転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第652話 王城での騒動、それぞれの反応

王宮でのお茶会?スライム交流会?のあった翌日、王都学園でのいつもの授業。講堂に向かった俺たちを待っていたのは奇異の視線であった。

曰く、勇者がカルメリア第四王女殿下に土下座させた。曰く、勇者が王宮を実質的に壊滅させた。曰く、勇者がカルメリア第四王女殿下の性格を塗り替えた。

 

・・・ちょっと待とう、俺そんな事してないから。百歩譲って王宮壊滅に関しては加担したかもしれないけど、他は事実無根だから。

 

「おはようジェイク、ジミー。何か凄い噂になってるな。

で、カルメリア第四王女殿下を嫁に貰うのはどっちなんだ?年上とは言えれっきとした王女様、男子の憧れといったところか?」

「「ちょっと待てロナウド、意味が分からないんだがどうしてそうなった?」」

 

声を掛けてきたのはロナウド。昨日王宮で起きた騒動の情報は、直ぐに貴族街全体に広がったらしい。

 

「初めに伝わってきた情報は王宮内が半壊するような事件が発生したというものだった。強大な殺気をばら撒く何者かが現れて王宮の者たちを次々と殺戮していったという凄惨な情報が、複数流れたものさ。

次に流れたのが聖女が倒れた人々を癒し、全ての者たちが回復したといったものだった。<勇者>ジェイクと<聖女>エミリーがフレアリーズ第五王女殿下に王宮へと招かれたという情報はその前に伝わっていたからな、エミリーが動いたという事は直ぐに分かったよ。

 

そして最後に流れたのがカルメリア第四王女殿下が<勇者>ジェイクの逆鱗に触れたことが一連の事件の発端であったといった情報だったんだよ。

カルメリア第四王女殿下が性格のキツイ自己中心的な人物という話は有名だからな、皆さもありなんと納得したもんさ。

“<勇者>ジェイクを怒らせるな”、これは貴族街では広く言われている言葉だからな。王都三大学園交流会での公開処刑と力の証明は多くの目撃者があった。<勇者>ジェイクには王家の威光も関係ない。

しかしジェイク、王宮内で王女殿下を公開処刑って、そりゃ責任取って嫁にしないといけないんじゃないのか?」

 

ブホッ、ちょっと待ってロナウド、話がおかしいから。微妙に事実が混じっている辺り質が悪いんだけど、そういう事じゃないからね?

それとエミリー、「みんな勘違いも甚だしいよね」って言いながらウォーミングアップをしない!「大丈夫、みんなすぐに分かってくれるよ」って全然大丈夫じゃないから~!!

 

「悪いロナウド、事実はそんな生易しいものじゃない。いずれ違う噂が流れて全てはうやむやにされるだろうから今は伏せておくが、少なくとも俺やジェイクがカルメリア第四王女殿下を嫁に貰うといった話にはならないから安心しろ。

それと王宮を半壊させたのはジェイクじゃない、俺だ」

 

そう言いニヤリと笑うジミー。その言葉に「「「「「あぁ、なるほど。凄い納得」」」」」という声が講堂のあちこちからですね。

“戦闘狂の地味メガネ”、ジミーの存在は王都学園のヤバい奴として広く生徒の間で知られているのでした。

因みに俺は“処刑人勇者”ですね。ちょっと前までは“平時の勇者”や“そうじゃない勇者”だったんだけど、王都三大学園交流会以降呼び名が一気に不穏なものに。

どうもお貴族様子息子女の皆様が御両親から相当きつく注意されたようでして。私《わたくし》、“アンタッチャブル勇者”として認定されたようでございます。

 

“ガチャッ”

「授業を始める、席に着け」

講堂に響くタスマイヤー先生の声。俺たちは急ぎ席に着くと、教科書を広げ講義に耳を傾けるのでした。

 

—―――――――――

 

「本日の講義は以上になります。それと来週は休講となりますのでご注意ください」

 

光の日二限目の講義が終わり、手持ちカバン型マジックバッグに教材を仕舞うと203教室を後にする。初めはどうなるものかと思っていた王都学園での講師の仕事も、それなりに順調にこなせている。

時々学園長が視察と称して受講していくが、その度に「この講義は是非大講堂ですべての生徒に聞かせるべきです。来年度からは必修授業に」と言うのは止めていただきたいものです。

生活魔法の講義はあくまで私が王都学園に潜り込むための方便、私の主な任務は<勇者>ジェイク君と<聖女>エミリーお嬢様の周辺監視なのですから。

趣味は趣味だからこそ面白いのです、そこを履き違えてはいけません。

 

“トコトコトコトコ”

“ゾロゾロゾロゾロ”

しかし講義の終わった私の後を、さも当然のようについてくるこの子たちは一体何なのでしょうか?

皆さん昼食は食べないのでしょうか?私は月影が作ってくれたお弁当があるのでいいのですが、お昼休みはそこまで長くないのでは?

 

「あの、皆さんどうかなさいましたか?講義で何か分からない事でもありましたか?」

私の言葉に互いの顔を見合わせてからニコリと微笑む皆さん。

最近すっかり教務室を溜まり場にされていると思っていたのですが、どうやら気のせいではなかったようです。

 

「あっ、ネイチャーマン先生、これ、授業で作った焼き菓子です。どうか貰ってください」

臨時教務棟の前では私が戻るのを待っていた女子生徒が笑顔で差し入れをしてくれます。こうした生徒からの気遣いは教える身として嬉しいものです。

これはアレですね、お茶菓子として出せと、そういう事ですね、エミリー嬢。

待っておられたのはエミリー嬢にフィリー嬢、そしてジェイク君。

私は「どうもありがとうございます。では早速お茶菓子として出させて頂きますね」と言い、張り巡らされているトラップを解除しながら教務室へと向かうのでした。

 

「オニキスちゃん、トパーズちゃん、フレンズちゃんお待たせしました。ようやく会いに来れました」

そう言い執務室にいるスライムに抱き付くフレアリーズ第五王女殿下。このスライムたちは今朝出勤した際に二学年のヘレン嬢から「預かっておいてください」と頼まれたスライムたちですね。

何でも王宮で飼育しているスライムに名前を付けたから私に見せようと連れてきたと言う名目で持ち込んだのだとか。その事に咄嗟に気が付いたヘレン嬢が馬車の中で没収、私に預けに来たとの事でした。

フレアリーズ第五王女殿下、ペットは学園に持ち込まないように。せめて従魔の指輪に仕舞うなりしてください。それと従魔の持ち込みには学園の許可が必要ですから後程事務室に寄って許可書の申請を行ってください。

 

しかし持ち込んでしまったものは仕方がありません。門兵の方々も苦笑いをなさっていた事でしょう、“スライム愛でる姫君”の噂は王都学園では有名ですから。

三体のスライムには魔力水の入った盥桶を与え、大人しくしているようにお願いしておきました。

 

「へ~、アレがフレアリーズ第五王女殿下のスライムか。こうやって見ると可愛らしいものだな。俺も領の屋敷からコッコを連れてくればよかった」

「あの、流石に教務室に従魔を持ち込むのは止めてくださいね?今回は致し方がなくの処置ですから、フレアリーズ第五王女殿下には従魔の指輪を手配するようにお願いしてありますから」

 

ロナウド君が怖ろしい事を言い始めたので透かさずインターセプト。私の執務室はペット可のカフェではありません。

 

「それでジェイク、結局昨日の騒ぎは何がどうなっているんだ?流石に教室じゃ聞く訳にはいかなかったが」

「あぁ、アレね。ことの起こりは俺たちがアルジミールのお供で王宮のフレアリーズ先輩のところを訪ねた事だったんだよ」

 

“コトッ、コトッ、コトッ”

テーブルに並べられるティーカップ。小皿には先程エミリー嬢より差し入れされた焼き菓子を二つ。

これ、あとでホーンラビット伯爵閣下にお出ししたら喜ばれるでしょうね。

しかし先程から関係者以外他言無用といった内容の話を部外者の私の下でなさっておられますが、危機管理的にこれはいいのでしょうか?

ネイチャーマン先生はケビンお兄ちゃんの関係者だから問題ないと、詳しい話はケビンお兄ちゃんから聞いたものだからと。はい、納得しました。

どうやらこの執務室は“王様の耳はロバの耳”と叫ぶ古井戸の代わりにされてしまったようです。

私は“若者にはそうした発散場所も必要ですか”と半ばあきらめの境地で、ティーカップを並べて行くのでした。

 

—――――――――

 

「ヘルザー、その後のカルメリアの様子はどうか。一晩経って元に戻ってしまったといった事はないか」

「はい、カルメリア第四王女殿下付きの執事の話ではこれまでのような気の強さはすっかり鳴りを潜め、メイドたちにも声を掛け話を聞くといったこれまでにない行動をとられているようでございます」

 

「そうか、昨日はカルメリアの母である第二王妃が随分と心配していたようであったが」

「その点ですが、あの後、第二王妃セシリア殿下がカルメリア第四王女殿下の下を訪れ、此度のカルメリア第四王女殿下の扱いに異議を申し上げていたようでございますが、それをカルメリア第四王女殿下が諫められたとのよしにございます。

セシリア第二王妃殿下はすっかり人が変わられてしまわれたカルメリア第四王女殿下の事をいたく心配なさっておられましたが、落ち着いた口調で自らのこれまでの行いを反省し、スロバニア王国とオーランド王国の橋渡しとしてスロバニア王国に嫁ぐ決意をしたと仰るカルメリア第四王女殿下のお言葉に涙されたとか。

「子供は自身の知らぬ間にすっかり大人になってしまう、あなたの決意、母として嬉しく思います」と仰られたとの事でございます」

 

宰相ヘルザーの報告に苦笑いを浮かべるゾルバ国王。

 

「娘の成長、そう言われれば我とて嬉しく思わないでもないが、それがあのような形で行われたと思うと複雑な心境になる。果たしてあの者は我が娘カルメリアであると呼んでもよいものであろうか。

結果的に理想の王女と呼んでも差し支えの無い理知的な娘に変わったのではあるが」

「そうですな、私もあの場にいましたからあの光景にはかなりの衝撃を受けました。人格改造、性格の矯正、これは人として許される行為なのかと随分悩みました。

ですがあのお茶、“聖茶”の効果は本来冷静さを保ち思考を簡潔に行えるようにするというもの、何らかの人格を植え付けるものとは違うのです。

故に現在のカルメリア第四王女殿下の状態も本来カルメリア第四王女殿下の中に眠っていた一側面であると言えるのではないでしょうか。

 

国王陛下もご存じのエラブリタイン伯爵、マルセル村の視察に赴き別人のように変わってしまった者です。彼の者はその後もあの誠実な性格のまま領地運営に励み、今では名領主として領民から慕われているとか。近隣領主との関係も良好で、安定した領地運営に成功しているとの報告が入っております。

つまり現在のカルメリア第四王女殿下の状態は一時的なものではなく永続的なものであると言えるのです。

 

陛下、これは好機です。<勇者>ジェイク・クロー、<聖女>エミリー・ホーンラビットとの関係はフレアリーズ第五王女殿下の機転により回復されたとの報告が入っております。

ケビン・ワイルドウッド男爵の弁ではありませんが、スロバニア王国との関係強化のためにカルメリア第四王女殿下にはスロバニア王国へお輿入れ願い、西部貴族との関係強化のためにフレアリーズ第五王女殿下には残っていただく。婚約者候補としては今回最大の功労者であるアルジミール・マルローニ侯爵子息を推薦いたします」

 

宰相ヘルザーの言葉に頷きで応えるゾルバ国王。事態は動き出す、オーランド王国を取り巻く国際情勢と国内の情勢安定化に向けて。

ゾルバ国王は側近たちに指示を出し、各方面の調整に取り掛かるのだった。

 

—―――――――――――

 

「そうか、それではカルメリア第四王女は切られたという事だな」

重厚な執務机に座り書類を確認していたルビアン枢機卿は、配下からの報告に顔を上げる。

 

「ハッ、今回の騒動で<勇者>ジェイク・クロー、<聖女>エミリー・ホーンラビットと王家との関係はより親密なものになったものかと。

<聖女>エミリー・ホーンラビットと王家との関係が良好となる事は、ホーンラビット伯爵家、延いては北西部貴族連合との関係が良好になると言っても過言ではありません。

今後の国内情勢は西部地域を中心に固まっていくものと考えられます」

 

配下の言葉、それはこれまで築いてきた中央貴族たちとの関係による権力基盤が揺らぎ始めているというもの。

 

「現在の状況に関し各貴族家は何と言っている」

「ハッ、バルカン帝国の脅威が未だ去っていない現状、北西部貴族連合、特にホーンラビット伯爵家の武力を削ぐわけにはいかない。

ですが楔は打っておきたいと。我々教会に対し何かよい方策はないかとの相談が寄せられております」

 

貴族からの相談、それは多額の寄付と共に行われる取引。彼らからの信仰を集める教会関係者として無視するわけにはいかない。

ルビアン枢機卿は脇に置いてある書類を手に取り、暫し考える。

 

「教国から依頼のあった調査の報告がまだであったな。これを基に報告書をまとめ教国に送るように」

「ハッ、畏まりました、ルビアン枢機卿猊下」

 

書類を恭しく受け取り執務室を下がる配下。

“さて、これで事態はどう動くか”

ルビアン枢機卿は席を立ち窓の外を眺める。先程まで目を通していたとある人物の詳細人物鑑定書に記載されていた、<種族 人>という文字を思い浮かべながら。




本日二話目です。
行ってらっしゃい。
by@aozora
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