転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第659話 辺境男爵の子ども、誕生する

Long, Long Ago

それがいつであったのか、遥か遠い昔、一つの戦いがあった。

 

「ベノム、ゼノン、大丈夫か!? 今ハイポーションと毒消し薬を飲ませる。苦いけど我慢しろよ!」

 

それは世界の命運を賭けた戦い、人類の滅亡を望む大いなる意思。倒したとてその亡骸から発せられる毒は世界を蝕み、人類を絶滅へと導く最悪の厄災。

 

「すまん、アバンジール、助かった。聖女は、クリスティーヌは無事か!?」

「あぁ、ベノムとゼノンのお陰でな。後方支援は任せろ、勇者ベノム、賢者ゼノン、奴の息の根を止めてくれ!!」

 

「おう、任せておけ。志半(こころざしなか)ばで倒れていった多くの仲間のためにも、奴はこの俺が絶対に倒す!!

ゼノン、クリスティーヌ、ここが正念場だ。あの厄災は絶対に倒すぞ!!」

「おう!!」

「えぇ、分かったわ」

 

人々は天に祈った、“この最悪の厄災から我らをお救い下さい”と。かくして祈りは天に届き、女神様の慈悲は一人の希望として現れた。

勇者の誕生、人々はかの勇者に全てを託し、人類は一致団結し彼の者を支え助けた。

ドワーフは炉の技術の粋を尽くし防具と武器を、エルフは森の知識と優れた魔術を、普人族の国々は資金や食料、人員や情報を。

国や種族の確執を取り払い、ただ人類に襲い掛かる厄災を排除するために。

 

「これでお終いだ、聖剣バルボアよ、今こそ女神様のご意思をこの手に。聖剣術<次元断絶>」

“バシュンッ”

振り抜かれた聖剣バルボア、その一振りは空間を、時空を切り裂き、厄災の持つあらゆる因果とこの世界とを切り離す。

 

“ズドーーーーーーーン”

轟音とともに倒れたモノ、それは多くの強大な力を持つ魔物を支配し、この世に死を振り撒く厄災、魔王デビルトレント。

 

“ブワーーーーーーーッ”

だが厄災はただ倒してお終いとはいかない、一つの都市よりも太い幹を持つ厄災、その身から溢れる呪いと言っても過言ではない瘴気が、命を刈り取られた事で一気に噴き出し始める。

 

「アバンジール!!」

「おう、任せろ、俺はその為にここにいる。<収納>」

“シュンッ”

 

一瞬にして姿を消す厄災の亡骸、”グホッ”、吐血しその場に膝を突く一人の戦士。

 

「アバンジール、大丈夫なの!? 今、ヒールを」

慌てて回復魔法を掛けようとする聖女を戦士は手で制する。

 

「だ、大丈夫だ。少々スキルの反動を受けただけだ、問題ない。それにスキルの反動に回復魔法は効かないからな、魔力は有限だ、帰りの事も考えて出来るだけ温存するんだ」

戦士の言葉に悔し気に唇をかむ聖女。

 

「さてまだもう一仕事残ってたな、大地に残る根の回収、これを忘れたらこの場所を中心に徐々に大地が腐っていっちまう。

勇者ベノム、周辺の警戒を頼む。魔王が倒れた今、統制を失った魔物どもがどう暴れ出すのか分からないからな」

「あぁ、言われるまでもない。魔王を倒しました、雑魚にやられ死にましたじゃシャレにならんからな」

 

軽口を叩き合いニヤリと笑う戦士と勇者。

 

「フ~ッ、もってくれよ、俺の身体。<収納>」

“シュパンッ”

一瞬にして姿を消す巨大過ぎる木の根、それがあった場所にぽっかりと開いた大地に穿たれた大穴。

 

「グホッ、これってきつ過ぎるだろうがよ」

両膝を突き息も荒く倒れ伏す戦士。慌てて聖女が駆け寄ろうとするも、それを勇者が制止する。

 

「行くな、クリスティーヌ。今あの場所は地盤が非常に危うい、いつ崩れてもおかしくないんだ。

そんな場所にクリスティーヌが駆けよればどうなるか、アバンジールもろとも地の底に落ちて一巻の終わりだぞ!!」

 

勇者に自身の浅慮な行動を諫められグッと唇をかむ聖女。

 

「ここは俺に任せろ、ゼノン、クリスティーヌを連れて早くこの場から離れるんだ。いつ俺たちの居る場所が崩れてもおかしくない、急いでくれ」

「分かった。クリスティーヌ、俺たちに出来る事は何もない。後の事はベノムに任せるんだ。

今は邪魔にならないように、急ぎこの場を離れるぞ」

 

「でも、アバンジールが。ベノム、アバンジールを、アバンジールをお願い!!」

「あぁ、任せておけ、直ぐに追いつく!!」

 

賢者に手を引かれその場を離れる聖女。聖女は最後の最後まで戦士の事を気に掛けながらも、仲間を信じ急ぎ安全な場所へと避難する。

 

“ザッ、ザッ、ザッ”

今すぐのた打ち回りたいくらいの苦しみを精神力でグッと堪え、何とか立ち上がろうとする戦士。そんな戦士に真っすぐ近付いていく勇者。

 

「まて、ベノム。ここは危険だ、それ以上近付くな。何とか這ってでも、俺からそっちに行く」

「大丈夫だ、無理をしなくてもいい。お前はそこで待っていろ、直ぐに楽にしてやる」

 

危険を顧みずやってくる勇者に慌てて言葉を向ける戦士、だが返ってきた言葉は何故か酷く冷淡なもの。

 

「ベノム、お前、何を言って“グサッ”・・・えっ?」

引き抜かれたロングソード、崩れ落ちる身体。肺の奥から血が溢れ、焦点が定まらない。

 

「アバンジール、これまでご苦労だった。何かと鬱陶しい奴ではあったが、確りと役目を果たしてくれたことに免じて不問としよう。

意味が分からないといった顔をしているな、お前は崩落事故によりこの場で死ぬ、そういう事だ。

では俺は行く、後の事は全て任せておけ、クリスティーヌには俺の口から説明しておいてやる。勇者である俺を庇って死んだ、勇敢な戦士であったとな」

 

薄れゆく意識の中聞こえる音、それは地面が崩れて落ちていく崩壊の音色。そうして俺の人生は幕を閉じた。

 

「アバンジール様、勇者パーティーに所属し魔王討伐を成し遂げられたアバンジール様でございますね。

お役目お疲れ様でございます」

 

そこは一面雲の上のような、不思議な場所であった。

俺は声を掛けてきたであろう人物のいる側に顔を向け、驚きに目を見開く。それはその御方がこれまで見た事もないような絶世の美女であったこともそうだろう、だが何よりその背中から伸びる一対の大きな翼、それはまさしく教会の教えにある天使様の御姿のそれ。

 

「はい、御理解いただけたようで何よりです。私は中級天使をしております#$%&と申します。

あっ、申し訳ありません。私たち天使の名前は地上の方たちには聞き取りづらいかもしれません。

それとこの場ですが、いわゆる天上界と呼ばれる場所でして、アバンジール様の置かれた状況は御理解いただけましたでしょうか?」

美しい瞳を真っ直ぐに向け言葉を紡ぐ天使様のお話に、スッと得心がいく。

 

「あっ、はい。俺は死んだ、そういう事でしょうか?」

「はい、そうなります。お分かりいただけたようでよかったです。お亡くなりになる方々、特に殺害などによる突然死の場合、状況をご理解いただくのに時間が掛かる場合が往々にございまして。

では状況をご理解いただけているという事ですので、これから先の事についてご説明申し上げます。

まずアバンジール様におかれましては魔王討伐という大きな功績を成し遂げられました、またその魔王討伐における最大の功労者として私共はアバンジール様を高く評価させていただきました。

具体的には地上における魔王の遺体の除去、あの処理が無ければ地上に更なる厄災が訪れたであろう事は明白。

天上界ではその処分の為の特別チームを派遣する準備を行っているところだったのです。

ですがそれも全てアバンジール様の御働きにより解決された、あの場に残った濃厚な闇属性魔力により汚染された土地はいましばらく危険地帯となりますが、それも時間と共に少しずつ改善していく事でしょう」

 

天使様のお言葉に自然と零れ落ちる涙、自身の働きを正当に評価していただいた事がこれ程にうれしいとは。俺は自分で思っていた以上に承認欲求に飢えていたらしい。

 

「申し上げましたようにアバンジール様の功績は大変に大きなものとなります。その功績に報いると言っては何ですが、次の人生において幾つかの特典をご用意できます。

出来る事、出来ない事は当然ございますが出来る限りご期待に添いたく存じます。

アバンジール様は何か望みがございますか?」

 

天使様より突然申し渡された人生改編の機会、俺はどうしていいのか分からず思う限りの質問をしてみる事にする。

 

「天使様、それは次の人生における生まれやスキルを自由に出来るという事でしょうか?」

「そうですね、概ねそう考えてくださっても構いません。生まれに関しては確率論的な話にはなりますが、提示された条件になるべく近いモノを選出し、魂を移行させるというものになります。

スキルに関しては魂の資質により決定されるものですので必ずしも希望通りの結果を得られるとは限りませんが、生まれながらのスキルを多少調整する事は可能です」

 

「そうですか、それだったら俺はもう二度と王家や大貴族の無茶な要求を受けないような人生がいい。才能なんかなくてもいい、片田舎でのんびり暮らせるような人生を送りたい。

でもあまり貧乏だと生きて行く事も大変だし、男爵家の息子くらいがいいかな? 中央から離れた地方貴族の男爵家、畑を耕したり家畜を飼ったり、そんな生活がしたい。

アバンジールとしての俺の人生は、スキルに振り回され続けたと言ってもいいものだったから。<収納>のスキルと膨大な魔力、戦士という職業にありながら荷物持ちの才能を買われ勇者パーティーへの参加を決められた。

天使様に高く評価していただいた魔王デビルトレントの収納、ただそれだけの為に同行を強制されていた。

もうそんな人生はまっぴらだ、少なくとも自分の意思で生き方を選びたい、もう後悔するのも大切な者と切り離されるのもごめんですから」

 

脳裏に浮かぶのは最後に見た俺の事を心配するクリスティーヌの顔。クリスだけは幸せになってもらいたい、死んでしまった俺の事は忘れてくれてもいいから、いつまでも朗らかに笑っていてほしい。

 

「畏まりました。それと何か欲しいスキルなどはありますか?」

「・・・それならスキルを隠蔽するスキルが欲しい。さっきも言ったけど俺はのんびり暮らしたいんだ。仮に変なスキルや貴重なスキルを授かったとして、それに振り回されたくはないんだ」

 

「そうですね、一般的な鑑定や詳細人物鑑定から自身のスキルを隠すようなスキルでしたら作ることは可能です。

アバンジール様は統合系スキルというものをご存じでしょうか?

複数のスキルを内包しているスキルで、有名なところですと<田舎者>という職業の方が統合系スキルである<田舎暮らし>の中に田舎暮らし(戦闘)・田舎暮らし(魔法)・田舎暮らし(生産)・田舎暮らし(生活)という分類で様々なスキルを内包しています。

そして肝心なのはここからなのですが、このスキル<田舎暮らし>では<田舎暮らし>の分類より下のスキル詳細が通常の鑑定や詳細人物鑑定では調べる事が出来ないのです。

このスキルの特性を利用し、任意に分類整理を行う事の出来る統合系スキルを作っておきましょう」

 

天使様の提案、それは俺の意思を汲み取った最適解とも言えるようなものであった。

 

「最後に天使様へお伺いしたいのですが、新しい人生を迎えたとして俺の記憶はどうなってしまうんでしょうか?」

「はい、これは重要な事なのですが、アバンジール様の記憶は失われ別人としての人生を歩む事となります。これは基本的にどれ程の偉業を成し遂げた者であろうとも同様の処置を施す事となります。

極稀に前世の記憶を持つ者も生まれますが、そうした者であろうと魂の洗浄は行われるため、記憶があやふやであるといった事の方がほとんどです」

 

天使様の言葉に俺は考え込む。ではどうやって俺の意思を来世の俺に伝えるか。

 

「天使様にお願いがあります、どういう形でも構いません、どうか来世の俺に今の俺の思いを伝えてください。

折角授かったスキルを意味の分からないスキルだと(なげ)かないように、田舎の男爵家に生まれた境遇を不幸だなどと思わないように」

「そうですね、折角アバンジール様が考えた思いが活かされないどころかその事を不幸と捉えられてしまっては、功績に応えたことにはなりません。そこで<伝言>というスキルを授けておく事としましょう。

通常は自身の考えを記録したり後から見直したりするスキルなのですが、そこに前世の記憶としてアバンジール様のお考えを記しておきましょう。

来世のアバンジール様がご自身で物事を考えられるようになった時に再生出来るように設定して」

 

天使様のお言葉に俺は静かに頭を下げる。

 

「ではよき人生を」

新たなる人生への旅立ち、徐々に消えて行く俺の身体。俺はこれまでの人生のあれこれを思い出しながら、いや違うな、時に優しく、時に厳しかった、愛しのクリスの事を想いながら、静かに目を閉じるのだった。

 

・・・スポンッ。

“フワァ?”

えっと、なんか産まれちゃった? スポンって、全く抵抗なくスポンって。出産ってあまり詳しくないけど、こんなもんだったっけ?

それに僕、前世の記憶がばっちり残ってるんだけど? 天使様、これって何かやっちゃいました?

 

周りには大きな女の人が沢山いて、僕を布に包んで何処かに運んでいきます。

寝かされたのはベッドの枕元、隣には何か幸せそうな瞳で僕の事を見詰める美しい女性。この人がお母さん?

 

「フフフ、なんて可愛らしいのでしょう。初めまして私の愛しい子、産まれて来てくれてありがとう」

掛けられた言葉に嬉しさが込み上げてきて、自然と笑い声が漏れる。

お母さん、産んでくれてありがとう、新しい人生をくれてありがとう。

僕はこれまでに感じた事のない幸せな気持ちに包まれつつも、抗いがたい眠気に小さくあくびをしてから瞼を閉じるのでした。




本日一話目です。
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