無限の可能性を秘めた者たちである。ここにその可能性の一端をお見せする。

黒蜜、スライミー、ここへ”」

ケビンお兄ちゃんの言葉にピョンピョンと跳ね前に出る二体。

 

「“先ずはスライミー、彼らは本当にどこにでもいるスライムであった。そんな彼らが選んだ道、それは主人と共に在りたい、主人の役に立ちたいというもの。

スライミー、<分裂>”」

プルプル震えていたスライミーは指示に従い三体へと分裂する。

 

「“スライミー、今度は<合体>だ。

どうかな?見てのようにスライミーは互いに合体し一つになる事も分裂してそれぞれに分かれる事も自在に出来る<合体スライム>という個体に進化した。これはスライミーがそうありたいと願ったからだ。

 

次に黒蜜、この個体は強さや器用さ、個としての存在を強くしていったものだ。

黒蜜、大きくなれ”」

 

“ボヨ~~~ン”

途端自らの身体を巨大化させる黒蜜。

 

「”黒蜜、小さくなれ”」

 

“ポヨンッ”

今度は掌サイズに縮小化する黒蜜。ケビンお兄ちゃんはそんな黒蜜を拾い上げ、尚もスライムたちに語り掛ける。

 

「“進化の方向性は様々、集団で一つになるもよし、個として上を目指すもよし。それは全て諸君の思い次第。

それと諸君が今以上にフレアリーズ第五王女殿下と親密になりたいと望むなら名を受け入れ、<テイム>を受け入れる事だ。

それにより諸君は真の意味で家族となる事が出来るだろう”」

 

その変化は突然であった。ケビンお兄ちゃんの話を聞きプルプル震えていたスライムたちが隣り合う個体とくっつき、一つになろうとし始めたのである。

 

「えっ、スライムちゃんたち?大きなスライムちゃんになっちゃって。それとチビちゃんはそのまま、あとあなたは最初のスライムちゃん」

くっ付き合い不安定ながらも大きなスライムになった一体と、その場でプルプル震える二体のスライム。

 

「フレアリーズ第五王女殿下、それでは彼らに名前を。その時共に在りたいと願っていただければ<テイム>が成立するはずです」

「はい、それではおチビちゃんから。君はほんのり黒みかかっていてみんなとはちょっと違った子だったもんね。

オニキス、オニキスでどうかな?」

 

“プルプルプル”

身を震わせ喜びを示すオニキス。

 

「えっ、何ですかこれは?オニキスの気持ちが伝わってきて、喜んでくれているのですね」

テイムが成立したのであろう、オニキスを抱え頬ずりするフレアリーズ第五王女殿下。

 

「えっと、ごめんなさい。次はあなたですね。私の初めてのお友達。あなたには友情という意味を込めてトパーズと。

この名前を受けて貰えますか?」

 

“プルプルプルプル”

大きく身を震わせ喜びを露にするトパーズ。

トパーズとの間に繋がりを感じ、笑顔になるフレアリーズ第五王女殿下。

 

「そしてあなたたちです。あなたたちは集合体となる事で新しい道を進もうとしてくれている。そんなあなたたちにどう感謝を伝えたらいいのか。

あなた達の名前はフレンズ、私たちは永遠のお友達です」

 

“ブルブルブルブルブル”

それは大気を揺さぶる喜びの波動。そんなフレンズの前ではスライミーが合体と分離を繰り返す。

するとフレンズがグニャリと身を崩し、そのままどんどん小さく崩れていき・・・。

 

“ピョンピョンピョンピョンピョンピョン”

一体のスライムになってスライム庭園の中を飛び跳ねまわるのでした。

・・・あっ、フレアリーズ第五王女殿下が壊れた。

喜びの余りフレアリーズ第五王女殿下が再びのお色直しに向かった事は、致し方のない事なのでありました。




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