転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第655話 オークの勇者、森の恵みを探しに行く (3)

大森林、そこは強力な魔物蔓延る特級危険地帯。大地から溢れる魔力は多くの魔物を惹き付け、集まった魔物同士が鎬を削ることでその強さはより洗練されていく。

大森林とは魔物にとっての楽園であり、強いモノだけが生き残る事の出来るとても分かり易い世界なのだ。

 

“シュパン、シュパン、シュパン、シュパン”

“ダッタカ、ダッタカ、ダッタカ、ダッタカ”

 

そんな魔の森を走る複数の魔物たち、本来であれば他の魔物の縄張りに足を踏み入れたモノはそれがどの様なモノであろうと襲撃を受け、自身の愚かさをその身と心に刻み付けられた事だろう。

だが彼らとて自身よりも圧倒的な強者に対し牙を剥くほど愚かではない。大森林は強きモノだけが生き残る、無謀なモノ、考えの浅いモノは真っ先に強者の餌食になるのだ。

 

「ワッハッハッハッハッハッハッ、何人《なんびと》たりとも俺の前は走らせないのだ!! “バシューン” あ~、大福それってずるくね? 俺の肩に触手を引っ掛けて飛ぶって、俺の速さ+大福の射出速度じゃん!!」

 

大森林を駆ける強者たち、強さに対し敏感な大森林の魔物たちは不意に訪れた厄災に身を縮め、唯々彼らが通り過ぎるのを待つ事しか出来ないのであった。

 

“カァーー、カァーー”

上空を舞うビッグクローが鳴き声を発する。その音に大地を駆けていた者たちは足を止め、周囲に目を向ける。

 

「どうやら無事に目的地周辺に到着したみたいかな? おいオーガ、ここでいいのか? おーーい、起きてるか~~~!!」

高速で大地を駆けて来た者たち、その先頭を走っていたマルセル村の理不尽ケビンの触腕により拘束され、これまでの人生で体験する事の無かった“スピード”という恐怖に晒され続けたオーガ。

例えるのなら簀巻きにされた状態で乳母車に押し込められ、時速百キロで走るバイクに引き摺りまわされるようなもの。その恐怖たるや筆舌に尽くしがたいものであったことだろう。

結果、「ケビンさん、駄目ですね。完全に白目を剝いています」意識を失ってしまうのは致し方が無いことだろう。

 

「えっと、それじゃ残りのオーガは」

「ケビン様、こちらも駄目です。完全に気を失っています」

 

それはレッサーフェンリルであるグラスウルフ隊の背中に乗っていた者たちも同様であり、グラスウルフ隊の者たちが触腕で背中に押さえ付けていなかったのなら早々に振り落とされていた事は、想像に難くない。

 

「う~ん、それじゃブー太郎先生の勇者ショーはしばらくお預けで。先に山芋掘りを行います。

ブー太郎、山芋の方はどうよ」

「“フゴフゴフゴ”そこいら中にありますね、これ、掘り放題じゃないですか?」

 

「よ~し、それじゃこれから山芋掘り大会を行います。山芋を掘り出したら、先っぽ十センチメートを残して埋め戻しておくこと、いいですか~」

“ポヨンポヨンポヨン”

“““““ガウガウガウガウ”””””

““グルルル、アォーーーン””

““““クワックワックワックワッ””””

““キュキュキュキュキュイ””

 

ケビンの声に一斉に森へ散っていく魔獣たち。

 

「ダリア、ジャスパー、悪いんだけどこのオーガたちを見ていてくれる? 特に何もないとは思うんだけど、目を覚ましたり異変があったら<業務連絡>で知らせて」

「「了解しました、ケビンさん」」

 

「それじゃブー太郎、案内よろしく。紬、シャロン、行くよ~」

“キュキュ~♪”

“クワックワッ”

 

楽しげに笑いながら森に消えて行く強者たち。夏の森、そこは森の恵みに溢れた宝箱なのであった。

 

「ケビンさん、ここですね」

そこは太い木の根元、一本のつる草が伸び、木に絡みついているといった何の変哲もない所。

 

「この葉っぱを見てください、この水滴を逆さにしたような形、これが山芋の葉です。でも流石は大森林中層部の山芋ですね、葉の大きさが普通のものよりも大きいですよ。それだけ成長がいいって証拠ですね、これは期待できますよ」

 

ブー太郎の言葉に、がぜんやる気の漲るケビン。収納の腕輪から取り出したるは、御神木様の枝から作り出したるマイスコップ。

 

「これぞ我が最強、我こそは穴掘り職人ケビンなり。我が前に掘れぬ大地無し!!ウォォォォォォ」

“サクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサク”

それはまさに大地を削る機械、正確無比な一掘り一掘りが大地を穿ち、瞬く間に山芋周辺の土を穿(ほじく)り返す。

 

「デカ、ナガ、なにこれ」

それは全長三メートは超えるだろう長く太い山芋、これ一本で十分じゃと思わなくもないその威容に、唯々驚きの表情を浮かべるケビン。

 

「結構大きいですね、これなら冬越しの食糧としても十分通用するんじゃないんですか? でもここまでの大きさに育つ山芋は中々ないんですよね、大概ボア系の魔獣が食べちゃいますんで。

この場所がオーガの集落の(そば)って事もあって、魔獣もあまり近寄らなかったんじゃないでしょうか」

 

ブー太郎の言葉になるほどと納得するケビン。強力な魔物の群れがいる場所に近付く事は、それだけ危険度も上がるという事。ボアたちにとってこの場所はオーガの仕掛けた罠以外の何物でもなかったという事なのだろう。

 

「あっ、そうだったらキラービーの巣の周りなんかにも大きな山芋があったんじゃ」

「そうですね、気が付きませんでした。あっちは見に行ってなかったですね」

 

「「・・・また今度見に行くって事で」」

失敗は成功の母、新たな気付きを得る事の出来たケビンとブー太郎は、それはそれとして山芋掘りを再開するのでした。

 

“キュイッキュイー”

“クワッ、クワックー”

手持ちのミニスコップを掲げ、“山芋が掘れたよ~”と声を上げる紬とシャロン。ケビンとブー太郎はそれぞれの開けた穴から這い出ると、「凄いぞ、立派な山芋だ」と二人を褒め称える。

大きな山芋が採れると分かった山芋掘りは、分担作業で行われる事となった。山芋周辺の粗方の土はスコップを持ったケビンとブー太郎が掘り返し、細かな山芋の発掘作業は紬とシャロンが担当する事となった。

一見小柄な女性と少女に深い穴倉での作業は難しそうに思えるかもしれないが、さにあらず。この二人は高位の精霊である。穴の中で身を浮かせ発掘作業を行う事など、彼女たちにとっては朝めし前の作業なのであった。

 

「おっ、ジャスパーから連絡が入った。オーガたちの目が覚めたみたいだ。

<業務連絡:山芋掘り大会終了です。各自掘り出した山芋を収納の魔道具に仕舞って集合してください>

ブー太郎、紬、シャロン、俺たちも戻るよ。ちゃんと穴を埋め戻して山芋の端っこを植えておくように。こうする事でまたいつか大きな山芋を食べる事が出来るからね」

 

自然の営みから恩恵を受け森の恵みを分けてもらう自分たちは、森の幸がなるべく次に繋がるように心を配らなければならない。

それは種芋になる山芋を残す事であったり、薬草や山菜を一か所から取り過ぎないようにする事だったり。

欲を掻き過ぎない、森の掟を守っているうちは、森は恵みを与え続けてくれるのだから。

 

“ドサドサドサドサ”

こんもりと積み上げられた山芋の小山を前に、どうだと言わんばかりに胸を張る魔獣たち。

“欲を掻き過ぎない・・・よし、種芋を植えてきたから大丈夫、オーガは山芋を食べないって事だから問題ない問題ない”

ケビンは自身の心に折り合いをつけると、全ての山芋を収納の腕輪に仕舞っていく。

 

「はい、皆さんお疲れ様でした。大変多くの山芋を掘られたようで、見事な成果に正直驚いております。

中でもビッグワームの四人は圧巻ですね、流石は畑の専門家、土の中の事はビッグワームには敵いません。

大福先生も見事です。大福先生はお一人でこの本数ですから、もはや山芋掘り名人と言っても過言ではないでしょう。

皆さんには後程<臨時ボーナス>として魔力を送らせていただきます。お疲れ様でした」

ケビンの言葉に喜びを露にする魔獣たち。こうして第一回山芋掘り大会は無事に幕を下ろす事となったのでした。

 

「「「・・・えっ、本当に山芋を掘りに来ただけだったの?」」」

目の前の光景に呆然とした表情を浮かべるのは、目を覚ましたばかりのオーガ三体。ケビンは「だから初めから山芋を掘りに行くって言ってたじゃないですか~」と涼しげに口にする。

 

「さ~て、それではこっちの用も終わった事ですし、お楽しみの勇者ブー太郎の活躍でも見に行きますか。先程から聖霊剣グランゾートちゃんがうずうずしているみたいですし」

そう言いケビンが視線を向けた先、それはブー太郎の腰に下げた大剣。

何かを期待している様な怪しい気配を漂わせ鍔をカタカタ鳴らすその姿が妖刀か呪われた魔剣の類にしか見えないと思うのは、あながち間違いではないのだろう。

 

「見学の皆さんは気配を消しちゃってくださ~い、あまり大勢で押し掛けると向こう様が緊張しちゃいますからね。今回の主役はあくまで勇者ブー太郎ですから」

ケビンの言葉に次々と姿を消す魔獣たち。いや、それは違う、彼らは今もそこにいる。だが目の前にいるはずの彼らの事を、何故か認識する事が出来ないのだ。

三体のオーガはその驚愕の事実に、恐怖に身を震わせる。

 

「勇者ブー太郎先生、それでは参りましょう」

“キュワ、クワックワ~♪”

シャロンの“パパ頑張って~♪”との声援に、乾いた笑いを浮かべるブー太郎。ブー太郎は腰鞘の大剣をポンポンと叩くと、三体のオーガに向かい「それじゃ、行こうか」と声を掛けるのでした。

 

—―――――――――

 

「グッ、ウウッ」

「盟主様、大丈夫ですか!? 盟主様が、盟主様が目を覚まされたぞ!!」

 

大岩砦と呼ばれるオーガの里、その中の一際大きな屋敷の中の豪華な寝室のベッドに寝かされていた盟主と呼ばれる者は、ふらつく頭を抱えながらムクリと身を起こす。

 

「私は一体・・・そうか、あの囚われたモノとの感覚共有を強くして」

それは盟主自らが施した仕掛け、強制的な進化により知力とパワーの増したオーガを配下とする事でオーガの里全体を支配下に治めることに成功した。配下の見聞きした情報はその繋がりにより盟主にも届く、それはくしくも眷属と主人との関係に近しいものであった。

 

「しかし盟主様、一体何が」

「うむ、情報収集のために囚われた配下とのリンクを強くしていたことが仇となった。

配下とのリンクでは視覚と聴覚の情報のみで味覚、嗅覚、触覚の情報を得る事は出来ない。つまり痛みや不快感を伴わない情報収集装置であったのだが、そこに油断があったようだ。まさかあれ程の速度で大森林の中を引き回されるとは。

若かりし頃経験した、酒を飲み過ぎた夜の翌朝のような強烈な不快感であったよ。向こう側が意図したものではないと思うが、あのような形で精神を削られるとは。配下の者が早々に意識を失った事で解放されたが、二度と経験したくない感覚であったわ。

して連中はその後どうなったのか、既に里へ到着したなどという事はあるまいな?」

 

「ハッ、ご報告いたします。対象と思われる魔物の集団は大岩砦の里周辺の森までやってきております。ただ・・・」

報告者である配下の言い淀む態度に、訝しみの視線を送る盟主。

 

「ただ、どうしたというのだ」

「はい、連中は里周辺域の森に到着するや散開し、何やら地面を掘り返し始めまして」

 

「ふむ、そうなるとその連中はバルカン帝国と関係のある者やもしれん。バルカン帝国は地面に埋める呪符式爆薬とやらの開発に成功し、実際の戦闘で大きな成果を上げたと聞く。

オーガどもを挑発し、森に誘導して一気に。悪くない作戦ではあるな」

「いえ、それが、その、山芋を掘り出し始めまして」

 

「はぁ!? いや、はぁ? 確かに会話の中でそのような事を言ってはいたが、アレは建前ではなく本気の言葉だったとでも言うのか?」

「それは何とも。ですが大きく積み上げて収納の魔道具に収納している様子を確認しております。

それと意識を失っていた姫君が目を覚ました事を受け、こちらに向かい移動を開始したよしにございます」

 

配下の報告に囚われの身になっている配下の視覚にリンクさせる盟主。伝わって来たのは里の入り口に立つ来訪者たちの姿。

 

「うむ、どうやら連中が到着したようだな。では連中を里に、直ぐに儀式を開始する」

“自ら火に飛び込む虫の如く、罠に嵌りに来た愚か者どもよ。まぁ良い、何処の手の者かは分からんが、新しい世界の始まり、変革の瞬間を目撃した事を誇りに思い死出の旅につくがいい”

 

盟主は寝室を出ると王の間へと向かう。これから始まる“新世界の始まり”を見届ける為に。




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