夏の森、それは生命溢れる繁殖の季節。植物は葉を茂らせ、実を付け、多くの動物や魔物がそれらを餌とし子育てに勤しむ。
力強い生命の営みが繰り返される、それが夏の森なのである。
「も~りの奥には何がある~ 行ってみなけりゃ分からない~♪」
そしてその営みは大森林と呼ばれる強力な魔物蔓延る特級危険地帯でも同様に繰り返される自然の摂理であり、魔物たちは獲物を狩り、餌を集め、子供を育てる。
そんな大森林にのこのこ足を踏み入れればどういう事になるのか?
“シャーーー、ガァーーーー”
それは太い大樹の幹、鎌首を上げ襲い掛かる大森林の悪魔、フォレストスネークの姿。
「ブー太郎、掛ったぞ~」
「あ~ん、もう、ケビンさん、いい加減にしてくださいよ~」
“スパンッ、ドシャ~~~ン”
振るわれた剣閃、刈り取られた命、これもまた森の営みの一側面なのであろう。
「いや~、流石はブー太郎、素晴らしい剣筋。これならグランゾートちゃんも大満足・・・あまり満足していらっしゃらないようだね」
ケビンの見詰める先、そこには“不満です!!”といった感情を隠そうともしない、妖気のようなものを漂わせた一振りの大剣。
“ブー太郎様~~~、なんですかこれは!! 久し振りに森に探索に行くと言うから、私凄く楽しみにしていたんですよ? それなのに対峙する相手はグレートボアやワイルドベア、フォレストスネークって。
雑魚ばっかりじゃないですか~~。
魔境に行きましょう、魔境に。ワイバーン狩りをしましょうよ~”
「行く訳ないだろうが~~!! 魔境のワイバーンってデカいの、調子に乗ってるとガーディンさんが出て来ちゃうの、その後ろにはエンシェントなドラゴン様が控えてるの!!」
手元の大剣に向け声を荒らげるブー太郎、その言葉に途端シュンとなる大剣、聖霊剣グランゾート。
「あ~あ、ブー太郎、グランゾートちゃん泣かせちゃった。シャロン、ブー太郎があんなこと言ってるけどどう思う?」
“キュワッ?”
ケビンの言葉に小枝で森のスライムをツンツン突いていた骨の被り物を頭に被った少女が顔を上げる。
“キュワー、クワックワ”
「“パパー、スライムあげる”ってうちにもスライムは一杯いるから、今日はスライム狩りはしなくてもいいからね?そのスライムは放してあげようね」
“キュア”
“は~い”と言って捕まえたスライムを森に逃がすシャロン、そんな二人のやり取りを眺め目を細めるケビン。
「ブー太郎、いいお父さんしてるじゃないか。シャロンは幸せ者だ」
「そうですね。シャロンは俺の可愛い娘でって違いますからね、俺独身ですから。せめて妹とかにしてくれません?俺まだ若いんっす」
「いや~、奥さんをなだめたり娘の面倒を見たり、お父さんは大変だ」
「だから誰がお父さんですか!!」
“奥さん・・・ブー太郎様の奥さん・・・エヘヘへ♪”
「ダ~、グランゾート、お前剣だから、聖霊剣グランゾートだから!!
ケビンさん、こいつどうにかしてくださ~い!!」
「さ~て、グランゾートちゃんの機嫌が直ったところで探索の再開だ~」
地面に倒れるフォレストスネークを収納の腕輪に仕舞い込み手に持つ小枝を振り上げるケビン、その隣で同じく小枝を振り上げるシャロン。そんな二人の様子に額に手を当てるブー太郎。
森の中を爽やかな風が吹き抜ける、ブー太郎は未だ“エヘヘへ”と変な思念を飛ばしてくるグランゾートを腰の鞘に納めると、何でこんな事になっちゃったんだかと朝の出来事を振り返るのでした。
—―――――――
「ハァ~!? 大森林に山芋を掘りに行くんですか?」
「そう、なんかうちの嫁さんの出産予定日が早まっちゃってさ、助産師のセシルお婆さん曰く来週には生まれそうなんだと。
それで産後の母体には滋養に良いものをと思ってね」
季節は夏の盛り、収穫期を迎えた畑でオーガクイーンのダリア、ワーウルフキングのジャスパーと共に収穫作業に勤しんでいたブー太郎は、突然現れて告げられたケビンの言葉に首を捻る。
「えっと、それでなんでわざわざその事を俺に?ケビンさんなら大森林なんか庭みたいなものじゃないですか」
「イヤイヤイヤ、確かに気配を消して走り回ったりしているからそう思われても仕方ないけど、それと採取は別だから。
大森林で山芋を見つけるのって結構難しいんだよ、分かり易そうなところのものは直ぐにマッドボアやギガントボアが食べちゃうし。
アイツら凄いよね、山芋を掘り返しても全部食べ切らないでちゃんと少し残しとくの。大森林の植物は復活も早いから埋め戻しておけばまた採取出来るって事を知ってるんだね、流石は大森林の魔物」
そう言いウンウン頷くケビンに、そう言えばオークも山芋の端は残していたなと思い出すブー太郎。もっともオークの場合は全部丁寧に掘り返す事が面倒で、途中でボッキリ折れてしまうというだけではあったのだが。
「そこでブー太郎君のお力をお借りしようとね、ブー太郎って鼻がいいじゃん? 山芋見つけるのも得意でしょう?」
「まぁ“木の実拾い”と呼ばれていた頃は森の木の実や山菜、山芋なんかを食べていたんで得意と言えば得意ですけど」
「おぉ、流石は森の住民ブー太郎先生、頼りになります。ってことでよろしく。
ダリヤ、ジャスパー、クマ子、クマ吉、石工のおっちゃん、悪いんだけどブー太郎を借りるね~」
ケビンは畑で作業を行う“森のお店屋さん”の従業員に声を掛けると、ブー太郎を連れて山芋採取に“キュワ~~、クワックワ”・・・。
「どうするブー太郎、シャロンが“パパ~~、私も一緒に行く~”って言ってるけど」
「ハァ~、別にいいけど勝手に傍を離れるんじゃないぞ? 迷子になったら探すの大変なんだからな?」
“キュルル~~♪”
飛び跳ねて喜びを露にするシャロンの姿に、しようがないなといったため息を漏らすブー太郎。
“ブー太郎様ーーーー!! 私を、聖霊剣グランゾートを置いていかないでくださーーい!”
“ビューーーーー、ドカンッ”
宙を飛び高速で衝突した大剣、そのあまりの勢いに吹き飛ばされるブー太郎。
「痛いわボケーー!! 突っ込んでくるな、突っ込んで。今回は山芋を採りに行くだけだから、グランゾートの出番はないから!!」
“そ、そんな・・・うわ~~~ん、私はどうせ要らない子なんだ~、主人の身を守る価値もないただの行き遅れなんだ~~~”
「あ~あ、ブー太郎、グランゾートちゃん泣かせちゃった~。 愛剣なんだからもっと優しく扱ってあげないとね~」
“クワックワ~”
顔を合わせ“ね~”と首を横にするケビンとシャロンに、“この二人楽しんでやがる”と苛立ちを覚えるブー太郎。
「分かったよ、ごめんね、グランゾート。俺の命を預ける事が出来るのはグランゾートだけだっていうのに。
俺も山芋の採取と聞いて気が緩んでいたよ、そうだよね、大森林ではどんな危険があるのかなんて分からないよね。そんな場所にグランゾートを持たずに向かおうだなんて、本当にどうかしていたよ。
グランゾートは油断している俺を諫めてくれたんだね、ありがとう」
“ぐすん、それじゃ私も一緒に連れて行ってくれるんですか? 私は要らない子じゃないんですか?”
そう言いカタカタ鍔元を鳴らすグランゾートを手に取り、優しく語り掛けるブー太郎。
「あぁ、グランゾートとはいつまでも一緒だよ。これからもよろしくね、相棒」
“は、はい!! 私、一生懸命頑張ります!”
「硬い絆で結ばれた勇者と聖剣。グランゾートは勇者ブー太郎と共に冒険の旅に出る姿を夢想し、幸せな気持ちに包まれるのでした。
いよ、ブー太郎、格好いいぞ!!」
“クワ~~~、ガシッ”
「ダ~~、ケビンさん、変なナレーション入れないでください!!
シャロンも“私も~”とか言って抱き付かない!!
お前たち、ニヤニヤした顔で俺を見るな~~~~!!」
「「ブー太郎店長、行ってらっしゃい!!」」
““ガウガウグォ~~””
“フゴフ、フギフゴ”
こうして森のお店屋さんの従業員たちの温かな見送りを受けたブー太郎は、ケビン、シャロン、グランゾートと共に、山芋採取の為に大森林へと向かう事になったのでした。
—――――――――
“ハァーッ、ハァーッ、ハァーッ、ハァーッ”
深い森の中、人族から大森林と呼ばれる強力な魔物蔓延る大地を、二つの影が走り抜ける。
「オジョウサマ、ワタシハココデ、アシドメヲオコナイマス。
コノサキニ、キョウリョクナオークノシュウラクガ、アルハズデス。オジョウサマハ、ソコマデニゲノビテクダサイ」
「何を言っているのです、一緒に逃げますよ。さぁ早く」
「おやおやおや、何処に逃げようというのですかな?姫君。
大岩砦の族長の娘であるあなたが一族を捨ててどうするというのです。その様なお姿を見たら亡き御父上が悲しまれますよ?」
そんな二つの影に掛けられた声、それは森の闇。
「クソッ、トリカコマレタカ。オジョウサマ、ケツロハワタシガヒラキマス。ドウカゴブジデ」
「ほう、誰が何をすると? たかだかメイド風情が盟主様より直接力をいただいたこの私に勝てるとでも? お前たち、姫を逃がすな。命があればいい、手足を砕いてでもお引き留めしろ」
高まる緊張、一触即発の状況。
「なぁブー太郎、やっぱり勇者の称号って呪われてない? お前ってば引きが良すぎるでしょう。ダリヤとジャスパーの時と言い今回と言い、グランゾートちゃんが目茶苦茶喜んじゃってるんですけど?」
「イヤイヤイヤ、今回はケビンさんですって。ケビンさん、なんやかんやでしょっちゅうとんでもない物を引き当てるじゃないですか。
俺なんかケビンさんに比べたら全然ですから。俺の器は勇者じゃなくて森のお店屋さんの店長ですから」
そんな命のやり取りが行われようとしている現場に流れる、場違いな
「なっ、貴様らは何者だ!!」
「あっ、俺たちはただの村人です。ちょっと森の恵みを採りに来ただけですんで、お気になさらずに。
ほら、ケビンさんが余計な口出しするから皆さんお困りじゃないですか。
どうもすみませんでした、失礼しま~す」
そう言いその場を離れようとする闖入者、だが。
「フッ、まぁ誰だろうが構うものか。お前たちも運がなかったな、お前たち、こいつらから先に始末しろ」
「イヤイヤイヤ、何でそんな事になるんですか。大体あなた達人族じゃないじゃないですか、魔物同士の争いに人族は干渉しませんから。
大森林では強い者が生き残る、これは魔の森に生きる者の掟、どうぞ好きにやって下さい」
そう言い急ぎその場を下がろうとするも、闇は闖入者を逃しはしない。
「ブー太郎、囲まれちゃったね」
“クワ~~~~”
「囲まれちゃったねじゃないですよ、こいつらただのブラックウルフじゃないじゃないですか。なんか目が赤く光ってるし、身体から魔力が溢れてるって、絶対普通じゃないですから。
シャロンも“パパ怖~い”とか言ってるんじゃない、お前が一番慣れてるだろうが!!」
「やれ!!」
“““““タッタカ、タッタカ、ガァーーーー!!”””””
迫りくる無数の牙、開かれた
“キュル~~”
「やっちゃえブー太郎、シャロンも“パパ頑張って~”って言ってるぞ!」
「ダ~~、分かりましたよ!!」
“スーーーーー”
腰鞘より引き抜かれた大剣、それは森に降り注ぐ陽光を受け、美しい輝きを放つ。
「行くぞ、グランゾート。<対魔境剣術 百花繚乱>」
‟バッ、バババババババババババババババッ、バシャーーーッ”
それは華、深き森に咲き乱れる赤き血華の花園。
「きれい・・・」
それは誰の呟きか、迫る闇の恐怖は大地に大輪の花を形作り、脅威は肉塊へと姿を変える。
「あぁ、そう言えば以前この状態から復活して襲い掛かって来た化け物がいたんだよな~。って事で<範囲指定:結界領域:獄炎>」
“ゴワッ”
突如立ち上がる豪炎、強烈な熱が大地を焦がし、肉塊を消し炭すら残さず燃やし尽くす。
「“悪意に歪められし悲しき命よ、俺が解放してやる、先に逝ってな”
ブー太郎は立ち昇る炎を悲し気な瞳で見詰めながら、旅立つ
クゥ~~~、ブー太郎様格好いい、そこに痺れる憧れる~~!!」
“キュワ~~、クワックワ~~”
「やめろ~~~!!俺の黒歴史を
一瞬の惨劇、全ての魔獣を葬り去るも仲間からの言葉に両膝を突き打ちひしがれる男。
二つの影と闇はその混沌とした状況に理解が追い付かず、ただ茫然と立ちすくむのであった。
本日一話目です。