転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第668話 転生勇者、禁足地に赴く

王都には昔から幾つかの禁足地とされる場所がある。

初代国王バルセリア・グラン・オーランド陛下の墓所“バルセリア霊廟”。

初代国王陛下の眠るオーランド王国において最も神聖な場所であり、少数の墓守と王族でも国王陛下、王妃殿下、王太子殿下しか近付くことが許されない聖地である。

 

“アーメリア別邸”。悲劇の王妃アーメリア・ウル・オーランド妃が晩年を過ごされたとされる貴族街の屋敷。未だ浮かばれぬアーメリア王妃の御霊が彷徨い、屋敷を取り壊そうとした者はアーメリア王妃の呪いにより悉く命を落としたと言われている。

 

“商人街の悪夢”。王都の高級住宅街、商人街の一角にある商家屋敷。

その家の持ち主である商人一家並びに使用人全員が惨殺されるという痛ましい事件があって以降呪われた屋敷となったそこは、この世を呪う怨霊が生き血を求め彷徨い出る決して足を踏み入れてはいけない異界と化したと言われている。

 

これら三カ所は王都三大禁足地と呼ばれ、決して近づいてはいけない場所として王都民に畏れられている。

注:“バルセリア霊廟”に許可なく近寄る事は王国法により固く禁じられています。

“アーメリア別邸”は貴族街にあるため一般庶民の出入りは禁じられているほか、教会により管理されています。建物は王家の所有物であるので見学は控えましょう。

“商人街の悪夢”は一般住居ですが、所有者のある私有地です。近隣住民の迷惑になるため、敷地内に侵入する事はお控えください。

尚、これらの禁足地に足を踏み入れ何らかの問題が発生したとしても、当方は一切の責任を負いかねますことをご了承ください。

<「王都の噂・夏の特集号」より抜粋>

 

 

「ジェイク、付き合ってくれないか」

本格的な夏を迎え、講堂の生徒達も暑さにバテたといった顔をし始めた今日この頃、遂に友人のアルジミールが熱中症に(かか)ったようだ。

 

「ライオネス、鍋に湯を沸かし黒糖を溶かし入れ、岩塩を少量加えて味を調えたものを井戸水で冷やして飲ませてやってくれ。

あと濡らした布を首筋や脇の下、股間部分にあてがう事で体内の熱を放出し易くし、妄言や幻覚症状を改善する事が「ちょっと待てジェイク、お前はさっきから一体何の話をしているんだ?」・・・暑さに頭がやられてしまったアルジミールの対処法?

アルジミールは色々と疲れているもんな、体調管理が疎かになってしまっても仕方がない」

 

俺はアルジミールの肩にポンッと手を乗せ、慈愛の籠った瞳で見詰めます。

だからそこの女子生徒、コソコソ噂話をするんじゃない。

「男子同士の禁断の友情?」「勇者ジェイクは全ての常識を破壊するって本当だったのね。キャ~~~」ってやめろ~~!! マジで止めて、本当、お願いします!!

 

「ん? いや、別に俺はおかしくなんかなっていないからな? まぁ、ある意味おかしくなりたくないからジェイクに助けを求めに来たんだがな」

何か不穏な事を言い始めるアルジミール。俺の脳裏を先日のある事件がよぎります。

 

「・・・王城には行かないからな。アルジミールには悪いがあそこはちょっと」

前回アルジミールにお願い(あっ、思い出したら腹立ってきた。この野郎紛らわしい真似しやがって、男の純情を返せ!!)されて向かった王城。王宮内のスライム庭園と呼ばれる場所でフレアリーズ第五王女殿下主催のお茶会(スライム交流会)に参加した際、結構な面倒事に巻き込まれたんだよな~。

あわや国を割っての内戦になりかけたって言うね、洒落にならんからマジで。ですんで俺にとって王城は鬼門なのでございます。

 

「あぁ、大丈夫だ、王城に一緒に行ってくれという話じゃないんだ。それにカルメリア第四王女殿下は現在スロバニア王国に外交視察に向かわれていて王城にはおられない。

ジェイクの心配するような事は起きないから安心しろ」

 

アルジミールの言葉に目を見開いて驚く俺氏。

 

「へっ? あの王女様、スロバニア王国に行ってるの? それってもしかしなくても婚姻外交の為のお見合い絡みだよね? 何でアルジミールがオーランド王国の外交に関わるような情報を知ってるのさ」

俺の質問に途端渋い顔になるアルジミール。

 

「一度打診されたからだよ」

「何を?」

 

「カルメリア第四王女殿下とのお見合いをだよ。第四王女殿下がスロバニア王国に向かい、そこで幾人かのお見合い候補と顔合わせをする際、俺にも参加して欲しいという話が上がっていたんだよ。

何でもオーランド王国王家上層部では前回の俺の立ち回りが高く評価されたらしくてな、カルメリア第四王女殿下の婚約者候補筆頭に上がっていたらしい」

そう言い机に両手を突き項垂れるアルジミール。

そうか~、アルジミールは年上女房を貰うのか~。しかもお相手はカルメリア第四王女殿下、自分を曲げず他人の話を聞かない芯の通った女性。

 

「・・・アルジミール、何の手助けも出来ないけど、頑張れ」

俺はアルジミールの健康と幸せを願い女神様に深い祈りを捧げ「行かないからな? 今ここにいる事がお見合いに参加しない証拠だからな」・・・大丈夫だったみたいです。

 

「それじゃなに、特に何の問題もないんだろう?」

「そっちはな、ただ別の問題が上がってな。俺がカルメリア第四王女殿下とのお見合いに参加しないで済んだ理由ってのが、フレアリーズ第五王女殿下がご自身のお見合い候補として俺の事を強く推薦して下さったからだったんだよ」

 

アルジミールの言葉にサッとライオネスの方を向く俺たち。そこにはニヤリと悪い笑みを浮かべるライオネスの姿。

こいつやりやがったよ、ヘレン先輩と結託して裏工作しまくりやがったよ。

スロバニア王国に残る顔だけ第三王子と頭お花畑公爵子息にカルメリア第四王女殿下を押し付けて、自らの主人とフレアリーズ第五王女殿下の仲を確実なものにしやがりましたよ。

ライオネス、恐ろしい子。

 

「まぁ立場上俺には選択権なんかない訳だし、あの現場にいた人間としてはカルメリア第四王女殿下とフレアリーズ第五王女殿下のどちらがいいと聞かれれば考えるまでもないんだけどな。

ただ、フレアリーズ殿下が俺の事を“アーリー様に紹介したい”って言い出してな」

 

貴族家同士の婚姻に於いて本人同士に初めから良好な感情が芽生える事は稀である。何も知らない者同士が家と家との絆になるべく婚姻関係を結ぶ。共に生活を送る中で愛情を育み、子供を育て、笑顔溢れる家庭を築く事が出来れば幸いであり、白い婚姻と呼ばれる程互いに距離が出来てしまう事などざらにあるのが貴族家における婚姻の実情であった。

 

「そうか、もうそこまで話が進んでいるのか。アルジミール、おめでとう。

俺たちもアルジミールが幸せになってくれることは素直にうれしいよ。

それじゃそういう事で、“アーリー様”にはよろしくお伝えくださ“ガシッ”・・・。

アルジミール君、その手を放して貰えると嬉しいかな?」

 

「ジェイク、俺たち友達だよね、友達を見捨てたりしないよね?」

「は~な~せ~、友達を道連れにしようとするな~~~!!

アーリー様って、あのアーリー様だろうが!! 俺まだ死にたくないの、無理無理無理無理」

 

王都三大禁足地の一つ、“アーメリア別邸”。そこは教会が管理を行っている、貴族街にある王家所有の屋敷である。

一般人はおろか高位貴族家の者であっても許可なく訪れる事の出来ないその場所ではあるが、唯一訪れる事の出来る方法がある。

それは王家の者の供として訪れる事。

くしくもその供に選ばれたアルジミール、そしてそのアルジミールに同行を求められたジェイクたちマルセル村若者軍団。

果たして彼らが無事生還できるのか、それは女神様だけが知る未来なのであった。

 

—――――――――

 

“ガタガタガタガタ”

朝の王都学園正門前。門番詰め所前で立ち話をしている俺たちの前にやって来たのは二台の馬車。

 

「やぁ、ジェイク、ジミー、エミリー嬢、フィリー嬢、おはよう」

馬車から降り笑顔で声を掛けてきたのは俺たちを王都の地獄に引き摺り込もうとする悪魔、アルジミール。

 

「おはようございます皆さん、本日はよろしくお願いしますね」

後から馬車を降りニコリと笑顔を向けられるのはフレアリーズ第五王女殿下。俺たちは一斉に頭を垂れ、臣下の礼を取ります。

ここは学園の外、学園内のような馴れ馴れしい態度をとる事は、この国全ての貴族を敵に回す事に他なりません。

 

「皆さんお顔をお上げください。それと本日は王都学園の先輩として後輩の皆さんをお招きするのですから、皆さんももっと気楽に願います。

私の事はフレアリーズ先輩と呼んでくださいね?」

そう言い花の様な笑顔を向けられるフレアリーズ第五王女殿下。

・・・誰か助けて。

 

「フレアリーズ殿下、その願いは人目のある往来では彼らの立場上少々難しいかと。向こうの屋敷に着けば外部の目もありません、そこでなら彼らも殿下の望みに沿ってくれるものかと」

アルジミールの口添えに「そうですか、でしたら無理強いはいけませんね」と前言を撤回して下さるフレアリーズ第五王女殿下。

アルジミール、ナイスインターセプトだ!!

これ以上この場に(とど)まるのは危険と判断した俺たちは急ぎ馬車に乗り込むと、御者の合図のもと、目的地のある貴族街へと馬車を走らせるのでした。(俺とエミリーはアルジミールとフレアリーズ第五王女殿下の乗る馬車に乗せられました。アルジミールってこういうところ抜け目ないよな~)

 

“ガタガタガタガタ”

馬車に揺られること暫し、車内でフレアリーズ先輩のスライム談義を聞かされた俺とエミリーはアルジミールにやや同情しながらも、ケビンお兄ちゃんやジニー師匠となら話が合いそうだなと思いつつ窓の外に目を向けます。

そこは大きなお屋敷の並ぶ貴族街、それも高位貴族と呼ばれる方々の庭の広く取られた御屋敷が立ち並ぶ区画、俺の人生では一生縁がないと思っていた場所でした。

 

「ジェイク君、なんか凄く立派な御屋敷だね」

「そうだな。俺たちの人生では一生縁がないような豪邸ばっかりだな」

 

「あぁ、ジミーたちはあまりこの辺は来たことがなかったのか。この辺りは所謂中央貴族と呼ばれる家の屋敷が固まっているあたりだからな。

グロリア辺境伯家の王都屋敷は少し離れているし、知らなくても無理はない。テレンザ侯爵家王都屋敷も少し離れているしな」

透かさず答えるアルジミールに感心する俺たち。オーランド王国に留学する際に、オーランド王国の重要施設の名称や街の名前といった事は頭に入れてきたのだとか。

「特に貴族街は何かと問題になりそうだったんで重点的に勉強して来たんだよ」との言葉に、驚きの声を上げる。

 

「アルジミールってやっぱりすごいんだね」

「そうだね、外交のお仕事でやって来たのはそれだけ信頼されての事なんだろうね」

 

俺たちの会話に「よせやい、そんなに立派なものじゃないって」と謙遜するアルジミール。フレアリーズ先輩はそんな俺たちの会話をにこにことした笑顔で見守ります。

こうしてみると年上の余裕ある女性って感じなんだけどな~、スライムマニアなんだよな~。この雰囲気と“スライム愛でる姫”とのギャップがフレアリーズ先輩の魅力なのでしょう。

 

“ガタガタガタ、ガチャリ”

到着したのは立派な門構えの御屋敷、門前には警備の門番が二人立たれています。そしてその脇には・・・。

 

「「「「はぁ!? ケビンお兄ちゃん? 何でケビンお兄ちゃんがこんな所に」」」」

それはマルセル村の理不尽、ケビンお兄ちゃんの姿なのでした。




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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