転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第669話 転生勇者、禁足地に赴く (2)

“アーメリア別邸”。悲劇の王妃アーメリア・ウル・オーランド妃が晩年を過ごされたとされる貴族街の屋敷。

そんな御屋敷の前に佇むよく見知った人物。

 

「フレアリーズ第五王女殿下、本日はご同行を許可いただき感謝の念に堪えません。どうぞよろしくお願いします」

胸に手を当て臣下の礼をするホーンラビット伯爵家騎士、ケビン・ワイルドウッド男爵。

 

「はい、話はベルツシュタイン卿の書簡を通じ伺っています。

ワイルドウッド男爵には私のスライムたちの件で大変世話になりましたし、これくらいの事でしたらお気になさらずに。

それに後輩のジミー・ドラゴンロードとは実の兄弟であるとか、ジミー君とは学園でとても親しくさせていただいているのですよ?」

「そのお言葉、身に余る光栄にございます。弟ジミーの事を含め、深く感謝申し上げます」

 

何かフレアリーズ先輩と約束を取りつけていたような? 相手は王女様よ? 凄いなケビンお兄ちゃん。

 

「それでは参りましょう」と言うフレアリーズ先輩の言葉と共にお屋敷の門を潜るケビンお兄ちゃんと執事さん、俺たちはその後ろを追い掛けます。

ってケビンお兄ちゃん、その執事さんは不味いんじゃないの? ジェームスさんがどうのって言うより、ここってアレな場所だし!!

 

焦る俺の様子に気が付き額に手を当てるジミーとエミリーとフィリー。そんな俺たちに訝しみの視線を送るアルジミールたち。

 

「なぁジミー、あの人って確かお前のお兄さんだよな? こないだの王城の騒ぎの時にいた。

なんかスライムの専門家みたいな感じだったと記憶しているんだけど、何でそんな人がここにいるんだ?」

アルジミールの疑問は至極もっとも。でもな~、ケビンお兄ちゃんだからな~。多分凄く下らない理由でここにいるんだろうな~。

 

「推測でいいのなら話すが、呆れるなよ? 多分だが王都三大禁足地の一つである“アーメリア別邸”に来てみたかったってだけじゃないのか?

前に第四王子の側近の一人ピエールが話しているのを聞いた事があるんだが、ここ“アーメリア別邸”は王家にまつわる地として教会が管理を行っているとか。そんな場所に一地方貴族である男爵が訪れる事など普通に考えればあり得ないし許されない。

ではどうすればこの場所に来れるのか、それはこの場所に訪れる事を許された人物に同行を願い出ればいい。

 

ケビンお兄ちゃんはどういう訳か人脈が広くてな、王都諜報組織“影”の総帥ハインリッヒ・ベルツシュタイン伯爵閣下と懇意にさせていただいているんだ。

こないだ王城に姿を現す事が出来たのも、ベルツシュタイン伯爵閣下に付き従うというかたちで王城に入ることが許された結果だしな。

恐らくだがこないだの件を無事に収めた報酬として“アーメリア別邸”の見学がしたいとでも申し出たんじゃないのか? それでフレアリーズ先輩はベルツシュタイン伯爵閣下の願いを了承した。

フレアリーズ先輩としてはこの前のスライムの一件もあるし、あわよくばスライム談義の一つでもしたいといったところだと思うけどな」

 

ジミーの言葉になるほどと納得する一同。

それにしても己の好奇心を満たす為だけに王家の者を動かすケビンお兄ちゃん、その行動力、半端ないです。

 

「なるほど、そういう事なら話は分かった。

でもさっきジミーたちが額に手を当てて“駄目だこりゃ”みたいな顔をしてたのはなんでなんだ?

方法はまぁ常識外れではあるが、ジミーのお兄さんはちゃんと正規の手続きを踏んでこの場にいるんだろう?」

 

あ~、うん、まぁそうだよね。普通は頭を抱えるような場面じゃないよね。

 

「う~ん、何っていったらいいのか。ケビンお兄ちゃんの常識外れはアルジミールが思っている遥か彼方だからな。

簡単な例を挙げると、王都三大禁足地の一つ“商人街の悪夢”と呼ばれる商家屋敷があるだろう? そこの現在の持ち主がケビンお兄ちゃんだ。

不動産商会で売りに出されていたものを購入したらしい。

更に言えば荒れ放題だった屋敷を綺麗に整備し直して、王都に来た際の拠点にしているとの事だ」

 

「はぁ? いや、はぁ!? イヤイヤイヤ、えっ? “商人街の悪夢”ってあの“商人街の悪夢”だよな?

その屋敷を購入した者は次々と非業の死を遂げるだの、訪れた者たちに亡霊が襲い掛かるだのと噂される。

ジミーのお兄さん、頭大丈夫か? さっきからの話を聞いている感じだと知らずに購入したって事じゃないんだよな?」

 

まぁ普通はそう思うよな~。わざわざ危険を承知でそんな事故物件を購入するような物好きはいないって。

でもな~、ケビンお兄ちゃん、勇者病<仮性>重症患者だから、しかも末期の。

 

「もちろん知ってて購入したんだと思うぞ? アルジミールも知っての通りホーンラビット伯爵家は先の戦争で急に有名になった田舎貴族だ、その家臣であるワイルドウッド男爵家が王都に屋敷を購入したとなれば普通に大騒ぎになる。

しつこい夜会への誘いやら何かの勧誘やらな。

 

でもその屋敷が王都三大禁足地の一つである“商人街の悪夢”と呼ばれる商家屋敷だったらどうなる? 下手な連中の接触は減ると思わないか?

それでもしつこく食い下がった場合どうなるのか、“商人街の悪夢”は未だ収まっていないらしいぞ?」

 

ジミーの話に顔を引き攣らせるアルジミール。今まさに三大禁足地の一つである“アーメリア別邸”にいながら別の禁足地の話を聞かされたら誰だってそうなるよね、でもジミーの話って嘘偽りない真実だから、その証拠が目の前で歩いているから。

この話はなるべく言わないでおいてあげよう、アルジミールの精神衛生上宜しくないしね。

 

「アーリー様、お久し振りでございます、フレアリーズです」

 

そこは美しい庭園であった。三方を建物に囲まれた中庭のようなそこには美しい花々が咲き、庭の中央に備えられた噴水から飛び出した飛沫が、陽光に照らされキラキラと輝いている。

 

“あら、おチビちゃんじゃない。今日は大勢を連れてどうしたのかしら?”

それは何処からともなく聞こえる声音、まるで周囲を取り囲まれたかのような重圧が中庭全体に立ち込める。

 

「はい、この前お話しした婚約者候補のアルジミール様をご紹介しようと思いまして。こちらの方々はアルジミール様のご友人で私の後輩たちです」

そう言い花壇の向こう側の暗闇に向かい俺たちの事を紹介するフレアリーズ先輩。俺たちは皆してその暗闇に向かい会釈します。

アルジミールとライオネスはどうしたのか? 目茶苦茶顔を引き攣らせていますが何か? 若干震えているのは武者震いという事で、なにと戦うのかは知りませんが。

因みにヘレン先輩とメイド様方は中庭に来る前に、「御茶の準備がございますので」と言って台所に向かわれてしまいました。

・・・うん、逃げたね。

 

“そう、それではそちらの二人は?”

「はい、私のスライムについてご相談に乗って下さったケビン・ワイルドウッド男爵様です。今日は連れてきていませんが、ワイルドウッド男爵様のお陰でスライムちゃん達が凄く頭のいいスライムちゃんになって。

それぞれ名前も付けたんですよ? オニキスちゃんとトパーズちゃん、それにフレンズちゃんっていうんです」

 

楽しそうに言葉を向けるフレアリーズ先輩にしばらく沈黙する暗闇。

 

“おチビちゃんのスライムはもっとたくさんいなかったかしら? この庭で捕まえたスライムだけでも十五体は超えていたと思うのだけど?”

「聞いて下さいよ、それがですね、スライムちゃん達が合体して大きなスライムちゃんになっちゃって、ボヨンボヨンってしていてお昼寝に最高なんです!!」

 

スライムの事を聞かれ興奮気味に説明するも、フレアリーズ先輩の言葉が支離滅裂で意味が分からないといった雰囲気を纏う暗闇。

あ~、うん。暗闇、もといアーメリア様、結構苦労なさったんだろうな~。

“スライムを愛でる姫”はきっと幼少期からずっとこんな調子だったのでしょう、そりゃ怨霊も調子が狂うわな。

 

“ズオズオズオズオ”

暗闇が怨念を引き摺りながら中庭の暗がりからやってくる。周囲の闇が蠢き、一人の女性の姿を形作(かたちづく)る。

 

“皆さんごきげんよう、私はアーメリア、この屋敷の主。

フレアリーズの友人であるというのなら歓迎しましょう、なにもない所だけどゆっくりしていきなさい”

そう言いニコリと微笑まれるアーメリア様、その光景に同じくニコリと微笑まれるフレアリーズ様といまにも限界を迎えそうなアルジミールとライオネス。

 

「ふむ、なるほど。ジェームスはどう見る?」

「そうですね、怨霊の雰囲気を(よそお)われているようですが、どうも違うような感じがいたします」

 

「だよな~、あまりにも理性があると言うか安定し過ぎている。

怨霊というものはもっと我を見失っているか、何かの目的に執着しているか。中には依り代を得る事で違う形を手に入れたモノもいるが、そういったモノは例外中の例外、所謂ネームドモンスターのような存在だからな。

これは何かを守っている? 役目を持った存在? そうした部類なんじゃないのか?」

 

脇ではケビンお兄ちゃんとジェームスさんが何やらアーメリア様の事について意見を交わし合っています。現役の死霊とその雇用主の会話、無茶苦茶説得力があって怖い。

 

「失礼します。一つご質問を宜しいでしょうか?」

声を掛けたのはケビンお兄ちゃん、アーメリア様は怪訝な表情で、フレアリーズ先輩は興味深げといったお顔でケビンお兄ちゃんに視線を向けられます。

 

“許します、何か聞きたい事でも?”

「質問の許可、心より感謝を。単刀直入にお聞きいたします、アーメリア様は一体何を守られておられるのでしょうか?

いえ、これは言い方が違いますか、一体何を封じられておられるのでしょうか?」

 

“ブワッ”

途端中庭全体を濃厚な闇の気配が包み込む。それは死、何者をも許さない絶対的な死の気配が、その場の者たちを縛り付ける。

フレアリーズ先輩は驚きに顔を歪めその場に膝を突き身を震わせ、アルジミールとライオネスは・・・惜しい友をなくしたようです。

念のために言うと死んでませんよ、ただ下半身が大変な事に。

幸い今は意識を失っているみたいですけど、これってトラウマものだよな~。頑張れ、侯爵子息とその従者!!

 

“ふむ、お前は一体何を知っている? 素直に答えた方が身のためだと思うが”

絶対零度の視線を向けるアーメリア様。対してケビンお兄ちゃんはいつもと変わらぬ態度で質問に答えます。

 

「そうですね、何かを知っていると言うよりも、違和感を覚えたと言った方がよいでしょうか。

まず最初の違和感は王家ゆかりの地であるここ“アーメリア別邸”の存在そのものです。

悲劇の王妃アーメリア・ウル・オーランド妃が晩年を過ごされたとされる貴族街の屋敷。未だ浮かばれぬアーメリア王妃の御霊が彷徨い、屋敷を取り壊そうとした者はアーメリア王妃の呪いにより悉く命を落とす。

これは王都民であれば誰しもが知る王都三大禁足地にまつわる噂の一つです。

ですがまずこれ自体がおかしい。

 

王家にとって身内の者が怨霊と化して彷徨い続けているという話が語られ続けるなど、醜聞以外の何物でもない。ですがこの噂は街の子供ですら知っており、母親は子供を りつける時に「悪い事ばかりしているとアーメリア様に連れて行かれちゃうよ」などと言う始末。

このような王家の威信を傷付けるような噂が何故放置されているのか?

それが事実だから? 果たしてそうでしょうか? 王家の力を以ってすれば大量に人員を投入してこの屋敷を取り壊す事など容易、その際どれだけの犠牲が出ようと後で何とでもいい訳が効くのが王家というものです。

 

次に実際にアーメリア様にお会いしての印象です。確かに濃厚な闇属性魔力を纏われておられますが、呪いを振り撒く怨霊や死霊というものはそうしたものではありません。

もっとドス黒く、この世の全てを妬み恨み引き摺り下ろそうとする醜悪で醜い存在、それが怨霊であり死霊というものです。

アーメリア様のそれは闇属性魔力の扱いに長けた闇属性魔力特化型魔導士の在り様に非常に近いのです。

 

私は過去に自らをリッチエンペラーと名乗る厄災級の魔物と遭遇した事があります。その者はあり得ない程の濃厚な闇属性魔力を纏い、呪いを具現化したような存在であった。

ですがその後縁あって手に入れた呪われた魔剣や特級呪物とでも表現すべき呪いの塊を見て思ったのです、呪いとは人の思いであり願いの塊であると。

人の持つ負の感情が産みだした闇属性魔力の一形態、それが呪いであると。

確かにリッチエンペラーは強大な魔物であった、ですが果たしてあれは呪いそのものであると言えたのだろうかと。

 

そうした点と点を繋ぎ合わせて考えた時見えてきた答え、それが先ほどの質問です。

王家は呪われた屋敷の噂を消せなかったんじゃない、わざと広め残しているのではないか。“アーメリア別邸”を管理する教会関係者は、アーメリア様を監視する名目で別の使命を帯びているのではないか。

アーメリア様は怨霊や死霊の類ではない、自らの意思でこの世に留まり続けている英霊の類なのではないのか。

 

恐らくですが生前は優れた闇属性魔力の使い手であったものかと。

闇属性魔力の特性は“停滞”と“固定”、この世に留まり続ける呪法を行使するのにこれ以上適した属性はありませんから」

 

出た、ケビンお兄ちゃんの謎理論。何でそんな事をたったこれだけの時間で考え付くのさ、意味が分かんないんだけど?

 

「「「「ケビンお兄ちゃんは、やっぱりケビンお兄ちゃんだよ」」」」

 

俺たちは座り込むフレアリーズ先輩と気絶するアルジミールとライオネスを回収し(御三方にはエミリーがクリーンの魔法を入念に施しました)、未だ緊張の続くアーメリア様とケビンお兄ちゃんをそのままに、フィリーの施した結界内に避難するのでした。




本日一話目です。
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