転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第676話 転生勇者、友人を祝福する

「こんにちは、マルセル村のジェイクです。ロイドさんはおられますでしょうか?」

 

夏の暑さも山場を越え、ジリジリとした照り付ける日差しから解放され始めた今日この頃、俺たちは月に一度の定期報告の為にモルガン商会王都支部のロイドの兄貴の下を訪れていた。

 

「あぁ、ジェイク君にエミリーお嬢様、ジミー君とフィリーちゃん、ディアさんもいらっしゃい。

ロイドは丁度接客中でね、直ぐに終わるはずだからこっちの待合席で待っていてくれるかしら」

声を掛けてくれたのはマーシャさん、女性ながらここ王都支部を任されている凄腕の女傑だ。いつだったかロイドの兄貴が「マーシャ姐さんはめったに怒ることはないけど、本気で気を付けろよ? あの人がキレると何をしでかすか分からないからな」と言っていた事を思い出す。

何でもマーシャさんの事を侮って暴力組織の手を使いモルガン商会王都支部にちょっかいを出した商会が、一晩のうちに暴力組織ごと姿を消したんだとか。あまりの事態に従業員の者がマーシャさんに問い掛けたところ、ニッコリと微笑んで何も答えてはくれなかったんだそうです。

以来この件に関しては他言無用とされ、誰も触れないようになったらしいです。

 

うん、女性を本気で怒らせたら駄目って奴だね、知ってた。マリアお母さん、メアリーおばさん、エミリー、マルセル村の女衆が教えてくれたこの世の真理。その教えは俺の魂に確りと刻まれております。

 

「それではご注文の品の用意が整いましたら、御屋敷の方へお知らせさせて頂きます。本日は誠にありがとうございました」

 

待合席に座ること暫し、お店の商品を眺めながら時間を潰していると商談を終えたであろうロイドの兄貴の声が。ふと視線を声のした方へ向けると。

 

「あれ? アルジミール様とライオネス様ではありませんか。これは何という嬉しい偶然でございましょう、お引き合わせ下さった女神様に感謝申し上げます」

「うむ、見ればジェイクではないか、それに皆の者も。エミリー嬢、この様な場所でお会いできるとは、本日はなんという良い日なのでしょう。

このよき出会いをお与え下さった女神様に感謝を。

って何やらすんだよジェイク。ジミーとフィリー、それにメイドさんも。

お前たちこそこんな所でどうしたんだ?」

 

お~、アルジミールがノリツッコミを覚え始めた。これは何とも感慨深い、俺はアルジミールの成長が嬉しいぞ。

アルジミールの後ろではロイドの兄貴が引き攣り顔を浮かべながら「ジェイク君が侯爵家令息のアルジミール様にノリツッコミを教え込んでいる。一体何をやってるんだマルセル村の子供らは」と呟いておられます。

ロイドの兄貴、ボケとツッコミは人間関係構築における潤滑油です。建前上平民と貴族の身分格差を取り払った学園という特殊な環境に於いて、互いの交流を図る手段というものは必要不可欠なんですよ?

 

「あぁ、ここモルガン商会は本店がグロリア辺境伯領の領都グルセリアにあってな。ホーンラビット伯爵家とも非常に深い関係にあるんだよ。

ホーンラビット伯爵家には王都屋敷がないだろう? グロリア辺境伯家が寄り親として後ろ盾になってくれているとはいえ、<勇者>と<聖女>のジェイクとエミリーがグロリア辺境伯家王都屋敷にあまり頻繁に出入りするのは、いたずらに貴族街に居を構える他の貴族を刺激しかねない。

そこでモルガン商会を通じ、俺たちの近況を辺境ホーンラビット伯爵領マルセル村に届けてもらっているという訳なんだ」

 

ジミーの言葉になるほどといった表情になるアルジミール。アルジミールは留学前にオーランド王国の状況や近年の騒動、各貴族家の繋がりについてしっかり勉強してきたんだとか。各貴族家のパワーバランスについては俺たちなんかよりよほど詳しいんじゃないかな?

今のジミーの説明に納得できたって事はその辺の背景がしっかり理解出来ている証拠なんだろう。外交官アルジミール様、大変優秀でいらっしゃいますこと。

 

「アルジミール様、ご歓談中のところ失礼いたします。

エミリーお嬢様、ご実家ホーンラビット伯爵家から書状が届いております。ジミー君にもドラゴンロード男爵家より手紙を預かっているよ。

ジェイク君にはケビン君経由で妹さんのチェリーちゃんからの(ことづ)けを頼まれているよ。“ジェイクお兄ちゃん、お土産を忘れないでね。エミリーお姉ちゃんと一緒に王都のお店を回って選んで来てくれると嬉しいです”だそうだよ。確かに伝えたからね」

 

ロイドの兄貴からの言葉に思わず口元がにやける俺。妹のチェリーは決して俺の事を忘れてなんかいなかった、その事実に心の奥が熱くなる。

 

「なぁフィリー、ジェイクの奴なんであそこまで嬉しそうにしているんだ? 俺には妹から土産物の催促をされただけにしか聞こえなかったんだが」

「ジェイク君は妹のチェリーちゃんの事になるといつもあんな感じですから。兄に対する伝言に見せ掛けて確りエミリーに媚びを売ってるのに、その事には一切気が付いていないんです。普段はそこまででもないんですが妹の事となるとポンコツで」

首を傾げるアルジミールと呆れた顔になるフィリー。そんな中エミリーはよくやったとばかりにニコリと微笑む。

 

「ハァ!? ケビンお兄ちゃんに子供が生まれたって、パトリシアお姉さん、妊娠してたのか!? 元気な男の子って、ケビンお兄ちゃん、そんな事一言も言ってなかったんだが? 子供の父親になったばかりでアーメリア別邸に顔を出していたのか? 王都三大禁足地とか言って目茶苦茶はしゃいでいたんだが?」

 

手紙を開封し目を通していたジミーが声を上げる。その言葉にエミリーも急ぎ書状の封を開ける。

 

「あっ、本当だ。私の手紙にもパトリシアお姉ちゃんが元気な赤ちゃんを産んだことが書かれている。名前はアルバ君っていうんだって。

ぐずったり夜泣きをしたりって事もないとてもいい子だって書いてある。

ミランダお母さんやデイマリアお義母さん、ドレイクお義父さんもアルバ君に夢中になっているみたい。

ケビンお兄ちゃん、そんな事全然言ってなかったんだけど!? 私、パトリシアお姉ちゃんのお腹が大きくなっていた事も知らなかったんだけど!!」

大切な事実を知らされていなかったことに憤慨する二人、そんな彼らを年長者のディアが宥める。

 

「まぁまぁ、そこまで怒るな。ケビン殿は慣れない王都生活に頑張る皆の事を思って敢えて知らせなかったのだと思うぞ?

実際ホーンラビット伯爵領は遠い、私達が王都に来た際も一月以上は掛かっただろう? そんな場所とのやり取りをこれ程頻繁に行えるという事自体本来なら破格なんだ。それを当たり前と思うのは間違っていると思うぞ?」

そんなディアの言葉にロイドが追随する。

 

「そうだな。これは俺の話ではないが、王都や領都に出ていて実家に帰ったら兄弟が増えていたなんて話は結構ざらだな。中には両親が離婚して知らない女性が母親と言って現れたなんて話もあるくらいだ、赤ちゃんが生まれてから知らされるのはむしろ当たり前なくらいだな」

 

「そうだな、俺は子供の頃からアルジミール様のご学友をしていたからマルローニ侯爵領の領都屋敷で暮らしていたんだが、実家の子爵領に帰ったら兄弟が増えていたって事があったぞ? むしろ生まれてすぐに手紙で知らせてくれるなんてのは愛されてる証拠なんじゃないのか?」

口を挟んだのはライオネス、その言葉に渋々納得するジミーとエミリー。

 

「でもケビンさんの事だから、マルセル村でのあれこれをあまり他所で言いたくなかったってだけなんじゃないでしょうか?

ケビンさんは秘密主義ではありませんがあまり人前で吹聴する方でもありませんし。これがご自身が興味のある趣味に関してであれば別なのですが」

「「「「あぁ、なるほど。凄く納得」」」」

 

フィリーの言葉が腑に落ちる俺たち。確かに考えてみればケビンお兄ちゃんがパトリシア様が妊娠したと触れ回っている姿を想像できない。そうした事を自分から率先して言いふらすタイプでもないしね。

これが馬車の足回りの話だったり呪われた剣の話だったりすれば嬉々として教えてくれるんだろうけど。

ケビンお兄ちゃん、根っからの勇者病<仮性>重症患者だから。

 

「ところでアルジミールたちはモルガン商会で何の商談をしていたんだ?

すまん、外交の仕事の一環だよな、今の発言は忘れてくれ」

俺は急いでアルジミールに謝罪する。外交官の一面を持つスロバニア王国からの留学生であるアルジミールにそうした事を聞くのは野暮を通り越して不敬、国際問題に発展する大事に繋がりかねない。

 

「いや、別に構わないぞ、これはジェイクやエミリーたちにも関係してくるかもしれない話だからな。

この度フレアリーズ第五王女殿下との婚約が正式に決定してな、そのご挨拶の手土産にフレアリーズ第五王女殿下が前から気になさっていたジニー・フォレストビー氏の「養蜂家の入門書」の注文をな。

これは一応学園の大図書館にも所蔵されていたんだが実用本としてのもので活字版しかなかったんだ。そこでスライム使いの手記のような貴族向けの豪華版は作れないかと相談に来たという訳だ。

ついでと言っては何だが百冊ほど実家のマルローニ侯爵家に送ってもらえるように手配をしておいた。我が領では養蜂はそこまで盛んではないからな、これを機に少しでも養蜂産業が発展してくれればいいのだが」

 

そう言い腕組みをするアルジミール。やっぱりアルジミールは俺たちとは見ているものが違う。常にアンテナを張り巡らせマルローニ侯爵領発展のための情報収集を怠らない。

これが高位貴族、アルジミール様、流石でございます。

 

「そうか~、正式に決定しちゃったのか~。アルジミール様、おめでとうございます。さぞやアーリー様もお喜びになられている事かと」

俺の言葉に顔を引き攣らせるアルジミールとライオネス。彼らにとってアーメリア別邸での出来事は魂に刻まれるくらいの衝撃だったことだろう。

俺も初めてマルセル村を出た護衛任務の時に夜の草原で遭遇した闇の化け物の事は、いまだに忘れられないもん。誰でもあるよね~、一生忘れられないトラウマ級の恐怖体験、分かる分かる。

俺たちはあの時の事を思い出し小刻みに震えるアルジミールとライオネスに、温かい視線を送るのでした。

 

「ところでライオネス、アルジミールとフレアリーズ第五王女殿下の御婚約が正式に決定したって事は、カルメリア第四王女殿下の御婚約もお決まりになられたという事なのか?

確かスロバニア王国に視察に向かわれているという話しだったが?」

ジミーの質問はもっともな事、姉であるカルメリア第四王女殿下を差し置いて妹のフレアリーズ第五王女殿下の婚約話が決まるというのも考えにくい。

 

「「あ~、アレなんだがな~~~」」

そう言い二人してどこか遠くを見つめるアルジミールとライオネス。

カルメリア第四王女殿下、スロバニア王国で一体何をやらかしたし!?

アルジミールは「これはスロバニア王国の外交上の醜聞になるのでここだけの話にして欲しい」と前置きをしてから、俺たちに事の顛末を話してくれるのだった。




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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