転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第675話 辺境男爵子息、家に向かう (2)

「ケビン、わざわざすまなかったな。農繁期で忙しかった事もあるが、いくら親戚筋に当たるとはいえ男爵である俺が無暗矢鱈に伯爵邸に向かうのは憚られたものでな。

どうもああしたお屋敷というものは敷居が高いというか、尻の座りが悪くてな」

 

そう言い申し訳なさそうに頬を掻くヘンリーお爺ちゃん。

 

「パトリシアさんもごめんなさいね。私達ってば根っからの平民なものだから、お貴族様の御屋敷と聞くと腰が引けちゃって。

それでも前の仮本邸の頃だったらそうでもなかったんだけど、今の御屋敷は本当にご立派でしょう?

村の用があれば別だけど、孫に会いたいってだけだとちょっとね。これが遠方に住んでいるのならまだしも、同じ村の中のご近所さんでしょう? 直ぐに会えると思っちゃうと中々ね。

それにミッシェルが何かしちゃったら大変じゃない?」

 

そう言い今は大きな卵の上に座り空中をプカプカ浮いているミッシェルお姉ちゃんに目を向けるメアリーお婆ちゃん。

ミッシェルお姉ちゃんは我関せずといった顔で泰然としているけど、それって三歳の子供の表情じゃないと思うのは僕だけ?

いや、前世の記憶を引き継いでいる僕が言うのもなんだけど、ミッシェルお姉ちゃん、物凄く変だと思うよ?

 

僕はそんなミッシェルお姉ちゃんを眺めながら、ハッと何かに気が付いたようにお父さんに目を向けます。

 

「ん? あぁ、残念。ミッシェルお姉ちゃんはただの変わった子です。まぁこの歳で確り自我が確立している子供をただの変わった子扱いしていいのかって話もあるけど、本当にただ変わっているってだけだから。

その辺はあまり気にしなくていいと思うぞ?

アルバは頼りになるお姉ちゃんが出来たくらいに思っていてください。

それとミッシェルお姉ちゃんの乗っている卵はエッガードね。エッガード、この子は俺の子でアルバ、そのうちお前の世話になるかもしれないから、その時はよろしく。

ミッシェルちゃん、霊亀を連れて来てくれる?」

 

お父さんの言葉に「うん、分かった!!」と言ってその場を離れるミッシェルお姉ちゃん。

 

“ノッソ、ノッソ、ノッソ、ノッソ”

待つこと暫し、何か大きなモノが歩いてくる足音に顔を向ける。

・・・大きな身体、お父さんの背丈程の大きな甲羅を持ち、ノソノソとこちらに向かって来る巨大な亀の魔物。

ロックタートル!? それにしては顔付きが鋭いというか、まるで伝説に謳われるドラゴンのような威厳に満ちているというか。

でもその威厳も甲羅の上に大きな卵ごと乗っているミッシェルお姉ちゃんが全て台無しにしているように思えなくもないんだけど。

 

「移動要塞エッガイヤー、いつ見ても素晴らしい。その威厳に満ちた佇まい、最高です!!

そうそう、霊亀、この子は俺の子供でアルバ。今後何か相談に乗ってもらう事があるかもしれないけど、その時はよろしくな」

“うむ、ケビン殿の御子息であるか。

はじめまして、アルバ殿。我は霊亀、マルセル村の霊亀。何か困り事があればいつでも相談に来るがいい。

我は亀故無駄に長生きしているのでな。亀の甲より年の劫ではないが、話し相手くらいにはなるであろう”

 

そう言い首をもたげる霊亀。

・・・えっ、お父さん、魔物がしゃべったんだけど!?

僕、お話しする魔物なんて初めて見たんだけど!? 一体全体何がどうなってるのさ!!

混乱し、訳が分からないといった表情になる僕。そんな僕にヘンリーお爺ちゃんとメアリーお婆ちゃん、お母さんまでもが同情の目を向けます。

 

「あれ? アルバは知らなかった? 知性ある魔物って結構しゃべるよ?

例えばそうだな、オークキングやオーガキングなんかは流暢とまではいかなくとも人の言葉を話す個体がいるし、底辺魔物の代表格ゴブリンですらキングやエンペラーと呼ばれた個体は人の言葉を話したって記録が残っているんだ。

伝説に謳われるドラゴンなんかは今の霊亀みたいに念話によって人と意志の疎通を取ることが知られているし、アルバも忘れているだけでそうした実例を知っているはずだよ?」

 

お父さんの言葉にしばし考える。言われてみれば確かにカタコトで言葉を発する魔物がいた事を思い出す。あれはオーガキングだったか、あの激戦は冒険者パーティー時代の苦い思い出だ。言葉が通じ合えれば、意志の疎通が出来れば、無益な争いは避ける事が出来る。

それがただの夢物語だと分かっていても、言葉で語られると考えてしまう、縋ってしまう。

そうしてどれ程の者がその狂気に吞み込まれていった事か。魔物はやはり魔物だという事を分からせられた出来事だった。

 

「へ~、アルバは結構いろんな経験をしているんだね。確かに魔物との付き合い方、互いの距離の取り方っていうのは重要だと思うよ?

その辺はこれからしっかり学べると思うから楽しみにしておいてね。

マルセル村には沢山の魔物がいてね、村人たちと共に生活しているんだよ。エッガードや霊亀はその一例、アルバがもう少し大きくなったら詳しく教えてあげるね」

 

“アウアウアウア~~~”

僕は色々と驚き過ぎて、思わずお父さんに抱っこを要求した。そんな僕とお父さんの様子に、ヘンリーお爺ちゃんとメアリーお婆ちゃんが「「赤ちゃんと普通に会話するって、ケビンは相変わらずケビンだ(わ)」」と呆れた顔をするのだった。

 

「まぁ家の前で立ち話もなんだ、中に入りなさい。メアリー、お茶の準備を頼む、俺は井戸に冷やしてある麦茶を取ってこよう」

ヘンリーお爺ちゃんの言葉に「そうね、ミッシェルもエッガードから降りて家の中に入りなさい。ケビンは霊亀を小屋に戻してきてくれるかしら?」と言って僕とお母さんを家の中に招き入れるメアリーお婆ちゃん。

元気に笑うミッシェルお姉ちゃん、柔らかく微笑むお母さん。

こうして僕の次の人生、“片田舎でののんびりとした暮らし”は、幕を開けるのだった。

 

―――――――――――

 

“パッカポッコ、パッカポッコ、パッカポッコ、パッカポッコ”

石畳を叩く引き馬の(ひづめ)の音が村道に響く。荷馬車の上で心地よい揺れに身を任せながら、草原から吹いてくる爽やかな風に靡くお母さんの髪を掴もうと両手をばたつかせる。

 

「いや、アルバ、ごめんて。そりゃ言ってなかったけども、言葉足らずなところは認めるけども。

そんなに怒らなくったっていいじゃん」

 

荷馬車の御者台では、「周りの人が驚くからちゃんと御者台に座れ」とヘンリーお爺ちゃんに注意されたお父さんが手綱を握りながら荷台の僕に声を掛ける。

僕、新しい人生の門出だって思ってすごく感動してたのに、これからこのお家で生きていくんだと思って気合いを入れていたのに。

 

さっきまで自分のお家だと思っていた平屋の家屋はヘンリーお爺ちゃんとメアリーお婆ちゃんのお家でした。

そりゃ「お父さんは長男なんだけどおじいちゃんと同じ男爵に叙爵されてね、独立して家を興した」とは言ってたけどもさ、普通はお家に戻って来たんだって思うじゃん!!

お父さんに「それじゃまた遊びに来るよ。アルバ、ヘンリーお爺ちゃんとメアリーお婆ちゃんにご挨拶して」って言われた時、意味が分からなくて「フエ!?」って言っちゃったのは仕方がないじゃん。

それをあんなに大爆笑するなんて、お父さん、酷いよ!!

 

そんな意地悪なお父さんは無視です、無視。暫く遊んであげないんだからね!!

僕がプイッと顔をそむけると、お父さんはハハハハと力なく笑ってからガックリと肩を落とし、しぶしぶ御者台の前を向くのでした。

 

「「「「「お帰りなさいませ、ご主人様、パトリシア奥様、アルバお坊ちゃま」」」」」

そこは村の外れ、畑の中に忽然と姿を現した二階建ての御屋敷でした。

 

「ただいま。そちらには後で顔を出す、荷馬車を片しておいてくれ」

お父さんはサッと荷馬車の御者台を降りると、下車用の階段を用意してお母さんを誘導します。

 

「みんな、長い事留守をしてしまいましたね。お陰でこうして無事に我が子を迎え入れる事が出来ました。

これからはアルバ共々どうかよろしくお願いしますね」

「「「「「パトリシア奥様の無事なお帰り、お慶びもうしあげます。アルバお坊ちゃまのご誕生、誠におめでとうございます」」」」」

 

メイドさんや執事さんらしき使用人の方々が一斉に頭を下げます。

・・・えっと、お父さんってドレイクお爺ちゃんのところに仕える騎士だったよね? 何でこんなに沢山の使用人さんがいるの? 普通男爵家って二~三人使用人がいればいい方だよね? 農兵をやっているくらいなら、使用人がいなくてもおかしくないよね? 現にヘンリーお爺ちゃんのところには使用人さんなんていなかったよ?

 

僕がお父さんにジト目を向けると、「いや~、なんか流れで? 気が付いたらこんな事になってました!!」と言って開き直るお父さん。

・・・大丈夫なの、ワイルドウッド男爵家。実はひどい借金を抱えているとかない? 僕、凄い不安になって来たんだけど。

 

「それじゃ家に行くよ~」

そう言い僕たちを先導して家に向かうお父さん。その足は目の前の御屋敷・・・ではなく少し離れたところにある畑脇の小屋に。

ん? 何で小屋? あっちの御屋敷に行くんじゃないの?

 

「あぁ、あれ? あそこは従業員宿舎だよ? いや~、お父さんのところ、一時期急に人が増えちゃってね。急いで従業員用の家を用意する必要があったものだから、お貴族様御用達の別荘地で売りに出ていた別荘建物を買って移築したんだよ。

さっきヘンリーお爺ちゃんの家で何でお父さんとヘンリーお爺ちゃんがホーンラビット伯爵家の騎士になったのかって話をしただろう?

あの時の話に出たグロリア辺境伯家とランドール侯爵家との戦争の煽りでね、結構な数の別荘が売りに出ていたんだよ。裏であくどい事をしていたお役人様とかがかなり捕まったからね、えらい騒ぎになったんだよな~」

 

どこか懐かしそうに話をしながらお父さんが向かったのは、やはり畑脇の小屋。

 

「ただいま~、今帰ったよ~」

「お帰りなさい、ケビン。ヘンリーお義父様とメアリーお義母様はお元気そうでしたか? ミッシェルちゃんはついこないだエッガードに乗って畑のお手伝いに来てくれたので心配ないですけど。

本当にあの子は元気ですね、お腹の子もミッシェルちゃんみたいな元気な子に育ってくれるといいんだけど」

「ケビン、お帰り。パトリシアもお帰り、それと無事な出産おめでとう。

その子がアルバ君? ケビンに似て何か凄く頭が良さそう」

 

小屋の中では大きなお腹を摩りながら優しく微笑みかけてくれる女の人と、同じく大きなお腹を抱えながらも僕たちを出迎えてくれる女の人。

・・・お父さん?

 

「あぁ、紹介するよ。お父さんの奥さんでアナスタシアとケイト。二人共、自己呪いを解いてもらえるか?」

お父さんの呼び掛けに二人の女の人の容姿が変化する。それは先程までの村娘といったものではなく、お母さんと同じくらい、もしかしたらそれ以上と言ってもいいくらいの美しい女性。

 

「アナスタシアはハイエルフ族だな。ほら、耳がピンと尖ってるだろう? これはエルフ族の特徴で、ハイエルフはそのエルフ族の上位種と呼ばれる種族になる。

ケイトはケイトのお母さん譲りの美貌で色々と苦労した人だな。二人ともその容姿ではかなり酷い目にあってきていてな、それもあって普段は何処にでもいそうな村娘といった容姿になるように自身に呪いを掛けて変装しているんだ。

それでもこのマルセル村にはそうした訳アリが多く、結果的に美人さんや格好いい男性が多いんだよ。だからあまり役には立ってないかも知れないんだけど、その辺は気の持ちよう、二人がこの方が楽って言うからそのままにしてもらっているんだ」

 

お父さんの話に口が開いたまま塞がらなくなる僕。お父さん、こんなに飄々としているのに、色んなものを抱え込んで。

さっきの使用人さんの時も「気が付いたらこんな事になってました!!」とか言って開き直っていたけど、もしかしてあの人たちもいろんな事情を抱えた人たちなんだろうか。

もしかしなくてもお父さんって凄い人?

 

「いや~、そうだろうそうだろう、褒めろ褒めろ。何だろうこれ、息子に褒められるって凄い気分いいわ~」

そう言い楽し気に小屋に入っていくお父さん。

・・・ちょっと待ってお父さん、もしかしてこの小屋でみんなして暮らしてるの? えっと、贅沢言うつもりはないけど、ちょっと狭くない? 大丈夫?

 

アウアウと声を上げ訴え掛ける僕に、「ですよね~」と応えるお父さん。

 

「ほら、アルバ君も言ってるよ? この小屋でみんなで暮らすのは無理があるって。そりゃそうだよね、ここってば作業小屋だもん。

という事で今日からお隣の屋敷に移動します。って言うかアナさんとケイトはそろそろホーンラビット伯爵家の御屋敷に行きなさいっての。

特にケイト、ザルバお義父さんとカミラお義母さんが目茶苦茶心配してたぞ? 本当にちゃんとして?」

お父さんの言葉にそっぽを向いて知らんぷりする二人のお母さん。うん、美人さんが台無しだね。お父さんのお嫁さんはお父さんのお嫁さんだったよ。

 

「失礼します。ご主人様、二人を連れてまいりました」

お母さんが声のした方に振り返ります。そこには執事服を着たきれいな女性と二人のメイドさん。

 

「あぁ、残月よく来てくれた。それと後ろの二人もご苦労さん。

パトリシア、これから暫くそっちの二人がパトリシアとアルバの専属メイドとなる。アナスタシアとケイトの子供が生まれたらそこに十六夜が加わる形で世話についてもらうつもりだ。

更、月白、挨拶を」

 

「パトリシア奥様、アルバ様、専属でのお世話を申し付かりました更でございます。何かお困りごとがありましたら何でもお声掛けください。

それとこちらは最近使用人に加わりました月白でございます」

「はじめまして、月白(つきしろ)と申します。まだまだ未熟者ですが、何卒よろしくお願いいたします」

 

そう言い深々と礼をする二人のメイドさん。

 

「***、あなた頑張り過ぎなのよ、ちゃんと休んでる? ちょっと<リフレッシュ>を掛けてあげるから、そこの椅子にすわりなさい」

白い髪に透けるような白い肌、こちらを見詰める赤い瞳はあの子とは似ても似つかぬもの。でも僕に優し気な視線を送ってくれるその人は・・・。

 

「アルバお坊ちゃま、月白です。どうぞよろしくお願いしますね」

嘗て人生で唯一心惹かれた想い人によく似たその人は、僕に優しく微笑みかけながら、そう挨拶をしてくれるのでした。




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