それは思い、それは理想。
誰よりも優れた人間である自身、そんな自分をして自然と膝を突くことを厭わない絶対的指導者であった総統閣下。
「ラミア様・・・何故・・・」
多くの者が惹かれ、心酔し、ただ一つの理想に向かい全てを注いだ。“栄光の王国”、“ハイヒューマン計画”、全ては絶対的指導者である総統閣下の理想を現実とする為に、我らこそが全人類を導く支配者なのだ。
「我々がここに至るまでどれ程・・・」
多くの天才、いや、超越者の揃う組織に於いて自身がいかに凡庸であるのかを分からせられた。だが同時に道は示された、向かうべき目標、越えるべき壁は見えたのだから。
ベルセウスは与えられた使命を果たすべくオーガの集落を掌握、実験と研究の成果を以って強力な兵を作り出すに至った。
計画は順調であった。強制進化により作り出された新たなる存在達、進化を繰り返す事で至る事の出来る高み。
だが不意に齎された報が、全てを狂わせる。
城の消失、大森林深層という人類にとって辿り着く事すら困難である領域に建てられた我らが中枢。その城が忽然と姿を消した。
超越者たる幹部の方々、そして絶対的指導者である総統閣下と共に。
我々の計画は変更を余儀なくされた。それは新たなる段階に昇華されたと言ってもいい。
総統閣下の再誕、次代の神の創造。
総統閣下はお目覚めにはならなかった。それは用意した依り代が総統閣下の依り代足り得ない証左、偉大且つ強大である総統閣下の依り代を凡庸である我々に用意できると考えた事が、すでに不遜であり不敬であったのやもしれない。
だが希望はある、それは次代様の創造。その為の準備は整った、依り代たるハイオーガクイーン、調整されたハイオーガキング、後は聖母たりうる御霊を降ろすのみ。
儀式は成功し、絶対的な上位者としてラミア様が再誕なされた。
「貴様らは一体何をしたのか分かっているのか? すべての人類の支配者であり指導者たる新たなる神の創造を台無しにしたのだぞ? それがどれほど許されざる罪であるのか、理解しているのか」
無能であり無価値である者たちによる暴挙、この大罪を許す事など出来ようはずもない。
「“者ども、こ奴らを始末しろ!! 肉片の一欠片ですら残す事は許さん、この世から完全に消し去るのだ!!”」
これから始まる新世界にノイズは不要。これは天命、総統閣下の導き。
我に頼らず自らの道を進めという我が神からの神託。
だがそれには目の前の邪魔者を消去する必要がある。
“絶対命令”、オーガたちの魂に刻まれた行動指針。我が手により強制進化した者たちにとって、我は神、全ては我が意のままに。
盟主ベルセウスが魔力の繋がりを通じ発した思い、それは大岩砦の里に設置された各種魔法陣により増幅され、里のオーガを一つの意思のもとに縛り付ける。大岩砦の里は今、逃れ出る事の出来ない死地へと変わった。
姫君に取り憑いたラミアの霊を浄化し、天へと送った勇者ブー太郎。だが戦いは終わらない。争いは次なる局面に移行したのであった。
――――――――
「ふざけるなーーーー!!」
大きな声で叫ぶ盟主様と呼ばれる人物。うんうん、そりゃキレるよね、多分だけど結構長い時間を掛けて準備してきたであろう儀式の成果を目の前で台無しにされちゃったんだから。
でもしようがないよね、いつだか大森林深層部の悪の秘密結社に乗り込んだ時に出会ったやたら香水の匂いみたいのを振り撒いていたおばさんが召喚? 降霊? されちゃったんだもん。
ブー太郎先生、スゲー嫌そうな顔をしてたよな~、よっぽどあの臭いが苦手だったんだろうな~。気持ちはわかる、俺も嫌だったから。
幸い今回はオーガの姫さんに憑りついたばかりだったからか、前回よりも爽やかな香りに変わってたからいいけど、ねっとりと絡みつくような感じは一緒。ああいうのは生理的に無理って事で、速攻ご退場いただいたという訳でございます。
なんか総統閣下に会いたがってたみたいだし、既に成仏なさっている総統閣下(あなた様経由で確認済み)のお傍に向かいたかったらちゃんと成仏しないとね。<浄炎>により女神様の御下に送らせていただいた次第でございます。
でもその事に納得できない御方がですね、盟主様ガチギレしてやんの。
「“者ども、こ奴らを始末しろ!! 肉片の一欠片ですら残す事は許さん、この世から完全に消し去るのだ!!”」
盟主様のお言葉にぞろぞろとこの場に集まってくるオーガたち。
なんか言葉に魔力を乗せてたみたいだし、全体を操る魔法か何かなのかな? 乗らねば、このビッグウエーブに!!
「勇者ブー太郎様、この場は一旦引きましょう。取り囲まれてしまってはじり貧になるは明白、今は急ぎ城の外へ。
紬、シャロン、道を切り開いてくれ!!」
俺はそう言い床に倒れるオーガの姫を担ぎ上げます。
そこはお姫様抱っこじゃないのか? この子デカいんだよ、ブー太郎より少し下ってくらいにはデカいんだよ、お姫様抱っこの出来るサイズじゃないんだよ!!
この場は俵担ぎ一択、額から延びる二本の角が床につきそうになるのはご愛敬。
そんな事をしている最中にも襲い掛かって来るこの場にいるオーガたち(ガバルンを含む。姫様付きのメイドさんは何故か襲ってこない、支配系統が別なのかな?)、そんなオーガに果敢に立ち向かう紬とシャロン。
“キュワ~、クワッ”
シャロンの声に呼応するかのように現れた大きな骨、シャロンは大剣を振り上げ迫る鎧姿のオーガに対しその骨をぶん回し、“ドガーン”一瞬にして吹き飛ばす。
たかが骨に吹き飛ばされた騎士オーガの様子に驚く周りのオーガ。でもごめん、その骨ドラゴンの骨だから、目茶苦茶硬くて丈夫だから、アダマンタイト製の剣でも容易に切れないから。
更に言えばシャロンは精霊王女、いくらでも再生可能って言うね。
“““““ガァーーーーーーー!!”””””
鬼の形相で飛び掛かって来るオーガのメイドさん方、だが。
“キュキュ~、ブシューーーッ”
スパイダーネットならぬキャタピラーネットにより一瞬で絡み取られるメイドさんたち。呻こうが喚こうが精霊女王の作り出したキャタピラーネットから逃れることの出来る者など存在しない。
「さぁ、勇者ブー太郎様、今のうちに!!」
俺は必死な形相(演技)でブー太郎に呼び掛けます。そんな俺の呼び掛けにコクリと頷き走り出すブー太郎。
「クククククッ、アッハッハッハッハッ、無駄無駄無駄ー!!
大岩砦の里は既に貴様らにとっての死地、何処に逃げようとオーガどもの追跡から逃れることは出来んわー!!
無様に這いずり回り、自身の罪をその身に刻むがいい!!」
高らかに笑う盟主様、これでこの里全体が操られている事は決定ですね。
そう言えばこのお城だかお屋敷だかに来る途中に大きな広場があったよな。オーガのメイドさんは兵士の訓練場とか言ってたけど、取り敢えず舞台はそこでいいかな?
俺は業務連絡で従業員の皆さんに次の公演場所を伝えると、適度に苦戦しながら訓練場の広場へと向かうのでした。
「ハァーッ、ハァーッ、ハァーッ、くそ、こいつら切りがない」(演技)
訓練場の広場には多くのオーガが倒れ、紬のキャタピラーネットに絡み取られ呻き声を上げる。
俺は御神木様の枝製スコップを取り出し応戦、勇者ブー太郎は聖霊剣グランゾートの側面でオーガを吹き飛ばしています。
俺はそんなブー太郎を不思議に思い、「グランゾートなら何でも切れるんだからオーガたちの意識だけを切っちゃえばいいんじゃないの?」と聞いたところ、「グランゾートがつまらないものを切るのは嫌だと我が儘を言いまして。
・・・ブー太郎先生、なんか我が儘彼女に振り回されている優男の彼氏みたい。でもそんなブー太郎の様子を“パパとお揃い~♪”と言って喜ぶシャロンがですね。
頑張れお父さん、休日の家族サービスは円満な家庭を作るうえで重要だぞ?
俺は心の中で手を合わせつつ、マイスコップを振り回しまくるのでした。
「ワッハッハッハッハッハッハッ、これぞ我が最強、我がスコップに敵うものなし!!」
く~~~、これいつかやりたかったんだよな~、スゲ~楽しい♪
「クッ、しぶといネズミどもめ。族長よ、あの者たちを叩き切れ!!」
“グガァーーーーー!!”
訓練場広場に轟く族長の咆哮、これは多分スタン効果のあるスキル。
“シュパンッ、バスバスバス、ガキーーーン”
“ギャーーー”
“クワァ~~~”
“キュイ~~~”
一瞬にして訓練場広場を駆ける族長オーガ、次々に切られ倒れ伏す俺とシャロンと紬。
って言うかシャロンと紬、演技下手過ぎ。“やられた~~~”とか“アレ~~~”とか。
もうね、こちとら爆笑を堪えるので必死よ? 何人かの従業員、堪え切れなくて外に笑いに走ってたよ?
まぁ紬もシャロンも高位精霊ですし、物理的に切られたとて痛くもかゆくもありませんし。
俺ですか?切られた端から<霊体化>をですね。ちゃんと肉を切った感触がありながら死んでないっていう高等技術、これって結構難しいのよ?
「ケビンさん、シャロン、紬!! 貴様、よくも仲間を!!
ウォォォォォォォォォ!!」
“ブォォォォッ”
勇者ブー太郎の全身から溢れる深紅の覇気、その力により立ち上がる金髪。
「<覇魔混合・剛腕剛脚>、唸れ、聖霊剣グランゾート!!」
“ズドーーン、ズドンッズドンッズドンッズドンッズドンッズドンッズドンッズドンッ!!”
怒りの心により覚醒した勇者ブー太郎の猛攻、それは族長オーガを一方的に攻め立て、盟主様の側に吹き飛ばす。(注:グランゾートちゃんにはブー太郎から相手を切らないようにと言い付けてあります。盛り上げる為の演出と説明しご納得いただいております)
「貴様~~~、よくもよくも。ハイオーガキングよ、これを飲むのだ!!」
盟主様が取り出した物、それは漆黒の光を放つポーション瓶。
「盟主様、それはまだ安全性が確認されていないのでは。実証実験も終わっておりません」
「構わん、この場を実証実験の場とする。被験体はハイオーガキング。ハイオーガキング、その力、十全に発揮せよ!!」
“ゴクンッ”
立ち上がり、盟主様から恭しくポーション瓶を受け取ったハイオーガキング。蓋を開け、躊躇することなく漆黒の液体を口にし。
“ドクンッ”
それは一体何の音であったのか。
“ドクンッ”
離れた場所からでも聞こえる程の、鼓動の響き。
“ドクンッ”
“グォーーーーーーー!!”
“ゴボッ、ゴボゴボゴボッ”
音を立て変化する肉体、膨れ上がるそれは肉の塊か、それとも。
「「「「「おぉ~~~~、これは・・・」」」」」
「ハハハハハハッ、素晴らしい、素晴らしいではないか。これならば伝承に謳われるドラゴンですら討ち倒すであろう。
世界は我らに平伏すのだ!!」
“グォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!”
それは天に向けあげられた咆哮、世界に自身の存在を刻みつける反逆の狼煙。
「悪の組織の怪人が巨大化、クホッ、これってなんてロマン!?
戦隊ヒーロー、戦隊ヒーローはどこだ~~~!!」
ごめん、俺、テンション振り切れ。このパターンは予想してなかった、正直盟主様を嘗めておりました。盟主様、あなた様は最高です!!
「いけ、ハイオーガキング、いや、ハイギガントオーガキング!! お前の力を世界に刻み付け“ガバッ”」
突然ハイギガントオーガキングに掴み取られた盟主様、目茶苦茶焦っておられます。
「なっ、一体何をしている、お前の敵は、うわーーーー!!“グシャッ”」
「・・・自らの主人を食べた、だと!?」
ブー太郎の口から洩れる戸惑いの呟き、その間も次々とローブの者たちを捕まえて口へ運ぶハイギガントオーガキング。
「あ~、アレって変身じゃなくって進化だったんだわ。かなり無理やり行われたものだから腹が減って仕方が無いんじゃないのか? 魔物にとって魔力豊富な人間は旨そうな餌以外の何物でもないからな、腹が減ってるときにすぐ傍に極上の餌がいればそりゃ食べるよな~」
俺の言葉に顔を引き攣らせるブー太郎、紬のキャタピラーネットに囚われて意識のあるオーガたちが悲鳴を上げ藻掻き暴れる。次は自分たちの番だと理解してしまったが故に。
“ポヨン、ポヨン、ポヨン、ポヨ~~ン”
そんな中突然姿を現した漆黒のスライム。
「えっと、大福先生、一体どうなさったんでしょうか?」
“ポヨンポヨンポヨンポヨン♪”
「マジっすか、あれやるんすか。まぁあの技を使うには絶好のチャンスではありますが。それじゃちょっと場を整えますね」
“ブォッ”
俺は訓練場広場全体に影魔法の影を広げると、転がっている邪魔なオーガどもを呑み込み広場の隅っこに移動します。
「勇者ブー太郎、足止めはします、
俺は手のひらサイズになった大福を掴み上げると、天高く掲げ宣言する。
「スライムの王よ、我に力を。巨神合体、ビッグダイフクーン!!」
“ドロリ”
俺の宣言と共にその姿を液状に変え、俺の全身を包み込む大福。それはまるで在りし日の記憶にある特撮ヒーロー、ムクムクと巨大化していくさまは光の国から来た宇宙警備隊の隊員のそれ。
そして全身に漆黒の全身鎧を着込んだその姿は、見ようによっては宇宙戦争をしていた人型兵器と呼んでも差し支えのないクオリティー。
“グォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ、ズゴーーーン”
咆哮とともに掴み掛ってくるハイギガントオーガ、俺はそんなオーガを軽くいなすと、足を掛け地面に叩き付ける。
「“勇者ブー太郎、今です!!”」
「人族により弄ばれた哀れな魂よ、すまん、俺にはお前を救う事が出来ない。
せめて苦しませる事なく送ろう。<対魔境剣術
“シュパンッ、ドゴンッ”
一刀の下に切り落とされた巨大な首、それは肉体ばかりか魂すら切断する絶対の一撃。
「“我は祈る、この弄ばれし哀れな魂がより良い来世に向かう事を。この地に眠る多くの虐げられし魂が、安寧の地へと向かう事を。<浄炎・広域浄土化>”」
巨大な戦士が淡い輝きを発する。それは祈り、それは願い。盟主の命令により一つの思考に囚われていたオーガたちは自我を取り戻し、様々な実験により失われ大地に縛られていた者たちは光の粒子となり天への道を昇る。
“我が娘よ、父として何も残してやる事の出来なかった哀れなる者よ”
「ウッ、ウ~ン。ここは・・・、それにお父様・・・」
“我が娘よ、好きに生きよ。そなたを縛るものは何もない。己が人生、悔いなきように生きよ”
目覚めた我が子にやさしげな瞳を向け消えて逝く者。
「お父様!!」
「オジョウサマ、ダイジョウブデスカ?」
起き上がった彼女に慌てて声を掛けるメイド。
「ここは兵士の訓練場、何故私はこのような場所に。
そうです、あの方々は!?」
「ハイ、ユウシャブータロウサマガタハ、スベテハオワッタト、オジョウサマノコトヲワタシニタクシ、サキホド。
マタイツカ、ヤマイモガオオキクナルコロニ、タズネテクルト」
周囲を見渡す、そこにはまるで悪い夢からでも覚めたかのような、どこか呆けた顔をした大岩砦の里の人々。
「族長と盟主は」
姫君の言葉に首を横に振るメイド。
「分かりました、急ぎ次の族長を決定する一族会議を行います。
あの方々が齎してくれたこの機会を無駄にする訳には行きません」
立ち上がる姫君に一礼をし後に従うメイド。
ふと視線を上げる、そこには大空高く舞う一羽のビッグクローが、西に向かい飛んでいく姿が映るのであった。
本日一話目です。