転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第654話 オークの勇者、森の恵みを探しに行く (2)

「いや~、ごめんごめん、あまりにもブー太郎が格好良かったものだからついついテンションが上がっちゃって。

ほら、早く立つ。皆さんのお邪魔になっちゃうよ?」

“キュワ~~、クイッキュ”

 

まるで何事もなかったかのように地面に突っ伏す者に声を掛ける男性。

 

「シャロンも“パパ、早く行こう”って言ってるよ?」

「ハァ、分かりましたよ、行きますよ」

そう言い剣士は立ち上がるや、腰鞘に大剣を戻す。

 

「えっ、あの・・・」

声を掛けたのは姫君と呼ばれた女性。美しい面立ち、切れ長の瞳、艶めいた唇、世の男性が見れば誰しもが目を引かれるその容姿。

 

「はい、何でしょう?」

「あの、助けていただいてありがとうございます」

礼の言葉を掛け頭を下げる女性、その動きにさらりとした長い髪が揺れる。

 

「いえ、こちらは降り掛かった火の粉を払っただけですのでお気になさらず。それにまだ助かったとは限りませんので」

そう言い剣士が指差した先、そこには黒いフードに身を包んだ闇が、怒りに身を震わせながら剣士を睨みつける。

 

「キサマ、人族風情がよくも私が盟主様よりお預かりした配下を、許さん、許さんぞ!!」

“ガバッ”

外された衣、現れたのは全身から赤黒いオーラを放つ一体のオーガ。

 

「イヤイヤイヤ、勝手に仕掛けてきたのはそちらですから、さっきも言ったけど俺は降り掛かった火の粉を払っただけだから。まぁお互い様って事で、それじゃ俺はこれで」

「うわ~、酷い。ブー太郎さんそこは“なに、オーガだと!? 何でこんな所にオーガが!!”とか言ってあげないと~。フードまで脱いで強者ムーブかましてくれているあちらさんに失礼よ?」

“クワックワ”

 

「シャロン、“パパ酷ーい”とか言わない。争いごとはなるべく避ける、これは大森林で生き残るためのコツだから、ケビンさんは遊んでるだけだから」

膝を折り、諭すように語り掛ける剣士に“クワッ、クルッキュー”と素直に返事をする骨の被り物を被った少女。

剣士は少女の頭を撫でると立ち上がり、森に向かい足を「ふざけるなー-!!」

自身が一切相手にされていない事に我慢の限界を迎えたオーガは、怒りの咆哮と共に少女に向け全力の拳を「相手が違うぞ? 間違えるなよ? <堅糸術 蜘蛛の巣>」

 

振り上げた拳もそのままに、怒りの形相のまま動きを止めるオーガ。

 

「流暢に人の言葉をしゃべるオーガ、珍しいけど強力な個体には人と意思の疎通をする魔獣もいるっていうしね、大森林ならむしろ当たり前なのかな?

でも怒りに囚われて目的を忘れる辺り、やっぱりオーガはオーガだよね。

よく考えてごらん、君の目的は何だったんだい?」

「ワタシノ、モクテキ・・・それは姫君の確保」

 

「そうだよね、だったら不意に現れた村人なんか無視して目的遂行に邁進しないと」

「ダガ、フカクテイヨウソハ、排除しなければ・・・」

 

「う~ん、中途半端に頭がいいっていうのも問題だね。

君は選択を誤った。己の力が絶対だと、邪魔なものは排除すればいいと全てを力で解決しようとした。

結果はこの通り、配下を失い自身も囚われてしまった。

さて、どうする?」

「クッ、私は負けたという事か。だが貴様らの事は既に私の目と耳を通じ盟主様に伝わっている、貴様らは終わりだ。

精々恐怖に怯えながら逃げ回るといい」

 

オーガは男性に見下すような目線を向けながら、大きな笑い声を上げる。

 

「ふ~ん、そうなんだ。ところでさ、山芋がよく取れるような穴場って知らない? 結構探してるんだけどなかなか見つからなくて」

「「「・・・はぁ!?」」」

 

その場に似つかわしくない男性の発言に、姫君と呼ばれた女性とメイド、そしてオーガまでもが間の抜けた声を上げる。

 

「いや、だから山芋。さっき言わなかったっけ? 俺たちは森の恵みを採りに来ただけだって。

なんかなかなか見つからなくってさ、ブー太郎が臭いを頼りに探してくれてるんだけど、既に食べられた跡だったりまだまだ小さかったりと中々良いのが見つからなくって」

「そうですよね~、やっぱり夏場は魔物が活発ですから発見が難しいんじゃないんですか?冬場だったら食べ散らかされる事もないし、いい感じの大きさに育った山芋が見つかると思いますけど。

俺も山芋掘りは冬眠前の楽しみでしたし」

 

剣士の言葉にがっくりと肩を落とす男性。

 

「アッ、ソウイエバ、シュウラクノソバノモリニ、オオキナヤマイモガ、アッタヨウナ」

それはメイドの口から発せられた言葉。

 

「確かに集落の傍であれば魔獣も近付きませんし、私たちはあまり山芋を採りませんから大きなものがあってもおかしくありませんが」

姫君と呼ばれた者がその言葉を肯定する。

 

「・・・ブー太郎先生、呼ばれていますよ?」

「え~、止めましょうよ、厄介事の匂いしかしないじゃないですか」

男性の言葉に剣士が首を横に振る。

 

「あの、お強い方々、あなた方は私達が怖くはないのですか?

いえ、それは愚問でしたね、あなた方の圧倒的な強さであれば私たちなど物の数でもないのでしょうが」

そう言い自身の額から伸びる角を触る姫君。

 

「あぁ、種族的な話ですか。先程も言いましたよね、魔物同士の争いに人族は干渉しませんって。皆さんが人族ではない、オーガである事は初めから分かっていましたので。

ただその容姿が人族に近しい事は気になりましたが。

種族変化、いや、進化か。そっちのオーガがしきりに言っていた盟主様とやらが何らかの力を与えたといったところですかね。

まぁ気にはなりましたが特に何という事も。大体俺も人族じゃないですし、鼻と口元に名残が残っていますが、俺、オークですし」

「「「・・・はぁ!?」」」

 

剣士の言葉に揃って間の抜けた声を上げる三体のオーガ。

 

「あの、それでしたら私たちをオークの集落にお連れいただけないでしょうか? とても強力なオークの集落があると聞き、向かっていたところなのです」

そう言い姿勢を正し頭を下げる姫君とメイド。

 

「え~、あそこはちょっと~、ねぇ、ブー太郎」

「俺は絶対嫌ですからね!! あんな肉食(食事)で肉食(性欲)な集落、二度と行きませんから~!!」

 

「ですよね~。アイツら強ければ種族を問わないっていうストロングスタイルだし。なんで人族の俺の子種まで狙うのか意味が分からないし。

「ケビン様ならイケます!!」って無理だから、俺人族だから、魔物ちゃうから。思わず村全体に丸一日出られない結界張ったくらいだもんな~。

肉食系オーク女子、駄目、絶対!!」

そう言い両腕を摩る剣士と男性。

 

「そんな・・・」

「あぁ、このまま北に向かってまっすぐ進んで行けば到着すると思うから頑張って。おい、オーガ、俺たちも行くぞ」

男性の声とともに身体の自由を取り戻したオーガは、何がどうなっているのか分からないといった表情で男性に目を向ける。

 

「どうせ集落とやらに帰るんだろう? 盟主様とやらにも報告しないといけないんだろうし。

さっきから言ってるけど俺たちの目的は山芋だから、その集落周辺の森に山芋があると聞けば採りに行くしかないじゃん? だからお前は道案内」

 

男性はそう言うとオーガを立たせ、森を進んで行く。

 

「あの!!」

声を発したのは姫君、その声に後ろを振り向く剣士と男性。

 

「あの、私も連れて行ってください」

「ナッ、ヒメサマ、イッタイナニヲ」

同行を申し出る姫君、メイドは慌てて姫君を止めに掛かる。

彼らに同行するという事は敵の待つ大岩砦の里に戻るという事、それでは姫君の身に何が起こるのか分からない。

 

「ブー太郎先生、遂にヒロインが立たれましたよ」

「マジですか、これって前の時と一緒ですよね。ケビンさん、絶対楽しんでますよね!?」

ニヤニヤ笑う男性とその隣でピョンピョン飛び跳ねる少女、そしてガックリと項垂(うなだ)れる剣士。

 

「ハァ~、分かりました。どうせ襲われるのは決定事項ですし、その大岩砦の集落とやらにも行きますよ」

「いよ、ブー太郎先生、男前!! 流石オークの勇者様、格好いいぞ!!

まぁそれじゃさっさと大岩砦とやらに行きますか。

<業務連絡:手が空いてる者でブー太郎の勇姿を見たい奴、集合~!!> <出張:暇人全員>」

 

“ブワーーーーーーーッ”

突如地面に現われた光輝く文様、それは召喚の魔法陣、その魔法陣の中から次々に姿を現す魔獣たち。

 

「よ~し、お前たちよく集まった。

オババ、大岩砦っていうオーガの集落なんだけど、場所分かる?

“カーーーッ” そう、それじゃ先導をお願い。

グラスウルフ隊はお休みの五体か、お前たちはあっちのオーガ二体を背中に乗せてやってくれる? “““““ガウッ”””””

このオーガは俺が運ぶとして、シャロンは団子と一緒にブラッキーの背中ね。ダリアとジャスパーは太郎に乗っていってくれる?

それじゃ皆しゅっぱーつ」

“ポヨンポヨンポヨン♪”

““““クワックワックワッ♪””””

“““““ガウッガウッ”””””

““アオーーーン””

““キュイッキュイ~♪””

 

“バサッ”

ビッグクローの翼が大森林上空にはためく。魔物の集団がそのビッグクローを追い掛ける様に大森林を駆け抜ける。

縄張りを荒されたブラックウルフは身を隠し、グレートボアやフォレストスネークは道を空けるように方向を変える。

今、大森林を暇人たちが走り抜ける。全ては剣士の勇姿を傍で見物する為に。

その集団に囚われた三体のオーガは思う、自分たちは一体何に目を付けられてしまったのかと。自分たちの里は一体どうなってしまうのかと。

ビッグクローはそんな彼らを見下ろしながら、悠然と空を飛び続けるのだった。

 

—――――――――――

 

「盟主様、姫君の捜索に向かっていた者からの連絡が途絶えました」

「あぁ、分かっている。あの者は森で遭遇した何者かに囚われこの里に向かい進んできている」

 

確りとした木製の椅子に腰を掛け、盟主と呼ばれる者は配下の言葉に答える。

 

「なんと、では姫君は・・・」

「案ずるな、あの者たちもそ奴らと一緒にこちらに向かっている。クククッ、探す手間が省けて良いではないか。

偵察が目的か、それとも。いずれにしろ姫君が里に戻ればこちらのもの、既に準備は整った、今こそ復活の時。

者どもに伝えよ、奴らを歓迎する、手出しは無用だと。

それとキングの様子はどうだ?」

 

「はい、残念ながらキングは依り代足り得なかったものかと。ですが進化体としては十分な成果を示しております」

「ふむ、致し方があるまい。本命はクイーンによる創生、我らが神の後継者をお迎えすること。今こそ我らが宿願を」

「「「「「全ては“栄光の王国”のために」」」」」

 

時は動き出す、嘗ての悪夢が再び息を吹き返す。

悪意と欲望を糧に、世界を混沌の渦に呑み込むために。




本日二話目です。
行ってらっしゃい。
by@aozora
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