転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第661話 辺境男爵子息、現状を知る

「アルバちゃ~ん、お爺ちゃんだよ~。今日も大人しくて良い子でちゅね~」

 

僕がこの家に生まれて一週間が過ぎた。最初は転生した僕に確り前世の記憶が残ってしまっている事に酷く戸惑ったけど、今更その事をとやかく言っても仕方が無いのであまり深くは考えない事にしている。

 

「あなた、一人だけズルいです。次は私の番ですよ?

アルバちゃん、お婆ちゃんですよ~。お婆ちゃんのおっぱい飲む? 今ならまだ頑張れば出るかも、乳腺を刺激する生活薬のレシピは確か」

「ミランダ様、それ私にもいただけますか? 初孫におっぱいをあげるのってちょっと楽しそう。最近マリアンヌは見向きもしなくなってしまいましたし」

 

僕が生まれてから頻繁に顔を見せてくれるお爺ちゃんとお婆ちゃんたち。お爺ちゃんはダンディーな見た目に反して孫に甘いのかいつも相好を崩している。

お婆ちゃんたちは凄く若くてきれい。僕の一つ上の子供がいるって話をしていたから、実際若いんだろう。

という事は僕のお母さんは養女か何かなのかな? 家庭環境が複雑? とか心配したんだけど、お母さんはデイマリアお婆ちゃんの実の娘らしい。多分お母さんは旅立ちの儀を終えてすぐの子供だったんだろう。田舎の方だと年の離れた兄弟は普通って言うし、奥さんが二人もいるような貴族家なら当然かもしれない。

 

そうそう、僕、どうやらお貴族様の子供に生まれたみたいです。

ただな~、お爺ちゃんが伯爵閣下とか呼ばれてるんだよな~。

伯爵って目茶苦茶高位の貴族じゃないか、天使様、僕男爵家の子供がいいって言ったんですけど~!! 

伯爵家の孫なんていったら更に上の侯爵家やら下手をすれば王家なんかからも目を付けられちゃうじゃないですか、のんびり田舎暮らしなんかできないじゃないですか。

 

しかもこのお部屋、目茶苦茶立派なんです。調度品なんかの品も良くって、ここってちゃんと田舎なんですよね? 凄い不安なんですけど。

 

<僕の望み>

・二度と王家や大貴族の無茶な要求を受けないような人生。

・片田舎でのんびり暮らせるような人生。

・あまり貧乏だと生きて行く事も大変だし、男爵家の息子くらいがいい。

・中央から離れた地方貴族の男爵家、畑を耕したり家畜を飼ったり、そんな生活がしたい。

 

<現状>

・伯爵家の孫、高位貴族に絡まれる事は必定。

・建物が凄く立派で調度品が洗練されている。田舎かどうかとても怪しい。

・貧乏ではない、でも伯爵家。

・地方貴族かどうかは不明、領地持ち貴族かどうかも不明。耕作したり家畜を飼ったりは全く分からない状態。

 

・・・天使様~~~!! 僕の話ちゃんと聞いてました? しっかり確認を取らなかった僕もあれですけど。

そう言えば「生まれに関しては確率論的な話にはなりますが、提示された条件になるべく近いモノを選出し、魂を移行させるというものになります」とか言ってたんだよな~。

僕って昔から運は微妙だったし、なるべく近い条件っていうのが現状なんだろう。

でもな~、後から<伝言>のスキルで伝えられるはずだった僕の思い、物凄い今更になっちゃったんだけど。一体いつ<伝言>のスキルに目覚める事になってたんだろうか? 来世の僕が自身で物事を考えられるようになった時に再生されるように設定してくれているはずなんだけど、一向に再生されないんだよね。

 

あの天使様、凄く仕事が出来るように見えて実はかなり抜けてるとか? ・・・とっても不安です。

 

「アルバちゃ~ん、どうしたのかな? すごく難しい顔をして、おしっこが出ちゃったのかな? 

それじゃお爺ちゃんがおむつ交換をしてあげましょうね~」

そう言いそそくさとおむつ交換を始めるお爺ちゃん。

・・・お爺ちゃん伯爵様だよね? 僕の知ってる伯爵様と違い過ぎるんだけど? 伯爵様ってもっと偉そうにふんぞり返ってる人たちの事じゃなかったっけ?

 

僕が前世で勇者パーティーに参加していた時、世間的には全人類が手を取り合って最悪の魔王デビルトレントに立ち向かうって事になっていた。

確かにあの魔物はそれでもまだ足りないってくらいの厄災だったし、各国王家に天使様方がご降臨して直接ご神託を下したと言われるくらいとんでもない相手だった。

でもそんな中でも普人族の貴族意識は全くと言っていいほど変わらなかった。重要な作戦の中で家柄だの爵位だの、頭がおかしいとしか思えない発言がごろごろと。

そうした貴族たちの意見を調整するのがどれだけ大変だったか、「たかが平民の戦士風情がこの私に意見するか!!」ってよく叱責されてたんだよね。

幸い勇者が侯爵家の出身だったこともあって、勇者の言葉は素直に聞いてくれていたけど。あれが平民出身とかだったら絶対纏まりなんてつかなかったんだろうな~。(遠い目)

 

「アルバちゃ~ん、どうちまちたか~? おしりきれいきれいになりまちたよ~」

・・・うん、孫馬鹿。権力だの爵位だのとは全く無縁といったまごう事なき孫馬鹿なお爺ちゃんの姿に、僕の心が温かくなる。

お貴族様にもこうした側面があるという事か、いや、多分このお爺ちゃんが特別変わり者なのだろう。足の引っ張り合いが日常のお貴族様の世界で、こんな調子で大丈夫?と言った心配はあるけど、あれほど若くて美人な奥さんが二人もいるところを見ると、実はやり手なのかもしれないとも・・・やっぱり不安です。

 

“ガチャリ”

部屋の扉が開かれて誰かが入って来る。僕はデイマリアお婆ちゃんの腕の中からその人物に目を向ける。

 

「どうも、皆さんお揃いで。アルバ、よかったな、お爺ちゃんとお婆ちゃんたちに遊んで貰って」

そう言いニコリと笑顔を向けてくれるのは僕のお父さん。

 

「はいよ、お父さんだよ~。パトリシア、その後身体の方はどう? どこかだるさや痛みなんかが残っていたりしていない?」

「ありがとう、ケビン。体調はいたって良好です。セシルさんにも順調に回復していると言われていますし、来週には家に帰れると思います」

 

そう言い、嬉しそうに微笑むお母さん。

家に帰る? ここが僕の家じゃないの?

 

「ん? なんだアルバ、不思議そうな顔をして。

あぁ、もしかしてアルバはこの家が自分の家だと勘違いしていたのか?

残念、アルバの家は別です。ここはパトリシアお母さんの実家、ホーンラビット伯爵家の御屋敷です。

まだ言ってなかったかもしれないけど、アルバの名前はアルバ・ワイルドウッド、ワイルドウッド男爵家の長男です」

 

・・・ワイルドウッド男爵家? 伯爵家じゃないの?

「はい、その通り、アルバ君は男爵家子息、ホーンラビット伯爵家にはロバート君っていう立派な跡取りがいるので、アルバがそうした貴族家のゴタゴタに巻き込まれる心配はございません」

 

お父さんの言葉にホッと胸を撫で下ろす僕。天使様、先ほどはごめんなさい、天使様はちゃんと要望通り僕を男爵家に送ってくださったんですね。

 

「ついでなんでワイルドウッド男爵家の立ち位置を一つ。

ワイルドウッド男爵家はホーンラビット伯爵家に仕える貴族、所謂地方貴族と呼ばれる家柄です。お父さんはホーンラビット伯爵家騎士団に所属する騎士でもあります。

でもここホーンラビット伯爵家はオーランド王国の外れ、辺境にあるため基本的に男爵家と言っても農兵です。

普段は農具を持って野菜や小麦を作っています。ワイルドウッド男爵家は人を雇い畜産も行っているので、ホーンラビット伯爵領の中では割と大きな農家です。

まぁホーンラビット伯爵領は人口が少ないので、やる気と人員があれば好きなだけ農地を広げる事も可能なんですけどね」

 

なんと、“中央から離れた地方貴族の男爵家、畑を耕したり家畜を飼ったり、そんな生活がしたい”っていう僕の望みが完全に叶えられている。天使様、最高です!!

 

「ほうほう、アルバ君は田舎でのんびり生活を送りたい派でしたか。それはよかった、実はお父さんもそうなんですよね~。

でもね、辺境の田舎でのんびり暮らすって、よくよく考えると無茶もいいところだったんですよ。

先ず辺境は物流が途絶えている、次に食料が乏しい、最後に只管金がない。

お父さんが子供の頃は毎日お腹が空いて仕方が無い程度で済んでいたからいいんだけど、お父さんのお父さんが子供の頃は冬場になると餓死者や凍死者が出るのは当たり前ってくらい厳しい環境の村だったんだよ?」

 

お父さんの言葉にピタリと動きの固まる僕。冬場の餓死者? 凍死者? 前の人生の時は食料が無くて飢えるって話は聞いたことがあったけど、凍死って。ここってもしかして北国なの? 僕、とんでもない所に産まれちゃった?

 

「ごめんごめん、ちょっと驚かせちゃったね。それは昔の話だから安心して。今はドレイクお爺ちゃんや村の大人たちが頑張ったお陰で、食糧難に苦しむ事も寒さに震える事もない過ごし易い地域にする事が出来たから。

アルバは何の心配もいらないよ」

 

お父さんの言葉にホッとため息を吐く僕。なんだか変に心配して疲れちゃった、凄く眠いや。

僕は訪れた眠気に逆らう事が出来ず、ゆらゆら揺れるデイマリアお婆ちゃんの腕の中で、心地よい眠りにつくのでした。

 

―――――――――

 

「眠っちゃいましたね。フフフ、とってもかわいい事。うちの子もかわいいのですけど、孫というものはまた格別にそう感じるものなんですね」

デイマリア奥様はそう言うと、腕の中のアルバをそっとベビーベッドに下ろされます。

 

「でも先程のケビンとアルバの会話は面白かったですね。アルバったら、ケビンの投げ掛ける言葉がまるで理解できているかのような反応をして。

ケビンが冬の餓死者や凍死者の話をした時の驚きようといったら。思わず吹き出してしまいそうになりました」

 

そう言いフフフと思い出し笑いをするデイマリア奥様。ミランダ奥様とパトリシアも一緒になって微笑んでいます。

そんな中只一人、先ほどまでのデレデレ顔をシャンと引き締めて、真剣な眼差しを向ける御仁が一人。

 

「ケビン君、説明して貰ってもいいかな?」

うん、流石はドレイク・ホーンラビット伯爵、俺との付き合いが長いだけあって危機管理センサーが冴え渡っておられますこと。

 

「そうですね、簡単に言えばアルバには前世の記憶、この世に生を受ける前の記憶があるものと思われます」

「「「「!?」」」」

 

俺の言葉に驚き目を見開く一同。でもこれってそこまで珍しい事じゃないんだけどな~。

 

「えっと、それってどういう事なのかしら? アルバはアルバじゃない、全くの別人という事?」

なにか混乱するミランダ奥様、デイマリア奥様は不安そうな顔をするパトリシアをギュッと抱き締めます。

 

「あぁ、ご安心ください。これは悪霊やレイスの類が取り憑いたとかいった話ではないので。単にアルバの魂に前の人生の記憶が色濃く残ってしまっているというだけの話です。 

皆さんもご存じのように、人はこの世の生を終えると女神様の下に導かれ、来世に向かい旅立ちます。その際、今生の未練を断ち切り全ての記憶や思いから解放され、純粋な魂として新たに生まれ変わる。

これは領都や王都の教会といった大きな教会施設では、説法の一つとして司祭様より語られる話の一つです。

今生は魂の修行の場、女神様は全ての魂を見守りお救い下さる。善も悪もなく、全ての魂をその御下にお招きくださる。

ここではその話は全て事実であるとお考え下さい。

 

ではアルバの場合はどうか、全ての魂は新たに生まれ出る前に前世と決別しているのではないのか。

確かにほとんどの魂はそうです。前世の記憶など無く、新たな命としてまっさらな人生の一歩を踏み出していく。

ですが極稀にその記憶が残ってしまうものがいる。記憶までとはいかなくともその在り様、生き様といったものを残す者もいる。

歴史に名を残す者の中にはどう考えてもそうとしか思えない人物が結構いるんです。皆さんがよく知る人物としては剣の勇者様ですかね。あとは東方の賢者様、あの二人は間違いなく前世の記憶を持っていたかと。

 

そこまでいかなくともまだ幼い頃、自我が確立していない三歳から五歳くらいの子供の中には前世に引っ張られる子供がそこそこいると聞いた事があります。

その辺はセシルお婆さんが詳しいので興味があったら後で聞いてみてください。

 

話は戻りますが、アルバはその中でもガッツリ記憶と意識が残ってる事例ですね、どうも自分の今の状況を知りたがっているみたいでしたんで教えてあげたって訳です。

もう一度言いますけど、これってそれなりにある事なんです。アルバは間違いなく俺とパトリシアの子供だし、アルバに前世の記憶があるからと言って、何があるという事もありません。

全ての魂は流転する、これも女神様の思し召しという事なのでしょう」

 

俺の言葉に肩の力を抜く一同、パトリシアはアルバが横になるベビーベッドに寄り添い優しく頭を撫でています。

 

「・・・ところでケビン君、私はそんな変わった子に心当たりがあるんだが、もしかして?」

う~ん、ホーンラビット伯爵閣下目ざとい。一代で伯爵の地位を手に入れるような男は常にアンテナを張りまくってるって事ですね。

 

「さぁ、その辺は何とも。ですが赤ん坊の頃には既に色々と物を考えられるようになっていたのは事実ですね。

母メアリーがプチライトの生活魔法を使っているのを見て、“アレってどうやってやるんだろう?”と身体の中の魔力を感じようと頑張っていましたから。

お陰で四歳の頃には魔力纏いが出来るようになってましたし。全ての属性のボール魔法を試して一切発動しなかったときは落ち込みましたけど、生活魔法に活路を見出(みいだ)したのもあの頃でしたね」

 

どこか懐かしげに話す俺に、「「あぁ、そう言えばそうだったね」」と納得するホーンラビット伯爵閣下とミランダ奥様。デイマリア奥様とパトリシアは、後で二人から幼少期のケビン君秘話を聞いてみてください。自分で話すのは恥ずかしいので嫌です。

 

「まぁアルバもその頃になればマルセル村のアルバとしての自我が確りと芽生える筈です。これは経験者の俺が保証します。

ですので皆さんはアルバが多少の奇行に走っていても温かく見守ってやってください。

恐らくですが、俺よりはマシなんで」

「「「「あぁ、うん、なら大丈夫かな?」」」」

 

俺の言葉に納得してくださる皆さん。俺は自虐的発言を素直に認められたことに結構なダメージを受けながらも、今後のアルバの為の予防線を張れたことに、ホッと息を吐くのでした。




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