転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第678話 悪役令嬢、これまでを振り返る

前世の世界、ここオーランド王国のある世界とは異なる異世界とでも呼ぶべき場所のとある国では、PCゲームという娯楽が高い人気を誇っていた。

その一分野に乙女ゲームと呼ばれるものがあり、幅広い年齢層の女性に非常に好まれていた。

そんな乙女ゲームの一つ、「蒼天の花嫁」。主人公のアリスは十二歳の時に行われた授けの儀に於いて<聖女>の職を授かった事で、オーランド王国の最高学府王都学園に通う事になる。

親元を離れ学園での寮生活を始めた彼女に待っていたものは、アルデンティア第四王子殿下をはじめとした見目麗しい個性豊かなイケメンたちとの出会い。

学園での授業を通じ深まる交流、各種選択式授業や学科の成績、休みの過ごし方により起こるイベントは様々。

彼らの抱える心の葛藤を救い、次第に恋が芽生え。

立ちふさがるライバルを跳ね除け、アリスは理想の相手と結ばれる事が出来るのか。

 

「う~ん、アリスの恋愛、全然進展しませんけど、これって何がどうなっているのかしら?」

私は公爵家王都屋敷の自室に置かれたボードに目をやりながら唸りを上げる。

そこにはアリスの似顔絵を中心に(私、絵は得意ですの。前世では学生の頃同人誌なる物も描いていましたのよ)、アルデンティア第四王子殿下、ラグラ・ベイル様、カーベル・ハンセン様、ピエール・ポートランド様の似顔絵が貼ってある。

 

「アルデンティア第四王子殿下、入学当初はアリスに積極的なアプローチを掛けていたのですけど、例の“商人街の悪夢”の一件以来どうもご様子がおかしいですわね。

<勇者>ジェイク・<聖女>エミリーとのお茶会の時も、ジェイクにグサリと釘を刺されていましたし、何か余裕がないと言いますか以前のような泰然としたところが見られないと言いますか。

ゲームにおけるアルデンティア第四王子殿下といえば優雅な気品漂うザ・王子様といった御方でしたのに。これがゲームとリアルとの違いなのでしょうか」

表面上は平静を保たれているアルデンティア第四王子殿下、近頃は他の生徒とも積極的に交流を図ろうとしているところから、学園内での評判は大変高いのですけど、パッとしないと言いますか何と言いますか。

 

「ラグラ・ベイル様、ベイル伯爵家次男ではありますけど、お父様は既に騎士団長の座を退かれていますし、これまでのような周りに対する影響力はかなり失われているかと。

ですがご本人の気質か、剣術に対する取り組み方が真剣でとても好感が持てますわ。何度負けようと立ち上がりジミーに挑む姿はゲームでは見る事のない光景ですもの、これには上級生のお姉さま方もニッコリですわね」

近頃上級生の間に“ラグラ様を愛でる会”なる物が出来たとの事、健気に頑張る小生意気なイケメンがいいのだとか。

上級生の方々も結構業が深いですわね。

 

「カーベル・ハンセン様、ハンセン侯爵家三男。今のところアリスとの仲が一番深いのが、カーベル様ですわよね。

アリスとカーベル様、フィリーの下で魔力運用方法の訓練を行っているという話でしたけれど、毎日魔力枯渇を起こすような鍛錬を積むって、一体どれほど過酷な訓練を行っているのでしょう。

あの二人が何を目指しているのか、見当もつきませんわ」

近頃は魔力枯渇状態でも走り込みが出来るようになったと嬉しそうに報告するアリス、その話を聞いた時は我が耳を疑いましたわ。

この話をメイドのコリアンダに聞かせたところ、「その手がございましたか。早速バルーセン公爵家の訓練にも取り入れさせていただきます」とかなんとか。

えっと、私、余計な事を言ってしまったのでしょうか? 使用人の皆さん、何かごめんなさい。

 

「ピエール・ポートランド様、ルビアン枢機卿猊下の末の御子息様。<聖女>であるアリスとエミリーを教会の奉仕活動に誘い出せたところまではよかったのですけれど、エミリーがやらかしましたからね。

“撲殺聖女エミリー”、学園内ばかりでなく教会でも広く知られてしまいましたし。アリスはその後も月に一度の奉仕に通っていますけれど、こちらは警護の関係上カーベル様とピエール様のみの付き添いとなってしまいましたし。

イベントとしては弱くなってしまいましたわね」

 

“コトッ”

口を付けていたティーカップをテーブルに戻し思考を巡らせる。漂う若葉の香りが考えをクリアにしてくれる。

これは以前ジミーから貰ったマルセル茶というもの、なんでもホーンラビット伯爵家の新たな名産品とすべく栽培に力を入れているものだとか。ほんのり香る甘さとスッキリとした味わい、情報整理がしやすくなるというか、最近のお気に入りですの。

 

「一旦乙女ゲームの発想を横に於いて事実だけを並べれば、アルデンティア第四王子殿下の行動は一応の成功を収めていますわ。

アルデンティア第四王子殿下としては、<勇者>ジェイク・<聖女>エミリー・<聖女>アリスとの関係構築を行いたかったはず。

そうした意味において側近のカーベル様とアリスとの関係は修行仲間という繋がりで良好ですし、同じく側近のラグラ様と<勇者>ジェイクは剣の訓練を通じ交流を取られている。

<勇者>ジェイクと<聖女>エミリーはセットですから、<勇者>ジェイクとの関係を深める事が出来ればおのずと関係性を築く事は可能。

対外的にもアルデンティア第四王子殿下派閥と<勇者>ジェイク・<聖女>エミリー・<聖女>アリスの関係は良好であると見られている。

 

アルデンティア第四王子殿下としてはより親密に、自身の派閥に取り込みたいと画策しようとしていたようですけれど、それは<勇者>ジェイクに止められてしまった。

<勇者>ジェイクは普段でこそ“平時の勇者”と呼ばれる程物静かですが、いざことが起これば何をしでかすのか分からない。その事は王都三大学園交流会に於いて証明されてしまった。

王都の空を赤く染めた大爆発は、記憶に新しいですし、やたらな事は出来ませんものね」

 

“スーーーーッ”

ティーカップを手に取り、マルセル茶を一口。ボードに貼られたジェイクとエミリーの似顔絵に目を向け、大きくため息を吐く。

 

「学園内のアンタッチャブル、入学当初如何にこの二人と接触するかと牽制し合っていた者たちが、今や遠目から様子を窺うに止めている。

辺境の蛮族もその子供たちを王都という懐に入れてしまえばいかようにも出来る、王都貴族社会はそんなに甘いものではない。

恐らくはそんな浅い考えの生徒保護者が沢山いたのでしょう。実際の蛮族の子供は、噂以上に蛮族であったのですが。

“危険物ジェイク”・“撲殺聖女エミリー”・“剣聖崩しジミー”・“鬼教官フィリー”。決してちょっかいを掛けてはいけないホーンラビット伯爵領からやってきた四人組。

 

本来この時期になればアリスに対する学園のライバル令嬢たちからの風当たりが強くなるはずなのですけれど、彼らの不興を買いたくないからかそうした動きはほとんど見られませんし、かと言ってアリスがアルデンティア第四王子殿下をはじめとした方々に恋心を抱いて接触するといった事もありませんし。

このままなにもなくトゥルーエンド一直線ですの? 全く関係のないバルド先輩とリリアーナ先輩の恋模様があれほどの盛り上がりを見せたと言いますのに? “強い奴に会いに行く”と言ってアリスがワイバーン狩りに出掛けるのはゲーム会社のちょっとしたお茶目ネタではなかったのですの!?」

 

前世の記憶、これまでの流れ。この世界が前世で親しんだ乙女ゲームの世界とは相当にずれているという事は分かっていても、中々その現実を受け入れる事の出来ない自分。

私は何をそんなに焦っているのか、アリスの恋愛模様を追い掛けると言いながら、一体なにをそれ程に恐れているのか。

 

「・・・やはり私は、心のどこかで断罪され命儚くされることを恐れているのやもしれませんわね。

私を家から放逐するはずだったお父様は既に戦死している、お兄様は私の好きなようにしてよいと仰ってくれている。アルデンティア第四王子殿下の婚約者ではない以上、私に対する死亡フラグが発生する要素は考えられない。考えられない筈ですのに・・・」

 

そう言いボードに貼られた似顔絵に手を伸ばす。そっと指先を沿わせ、心の不安を口にする。

 

「やはりお嬢様には心の支えになる御方が必要なのではないでしょうか? 自身のお気持ちを素直に打ち明ける事の出来る相手、強く、逞しく、頼りがいのあるお相手。

公爵家令嬢であるラビアナ様にそれ程思っていただけるなど、なんとお幸せな方なのでしょう」

 

“ガタガタガタガタ、ガシャンッ、ドシャンッ”

「なっ、なっ、なっ、コリアンダ、あなたいつからそこに!?」

 

「はい、学園内のアンタッチャブルがどうのと仰っていた辺りからでしょうか? 趣味のお時間をお邪魔しても申し訳ないと思い、静かに待機させていただいておりました。

零れたお茶は直ぐに交換させていただきたく存じます」

 

まるで何事もなかったかのようにそそくさとお茶の準備を始めるコリアンダ。主人のプライベートには踏み込まない。メイドの鑑のように黙々と片付けを行うコリアンダに、口をパクパクさせ顔を真っ赤にするラビアナ。

 

「そうそう、前から一つお聞きしたかったのですが、そのメガネ男子生徒の似顔絵だけやけに力の入った描き込みがなされているのは私の気のせいではないと思うのですが」

 

“ボンッ”

コリアンダの言葉に顔を真っ赤にさせ言い訳がましい事を言い始めるラビアナに、ニコリと微笑みで返すコリアンダ。

 

「だから違うのですのよ!? その“分かっております、分かっておりますとも”といった表情はお止めなさい!!」

声を荒らげ言い訳を続けるラビアナ。

 

“ラビアナお嬢様、ジゴロジミー様の沼にズップリと嵌まってしまわれて。おいたわしい事でございます”

コリアンダはラビアナの首に下げられた可愛らしいペンダントを認めるや、何とも言えない優しげな瞳をラビアナに向け、一礼の後部屋を下がる。

 

「だからこれは関係ないのですわ~~~!!」

部屋の中には、その場に残されたラビアナの空しい叫び声が響き渡るのであった。

 

――――――――――

 

“カチャッ”

テーブルに戻されたティーカップの音がやけに耳につく。

アルデンティアはこれまでの自身を振り返り、なにが悪かったのかと思考を巡らせる。

 

“コンコンコン”

「失礼いたします。アルデンティア殿下、お呼びによりカーベル・ハンセン、只今参りました」

 

扉の向こうから側近であるカーベルの声がする。アルデンティアは直ぐに許可を出し、カーベルを室内に招きいれる。

 

「カーベル、ラグラ、ピエール、集まってもらった事は他でもない、皆も承知していると思うが姉であるカルメリア第四王女とフレアリーズ第五王女の婚約が正式に決定した。

いずれもスロバニア王国のマルローニ侯爵家の者との婚約となったが、これは意図したものというより他に最良の相手がいなかったといった事が理由となる。

 

まぁお前たちも分かっていると思うがカルメリア姉上は性格に問題があり、その噂はスロバニア王国でも有名であったようだからな。向こうでもちょっとした騒ぎがあり、その事態を収めたのがマルローニ侯爵家の嫡男であったとか。

オーランド王国王家としては体面上抗議せねばならないが両国の関係を崩したくはない。カルメリア姉上とマルローニ侯爵家嫡男の働きが無ければかなり危うい事態に発展するところであったとか。

その功績を考えればこの婚約は当然のものと言えるだろう。

フレアリーズ姉上は・・・」

 

そこで言葉を切るアルデンティアに、側近たちも苦笑いを浮かべる。

“スライム愛でる姫”、その噂はあまりにも有名であり、実際王宮内にはフレアリーズ第五王女専用のスライム庭園と呼ばれる中庭が用意されている程である。

フレアリーズの婚約者に求める条件はただ一つ、スライム好きを許容できるか否か。たったそれだけの事、されどそれ程の事。

国内の有力貴族子弟はその一点においてバッサリと切られていたのである。

 

「婚約者に決まったのはアルジミール・マルローニ、我々と同じ一学年に所属する留学生だ。アルジミールはジミー・ドラゴンロードと学園ダンジョン攻略パーティーを組み、その繋がりから<勇者>ジェイク・<聖女>エミリーとフレアリーズ姉上との仲立ちの役割を果たしたとの事だ。

フレアリーズ姉上がスライムによる交流で<勇者>ジェイク・<聖女>エミリーとの仲を深めたことから、アルジミールは影の立役者として国王陛下からも高く評価されたのだとか。

フレアリーズ姉上はスロバニア王国との関係強化、<勇者><聖女>との関係構築、ひいてはオーランド王国西部地域と王家との懸け橋になろうとしている」

 

アルデンティアはそこで言葉を切り、深いため息を吐く。

 

「私は、どうすればよかったのだろうか。

カーベル、ラグラ、ピエール、君たちはよくやってくれている。

カーベルはアリスとの関係を強固なものにしているし、ラグラは<勇者>ジェイクとの関係を強いものとしている。ピエールが主導しての教会での奉仕は、<聖女>アリスの存在を強く王都民に印象付ける結果となっている。

事は順調に進んでいる、そのはずなのだ。

だが全体の中での私は、オーランド王家における私の役割は。

私はどうすればよいのであろうな」

 

それぞれが難しい顔をする室内、若さゆえの悩み。アルデンティアの問い掛けにすぐに答えを返せる事の出来る者は、その場には一人としていないのであった。




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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