転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第667話 辺境男爵、従業員の要望を叶える

若さ、それは恐れを知らぬ事。青春、それは若さと社会との狭間で悩み苦しむ事。

・・・クゥ~~~~、昨夜はいいもの見たわ~。

生徒の実習を監督すると言う名目で学園内の林の中で行われた野営実習を陰から見守っていたんですけどね。リリアーナさんとバルド君、苦悩したり開き直ったり、スゲー青春してやんの。

出歯亀ゲフンゲフン、バルド君とリリアーナさんの恋を見守る会の皆様がスニーキングミッションを行う中、いい感じの雰囲気になった二人が将来の事を話し合って、あわや別れ話になるのかって所でバルド君が根性見せましてね?

あの己の弱さを前面に出した魂の告白、いいわ~、あれいいわ~。

ついつい格好付けてダダ滑りする世の男性に見せてやりたい。

やっぱりね、本心は言葉にしないと伝わらないんですわ。そりゃ中にはロマンを求める女性も多いでしょうけどね、リリアーナさんはじめ周囲で見守っていた女性陣の母性本能擽りまくりっていうね。

 

バルド君、ガタイが大きいし頼れる男って感じの偉丈夫だし、顔付も悪くないし。そんな男性が駄々っ子みたいに縋りついてくればね~、悪い気はしないんじゃないのかな?

リリアーナさん、しょうがないわねって感じですっかり姉さん女房みたいになっちゃってるし。

オーディエンスが大盛り上がり、如何に二人の仲を取り持つのかって事で相談始めてるっていうね。

って言うか貴族家の保護者様方までいたのね。気持ちは分かるけども。

 

あれだけの大人数でありながら盛り上がるお二人に一切その存在を悟らせない見守る会の方々、君たちは一体どこに向かっているのかな? 王都学園の闇って深いな。(遠い目)

 

まぁそんなこんなで学園内の野営実習を終えた翌日、何食わぬ顔でお二人の前に顔を出して講師らしいそれっぽいお話をしてから後片付けを済ませ解散。

お二人は「「ありがとうございました!!」」ととても晴れやかな笑顔で挨拶をしたのち、それぞれの授業準備の為校舎へと戻っていかれました。

 

生活魔法の講座はあくまで趣味の講座ですからね~、翌日の授業は普通にあるんですね~。頑張れ若人。

この実習、学園事務所の見守る会の方々にはとても好評のイベントだったようで、「何かの機会にはまた是非」とお願いされてしまいました。王都学園の関係者、十六夜みたいな方が結構いらっしゃいまして。

まぁこうした学園にはお見合い会場的な意味合いもあるんで気持ちは分からなくもないですけどね。

王都学園の場合上位貴族のご令息ご令嬢が通われている為すでにお相手が決まっている場合がほとんどですが、子爵家以下のお貴族様が通われる他の学園では、割とお相手探しをしている次男三男と言ったご令息や次女三女と言ったご令嬢も多いんだとか。

丁度良い歳の近いお相手が傍にいるという事も難しいですからね、お貴族様は大変ですこと。

 

まぁそんなこんなで楽しいイベントがあった後ではありますが、従業員の皆様から(大福・緑・黄色等)黒鴉だけズルいという要望がですね。

何の話かと言えば例の本部長様提供神気食べ放題事件ですね。時間遅延空間における体感十日間に渡る無限食べ放題、黒鴉先生曰く、“これ程お腹一杯になったのは生まれて初めて”との事。テンション爆上がりで従業員コミュニティーに言いふらしまくったそうなんでございます。

その上ヴィンテージ食材? でもある魔王デビルトレントの亡骸の情報がですね~。

これに反応したのが何でも食べちゃうスライムの大福と悪食代表ビッグワームの緑と黄色、キャロルとマッシュだった訳でございます。

 

そんで現在自己領域の島にですね。学園講師の仕事はいいのか? 今週は既に講義終了、ジェイク君たちの監視は式神ビッグクローと式神アサシンリザードにお任せ。何かあったら連絡が入るようにしております。

 

「さてと、先ずは現物を取り出すんだけど、あなた様のお言葉じゃ核廃棄物並みの危険物質らしいからな~。

収納の腕輪さん、大体の大きさってどれくらい? 幹の太さがミルガルの街くらいってデカすぎない? ヤバいな魔王デビルトレント」

 

俺は考える、デビルトレントをそのまま出すのって邪魔じゃね?と。

 

「収納の腕輪さん、そのデビルトレント、中で枝とか伐採出来たりする? えっ、出来るの? スゲー、収納の腕輪さん超優秀。

それじゃ根っこの方も適当に切り刻んでおいてくれる? それで少し出してもらうって感じで」

俺はマルセル村がすっぽり入るくらいの結界を作り、その中にデビルトレントの枝らや根っこやらを適当に取り出してみるのでした。

 

“ズオズオズオズオズオズオズオズオ”

それは負の感情を煮詰めた濃縮液のような呪いの塊。

見る者を狂気に落とす穢れの具現化。

 

「うわ〜、前世のアルバ、よくこんなもの収納出来たよな~。これって普通に無理じゃね、収納してるだけで精神汚染されるレベルよ?

天上界が封印処理した気持ちが分からなくもない。でもちゃんと処理しようよ~、特級呪物なんてレベルじゃないじゃん、厄災そのものじゃん」

目の前に転がる厄災の塊に呆れた表情になったのは仕方のないことかと。だってこんなの地上人じゃどうにもならないじゃん、ドラゴンブレスで消し炭さえ残らないレベルで消滅処理が必要な代物よ?

 

「<業務連絡:全体:え〜、取り敢えず魔王デビルトレントの遺骸を取り出してみたんだけど、めっちゃヤバイっす。俺の呪われた武器シリーズを全部合わせたよりもヤバイっす。それでもご興味のある方はどうぞ。:出張>」

“ブワーッ”

広がる魔法陣、次々と現れる魔物たち、だが・・・。

 

“““““!? ギャヒンッ!!”””””

“““キュキュキュキューーー!!”””

““グギャ~~~~!!””

「「なっ、グハッ」」

 

ダッシュで逃げ出すグラスウルフ隊の面々、転げ廻る癒し隊の御三方、身を縮こまらせてガタガタ震えるクマ子とクマ吉、地面に倒れ込むダリアとジャスパー。

うん、阿鼻叫喚。結界の向こう側の遺骸を見ただけでこれって、やっぱ相当な代物っていう事ですね。

 

「って言うかボタンとスミレとマリーゴールドはなんで来ちゃったかな~。君たち純粋に癒し要員よ? こういったものに耐性ないのよ?

残月、悪いけどこの三人の応急処置をお願~い」

俺の言葉にササッと動いてくれる残月さん、マジ優秀。月影から俺がバカやらないかどうか様子を見て来いって言われたんですか、それはそれは申し訳ない。

 

“キュキュキュイ”

“クワックワ”

なんですか、紬さんにシャロンさん。葉っぱが食べてみたいんですか?

俺は結界の中を興味深げに見つめる精霊のお二人に、収納の腕輪から葉っぱだけを取り出して差し上げます。

 

““モグモグモグモグ””

“ギュエ~~~~”

“クワックワックワ~~♪”

 

“マズ~~~~イ”と言って渋い顔をなさる紬さんと、“ウマウマ最高~~♪”と大喜びのシャロン。

光属性と風属性が強い紬さんにとっては闇属性呪いブレンドのデビルトレントはお口に合わなかったご様子、対して元が闇属性のドラゴンゾンビだったシャロンにとっては目茶苦茶旨いご馳走だったようです。

 

ブラッキーは超ビビってますね、太郎はそこまででもないと。でも枝や葉っぱを食べるのはちょっとって感じでしょうか。

そこで俺は丸太程度のサイズの枝を出して貰い、収納の腕輪から三振りの魔剣を取り出します。

 

「よし、お前たち。この丸太から呪い成分だけ吸い取ってみてくれるか? 闇属性魔力はそのままでいいから」

俺からの呼び掛けに嬉し気にカタカタ音を鳴らす魔剣たち。魔剣たちはフヨフヨ浮きながら丸太に近付くや、思い思いに“呪い”を吸い込み始めます。

呪われたサーベルとショートソードとロングソード、呪いの専門家たちはその扱いにもたけているようで、変わらない吸引力で呪いを吸い取っていかれます。周囲の呪いを取り込みより強力な呪具になるっていうのは呪われた魔剣のお約束なんだろうか?

俺は再び収納の腕輪から一振りの黒鞘の直刀を取り出します。

 

「黒鴉、ちょっと聞きたいんだけど、あのサーベルとショートソードに名前とかってあるの? なんやかんやと働いて貰ってるからちゃんと名前で呼んだ方がいいかなと思ったんだけど」

 “フヨフヨフヨ、カタカタカタ”

俺の問い掛けにフヨフヨ浮きながら返事をする魔剣黒鴉。

 

「へ~、サーベルが“ブラッディ・クイーン”でショートソードが“腐乱剣”って言うんだ。何か曰くがある名前なのかな?

でもな~、腐乱剣って、確かに周りを腐らす魔剣だけども。お~い、腐乱剣~、ちょっとこっちに来てくれる?」

俺の呼び掛けに“なんです旦那~”とばかりに寄ってくる“腐乱剣”。

 

「お楽しみのところ悪いね。今黒鴉からお前たちの名前が“ブラッディ・クイーン”と“腐乱剣”だって聞いてね。

腐乱剣って名前はどうかなと。いや、お前が気に入ってるって言うんならいいんだけど、これからお前には味噌や醤油の発酵、酒の発酵っていうお前の特技を生かした仕事を手伝って貰いたいなって思ってるんだよ。

難しい仕事だって事は分かってるよ? 発酵と腐敗は現象としては同じでも結果が異なるからね。お前はこれまでその辺を全く考えずに力を振るってきたわけだし。

俺はお前にそういった発酵食品の職人になって貰いたい訳なんですよ。

でね、そんな思いも込めまして、“匠”って名前はどうかなと。

お前が呪われた魔剣って立場に誇りを持っているのなら無理にとは言わないんだけど」

 

“カタカタカタカタカタカタ!!”

「えっ、いいの? 存在意義が変わっちゃうかもしれないけど、名前って結構大事なのよ?

まぁいいって言うのならこちらからお願いしたいくらいなんでやっちゃいますね? <名付け:匠>」

 

“プワ~~~”

全体に光り輝き自身の存在を主張する魔剣匠。先程まで纏っていたはずの負の気配が消失し、どこか清廉な空気すら纏っているような・・・。

ブラッディ・クイーンと闇喰らいが、“私たちのご飯が消えちゃったんですけどー!!”って抗議の声をですね~。

 

「黒鴉、これって一体? 反転しちゃったの? 発酵職人になっちゃったってマジ? 凄いな匠」

俺の前にはフヨフヨ浮きながら“任せてくだせい、旦那!!”と気合を入れる魔剣匠の姿。うん、<名付け>って結構ヤバいかも。

 

「悪い匠、折角呪いを食べてたのに何か性質変化させちゃって。これじゃ今までみたいに呪いを食べる事は・・・それは平気だと、お腹が減ったから何か食べたいと。

お、おう。分かった。ちょっと待っててな」

 

俺は一度匠に断りを入れてから、呪い抜きをして貰っていた丸太のような枝に近付きます。うん、余計な濁り成分が抜けた闇属性魔力たっぷりの枝ですね。

俺は黒鴉を鞘から抜くや、適当な長さにスパスパと切り分けます。

 

「太郎、ブラッキー、これ、齧り棒にどうかと思って。お前たちは闇属性の性質持ちだから世界樹の枝よりこっちの方が合うんじゃないかなとね」

 

““クンクンクン、カジッ、カジカジカジカジ♪””

御二方ともどうやらお気に召して下さったようです。

 

「はい、大体様子は分かりましたね。この結界内にはこちらにお出ししたデビルトレントの枝やら根っこやらを適当に切ったものが山積みになっております。

中に入って食べたい人!!」

 

“ポヨンポヨンポヨンポヨン!!”

“““““クワックワックワックワ!!”””””

““““カタカタカタカタ♪””””

 

名乗りを上げたのは大福・緑・黄色・キャロル・マッシュ・シャロンの六名と四振りの魔剣たち。他の方々は・・・うん、無理っすね、何か具合が悪くなっておられますもんね。

俺は悪食の皆さんを結界内に送り出すと、残りの方々に世界樹の葉を与え回復を図ります。

いくら魔物は魔力が大好きと言っても限度がありますしね、天上界の御方々はこんなものを取っておいてどうしようと思ったのでしょうか?

俺は深く首を捻りつつ、世界樹の葉を夢中で頬張る皆さんに“天使の微笑み”(光属性魔力マシマシ蜂蜜ウォーター)の入った甕を配って歩くのでした。




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