転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

665 / 860
第665話 辺境男爵、女神様の使者とお話しする (4)

「フエッ、オギャーー、オギャーー、オギャーー、オギャーー!!」

清廉な気配漂う室内に突如鳴り響く赤子の鳴き声。

まるで雷にでも打たれたかのように止まらぬその声に先程まで感じていた幸福感を忘れ、慌てふためく大人たち。

 

「ど、ど、どうしたのかな、アルバちゃ~ん。お爺ちゃんでちゅよ~。イナイイナイバ~、プルプルプル、バ~」

「よしよしよし、大丈夫、大丈夫よアルバ。怖くない怖くない」

 

赤ちゃんは突発的に泣き始める事がある。それは夜泣きであったり、疳の虫と呼ばれるものであったり。

そうした事は普通の子育てにおいて当たり前のように母親や周囲の関係者を悩ませる問題ではあるのだが、これまでそういった症状を一切見せなかったアルバの突然の状態変化に、大人たちは驚きどうしたらよいのかと混乱を見せる。

 

「お~お~アルバ、アルターナ様の祝福にびっくりしちゃったのかな? パトリシア、ちょっといいか? ほ~らほら、大丈夫だぞアルバ、お父さんが上手い事丸め込んでおいたからな?

お父さんな、誤魔化したり丸め込んだりする事が得意なんだ。<癒しの覇気>」

 

そんな碌でもないセリフを我が子に語り掛けるケビンに、“コイツはいったい何を言ってるんだ?”と呆れた表情になる一同。

 

「フギャーー、フッ、フエ?」

ケビンの発した癒しの覇気に包まれ落ち着きを取り戻したアルバは、周囲をキョロキョロと見まわしたのち、ニヤリと笑うケビンの顔をジッと見詰め大きなため息を吐く。

 

「まぁアルバにはまだ早かったのかな? 世の中色々あるからね~。

焦る事は無い、今はパトリシアお母さんやミランダお婆ちゃん、デイマリアお婆ちゃんに確り甘えて、ゆっくり大きくなればいい。面倒事はお父さんやドレイクおじいちゃんが何とかするから心配するな。

あと、あの事は内緒な、いずれ詳しく教えてやるから楽しみにしときな」

そう言い悪そうな笑みを向けるケビンにキャッキャと手を伸ばすアルバ。

 

「あらケビン、二人して何か相談事? ねぇアルバ、お母さんも仲間に入れて欲しいな~」

そんな二人の様子に頬を膨らませるパトリシア。

 

「これは男と男の秘密なの。な~、アルバ。

そうだな、どうしても知りたかったらアルバが授けの儀を迎えた時にでも聞いてごらん。その頃になればアルバも色々と世の中が分かってきているだろうし、教えてくれるかもしれないよ。

な~、アルバ」

「ダ~、ダ~、ダ~」

アルバはケビンに抱かれた腕の中から手を伸ばし、パトリシアに何やらアピールする。その様子にクスリと笑いを漏らすパトリシア。

 

「ホーンラビット伯爵様、何か申し訳ありません。どうやら私の祝福によりアルバ君を驚かせてしまったようです。私もまだまだ修行が足りないという事なのでしょう、今日はアルバ君に教えられた思いです」

「いえいえ、何を言いますか。こちらこそ本当に申し訳なく、アルターナ様の祝福、私共ホーンラビット伯爵家の者一同心からの感謝を」

 

頭を下げ自らの非を認めるアルターナ(偽名)と、謝罪はいらないと感謝の言葉を返すホーンラビット伯爵。

・・・うん、めっちゃ胡散臭い。特にあなた様の様子がなんとも。

 

いや~、大変でしたわ、色々と。刹那の時間の中で起きたあれやこれや、体感時間十日って、そりゃ大変だっての。

アルバも驚いただろうね、教会のシスターみたいな女性に祝福されたと思ったらそれが天使様で、天使様から自身のステータスを見せられたと思ったらもう一人天使様が現れて。

後から現れた天使様に魂の記録を見せて欲しいとお願いされて了承したら行き成り荒ぶり始めて。

マジギレした天使様の怒りの余波って、魔王デビルトレントの討伐に参加した記憶のあるアルバを以ってしても引き攣りギャン泣きレベルよ? 周囲一帯消滅の危機だったくらいだし、当然と言えば当然だけど、赤ちゃんの成長に悪影響出まくりのトラウマものだからね。

急ぎ癒しの覇気で宥めたんで何とかなったみたいだけど、マジ勘弁してください。こういう時地上人と高位存在たる天上人の在り方の違いについて実感するよね。

 

神々の使徒たる天上人と地上人、シロナガスクジラとオキアミ、うち等は所詮被捕食者なのさ、一呼吸に吸われて短い人生を終えるのさ。

でもそんなシロナガスクジラにタメ張れる最強生物って一体。その御方、すぐ側の御山にお棲まいになっていてですね~。

もうね、辺境マルセル村の環境ってある意味ナイトメアモード、ここまで無事に発展できたのって奇跡ですわ、奇跡。

今度ドレイク村長に全部ぶちまけてみようかな? ・・・ダメだな、心労で倒れちゃうな。聖茶の利かないレベルでショックを受けられること請け合いだもんな。自重自重。

 

「ホーンラビット伯爵様、それでは私はマルセル村の視察に向かわせていただきたく存じます。ケビン様、案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」

「畏まりました、アルターナ様。パトリシア、アルバ、またあとで。

ホーンラビット伯爵閣下、それではアルターナ様をご案内してまいります。視察が終わりましたらその足でエルセルまでお送りさせていただきます」

 

「そうか、ではケビン、後のことは頼んだよ。

アルターナ様にお会い出来ましたこと、女神様に感謝申し上げます。お時間が出来ましたら、ぜひまたマルセル村に遊びに来てください」

「はい、温かいお言葉、心より感謝を。皆様方に創造の女神様の祝福がありますように」

 

そう言い礼をし部屋を下がるアルターナ(偽名)とケビン。

後に残されたアルバは驚き疲れた様な呆けた表情で、去っていく二人を見送るのでした。

 

―――――――

 

「いや~、大変でしたねあなた様。まさかアルバの種族確認に来ただけなのにあんな事態になるだなんてね~。

正直俺の人生ここで終わりと思いましたよ」

 

マルセル村の魔法レンガで舗装された通りを、てくてくとそぞろ歩く俺とあなた様。聖地巡礼の目的がある観光客ならまだしも、あなた様にとってはド田舎のなにもない風景に変わりはなく、見ていても大して面白みなんて「ねぇケビン」・・・。

 

「はい、何でしょう?」

「私たちの周りをうろついてるウルフ種の魔物って、レッサーフェンリルよね。いつだったか<鑑定>した。

何でそんな特級魔物がこんなにたくさん村の中をうろついてるのかしら?」

 

何やら顔を引き攣らせるあなた様。まぁ何でと聞かれればお仕事だからとしか言いようがないんですが。

 

「えっとこいつらグラスウルフ隊は村中の案内係ですね。観光客に行きたい場所を聞かれたらそこまで案内するのが役割です。

他にも背中に子供を乗せて移動したりとかでしょうか、結構評判良いんですよ?」

 

俺の答えに「レッサーフェンリルが観光案内って、しかも背中に子供を乗せてるって。あの誇り高いフェンリル種が」と、何やら自身の常識とご相談なさっておられるあなた様。

でもな~、それってグラスウルフ隊の元々のお仕事だもんな~。

 

「みなさ~ん、こんにちは~~!!」

「「「「「こんにちは~~!!」」」」」

 

多くの人が集まって何やら騒いでいる。そんな様子に何事といった表情になるあなた様。

 

「ここはマルセル村の観光名所、ホーンラビット牧場です。丁度癒し隊のショーが始まったみたいですね」

ホーンラビット牧場の隣に作られた特設ステージ、そこではラビット戦隊と鷹の目コッコたちのアクションヒーローショーが繰り広げられている。

 

「「「「「クワックワックワックワーーー!!」」」」」

「「「「「キュキュキュ、キュイッキューー!!」」」」」

 

ラビット戦隊の活躍に、会場の子供たちや大人からも大きな声援が飛びます。

 

「ケビン、あなた魔物になに仕込んじゃってるのよ。

これ、完全に魔物の概念覆しちゃってるじゃない、魔物を前にした子供が“お父さん、殺さないで”とか言い出したらどうするのよ、変な被害が広がっちゃうじゃない」

「まぁその辺は確り親御さんに教育してもらうしかないかと。うちの場合角無しホーンラビットと確り触れ合った後、角無しホーンラビット料理をお出ししてますからね。

角無しホーンラビットは旨いって事を知った後からだと、可哀想とかいった話は出ないみたいですよ?」

 

俺の返事に「うわ、ケビンってば鬼畜」と言ってドン引きするあなた様。でもここって元々そういう場所ですし? 

牧場といったら愛情を込めて育てた家畜を加工したり食べさせたりする場所ですし?

そうやって子供たちは現実と向き合い大人になっていくのです。

食は文化、精神の成長とは切っても切れない関係なのです。

 

「ところでケビン、アレ、どうするの? こっちじゃどうにも出来ないんだけど?」

ヒーローショーに目を向けながらボツりと呟くあなた様。

あなた様の言うアレ、それはあなた様が<鑑定>を行ってくれた際に発覚したあれやこれや。

 

「称号、また増えてましたね。<ダンジョンを従わせし者>・<魔王カオス>・<人造天使を従えし者>・<禁足地の主>・<勇者を救済せし者>・<変身ヒーロー>・<上級天使を土下座させし者>・<神聖器の契約者>。

まぁ心当たりがあるものばかりなんであれですけど、<魔王カオス>って。アレって劇での役名じゃないですか、活躍したのはジミーたちじゃないですか、それなのになんで」

「あぁ、それはあの時の舞台が天上界で大受けしたからね。ケビンの役柄“魔王カオス”、はまり役過ぎたのよ。

天上界で魔王カオスグッズが売られるくらいには話題になってたかしら。四天王最後の一人は誰かって予想が流行ったくらいには話題になったの。私の予想は白雲君ね、実力的にも適役じゃない?

まぁそんな理由で多くの天界人が魔王カオスを承認しちゃったって訳、御愁傷様」

 

グッ、視聴者の皆さん、皆して高位存在でした。称号は付箋、検索キーワードみたいなもの。

よし、考えない事にしよう。

 

「でもね~、種族が」

「あぁ、後ろに(+++)が付いてましたね~」

 

種族詳細

<人(+++)>

お前いい加減にしろ? どこの世界に巨大化したり神気を吸収して貯め込む人族がいるって言うんだ?

そりゃね、異世界には神力や神気を持った人型の存在もいるよ? でもそいつら基本デミゴッドとか神人とか亜神とか神の依り代とかだから。只人(ただびと)がその領域に達したら仙人とかの別種族だから。

何で「人」なんだよ、何度計測し直して分析し直しても「人」って観測結果しか出ないっておかしいだろう。神聖器生み出してるんじゃないよ、意味分からんわ。

もうね、嫌。これからはとんでも現象を起こしても明確に種族が変わるまで<人(+++)>だから。ふざけんなよ!!

 

「・・・システムさん、ブチギレてましたね」

「そうね、私もこれまで様々なステータスを見て来たけど、ステータス結果が文句って初めて見たわよ。システムに感情が芽生えているっていう明確な証拠じゃない。

これも**#@様に報告しなくちゃいけないんだけど、今お忙しいのよね。あぁ、気が重い」

 

思わずハハハと乾いた笑いを浮かべる俺とあなた様。

 

「どうします、アレだったら自己領域の居酒屋ケビンによって行きます? あそこなら一杯飲んでからでも直ぐに帰れますけど」

「ウグッ、そうしたいのはやまやまなんだけど、あの扉の出口って職場の慰安室に設置されてるのよ。

飲んで帰ったら**#@様にモロバレ、何を言われるか分からないのよね。

普段だったら多少のお目こぼしがあるかもだけど、今日はね」

 

「ですよね~」という俺の言葉にガックリ肩を落とすあなた様。

その後あなた様をポンポコ山のお店屋さんにご案内して土産物を購入したり村の食堂に連れて行って食事をおごったりして、最後にいつもの壺のカクテルをお渡ししてから幌馬車を準備。ゴルド村までの道を途中まで進んだところでお別れしたのでございました。

 

そんで村に帰ると何故か俺が妊娠中の新妻を放置して浮気したという噂がですね。浮気相手は美人シスター、二人の仲は相当に親密ってどこの女性週刊誌?

「「ケビン、ちょっとお話が」」ってアナさんにケイト、ちょっと待って、冷静になろう冷静に。

背後に巨大な狼の幻影が二体ですね、目茶苦茶荒ぶっておられるんですけど!?

 

その後実験農場の畑脇の小屋から聞こえる叫び声に、“ご主人様もお盛んでいらっしゃるから”とにこやかに微笑む、ワイルドウッド男爵家使用人一同なのでありました。

 

俺は無実だ~~~~!!

byケビン




本日一話目です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。